なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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2話.辻斬り

 私の名前はオネ、(なまくら)一本で海に出た無謀な漂流者でもある。 

 道すがら海賊の気配を察しては、これを略奪し、賞金首を攫っては海軍に売り渡す表稼業を生業としている。

 実力は停滞してしまっていた。海賊を相手に実戦を積み重ねてはいるけども、実力そのものは軍艦を叩いていた時と大差なかった。実戦に勝る経験はないというが、全くの嘘である。独り立ちをした分だけ、精神的に逞しくなったと思うのだけど、それだけだ。波に揺れる小舟の上に立って棒振りに勤しんでいるけども、こんなことをしているのであれば次の島まで泳いでいる方が余程鍛錬になる気がした。

 荷物だって元から錆びている鈍が一本あるだけで──いや、今は賞金首を換金した際に得た紙幣もある。生活に慣れると荷物が増える。旅立ちの時、身一つで海に出た時の方が身軽で良かった、と溜息を零す。金銭は必要だ、何故なら私の標的は偉大なる航路の更に先の海に存在している。偉大なる航路に行く為には、リヴァースマウンテンを越える必要があり、その山脈の海流を越えるには小舟一隻では難しいという話なのだ。だから船が必要である。その為には金銭が必要であり、とりあえずトランクケースいっぱいの紙幣を集める事にした。

 海賊の船は、大人数で動かすことが前提の構造になっているので扱えなかった。鍛錬道具としても脆すぎる。

 

 ゆるりゆらりと波に揺られる毎日。視界に映るは海と空。時折、鳥が飛んでいる。

 大きく欠伸を零した時、ふと水平線の先に大勢の人の気配を感じ取った。海賊特有の粗暴な気配ではなかったので、集落だと推測する。長閑な雰囲気、都会程ではないが活気もある。ならば、きっと村ではなく町だ。

 そろそろ陸が恋しくなってきた、食料も心許ない。

 櫂を手に取り、村を目指して、えっちらほっちらと漕ぎ始める。

 そうして辿り着いた町の名は、オレンジの町といった。

 

 

 東の海。オルガン諸島、オレンジの町。

 長閑で住民の人当たりも良くて居心地も悪くない。宿も良心価格で質が良かったので暫く、この町を拠点にする事を決める。

 とりあえず一ヶ月分の宿代を支払って、漂流で鈍った身体を鍛え直す。

 

 行く先々で遭遇した海賊共には、その軟弱さに拍子抜けしてしまった。

 だけど私の故郷を滅ぼした海賊の人知を超えた力を私は知っている。少なくともあの海賊は、国ひとつを滅ぼすだけの力を持っていた。最弱と呼ばれた東の海(イーストブルー)で腕を誇ったところで御山の大将にしかならないと知っていたから私は驕らず鍛錬を続けている。英雄と呼ばれた海軍の中将は、山を更地にする力があるという。ならば私も山のひとつも斬れるようにならなければ、あの海賊の足元にも及ばないという事だ。私は弱者である。とりあえずオレンジの町の近場の山に赴いては、鈍片手に斬って斬って斬りまくる。せめて、崖のひとつも斬れるようにならなくては、と断崖絶壁を前に鉄の棒を振り落とし続ける。

 外に出て分かった事だが、この鈍は頑丈である。どれだけ硬いものに打ち付けても、折れず曲がらず欠けもせず、十年前から変わらずその姿を保ち続けている。

 海賊から奪い取った刀を使ったこともあるのだけど、手加減しなくては簡単に壊れてしまった。これが折れたり曲がったりであれば、私も己の未熟を省みるのだが、砕け散るのであれば話は変わる。

 私の全力に耐えられる刀は、この鈍以外になかったのだ。

 

 刀身が真っ黒に染まるほど、錆びてしまった鈍を頼りにする他になかった。故に私は、この刀と呼ぶも烏滸がましい鉄の棒未満を未だに振り続けている。

 

 山の麓の一角を削り終えた頃、町に戻ると町中が騒がしくなっていた。

 なんでも港に海賊船が来たという話である。しかし日々の鍛錬で疲れていた私は、明日できる事は明日やれば良いと宿に向かった。宿に着くと海賊が居た、話を聞くと此処を接収するだとか、なんだとか。私の事を娼婦と呼び、劣情を帯びた目で見てきたものなので棒切の錆にしてやる。

 鉄の棒未満の鈍を叩き直すことは出来ずとも、人一人くらいは容易かった。不細工な顔を男前に整形してやった後、宿から叩き出してやる。

 私は宿の一階に併設されたバーカウンターで一杯の酒を要求する。支払いに財布を取り出せば、受け取れない。と両手を振って断られた。私は、酒を一息に呷り、カウンターに金銭を置いて部屋に戻る。

 程良く酔いが回り、今日はよく眠れそうだと就寝した。 

 

 翌日、何事もなかったかのように町は静かだった。

 山を斬るのも飽きてきた。何事も同じ事を続けるのは苦痛であり、それは食事でも同様であった。そんな時に大切なのが味変である。私は、昨日、港に海賊船が泊まっている。という話を思い出し、足を運んだ。

 そして、船首に象の彫刻が取り付けられた船を見つけた。それに乗っているのが海賊の風貌をしたろくでなしと知り、船を両断した。錆びた刀も使い様だ。刀の扱い方は、幼い時から振り続けてきたこの鈍が教えてくれる。

 小さく海を割る一撃に満足した私は、騒ぐ野郎どもを捨て置いて日々の鍛錬の為に山へと赴いた。

 道は未だ、遠く、大海の果てまで続いている。

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