なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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遅れて申し訳ありません。
実家に帰っている間、執筆環境が整えられませんでした。
本日から引っ越し作業もあるので、
出来る時に更新していきます。


25話.戦力差

 吹き荒れる風に舌打ちをし、打ち付ける雨に目を細める。

 スモーカー本部大佐は、部下に準備させたビローアバイクに乗り込んでいた。これは彼が食べた悪魔の実“モクモクの実”の能力を動力源にしたビッグタイヤの三輪バイクである。ハンドルを何度か捻り、エンジンが正常に動作している事を確認。アクセルを一気に絞った。

 水溜まりを跳ね上げて、台風の雨風を全身に浴びながらスモーカーは盤面を整理する。

 

 ローグタウンに侵入した勢力は今、五つが確認されている。

 先ずは海軍である。そして革命軍に賞金稼ぎ、残る二つは海賊で麦わらの一味とバギーの一味だ。

 そして革命軍からはリーダーである世界最悪の犯罪者ドラゴンが来ていた。

 

「……戦力が足らねェな」

 

 今この場にある海軍の戦力で大物を相手取れるのは自分とくいなの二人だけだ。

 しかし、頼みの綱であるくいなが革命軍の男に倒されたという報告がつい先程に入っていた。辛うじて命は繋ぎ止めており、直ぐに止血をすれば助かるという見込みだ。……たしぎには革命軍の相手は荷が重い。賞金稼ぎに協力を要請する事も考えたが、あの辻斬りの本質は犯罪を犯していないだけの海賊である。信用できるはずもなく、本人も世の為人の為って柄ではない筈だ。海軍にとって有益なので放置しているに過ぎない。

 事ここに至っては最早、完全勝利など望めない。

 

 しかし、だからといって見逃して良い理由にはならない。

 この町には今、捕えるべき敵がいる。

 最早、効率は考えない。付けるべき優先順位を無視して、討伐に赴く。

 スモーカーは、近場の敵から打ちのめす獰猛な猟犬となった。

 

 

 世界最悪の犯罪者を前に、たしぎは果敢に立ち向かった。

 己の力では敵わない事を承知の上で斬り掛かり、まるで赤子のように扱われる。それでもなんとか闘志を燃やして立ち向かう事が出来たのは、自分は上司が来るまでの時間稼ぎだと割り切っていた為だ。どれだけ舐められても構わない。その油断がスモーカー大佐が来るまでの時間を稼いでくれるのであれば、何度、地面に転ぼうとも、どれだけ泥水を啜る事になろうとも、眼鏡を割り、肉体を傷付けても良かった。闘志を燃やし続けられるのは、希望を持っていたからだ。

 しかし、それにも限界がある。心よりも先に体の方が限界を迎えてしまった。

 

「…………ぐ……うぅ……っ」

 

 たしぎは前のめりで倒れたまま、動きが取れなくなっていた。

 

「……気概だけでは、どうにもな」

 

 女海兵を見下すコートの男が、小さく呟いた。

 もう何かを言い返す気力も湧かなかった。足に力が入ってくれなかった。

 たしぎは突然、身体が動かなくなった事に困惑していた。

 

 動け、と念じる中で雨音に紛れる足音が聞こえた。

 助けが来た、と彼女は考えた。だけど、それは甘い考えだと直ぐに察した。

 足音が軽かった、彼女が敬愛する大佐の足音はもっと重たかった。

 

 何よりもコートの男から感じる警戒が少し緩んだのを察してしまった。

 

「怪我をしているな」

「手強いのに絡まれてしまいました」

 

 現れたのはシルクハットの男、彼の仲間のようだ。

 左肩に怪我を負っているようで服が血に滲んでいる。

 

「スモーカー……では、ないな」

「ええ、剣士ですよ。黒髪で、長髪の」

 

 たしぎは、自分よりも遥かに強い彼女ですらも敗れてしまった事に少なからずショックを受ける。

 コートの男に自分が遊ばれていたのは分かる。

 だけど、くいな本部中佐でも傷一つ付けるのが精一杯の相手だという事に格の違いを実感する。

 

「それで、この後の予定は?」

「撤退する、目的は果たした」

「目的? 結局、目的って何だったんです?」

 

 シルクハットの男が問えば、コートの男がチラリと女海兵を見る。

 

「ウタウタの実の能力者を見に来た」

「ああ、あの!」

「勧誘したかったのだが、そこの海兵の相手をしている内に逃げられてしまった」

「あれ? でもそんな情報は受け取っていませんでしたよね?」

 

 コートの男が苦々しく顔を顰めた。女海兵には、それが何かを隠しているように見えた。

 

「……辻斬りのオネは、ワノ国の革命の切り札になる可能性がある」

「ワノ国?」

「彼女の持つ刀はワノ国の国宝だ。親の形見と言っていたから縁者の可能性もある」

 

 この目で見極めたかった、とコートの男が告げる。

 辻斬りのオネ。たしぎは不意に武器屋の店主が見せてくれた“大業物”秋水を思い出す。

 

(そうか、あの子が秋水の持ち主だったんですね)

 

 秋水とは、ワノ国の伝説の侍が使用した愛刀の事だ。

 伝説の侍の名は、霜月リューマ。空飛ぶ竜の首を両断したという伝説を持つ大剣豪である。

 そして霜月家は、ワノ国の大名家の姓でもある。

 なるほど、彼女が霜月家の末裔であれば、確かに革命軍が彼女を欲しがるのも分かる。

 彼女の剣術の才能も、伝説的剣豪から由来していると考えれば納得する。

 

「勧誘は?」

「断られたよ」

「そうですか」

 

 シルクハットの男が視線を落とし、そして地面に倒れる女海兵を見た。

 

「……それで彼女は如何します?」

 

 処分しますか、とシルクハットの男が右手の手袋を外す。

 

「待て」

 

 コートの男が手で制止する。

 

「彼女の身元を洗えば、遅かれ早かれ気付くことだ。無暗に海軍から恨みを買う必要もないだろう」

「……そうですね」

 

 シルクハットの男は殺意を収めて、手袋を嵌め直した。

 そして、二人は女海兵を見向きもせず、雨音の中に姿を消す。

 身動きが取れなかった女海兵は安堵から息を零す。

 逃げ出すこともできず、抵抗することもままならない。

 気紛れひとつで殺されていた。

 

「はあっ……はぁ……っ!」

 

 何度も、何度も、荒い呼吸を続ける。

 

「う……あぁ…………ああっ!」

 

 恐怖から解放された為か、涙が溢れ出す。

 雨で濡れているおかげで二人は気付かなかったが、

 殺意を向けられた時、たしぎは太腿に温かいものを感じていた。

 身体が震える。痛む自分の身体を両腕で抱き締めるように身体を丸めた。

 歯を食い縛った。それはきっと恐怖だけではなかった。

 

「あああああああああああっ!!!」

 

 情けない、不甲斐なかった。

 衣服の袖に爪を食い込ませる。

 女海兵の慟哭が雨に溶ける。

 

 

 不審者丸出しの入墨男と女海兵が戦っている隙を突いて逃げ出したのはウタ御一行。

 ルーキーのウタと協力関係のバギーにライオンのリッチー。あとオルガン諸島で出会った少女アンと彼女が乗る怪鳥(ルク)バルーン、後者二人がウタと同行するのに聞くも涙語るも涙の物語があるのだが今は割愛する。リッチーの上に乗ったウタが指示を送り、町外れに隠した小舟を目指して大通りを疾走する。

 その振動にバギーが、ゆっくりと目を覚ます。

 

「うぅん……どうなってんだ?」

「あ、バギー! 起きた?」

「ウタ! てめぇ、よくも殴ってくれたな!」

「そうだ! よくも弟分に手を出してくれたよね!」

「知らねーよ! それ初めて聞いたよ!」

「どうしてルフィを処刑しようなんて考えたのよ!」

「海賊は面子が大事なんだよ! 面子が汚されちゃあ、この後、何処に行ってもハデに舐められちまう! 俺様が海賊続ける為にゃあ、ハデにけじめは付けなきゃいけなかったんだ!」

「くっだらない! 面子に縛られて何が海賊よ! 海賊は自由なんじゃないの!?」

「うっせえな! 本当に自由に生きられるのは我儘を貫き通せる力がありながら肩書きに拘らない奴だけなんだよ!」

 

 起きて早々、ぎゃあぎゃあと喚く二人にリッチーは辟易しながら走り続ける。

 この二人の言い争いにはアンも短い航海で慣れたもので、愛鳥のバルーンと共に大きな溜息を零す。海賊というよりも劇団と呼んだ方が良い一行。ウタの探し人が偉大なる航路を目指すのであれば、ローグタウンで待ち伏せるのが良いとバギーが提案したので足を運んだのだが、情報を収集している途中でバギーがルフィを処刑しようとし、それをウタが阻止したことで大事になってしまった。

 おかげでウタ一行は海軍に囲まれる前に島を出なくてはいけなくなった。

 二人が前方不注意になっている時、バルーンに乗るアンは自分達の進路を阻む三輪の大きなバイクを見た。

 その前には、一人の強面な男が待ち構えている。

 

「二人とも、前! 誰か居る!」

 

 上空からのアンの言葉に「あぁん?」と二人は前を見る。

 その時にはもう、男は両腕をモクモクと煙に変化させていた。

 

「げえ! あれは白猟じゃねえか!」

「はくりょー?」

「白猟のスモーカーだ! 海軍の本部大佐だよ!」

「ほんぶたいさ?」

「海軍本部の大佐って事だ! 東の海の海軍とは一回り以上に違うと覚えておけッ!」

「まあ、よく分からないけど……」

 

 ウタは歌を奏で始める。

 

「どれだけ強くっても、この一撃には耐えられないはず!」

 

 精神の消耗が激しいけど、事ここに至っては出し惜しみは出来ない。

 白猟の男との距離が迫る中、ウタの頭上の空間に罅が入る。

 そして割れた空間の穴から飛び出すは、歌の魔王と呼ばれた右拳であった。

 

「“トットムジカの拳”!」

 

 強力無慈悲の一撃を白猟の男に叩き付ける。

 

「やったか!?」

 

 衝撃に舞い上がる砂塵にウタが叫んだ。

 しかし、砂塵の中に白い煙が紛れている事にウタが気付けなかった。霧散していた煙は、そのままリッチーに乗るウタ達を囲んで、二人と一匹の身体を包み込んだ。身動きが取れない、まるで煙に掴まれている感覚だ。ウタは精神が摩耗する中、更に歌を重ねようとしたが、発生する前に白い煙を口の中に捻じ込まれる。バギーは身体をバラバラに分解して逃げようとした。しかし、それもまたスモーカーが持つ海楼石付きの七尺十手で喉を突かれて能力の発動を無効化された。瞬く間に二人が白い煙に捕えられる。

 二人の代わりにリッチーの上に座るのは、つい先程まで煙化していたスモーカーだ。

 

「手応えねェな、他を狙った方が良かったかもな」

 

 アンは二人が倒される様子を上空から見守る事しか出来なかった。




15時45分頃、スモーカーがトットムジカの攻撃を受けた場面の描写を修正。
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