「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――笑えるビジターだ」
何ひとつ面白くなさそうな、じっとりとした声がハリーの名を呼んだ。
まるでドーザーにしては知性的だったので面白がって目をかけていた部下に、資金や技術に加えて秘密兵器まで持ち逃げされたかのようだった。
「このクラスでは、ミッション前半部の衛星砲回避と、後半部のシースパイダー戦を学ぶ。ここではのんびり船舶を建造して渡海するような馬鹿げたことはやらん。これでもベイラムからの依頼かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸くガイドレーザー、ゆらゆらと立ち昇る警告音、衛星砲の豪快な威力、心を惑わせ、感覚を狂わせる殺人的な加速……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーは機体ひとつで衛星砲の狙撃をかわすクイックブーストのタイミングをバッチリ把握しているのだ。
「諸君がこのミッションを初見でクリアするとは期待しておらん。我輩が教えるのは、エレベーターを昇り、目的地に辿り着き、そこに設置された補給シェルパに何かを察してイヤな顔をする方法である。――ただし、補給シェルパとチェックポイント更新の意味に気付かず、ホラーゲーム実況のような醜態を晒すウスノロより諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。近年の良作と言われるゲームは大抵、ボス戦直前にセーブポイントやそこからのショートカットが設置されている。
ボスの存在がバレバレになってしまうという批判はあるかもしれないが、だからと言ってボスに負ける度にミッションやらダンジョンやらを最初からなんてやっていられないと言うのが正直な思いだ。
「ポッター! ドーザー並の無謀さに何を加えるとカーラからの称賛になるか?」
薩摩藩や西部劇でもあるまいに、度胸試しと称して死にに行くようなアホどもに何を加えるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「褒められてもなぁ……」という顔をしていた。ハーマイオニーはリペアキットも使わずに橋の上を進めるので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「立ち入り禁止を始めとした規則を毎年破る無法ぶりだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。シースパイダーの死角を探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、コンテナに載ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーにはシースパイダーの死角が一体何処なのか見当もつかない。戦闘前半と後半で全く違う挙動なのは理解しているが、強引にでもスタッガーさせてパイルバンカーを撃ち込めば大体の敵は考える必要もなく墜ちるのだ。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。先祖が海を越えて英国にやって来たフランス人の末裔疑惑があるマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブはハーマイオニーの真似をしようとしてリペアキットを使わないまま衛星砲を回避できずに死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来るにあたってカーゴランチャーを使おうとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、ダドリーのお願いでハリーも遊園地に連れて行ってもらい、二人で並んでジェットコースターに乗った事ならある。
スネイプはハリーがクィディッチでシーカーを務めているのに、高所や加速に怯むとでも思っているのだろうか。
スネイプは、描写から大雑把にカーゴランチャーの加速度を計算してしまった結果を思い出したのか、ハーマイオニーが恐怖にぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、シースパイダーが前半戦で放つチャージ射撃は複数種類あるが、それらに対する有効な回避行動の違いは何だね?」
この質問でとうとう飛行術の授業以外でまだ空を飛んだ経験がないハーマイオニーはコンテナから身を乗り出し、物資扱いで輸送される事への抗議を込めて手を伸ばした。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウインクした。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。
衛星砲を全弾回避し、かつ橋の下を通らずに対岸へと到着した場合にカーラは称賛してくれる。だがトロフィーにも実績解除にもならん、台詞ひとつを聞くために完璧を期す必要はない。出発地点近くの穴から進み橋の下に隠れ、狙撃を受けたらリペアキットを惜しまず使え。どうせ対岸には補給シェルパが置かれるのだ。
シースパイダー戦でのリトライを前提にするなら、ここは最低限のアサルトブースト推力を確保しつつAP10,000程度は確保した機体構成にしたい。OSチューニング状況にもよるが、衛星砲を喰らってもリペアキットを使えば二発目も耐えられるであろうラインだ。可能ならそれに加えてEN容量を確保し、ブースト時間を長く取ると楽になる。逆に武装は最低限、ライフル一丁だけでもさほど問題ない。
そしてシースパイダー戦だが、前半と後半で全く違う行動パターンを持つ。最初は名前通りに蜘蛛のような多脚の形態だな。主な攻撃手段はチャージしてからの主砲、細いレーザーを連射してくる副砲、そして何より厄介なのが前肢によるクロー攻撃だ。近接距離ではクロー攻撃の予備動作を察知して回避できるかどうかで生存率が変わると言って良い。
逆に、距離300以遠を保つように通常ブーストで旋回していれば脅威にはならん。主砲チャージの警告音、前肢を持ち上げる予備動作のどちらかを見たら空中に一時避難すればなお安全だ。主砲のチャージ射撃は三連射に加えて縦横それぞれに薙ぎ払うパターンがあり、薙ぎ払いの場合は射撃直前に砲口を露骨に逸らす。薙ぎ払いに対して垂直に回避する事を意識すると楽だが、それが難しければ横移動しながら上昇、または下降する形で動けば回避率は上がるだろう。
ただし諸君らも薄々勘付いているだろうが、今述べた通常ブースト重視の遠距離戦術を採用するなら軽量機体を採用する必要がある。具体的にはブースト速度が370程度、二脚ならFIRMEZA脚にブースターはALULAを採用するような機体でなければ回避速度が間に合わんと思いたまえ。ブースター名を聞いても入手手段が分からない、という者はトレーニングをちゃんとこなすように。
総括すると前半戦は衝撃力と直撃補正を優先した武器構成、つまり爆発武器と近接武器のような組み合わせで敵の行動機会を減らす攻めの姿勢か、軽量機体で回避を優先して遠距離からミサイルで削りつつ、クロー攻撃を回避した後の隙に
そしてAPを6割近く削ると後半戦になる訳だが、松ぼっくりのような形態に変化したシースパイダーが無限浮遊して、上からミサイルやら爆発を伴う主砲やらを撃ち下ろしてくる。ただし一方的な砲撃に特化した形態なのか、同等の高度に対しては機体を丸ごと回転させてのクロー攻撃とミサイルしか攻撃手段がない。自身の直上に至ってはほぼ完全な死角だ。こちらがタンクでもない限りはアサルトブーストで一度接近したら、可能な限り貼り付いて攻め続けるのが最良と言える。
どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書き取らんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、安全ヘルメットを被ったスネイプが猫のような表情でハリーを指差した。
「ポッター、我輩が見るにどうにも君は反抗心が先に立って、授業の内容を軽んじているように思う。先達の警告を聞き流した者が現場に立つのは極めて危険な事だ、グリフィンドールは1点減点ヨシ!」
たまらずロンが叫んだ。
「でも先生! カーゴランチャーを使うと発案したエアちゃんも、止めなかったウォルターやカーラも正直どうかと思いますが、安全性を考慮していないという点では魔法界の諸々の方が遥かにヤバいんじゃないですか!?」
「だまらっしゃい!」
ミサイルに関する知見はシェーマス・フィネガンを通じてグリフィンドールの点数になりました
瑞雲さん様にはこの場にて厚く御礼申し上げます