なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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26話.追う者と追われる者

 モクモクの煙で口を押さえられたウタは能力を封じられている。

 俺様は先端に海楼石を付けた七尺十手で喉を突かれており、空を飛んでいるアンと怪鳥(ルク)バルーンは戦闘要員ではなかった。

 この絶体絶命の窮地において、俺様は強気に笑みを浮かべてやる。

 

「お前、何を笑っていやがる?」

 

 ハデモク野郎が俺様を睨み付けて、喉を突く十手に力を込める。

 喉元に深く突き刺さる先端に咳をした。血の味がする、煙で全身を拘束されて身動きが取れない。

 ウタとリッチーも同じ状況だ。

 無力化と拘束という二点において、モクモクの実の能力を上回るものは少ない筈だ。

 バラバラになる事もできず、それでもなお俺様は笑い続ける。

 

「ぎゃはは……げほっ! ごほっ……ぎゃは……はあっ、はあっ……ハデモク野郎……この道化のバギー様の懸賞金が千万を超える理由を知っているか?」

「ああ?」

「悪魔の実の能力じゃねえ、俺様はそれを誇りに思った事は一度もねェんだよ」

 

 悪魔の実は、あくまでも外付けの力である事を俺様は誰よりも理解している。

 結局、世の中は才能が重要で、悪魔の実の能力を生かすも殺すも使い手次第なのだ。悪魔の実を食べてすらもいないロジャー船長やレイリーさんは、超人系の悪魔の中でも最強と呼ばれるグラグラの実を食べた白ひげとだって対等以上に戦えていた。

 強い奴は強いのだ。悪魔の実を食べたからって、それだけでは本物には敵わない。

 

「俺様は自分自身の矮小さを誰よりも知っているからな……」

 

 僅かに足を動かすことが出来た。

 踵を叩けば、爪先からナイフが飛び出る仕様の靴。衣類や装飾品に仕掛けを施すのは道化の嗜みってもんよ。

 しかし、これはまだ試作段階。靴の中敷きに仕込んだスイッチを押せば、踵部分に穴が空いた。

 まだ発射装置も取り付けていない為、穴から小さな玉が転がり落ちるだけだ。

 威力もまだ開発途中、それでもこの窮地を脱する事は出来るはずだ。

 

「なあ……思ったんだがよお……」

「……何を企んでやがる?」

「ぎゃはは……煙は、風に流されるものだよな?」

 

 町一角を吹き飛ばす威力を持つ特性バギー玉、それを携帯用に小型に作り直したものがある。

 ただしそれはまだ実戦で使える程ではない。

 爆発そのものに威力はなく、しかし強い音と爆風を起こすことは出来る。

 

「世の中、何が役に立つか分かんねェ……ハデに食らえや、()()()()()()

 

 俺様の足元で癇癪弾が破裂する。

 爆発は、あまり熱は発しなかった。しかし周囲を吹き飛ばす程度の爆風が発生し、煙化していたスモーカーの身体が空気中に弾けて霧散した。拘束が剥がれる。リッチーは背中に軽い火傷を負ってしまったが、此処で捕まる事に比べれば飲み込むべき損害だ。スモーカーと煙と一緒に吹き飛ばされたウタの首根っこをバラバラの実の能力で飛ばした右手で掴んだ。

 気絶をしている。とりあえずウタを引き寄せて、リッチーの頭に跨った。

 

「逃げるぞ、リッチーっ! 覇気の使えない俺達じゃあ自然(ロギア)系が相手じゃ敵わねェっ!!」

 

 叫びながらも俺様は内心で舌打ちを零していた。

 船を一撃で粉砕できる魔人の一撃でも自然系が相手では通じねえ、という事は、あの魔人の一撃は具現化された超強力な物理攻撃に過ぎないという事だ。それでも少しは攻撃が通じるかと淡い期待も抱いたが、それを自然系の能力者に期待するだけ無駄だった。自然系の能力者には、弱点を突くか、覇気で攻撃する他に倒せる手段がない。

 火傷を負ったリッチーは涙目になりながらも我らが小船に向けて駆け出す。

 

 バギー海賊団の海賊船ビッグトップ号は、

 辻斬りのメスガキに両断されてしまったけども買い出し用の小船は残されていた。

 プチトップ号と命名し、今はバギー達の海賊船となっている。

 

 俺様が逃げ出したのを見て、頭上のアン達も船に向けて飛び立った。

 煙の弱点は、風に流される事だ。広範囲の爆風で姿を保てなくなったハデモク野郎は煙を集結させる事に時間を費やしている。それは数秒に過ぎない隙だが、俺様達にとっては距離を取るのに十分な時間でもあった。

 ギャハハハと笑い声を木霊させながらスモーカーの手から逃げ延びる。

 

 尤も、俺様達の問題は小船に戻った後にある。

 ローグタウンから逃げ延びるには、小船で波も高い大嵐の中に飛び込まなくてはいけないのだ。

 しかし冷や汗を流しながらも、生き残る為に海に飛び出すしかなかった。

 

 

 念の為、クラハドールとアルビダは出港準備を整えていた。

「こんな嵐の日に船を出す訳ないじゃん」とカリーナは冷めた目で二人を見ていたが、札付きのクラハドールとアルビダは、そんな事もお構いなしに黙々と準備を進める。クラハドールは海軍が海上を封鎖する前にローグタウンから離れたいと考えていた。同じ札付きであるアルビダもまた海軍が包囲網を固める前に抜け出したいと考えており、利害の一致した二人はカリーナの言葉も気にせず、粛々と手を動かし続けている。

 そんな二人にカリーナが溜息を吐いた頃、遠くの方から雨に打たれた船長が駆け足で船に戻って来た。

 

「船の状態は?」

 

 帰って来るや否やオネがクラハドールに問い掛ける。

 

「後は錨を上げるだけの状態だ」

「んじゃ、直ぐに出して。麦わらの一味を追いかける」

「麦わらを?」

 

 説得もせずに船を出せるのは有り難かったが、

 町中で何かが起きた、というだけで三人は町中の情報を得る事が出来ていなかった。

 オネは外見相応のむすっとした顔で言葉を続ける。

 

「サンジが私から逃げた! まだ何も話してないのに!!」

 

 それは子供の癇癪と一緒だった。

 カリーナは苦笑し、それじゃ話が通らない、とクラハドールを見つめる。

 このような子供の我儘で一味を危険に晒されては敵わない。

 クラハドールなら上手く言い包めてくれるはずだ。

 そんな期待を抱いてクラハドールを見た。

 

「……分かった、偉大なる航路(グランドライン)に入るのも今が丁度良いタイミングだ」

「はあっ!? 何言ってるの!?」

「我が船長の恋路が懸かっているんだ。野郎共、帆を上げるよ!」

「え? ほんとに出すの!? 自殺行為だよね!?」

 

 船長を説得する手間が省けた。と、二人は船長の顔を立てる名目で指示に従った。

 アルビダが錨を一気に引き上げる姿に「まともなのは私だけか!」とカリーナが頭を抱えた。

 オネは荒れ狂う海を眺める。

 まだ未熟な見聞色の覇気で捉えた少人数の強い気配、嵐の中に麦わらの一味が存在する。

 

「大丈夫。船の障壁となるのは、全て私が斬り伏せる」

 

 そう言ってオネは、彼女が鈍と呼ぶ黒い刀を鞘から抜いて船頭に立った。

 そんな彼女の背中を見て、カリーナは全てを諦めるのだった。

 

 

 革命軍の大物と二隻の海賊団を取り逃したスモーカーは一度、海軍派出所に戻った。

 ベッドで横になる女将校の命を繋いだ姿を見て、安堵の息を零す。もう一人の目を掛けている部下、たしぎは部屋の隅にある長椅子に腰を降ろしている。頭からタオルを被った姿、両手に持った白い湯気の立つ珈琲の入ったコップをじっと眺め続けていた。意気消沈してしまっているが、目立った外傷がない事から今すぐに話しかける必要はないと判断する。

 そしてスモーカーは近場に居た男に話しかける。

 

「船を出せ、麦わらを追いかける」

「ええ?」

「偉大なる航路に入る」

 

 このままでは終われない、と苦虫を嚙み潰すように葉巻を嚙み砕いた。

 地面に落ちそうになった葉巻は、灰と一緒にモクモクの煙で受け止める。

 

「で、ですが大佐。この島は大佐の管轄で上がなんと言うか……」

「俺に指図をするな、とそう言っとけ」

 

 スモーカーは吐き捨てた後で「いや」と思い直す。

 

「おつるさんと連絡を取ってくれ、直接話す」

「は、はい!」

 

 彼の部下は慌てて電伝虫を取りに駆け出した。

 その間、スモーカーは近場の椅子にドカリと腰を降ろす。

 目まぐるしく変化する状況に彼も心身が疲弊してしまっていた。

 そんな彼に「どうぞ」と部下から熱々の珈琲が渡される。

 雨に打たれて冷えた体、白い湯気を吸い込むと良い香りがした。

 珈琲を啜れば、内側から身体が温まる。

 

 幾分か落ち付いた頭で脳を回転させる。

 何故、革命軍がローグタウンで姿を現したのか。

 どうにか嵐の中を出航する事は出来ないか。

 おつるさんへは、なんと伝えるか。

 

「スモーカーさん」

 

 何時の間にか直ぐ近くまで歩み寄っていたたしぎが告げる。

 

「私も行きます。私は、自分自身が許せない!」

 

 時雨を縋るように抱き締めながらも強い瞳でスモーカーを見つめていた。

 

「……勝手にしろ」

 

 素っ気なく返せば、たしぎは嬉しそうに頬を緩めた。

 それを見て見ぬふりをしてスモーカーは新しい葉巻を取り出し、雨で湿っているのを見て舌打ちする。

 そんな事をしている内に「スモーカー大佐!」と部下が電伝虫を持ち込んで来た。

 受話器を受け取り、耳に当てる。

 

『スモーカー、危急の用事なんだって?』

 

 もう既に通信は繋がっているようだ。

 

「おつるさん、俺ァは偉大なる航路に入る」

『……それは自分で何を言っているのか分かっているんだろうね?』

「分かっている。だから頼み込んでいる」

『頼み込んでいる、という割に報告を入れているだけに聞こえるんだがね』

「もう決めた。黙っているのも悪いと思ってな」

『本当に悪いと思っているのなら勝手な行動は取らんで欲しいよ』

 

 受話器越しに大きな溜息が聞こえた。

 

『ったく、ガープも悪い先輩だね』

 

 そう零した後で、彼女は話を続ける。

 

『ローグタウンはどうするつもりだい?』

「くいなが居る。今は負傷しているが東の海(イーストブルー)じゃ誰も相手にならないはずだ。それに俺ァ現場担当で事務方は他に任せていたからな」

『バカ言いなさんな。あんたが居なくなれば、誰がくいなを止められるってんだい。行くならくいなも連れて行きな』

「それじゃあ東の海の守りが薄くならねェか?」

『丁度、ガープが里帰りをしている時期だからね。少し長めの休暇を取って貰うよ』

「ありがとう、おつるさん」

 

 スモーカーが素直に感謝の言葉を告げれば、再び受話器越しに溜息が零される。

 

『良いかい、スモーカーの小僧。誰かに借りを作るってことは返さなきゃいけないんだ。それが組織という社会で生きるって事だ』

「…………あァ」

『どんな形でも良いから、今回の作った借りを返してみるんだね。そうすれば、あんたを小僧と呼ぶのをやめてやるよ』

 

 それじゃあ急用を入れられてしまったからね、と一方的に通話を切られてしまった。

 スモーカーは受話器を耳に当てたまま、暫く考え込んだ。

 不思議そうに自分を見つめる女剣士の部下、その頭を彼は雑に撫で回した。

 

「船を出すのは嵐が止んでからだ。確認次第、すぐに出航する」

 

 とりあえずスモーカーは後任が仕事をし易くなるように、

 派出所に居る問題児を全員、偉大なる航路に連れて行くことを決断する。

 これだけで恩を返せるとは思っていないが、

 問題児の面倒を見てやる事は、恩返しの一環にはなると考えた。

 それはアウトローの自分だから出来る事でもある。

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