なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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13話.完璧で究極の女海賊

 老若男女が思わず振り返る美貌、突如として東の海に現れた美女の存在に誰も彼もが彼女に見惚れる。

 しかし誰も彼もが彼女の正体については分からない。それもそのはずで彼女は悪魔の実を食べてから人生が変わった。元は海賊、嘗て彼女は、とある海賊に一撃で倒され気絶している間に配下に逃げられてしまった。その敗北に怒り狂った彼女は見返してやると偶然、見つけた悪魔の実を食べて、海賊団を再結成する。しかし、彼女の元部下は、それを認める事ができなかった。それまで自分達を虐げてきた醜女が絶世の美女に生まれ代わった姿を見て、彼女の配下達の脳はオーバーフローを起こして、発狂してしまったのである。

 もしかしたら彼女は纏め直した海賊団で、自分を倒した海賊に復讐を誓っていたかも知れない。道中で小人の道化を拾って、海賊同盟を結んでいたかもしれない。でも、そうはならなかった。この世界では、それは起きなかった。だから、この話はここでお終いなのだ。

 今の彼女は、自分を船長として認めない目の腐った配下達を叩きのめした一匹狼である。

 

 そんな彼女に今、世界は夢中になっていた!

 ……少なくとも彼女が今拠点にしているローグタウンでは、彼女は絶世の美女として少しずつ周知されつつある。少しばかり見た目が変わってしまったことは認める。例えば、そばかすが消えたとか。元から美しいと自負していた美貌にスベスベの実の能力が合わされば、正に鬼に金棒。そう、彼女は絶世の美女として生まれ変わったのだ!

 今となっては強く気高き世界一の美女と謳われる女ヶ島の女帝にも負けず劣らずの美女と噂される程であり、「この海で最も美しいものは?」と問えば「あなたです!」と誰も彼もが跪いた。男性から劣情を向けられるのは勿論、美貌の秘訣を聞きたくて同性からも羨望を受ける彼女は、乙女の秘密を探る数多の質問をのらりくらりと躱し続ける。美貌の秘訣は恋心。そんな曖昧な言葉に意味深く笑みを乗っければ、誰も彼もが彼女の事を好きになる。また一人が堕ちて、そしてまた彼女に貢ぐ恋奴隷が量産される。

 誰もが彼女に目を奪われた、無敵の笑顔は見る者全てを幸福にする。

 

「そう! アタシは完璧で究極の美女レディー・アルビダッ!!」

 

 アタシは世界で一番お姫様、そういう扱いを心得な! と彼女はマイクを片手に美貌と美声を披露する。

 此処はグラン・テゾーロの東の海ローグタウン支部、地下カジノのメインホールにあるステージ。その上で彼女は、歌と踊りに勤しんだ。先日、彼女は老若男女に貢がせている時に歌姫としてスカウトを受けた。それに快諾し、今は地下カジノで活動している。

 彼女には野心がある。自分の横っ面を殴り飛ばした強い男を堕とす事、そして絶世の美女として世に名を知らしめるのだ。跪け、豚共!

 最弱と呼ばれた東の海では物足りない。偉大なる航路、その果ては新世界。凪の帯(カームベルト)にある女ヶ島にすら名を広めて認めさせる。それが彼女の新しい野望であった。その為には偉大なる航路に入る必要がある。しかし私を惚れさせてくれる強い男は居なかった。やはり、あの麦わらの男を待つべきか。海賊王を目指すのであれば、必ず此処にやって来るはずだ。

 しかし、小僧を堕とすのは、あくまでもプランBだ。

 本命は、このグラン・テゾーロの支部に隠された金塊である。何を為すにも元手は必要。この美貌と金塊、それとちょっとした腕っぷしがあれば世界を取ることも容易い。欲しいものは全て奪って手中に収める、それが海賊の流儀だ。

 アタシが、この美貌で、全てを掴み取るのだ。

 

「海賊女帝、何する者か! アタシはアルビダ! 麗しのレディー・アルビダッ!!」

 

 大喝采と共に今日の公演を終了する、私の計画が成就するのも間もなくだ。

 

 

 私の名前はカリーナ、海賊専門の泥棒である。

 泥棒稼業に身を堕としたのに、大した理由があった訳ではない。

 私は贅沢をするのが好きだ。だけど一般市民に手を出すのは私の道徳心に反したので、元から悪党の海賊から金銭を奪い取る。この時、私はいけない味を知ってしまった。スリルと相手を騙し切った快感、道中は思い通りにならない方が楽しい。勿論、入念な準備と計画は怠らない。その上で、途中で積み重ねた苦労の数々が、最後の最後で全てを掻っ攫って私の手中に収めた時の快感を限界まで高めてくれる。

 だから私は泥棒を止める事ができなかった。

 腐れ縁の同業者から付けられた渾名は女狐、私の事を的確に言い表した良い名前である。私は、腐れ縁の泥棒猫のように誰かの為にお宝を盗み続けている訳ではなかった。快楽である。狙うのであれば、より大物を、浪漫を求めるのは快楽の為、散財するのもまた快楽。名声を得るのも快楽であった。今となっては道徳心なんて興味もない。一般市民からものを盗むのは格好悪いと思うし、大して快楽も得られないと思うので手を出そうとも考えなかった。

 そんな快楽浸けの私でも、他者の事で不快に思う事はあった。

 

 それは奴隷である。

 背負った負債の償いとして働かせるのは、まだ理解できる。

 しかし人間の尊厳を踏み躙り、虐げるのは見ていて気分が悪かった。

 絶対に許せないという程ではない。

 見ていて気分が悪い、その程度の話だ。

 だから私は、泥棒猫の出自を知っても手を差し伸べなかった。

 放っておけない、それだけで目を掛けてやった。

 身の程は知っている。

 私には、戦う力がなかった。

 

 私は義賊だなんて自惚れない、自分が悪党だという自覚がある。

 故にグラン・テゾーロの調査に乗り出したのもほんの気紛れだ。知人の情報屋も助けられるのであれば助けたい、といった程度の話なのである。あの情報屋は腕が良かった。恩を売る事ができれば、今後も仕事がやりやすくなる。その程度の軽い気持ちで情報収集を始めた。しかし情報を集める段階で躓いてしまった。地下カジノから飛び出す。グラン・テゾーロの部下である黒服達から逃げ回る。

 民衆に紛れるつもりで一旦、大通りに出た。

 するすると人と人の間を潜り抜ける。だが、その民衆を吹き飛ばす黒服の巨体を背後に見て、サアッと青褪める。

 

「うちのカジノに忍び込むとは良い度胸だなっ!!」

 

 金色の髭を携えた筋肉もりもりのマッチョマン、名前はダイス。

 彼は最近、グラン・テゾーロに雇われた用心棒であり、裏社会では、世界一危険と言われるデスマッチショーで無敗を誇った格闘チャンピオン。金に物を言わせて雇われた彼は今、一時的にこの東の海の地下カジノで用心棒を務めている。本人は用心棒だけでなくディーラーもやりたかったようで、今回の派遣にはディーラーとしての実地研修も含まれていたようだ。

 その彼が今、黒色に染めた巨腕で私の事を一直線に追いかけて来ている。

 

 私には、高い身体能力がなかった。

 人並み以上に策を弄する知恵は持っているのだけど、それを捻じ伏せる腕力には弱かった。

 混乱する民衆に阻まれて、上手く逃げる事が出来ない。

 逃走の為の道具は地下カジノから逃げ出す時に使い果たしている。

 

 周りには人の壁、民衆を吹き飛ばしながら近付いて来る巨体を前に私は、深い絶望に襲われる。

 まだ、まだ諦めない。歯を食い縛って周囲を観察する。迫り来るダイスの事も注意深く観察したが、あの暴走機関車の前では、どんな策も意味を為さなかった。逃げるしかない、しかし逃げ道がなかった。一歩、また一歩、と民衆を蹴散らして近付いて来る。追い詰められている。

 もう此処までか。と目を瞑ったその時だった。

 

「助けて欲しい?」

 

 その問い掛けに私は飛び着いた。

 

「助けて!」

「なら今日から貴女は私の仲間だ」

「えっ?」

 

 間もなく後悔する。

 私が助けを求めたのは小さな少女。ゴスロリの衣服を着ており、どう見ても戦える姿をしていなかった。

 しかし彼女は笑みを浮かべて「クラハドール」と一言告げる。

 

「鼠一匹、助けたところで意味はないと思うが?」

「それは早計だよ。あの民衆の中を潜り抜ける身の熟しは、まともに生きてたら身に付かないものだ」

「あと、口調が戻っている」

「あらあらおほほ」

 

 わざとらしく笑う少女に隣で控えていた執事が舌打ちする。

 最初は彼が戦うのかと思ったけど、彼は少女に刀を放り投げるだけだった。

 

「これで負けるのであれば、偉大なる航路(グランドライン)行きは御破算だ」

「いやいや、あいつって結構強いと思うんだけどね? ……ですわ」

「庇うのか!? その泥棒風情をッ!!」

 

 ダイスの黒く染めた拳が私達に向けて振り落とされる。

 引き抜かれる刀、水に濡れたような綺麗な刀身が黒く染められていくのを見た。

 その時、クラハドールと呼ばれた男が、僅かに目を見開く。

 少女は黒刀の腹で受け止める。罅割れる地面に舞い上がる砂埃、されど少女は膝を屈しなかった。

 強気に笑った、その少女の頬に冷や汗が流れる。

 

「ごめん、これ勝てないや」

「クソがッ!」

 

 執事が音もなく姿を消す、次に彼が姿を現したのは大きな衝撃音と同時だった。

 姿を消すほどの速度で、彼はダイスの鳩尾に蹴りを叩き込んでいた。

 

「……なかなか、気持ちいいじゃねえか。だが、その程度じゃ満足できねえなあ!」

 

 しかし、その蹴りはダイスの巨体を僅かに揺らしただけだった。

 その僅かに緩んだ隙を突いて、ゴスロリの少女が叩き込まれた拳を横に逸らす。

 勢い余った拳は、そのまま地面に叩き付けられた。

 

「逃げるよ!」

 

 地面が砕ける。舞う砂塵の中で、少女が叫んだ。

 執事が舌打ちと共に駆け出し、少女を助けるよりも先に私の身体を担ぎ上げる。

 そして、そのまま音もなく、景色が消し飛んだ。

 気付いた時には裏道を走っている。

 

「まあ、これでも助けたって事になるよね?」

 

 何時の間にか私を脇に担いだ執事の横で並走するゴスロリの御嬢様。フリフリのスカートで高速移動をする彼女の姿は、なんというかシュールだ。

 

「貴方達は、何者なの?」

 

 問う私に彼女は「後でね」と答える。

 

「お姉さんの事も後で、ちゃんと聞かせて貰うからね」

 

 そうして彼女はまた笑った。

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