なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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22話、首おいてけ

 遥か未来に語られる物語は、遥か昔に幕を開けたる物語。

 消息不明となっていたバギー海賊団の船長が突如、ローグタウンの大広場に姿を現したかと思えば、海賊王の処刑台で先日、三千万ベリーになったばかりの賞金首を木製の首枷に拘束した。彼の隣には大きな獅子が控えていた為、誰も処刑台に近付けずに居る。

 この絶体絶命の状況においてなお、麦わらの男は叫んだ。

 

「俺は、海賊王になる男だッ!!」

 

 空は暗雲が立ち込めて来る。

 ポツポツと雨が降り、嵐の予感さえあった。

 此処から状況は急速に変化する。

 

 先ず、状況を整理する。

 麦わらの一味である四人は広場の入り口で合流し、船長が処刑台で命の危機に瀕している事を知った。道化のバギーの手による処刑を止めようと、海賊狩りと呼ばれるロロノア・ゾロとサンジの二人が駆け出す。しかし距離が遠く、最短距離で駆け抜けても間に合いそうになかった。

 そして広場を包囲するのは、ローグタウンを拠点にする海軍だ。

 スモーカー大佐の指示で待機が命令されており、麦わらの処刑が済み次第、残党を狩る手筈となっていた。しかし彼の命令に従わない存在が二人、くいなとたしぎだ。偶々広場の近くに居た二人は、処刑台に居るルフィとバギーよりも先に、処刑台を目掛けて駆け出したゾロとサンジの前に立ち塞がった。

 これはルフィとバギーを無視した訳ではなく、ただ単に二人の方が近かった為だ。

 

「てめェ……!」

 

 ゾロが“大業物”和道一文字を口に咥える。

 と同時にくいなが“業物”水無月を鞘から引き抜いた。

 そしてサンジの前に、たしぎが立ち塞がる。

 

 状況は更に混迷を極めている。

 ナミとウソップが出航の準備を整える為にゴーイングメリー号に戻る道中、紫色の髪をした女性と擦れ違った。ナミが思わず振り返る、同時にカリーナも振り返った。「なんで、あんたが此処に?」と呟くナミに「知り合いか? 早く行くぞ!!」とウソップに急かされたので碌な挨拶も交わさず、二人は広場を離れた。カリーナは少し考えた後、皆よりも先に船へ戻る事を決めた。

 さて、カリーナの手首には、記録指針と呼ばれる小型の特殊なコンパスが付けられている。

 

「何かしら、あれ?」

 

 その特異な形状のコンパスをナミは見逃さなかった。

 

 広場近くにあるホテルの屋上では、オネとローブの男が対峙している。

 実力だけを語れば、ローブの男がオネを圧倒的に上回る。しかし下手な手加減が出来る程、弱い相手でもない。その上、彼にはオネを傷付けられない理由もある。男は処刑台に拘束された麦わらの男を見据える。猶予は刻一刻と消えつつある。

 男は焦燥する。

 目の前の少女は、自分との実力差を理解していた。

 そして自分が彼女を傷付けられない理由がある事も察せられてしまっている。

 その上で嫌がらせに徹しているのだ。

 

「海賊同士が潰し合いをしてくれる分には、なんの問題もないよね」

 

 けらけらと笑う少女を前に、男は必死に考えを巡らせる。

 

 シルクハットを被る男は、茫然と処刑台の上で拘束される男を眺めていた。

 自分には関係のない男であるはずだ。しかし目が離せない、高鳴る胸の動悸に何かが思い出せそうな気がした。彼は記憶喪失であった。幼い頃、天竜人が乗った船から放たれた砲弾の直撃を受けたショックで記憶を失ってしまったという話を聞いている。

 今にも殺されようとしている麦わらの男を眺めていると何かしなくてはいけない気になってくる。しかし彼は無暗に顔を出して良い身分ではない。此処に来たのはお忍びだ。三千万ベリーの手配書を見た時、胸に騒めく想いがあったのでリーダーに無理を言って付いて来た。

 なのに今、根拠もない理由で動き出す訳にはいかなかった。

 記憶喪失になった自分を受け入れて、此処まで育ててくれた仲間達を蔑ろには出来ない。

 彼は、ただただ茫然と眺める他に打てる手立てはなかった。

 

 そして彼の隣には「おもしれえ奴」とギャングの男が突っ立っていた。

 

 状況は更に混沌と化する。

 麦わらの仲間が海兵二人に食い止められるのを眼下にバギーは剣を振り上げた。間もなく行われる公開斬首にスモーカーが広場を包囲する海兵に突入の指示を送る。暗雲が立ち込める中、バギーの高笑いと共に振り落とされる剣に麦わらの男がニカッと笑った。

 その時だ、空を人一人分の大きさのある鳥が空を翔ける。

 ダチョウともパンダとも呼べる風貌の鳥の上には赤と白の髪色をした女性が乗っていた。

 

「~♪」

 

 口遊まれる旋律に、女の頭上の空間に罅が入る。

 

「バギィィーッ!!」

 

 そして割れた空間の向こう側から伸びる巨大な腕、握り締められた拳をバギーの瞳が捉えた。

 

「げえっ!? ウタ!? なんで俺様をっ!?」

「私の弟分に手を出すなァーっ!!」

「ウタだって?」

 

 ルフィが驚く声に、黒雲より雷が落ちた。

 嘗て、歌の魔王と畏れられた魔人の腕に落ちた雷を帯びた一撃は処刑台諸共バギーの横っ面に叩き込まれる。哀れバギーの身体はゴミ屑のように近場の建造物の壁に叩き付けられて、更にその向こう側まで突き抜けていった。直撃を免れたルフィは広場の地面に叩き付けられる。

 その一部始終を見ていたスモーカーは「なんだ、今のは?」と呆気に取られた。

 

「難を逃れたか……!」

 

 ホテルの屋上でオネと対峙していた男は、にんまりと笑みを浮かべる。

 突風が吹いた。小柄な体のオネは横殴りの強風に煽られた、湿った床に足を僅かに滑らせる。

 その隙を男は見逃さず、身を翻し、ホテルの屋上から飛び降りる。

 

「……逃げられた」

 

 オネは刀を鞘に納めて、屋上から広場の方を眺める。

 ひょっこりと身体を起こす麦わらの男を見て、舌打ちする。

 そして彼を助けたのが、

 赤と白の幼馴染だと知って、表情を険しくした。

 

「あンの裏切り者め……」

 

 オネは緑色の長髪をガリガリと掻いた後、屋上を伝って広場を目指す。

 その殺意には怒気が込められている。

 冷静ではない彼女はもう、周りが見えていなかった。

 

 なお建造物の向こう側まで吹き飛ばされたバギーは「聞゛い゛て゛ね゛ェ゛っ!!」と大の字で転がっていた。

 心配してくれるのは広場から慌てて駆け付けたリッチーだけだった。

 

 

「数発が限度、か……!」

 

 魔人による一撃を繰り出したウタは、そのまま為す術なく落下する。

 それを受け止めようと駆け出したのは彼女の仲間である水色の髪の少女、自分の身体をクッションにウタの身体を受け止める。

 その上をパンダのような風貌の鳥が心配そうに旋回した。

 

「大丈夫か、ウタ!?」

 

 漸く首枷から抜け出したルフィが倒れる二人に駆け寄る。

 

「大丈夫……だけど、ちょっと疲れちゃった」

 

 ウタは久し振りに会った、もう一人の幼馴染に微笑みかける。

 

「ウチの仲間がごめんね。まさかルフィの事だったなんて思っても居なかったからさ」

「なんだお前、バギーと一緒に行動してるのか?」

「あれで結構役に立つんだよ」

 

 ああ、そうそう、とウタが続ける。

 

「私も海賊を始めたよ」

「ん、そうなのか?」

「まだ海賊船もないけどね、屋根付きキッチン付きの小舟が一隻だけ」

「ふ~ん、そっか。なら俺の船に来いよ」

 

 バギーは要らないけどな、とルフィが笑い声を上げる。

 その言葉を聞いて、ウタは嬉しそうに、少し申し訳なさそうに笑みを浮かべた。

 ルフィに誘われたのは純粋に嬉しい。

 だけど、ウタの目的を考えれば、彼と同じ道を歩むことは出来なかった。

 

「ごめん、ルフィと一緒には行けない」

「なんでだ? やっぱり自分が船長の方が良いか?」

 

 ん~ん、とウタは首を横に振った。

 

「ルフィってシャンクスの事、好きでしょ?」

「ああ、そうだな。この帽子も返しに行かなきゃならねえ」

「だったら、やっぱり、無理だね」

 

 ウタは仲間の女の子の肩を借りて立ち上がる。

 魔人の召喚と制御には、ごっそりと精神力を持って行かれる。気絶をすれば、ウタウタの実の効力が消えるという特性上、魔人が暴走する事はないがリスクがあるのは確かだった。

 それに魔人による一撃は強力だが、連発は出来ない弱点もある。

 

 ウタはルフィを見た。

 大きくなった弟分の姿を見て、僅かに涙ぐんだ。

 やっと会えたという想いがあり、

 どうしても道を違えなくてはならない理由がある。

 ウタは意を決して、彼に伝える。

 

「ルフィ、私の目的はね。赤髪海賊団の打倒だよ」

「はあ? なんでだ?」

「私はバギーを回収しないといけないからもう行くね」

 

 また何処かの海で会おう、と手を振って駆け去った。

 ルフィは、ウタの背中を見送る。

 様々な疑念を胸に秘め、自分を助けに来てくれたゾロとサンジに向き直った。

 

「ルフィ! あいつは知り合いか?」

「ああ、俺の幼馴染だ」

「幼馴染だとォッ!?」

 

 ルフィの返答に雨の中、サンジが全身を嫉妬の炎で燃やす。

 

「お前らも、あの剣士は振り切ったのか?」

「急に突風が吹いてな。その隙を突いて逃げただけだ」

「ああ、そうだ。さっさと逃げよう……もうひと、騒……動…………」

 

 サンジは吹かしていた煙草を手から落とす。

 何時の間に忍び寄っていたのか。本来であれば、至福の再会。

 しかし、そんな浮いた雰囲気ではない事は、

 彼女の様子を見れば、すぐに分かった。

 

「ふぅん、何処に逃げるって?」

「オネ……ちゃん?」

 

 一切の感情を感じさせない満面の笑顔。

 辻斬りと呼ばれた少女の刀は、既に抜かれていた。

 言い訳も、弁解の余地もなく、

 少女は両手で握り締めた刀を頭上に振り上げる。

 

「“竜殺し”」

 

 怒りのままに振り降ろされた斬撃は、

 広場の床を両断し、そして、彼等の背後にあった建造物をも斬り付けた。

 かつて秋水の持ち主が使っていた剛剣の極みの技である。

 

「三千万ベリーの首、此処に置いていけ」

 

 アーロンを前にした時以上の存在感を前に、三人が共に唾を飲み込んだ。




別にこれを理由に書くのをやめる訳ではありませんが、
評価が橙に落ちた時のモチベの急転直下ぶりがやばいので
もし面白いと思ってくださった方には、
是非とも、是非とも、評価を付けて頂けるととても嬉しいです。
頑張る目的のひとつが明確に失われるのが非常にお辛い。
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