なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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今回は、短めです。


18話.記憶力

 剣よりも銃の方が強いかも知れないが、銃よりも覇気の方が強いというのは世界の常識だ。

 少なくとも海軍では、銃を持った新兵が六式を身に付けた人間を相手に勝つというのは先ずあり得ない。それは決して銃の価値を認めないといったものではないが、戦場を高速で縦横無尽に駆け回る一個人を相手に、見聞色の覇気もなしに狙撃するのは困難であるし、銃弾に武装色の覇気を込めなければ、鉄塊(てっかい)で硬化した肉体を貫くこともまた難しかった。

 結局、覇気が使えなければ、決定打を与えられない為、銃が本来、持っていた一般市民の即戦力化が難しくなっている。

 

 勿論、それは六式や覇気が扱える者が相手であった時に限定される。

 しかし、しかしだ。六式や覇気は勿論、悪魔の実の能力者が一般兵を相手に一騎当千の活躍をしてのけるのも事実。海軍においては三大将が、その最たる例であり、個人で海賊団ひとつを壊滅できる戦力となる。銃を配備するよりも、将兵の個々人の戦闘力を上げる方が効率が良かった。なので今も昔も海軍では、個人の戦闘力が査定に大きく影響を与えている。

 霜月くいなが本部中佐の地位にあるのは、それだけ彼女個人の功績が大きい為だ。

 彼女は海軍に入って、半年で海賊団を個人で壊滅させている。その功績で少尉となり、翌年には佐官になっていた。その後、彼女は中佐まで上り詰めた後、少佐に降格となり、また中佐になっては大尉に落ちて、そしてまた功績を上げて、少佐、中佐と上り詰めた。兎にも角にも彼女は命令違反が多過ぎた。目の前で起きている悪事を見逃すことができず、とりあえず突っ込んでは壊滅させてくるので扱いにくい事この上ない。それで海軍と密約があった組織を幾つか壊滅してしまっているので上層部としては堪ったものではなかった。

 元帥の前髪は後退した、大参謀の皺も増えた。

 英雄は煎餅をバリボリと食った。

 彼女を佐官に推薦した骸骨顔の上官は、地面に擦り続けた額に絆創膏を貼り続けた。

 

 そして大参謀の提案により、問題児は問題児に任せるのが一番だと判断して白猟に部下として与えられる。

 丁度、彼は「軟弱な海兵ばかり送って来るんじゃねえ、ちったぁ使いもんになる奴を寄越せ」と本部に要請していたのだ。戦力としては、東の海には勿体ない程の逸材である。今頃、泣いて喜んでいるに違いないと元帥と大参謀は笑い合った。余談になるが英雄ガープは「そんなに活きが良い奴なら儂が引き取ろうか?」と名乗り出ていた。しかし、それは元帥と大参謀が断った。あの問題児とガープは、きっと意気投合するという確信が二人にはあった。そしてガープの下で鍛えられた彼女を想像した時、海軍はガープを二人も抱えることになる未来が見えてしまったのだ。

 俺が元帥の内はそんなこと認められん、と元帥はガープの下に置くことを決して認めなかった。

 

 元帥と大参謀の思惑通り、白猟ことスモーカー本部大佐に対する効果は覿面だった。その年の暮、彼の元上官達は、問題児からお歳暮が届いた事に驚いて、忘年会の話題にする程だ。

 

 しかし、まあ、それは少し先の未来の話。

 此処から先は今の話をする。

 

 海軍ローグタウン派出所に設施された訓練場。

 広く場所を取っただけの空間にて、霜月くいなが刀を構えている。

 業物・水無月。

 大きく身体を捻った姿勢から弾くように剣撃を飛ばした。

 

「霜月一心流、鷹波」

 

 地面を這う衝撃は数メートル離れた案山子の足元に直撃する。

 それを隣で見ていた御目付け役のたしぎは、初めて見る飛ぶ斬撃にポカンと口を開ける。

 斬れている訳ではないが、大きく案山子を揺らす程度には衝撃を与えていた。

 

「これを更に洗練させると飛ぶ斬撃になる」

 

 Tボーン大佐の得意技でもあるよ、とくいなは刀を片手に握り締めたまま伝える。

 たしぎは自分と同じ女性が、自分よりも遥か高みにいることに目をキラキラと輝かせた。

 そして常日頃から己の力不足を嘆いていた彼女は、ある質問を問い掛ける。

 

「やっぱり、中佐も世界最強という称号に憧れるものですか?」

 

 くいなは小首を傾げる。

 

()()()()()に興味はないかな」

 

 その言葉は、たしぎにとっては意外だった。

 同じ女剣士として、彼女は上官に当たるくいなの事を強く意識してきた。

 そして、ストイックに強さを追い求めていた事も知っている。

 

「だけど、強くないと民を守れないから強くなる必要はあると思ってる」

「そう……ですね…………」

 

 女だから強くなれない、そんな考えが脳裏に過ぎる。

 それは、たしぎの心にこびりついた染みのようなものだった。

 持ち前の反骨精神で押し殺して来ただけで、

 男に対し、ずっと劣等感を抱いて今日まで生きて来た。

 卑屈な考えが心に巣食っている。

 

「えーと……」

 

 くいなは少し考え込む仕草を見せた後、意を決して口を開いた。

 

「……とんび?」

「たしぎです」

「大佐に呼び出された時に酷い事でも言われた?」

「記憶力ッ!」

 

 この上官は他人の名前をよく間違える。

 スモーカー大佐の事は忘れない癖に何ヶ月も一緒に居た仲間の名前も碌に覚えないのだ。そりゃ誰も彼女の下に就きたがらないはずだ。話しかけると優しく対応してくれるけど、彼女から誰かに話しかける事はほとんど見なかった。それなりに長い付き合いなのに彼女との距離がまるで縮まる気配を感じられない。

 こんな調子で幼少期はどうしたのか、実家が道場という話は聞いている。

 

「……幼い時に友達とか居たのですか?」

 

 くいなは少し考えた後、ゆっくりと首を横に振った。

 

「居なかったよ」

「腕を競い合った相手とかも?」

()()()()()、私に匹敵する相手は居なかったんじゃないかな?」

 

 彼女は性格に反して、見た目が良いので意外と人気がある。

 この数ヶ月だけでも同僚から恋文を貰っているのを見た。アプローチを受けているのを見た事もある。

 そんな彼女なので、何もないというのはありえないと思った。

 

 たしぎはポンコツ娘は昔からポンコツだったんだと一人、納得した。

 

 霜月くいなには、諜報員としての適性はない。

 しかし彼女の適性を見て、なおも組織に組み込みたいという諜報機関は存在した。それは海軍が持つ諜報機関の中でも特殊な組織、決して表沙汰にすることができない暗殺を生業としている。

 その組織の特筆事項には、記憶力に難あり。と書かれてあった。

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