徐々に落ちていく評価を気にしながら書いていたので、
ちょっと続けるのがしんどくなると思って赤評価に戻ってくれたら嬉しいなって感じで書いたのですが、予想以上に高評価集まってて「あ、これ知ってはいけない味だ」となりました。
心を律し、精進します。評価を入れてくださった方、本当にありがとうございます。
雷鳴が轟いた、暗雲から落ちた閃光が処刑台を貫く。
実際には、割れた空間から伸びた巨大な腕に落ちたのだが、結果として処刑台は破壊されたので誤差です。
その後に吹いた突風に体勢を崩し、戦っていた海賊二名を逃してしまった。
三振りの刀を持った珍しいだけが取り柄の剣士。本来であれば、苦戦する相手ではない。しかし相手には私の手の内を知った動きで凌ぎ切られてしまった。以前に何処かで戦った相手なのかも知れない。だけど残念な事に彼は私よりも弱い。彼の私を見る特別な感情を込めた視線が少し気になりもしたけども、半日もしない内に忘れてしまいそうな程度の実力しかなかった。
溜息を一つ、“業物”水無月の刀身を鞘に納めた。
隣では、私の部下と思われる人物が息を切らしている。
周囲を見渡して状況を整理する。
民衆が騒いでいる、しかし誰かが暴れているって感じではなかった。
広場を海兵が包囲している。
「……えっと、そこの……かもめ曹長?」
「たしぎです」
じとっとした目を向けられてしまったので、付き合いのある知人なのは確定。視線を逸らし、ポリポリと頬を掻いて誤魔化す。
冷たい視線ではなかったので、それなりに良好な関係を築けてる様子。関係を壊さないように気を付けなきゃいけない。
「それでどうしようかな?」
あの程度の相手であれば、放っておいても対処できる。
だけど、一撃で処刑台を壊した赤と白の髪の女。あの子はスモーカー大佐でも梃子摺りそうだ。
私が相手に出来るかどうか分からないけど、
ローグタウンの最高戦力である私かスモーカーが止めなければ、
彼女の無法を許す事になる。
「曹長、次です」
「え? 海賊狩りを追いかけなくても良いのですか?」
「あんな雑魚は大佐の能力で瞬殺です」
そういって私が駆け出せば「ああ、もう!」と曹長は電伝虫を片手に私の後を追いかける。
気配は覚えた。私の見聞色の覇気は、特定の個人を追いかけるのを得意としている。
◆
半死半生のバギーが仰向けに倒れているのを発見する。
頭上を見上げるとパンダのような風貌の
アンがハンドサインで海兵が私達の所に近付いているのを教えてくれた、二名のようだ。
私はアン達に先に船に戻るように指示を出し、
気絶していたバギーをリッチーの背中に、せっせと乗せた。
「ウタウタの実の能力者に、こんな所でお目に掛かれるとはな」
雨が降り、嵐が吹き荒れる中、コートを被った男が私の前に姿を現す。
「……貴方は?」
息が詰まる程の存在感を前に私は、リッチーに下がるように指示を出す。
覚醒したウタウタの実の能力も万能ではない。ウタワールドはトットムジカを閉じ込める牢獄にした結果、歌で他人の精神をウタワールドに引き込むことが出来なくなった。そしてトットムジカを現実に召喚するには、あまりに強力過ぎて体力を根こそぎ持って行かれてしまうのだ。たった数秒、腕一本が今の私の限界である。
でもまあウタワールドで生成できるのは、トットムジカだけではない。
「~♪」
歌唱する、具現化されたマイクを手に取る。
ウタウタの実の覚醒は、ウタワールドで起こせる現象を現実世界にも引き起こさせる事だ。
夢を現実に具現化できる。
しかし燃費が悪い事には違いなく、覚醒能力としては使い勝手の悪いものとなっている。
着替えるアイドル衣装は、青と白を基調とした王子様衣装。
今は、これが限界だ。
「そんな事も出来るのか、夢想具現化とでも呼ぶべきか?」
男は私を観察し、そして首を横に振る。
「ウタウタの実の能力は知っている。使い方を誤れば国を滅ぼす程の強力な力だ」
だがそれも使い方次第、と男は私に手を差し伸べる。
「君に世界を引っ繰り返す意志はないか?」
「ナンパはお断りだよ」
私は妹分と共に世界中を歌って回るのが夢なのだ。
四つの海と偉大なる航路にある全ての島をライブして回るワールドツアーの開催が私が目指す最終到達点。私が目指す自由とは、そういうものだ。私が目指す海賊とは、そういうものだ。今は仲違いしているけど、私はオネを取り戻すことを絶対に諦めない。
私の掴み取るべき夢には、隣にオネが居る必要がある。
「私、
大きく息を吸い込んだ。
私の左右に大型のモニタースピーカーを展開、毎日鍛えたボイストレーニング。
背後のリッチーとバギーに耳栓用のヘッドホンを装着させる。
声量だけなら誰にも負けない自信があった。
「Ahー───────-──--───- ─ - ──ッ!!」
夢を目指して駆け抜けた、十年分の私の
発された大音量の私の声に、周囲の建造物にある全ての窓が割れる。
散らばる硝子片がキラキラと輝いて地面を打ち鳴らす。その中心でフードの男が苦悶の表情を浮かべる。
両耳を押さえながら身を屈めた。
効いている、けども夢の具現化は体力の消耗が激しい。
トットムジカ程ではないけども、十秒も持たずに息を切らした。
アイドル衣装は解かれて、元の姿に戻る。
この燃費の悪ささえどうにかなれば、ライブでも使えるのに。
「夢の中に、連れて行くのでは……ないのか…………」
男の頬を血が伝う、ふらつく相手を私は息を切らして睨み付ける。
「夢を見るのは止めたの、夢は掴み取らなきゃね」
「そう……か……それも良い……」
「ガチ恋も程々にだよ、おじさん」
頭を抱える男を見て、これ以上、戦う意味はないと判断。
この場から早く、立ち去らなければいけない。
背後のリッチーに跨り、逃げ出そうとしたその時だ。
「ドラゴンさんっ!!」
シルクハットを被った若い男が私とコートの男の間に割り込んで来た。
「なん……で、ここに、世界最悪の犯罪者……が?」
そして私の背後では、二人の海兵が辿り着いた。
正義を背負った海軍のコートを羽織る長髪の女将校が、驚愕する眼鏡を掛けた女海兵の肩を掴んで横に押し退けた。
そのまま女将校は腰に佩いた二振りの刀の内一振りを握り締める。
極端な前傾姿勢。タタタンと音が鳴ったかと思えば、女将校は姿を消し、私の横を風が吹き抜けた。
金属音が鳴り響いた。
振り抜かれた女将校の刀を、シルクハットの男が鉄パイプで受け止める。
「革命軍のリーダーに参謀総長、此処で仕留めれば世界平和に一歩近付きます」
「世界政府の築き上げた秩序で、どれだけの人が苦しんでると……!!」
「さあ? 私には、手が届く範囲の人しか守れない」
女将校は静かな声で続ける。
「ならば手に届く範囲での民草は必ず守る。それが、私が掲げる
「ぐ……うっ!?」
そのまま女将校はシルクハットの男を押し込み、建物を突き破って何処かへ消えてしまった。
「あ、はい! スモーカー大佐!! 今ですね、目の前に! 世界最悪の犯罪者が! はい、はいっ!! 本当ですよ!」
私の背後では、報連相がしっかりとした女海兵が上司と連絡を取っていた。
フードを被った男は私を見て「困ったな」と肩を竦めてみせる。
状況は、更に混迷を極める事になりそうだ。
◆
「三千万ベリーの首、此処に置いていけ」
私が告げた時、先ず最初に行動を起こしたのは三刀流の男だ。
刀を口に咥えた彼は両腕を大きく交差させて「
そこそこ威力はありそうだ。
しかし、と私は
「
三振りの刀が交差する瞬間を狙って鈍を叩き付けた。
「あれ?」
「ぐ……あっ!」
そのまま上から叩き潰そうとしたのだけど、
男は思っていた以上に膂力があり、振り落とした一撃も相手に膝を突かせるだけだった。
ギチギチと刀同士が音を立てる。
力が拮抗していた。瞬間的に力を込める私のやり方では、これ以上、押し込むのは難しそうだ。
一旦、仕切り直すべきか。
そう考えた時、視界の端からサンジの黒足が飛び込んだ。
「ごめん! オネちゃん!」
サンジは私が握る鈍の柄頭だけを器用に蹴り上げる。
予想してなかった攻撃に鈍を握り締めていた腕は頭上高くに放り投げられて、雨で滑り易くなっていた柄が手から抜けてしまった。
ポーンと空高くに打ち上げられた鈍、武器を失った私に麦わらの男が飛び掛かる。
「にししっ! 大人しくしてもらうぞ!」
「あらそう?」
地面を滑らせるように両足を開いて、両手の拳を強く握り締める。
「愛のある拳を舐めんな」
ギュッと力を入れて拳に意志を込める。
私を捕えようと麦わらの男の無防備に開いた胴体に拳を叩き込んだ。
一発目は鳩尾、続いて二発、三発、四発と拳の乱打を叩き入れる。
瞬間的に十発も叩き込んでやれば、麦わらの男は沈黙し、
その側頭部に力と意思を込めた後ろ回し蹴りをお見舞いしてやった。
男は広場の方へ吹き飛んだ。
その数秒後、丁度良い感じに落ちて来た鈍を掴み取る。
「い…………で……ェ…………」
無惨にも広場に転がる麦わらの男は、腹を抱えて蹲った。
「おい、打撃は効かねえはずだろ!?」
三刀流の剣士の言葉に私は溜息を零す。
しっかりと腰を入れて殴ったのだ、少しは効いてくれないと困る。
「私は賞金稼ぎ、賞金首以外の首を持って行く理由はない」
雨が地面を打ち付ける広場、民衆はまだ混乱状態にあった。
遠巻きに私に対峙する剣士とサンジを見る。
本当は海賊は須らく壊滅させるのだけど、今日は例外だ。
サンジは私の船の料理人になる男だ。
彼と戦いたくはない。他の男に先を越されたのは癪に障るけど、誘うべき時に誘えなかったのは私の責任である。
そこを恨むつもりはない。
あとなんで海賊に手を貸してるのか知らないけど、
三刀流の剣士は東の海で有名な賞金稼ぎである。
また海賊狩りに戻って、海賊退治に勤しんで欲しい気持ちがあった。
「船長の首を差し出せば、見逃してあげるけど?」
私が問うたその時、建造物の向こう側から誰かが突き抜けた。
「くいな?」
知人の突き技による猛攻をシルクハットの男が鉄パイプで応戦している。
傍から見ると暴走機関車な猪突猛進っぷりに軽く引いていると、
広場に転がっていた麦わらの男が急に今にも泣きそうな声で叫んだ。
「サボッ!? サボなのか!?」
……状況は、更に混迷を極める事になりそうだ。