なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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オレンジの町編
1話.なまくら


 漂流者である自分に身内は居ない。

 物心が付く前に一隻の小舟に乗せられた私を拾ってくれた島の住民は、私にとって家族も同然。口下手な私にも親切にしてくれたから、私も私で皆の輪に飛び込んで島の文化に染まる努力をした。好きに歌って、好きに踊る。楽器を手にして演奏する。この島では音楽こそが愛される。上手に言葉を紡ぐことが出来ずとも、上手に音楽を奏でることが出来れば良い。幸いにも私を拾って育ててくれた人が、王様だったから音楽を学ぶ環境にも恵まれていた。

 この国は嘗て、文化の中心地として栄えていた。

 程なくして海賊に滅ぼされる。

 

 小舟の中には一振りの刀が入れてあり、それを人形代わりに抱き締めていたという。

 唯一の形見である。刀は海水に浸かっていたせいもあってかボロボロに錆びており、銘を読み取る事もできない程だ。それでも音楽で栄えたこの国に残る唯一の武器ではあったので、鉄の棒未満の(なまくら)を海辺に漂流した軍艦に叩き付けて心身を鍛え続けた。また海賊がやって来ても追い払えるように懸命に、斬れるようになるまで刃が潰れた鉄の棒を叩き続ける。記憶の奥底に残る光景。燃え盛る街中を憎き海賊の頭領が疾走し、刀身に漆黒の気配を纏わせた一振りを覚えている。神すらも避けるような強力な一撃だった。海賊を退ける為には、あの一撃を当たり前に放てるようにならなきゃいけない。と毎日のように鈍な刀を打ち付ける。日に何百回、何千回と打ち付けること十年程度、結局、私はあの漆黒の気配を刀に纏わせることができなかった。

 出来る事といえば、精々軍艦の一角を切断する程度のことだ。己の才能のなさには嫌気が差す。

 

 本当の親のように慕っている王様に書置きを残し、小舟一隻で旅に出る。

 私は、自分自身に限界を感じていた。このまま島に残っていても、記憶に残る仇の強さに手が届くとも思えなかった。だから私は旅に出る。世に蔓延る海賊が、我が物顔で海を往来する今の御時世が大嫌いだ。私一人で何かを変えられるとは思えないのだけど、それでも何かをせずには居られなかった。

 航海術も持たないまま海に飛び出した道中。女の一人旅は目立つのか海賊に絡まれてしまった。船に招待されたので、甲板に乗り移れば、数十人のろくでなしが瞬く間に私を囲んで光りもので脅してきた。服を脱げだとか、命乞いをしてみせろだとか、なんだとか、かんだとか。耳元で煩わしく囀って来やがった。

 だから私は、鈍で叩き伏せてやった。

 あまりの弱さに拍子抜けだったので鬱憤晴らしに船を両断してやった。

 軍艦よりも余程、簡単に切断出来てしまった。

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