年末年始の更新は怪しいです。
オネ一味はローグタウンまで辿り着いた後、
クラハドールは航海で必要になる知識を調達する為に書店へ足を運んだ。
彼はシロップ村で富豪の執事になる時、執事として必要な知識は全て頭の中に叩き込んでいる。その時に簡単な学問を修めていたが専門的な知識ではない。もしも海の上で何かあった時に直ぐ調べられるような専門書や図鑑、辞書などを中心に買い漁る。中には一万ベリーを超える蔵書もあったが、クラハドールは躊躇なく会計台の上に積み重ねる。
著名な外科医の医学書も中にはある。バカでもわからせる命の蘇生術。という他人をバカにした表題の医学書を手に取り、その著作者が世界的にも有名な天才外科医ドクトル・ホグバックであった事を確認した彼は、これも会計台に積み重ねた蔵書の上に添える。
他にも暇潰し用の書籍も手に取る。
名目上は船長を務めるオネの夢を聞いたクラハドールは、彼女の売り出し方を真面目に考えていた。己の安寧の為に幾つかの計画を考えている彼は、オネのアイドル化も視野に入れている。そして、その為には性格に難があると彼は考える。アイドルとして売り出すのにオネの性格は、少し素っ気なさ過ぎる。もう少し女性らしくなって貰う為に小説を読ませる事を考えたのだ。
恋愛小説やお淑やかな女性が主人公の物語を手に取る。
強面の男が少女趣味の小説を手に取り、ああでもない、こうでもない、と子供のプレゼントに悩む姿は女性店員の心を鷲掴みにした。キャアキャアと小さく騒ぎ立てる女性陣に男性店員は、あれの何処に盛り上がる要素があるのかと訝しんだ。
結果としてクラハドールは十五万ベリー分の蔵書を買い漁り、店を出る。
力仕事が得意なアルビダは食料調達を任されている。
クラハドールに渡されたメモ帳を頼りに市場へ赴いて、航海に必要となる食料と調味料を台車の上に乗せていった。食料を山盛りに積んだ台車を、アルビダは軽々と押す。見惚れる程の美貌。それ以上にあの細腕の何処に、あんな力があるのかと市場に居た全員が目を剥いた。
しかしアルビダは、周囲からの視線を羨望の眼差しと受け取って上機嫌に笑みを深めた。
かつて金棒のアルビダと呼ばれた彼女はフィジカル強者、金棒を片手で軽々と振り回せる膂力で五百万ベリーの賞金首となった。スベスベの実を食べた事で彼女の体型は変化した。しかし彼女が持っていた膂力が失われた訳ではない。愛用の金棒は今も片手で軽々と振り回せる。
究極の美貌に強靭な肉体、美し過ぎる花には棘がある。
そう何故ならば、彼女は麗しのレディー・アルビダ! 美の体現者、美には健康的な心身が付き物なのだ!!
カリーナは東の海で世話になった知人に挨拶回りをしている。
その相手のほとんどが情報通だ。今は新聞の路上販売をする中年男性、彼とは符丁で会話をする事で商談が開始する。今日まで他の情報通や専門家と橋渡しをしてくれた相手でもあり、ローグタウンでは最も世話になった相手かも知れない。ココヤシ村で頂いたオレンジソースを土産に渡し、暫く東の海から離れる事を伝える。
普段、私情を出さない店主は別れ際に「寂しくなるな」とポツリと呟いた。カリーナは「また会えるよ」と笑って、手を振って別れる。
路上販売店から離れた時、一般市民とは臭いの違った男性と擦れ違う。視線だけで彼の後を追えば、路上販売店の店主に符丁を口にする。相手の正体に勘付いても詮索しないのが私達の世界での暗黙の了解。彼から視線を外し、距離を取る。
シルクハットが特徴的な若い男性だった。
オネは人の気配を感じ取ることができる、しかし特定の人物の居場所を特定できる程の精度はなかった。
強い気配を持つ人間は、なんとなしに気配を読み取れる。その程度であったのでローグタウンのような都会にもなれば、人の数が多過ぎて個人を特定することは不可能に近かった。オネは大通りに建ち並ぶ建造物の屋上で、大きな溜息を零す。黒いスーツ姿の男性は何人か見つけた、その内、三回はクラハドールだった。
苛立ちが抑え切れない。手に握り締めるは、手配書で麦わらの男の満面の笑顔だ。
オレンジの町で会った時に潰しておくべきだった。と後悔が押し寄せて来る。
「……それで、さっきから私を見つめていてどうしたの?」
背後から感じる強者の気配、振り返らずとも居る事が分かった。
「その男は?」
男が問い掛ける、声色で男だと察する。オネは手に握り締めた手配書を見て、不機嫌に答えた。
「恋敵」
「そうか」
短い返事、オネは腰に挿した鈍の柄に手を添える。
「貴方は、この男のなんなの?」
背を向けたまま問い掛けた。
既に臨戦態勢に入ってしまった少女に、男は少し慌てた様子で両手を上げる。
「男の、船出を見に来た」
「……ふうん、親か何かって事か」
キンと甲高い音が響いた。
次の瞬間、刀身が閃くよりも早く、ローブで全身を隠した男は後方に大きく跳躍する。
フードの部分が斬れている。
顔を晒される、男の顔の左側には刺青が施されていた。
オネは抜いた刀を構え直す。
「どうせ、貴方も海賊なんでしょ? ならば、
「……あの子は、随分とやんちゃな子の恨みを買ったようだな」
男もまた構えを取った、重心が後方に傾いている。
受け身に回る。というよりも逃げる体勢だ。逃がすか、とオネは前傾姿勢を取る。
そんな折、広場の方が騒めき始めた。
『コラ君っ! 今すぐそこから降りなさい!!』
拡声器から発せられる声、男が僅かに顔を顰める。
それを見て、オネは前傾姿勢から構えを変えた。防御重視の迎撃の構え、焦燥感に一滴だけ冷や汗を垂らす男にオネは意地悪い笑みを浮かべてみせる。
年上の男性を見下す挑発的な視線、細めた目でくすくすと肩を揺らす。
「あっれ~? どうしたのおじさん? 慌てちゃってさ……もしかして、なにか困ったことでも起きちゃった?」
それは完全に八つ当たりの嫌がらせだった。
男は冷静に相手の戦闘力を推し量る。
そして彼女が握り締めているのがワの国の名刀である事に気付いた。
「何故、その刀が此処に?」
「…………? 親の形見だ、何か知っているの?」
「親の、形見だと?」
驚く男に少女が問い返す、しかしオネは警戒心を欠片も緩めていなかった。
その高い練度に男は更に焦燥する。
とある可能性から、彼女を下手に傷付ける訳にはいかなくなった。
「罪人! 海賊モンキー・D・ルフィは“つけ上がっちまって俺様を怒らせちまった罪”によりハデ死刑~~~~っ!!」
広場から聞こえる大声に、状況は混沌へと向かいつつあった。