「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――レイヴンだ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで同じ旧世代の強化人間で、それにも関わらず圧倒的な実力差を何度も見せつけられ、自身の中にある憧れを認められずにいるようだった。
「このクラスでは、アーマードコアⅥについて学ぶ。ここでは対戦ガチ勢のような馬鹿げたことはやらん。これでもレイヴンかと思う諸君が多いかもしれん。
ふつふつと沸く考察とは名ばかりの妄想、ゆらゆらと立ち昇る思い付きの域を出ないアセン、声優諸氏の繊細な名演、心を惑わせ、脳みそでぱちぱち弾けるコーラル……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはYoutubeの反応集を真に受け、G3五花海はギリギリまでレッドガンを見捨てなかった誠実な男だと信じているのだ。
「諸君がACⅥの全てを真に遊びつくせるとは期待しておらん。我輩が教えるのは、ひとまずエンディングに到達し、ストーリーを堪能し、あわよくばトロフィー【アーマード・コア】を取得する方法である。――ただし、攻略wikiと上級者のプレイ動画の内容を鵜呑みにして、自分が強くなった気になっているドーザーもどきより諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。そうは言っても、wikiに載っている情報は攻略に大いに役立つのだ。動画を何度見返しても、
「ポッター! シールド搭載で右肩武器はなし、両手にグレネードを積む二脚機体で出撃するとして、シールドをどう活かすか?」
グレネードを撃つたびに解除されるのに、どうシールドを使うって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「ツィイーはどう見てもアセンミスだろ」という顔をしていた。ハーマイオニーは様々なプリセットでのバルテウス狩りを日課にしているので、空中に高々と左手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「返す気もない借金で最新パーツを買い集めただけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。AC名キャンドルリングの戦闘ログを回収しろと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーにはキャンドルリングのパイロットが一体誰なのか、見当もつかない。
ランカーだけでも30人いるのに、彼らの機体名まで覚えているのは世間一般からすれば気持ち悪いオタクなのだ。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。車椅子が手放せないマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブやゴイルはドーザーと大差ない。
「わかりません」
「クラスに来る前に全パーツ入手を済ませておこうとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、暇を持て余したダドリーに誘われて
スネイプはハーマイオニーの左手が
「ポッター、衝撃力と衝撃残留の違いは何だね?」
この質問でとうとうNESTで最新の環境アセンを追い続けているハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに左腕を伸ばした。天井に微少なダメージ判定が擦って削れている。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。映画版の爆発魔ぶりから言って、メリニットと相性が良さそうな男だ。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。
グレネードは一撃の威力こそあれ全体的にややリロードが長く、攻撃できないタイミングが生まれやすい。その時間を凌ぐ上で、シールドは十分頼れる武装だ。*1
AC名キャンドルリングのパイロットはリング・フレディ。チャプター3の執行部隊殲滅ミッションで、ミッション開始地点から右後方にあるアーカイブを取りに行くと襲い掛かってくる。
衝撃力と衝撃残留はどちらもスタッガーさせやすさに関わる数値だが、命中時に加算される負荷ゲージ量が衝撃力。その後1.5秒経過しても回復しない量が衝撃残留だ。衝撃残留が高い武器は衝撃を蓄積させやすいという事であり、後続の攻撃で敵をスタッガーさせるまでのハードルを大きく下げてくれる。
衝撃残留率が高い武器と言えばコーラル武器が有名だが、実弾武器などと併用する場合はコーラル武器を先に当てるとスタッガーさせやすいと言えるだろう。
どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書き取らんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、スネイプが言った。
「ポッター、君の無礼な態度は誇りあるホグワーツの品位を損ないました。グリフィンドールには再教育が必要なようですね」
たまらずロンが叫んだ。
「でも先生! 先生が敬語になったらスネイルと名前も似ていて紛らわしいです!」
「だまらっしゃい!」