なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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幕間
30話.新章開幕


 アラバスタ王国は、偉大なる航路(グランドライン)前半部に在るサンディ島に存在する。

 非常に高温で乾燥した気候となっており、島の大半が砂漠で占められている。しかし、この土地に住む国民の数は一千万人を超えており、世界有数の文明国として世間からも知られていた。そんな国にも歓楽街は存在する。レインベースと呼ばれる町だ。元は何処にでもある平凡な町だったのだが、ある日、巨大カジノの建設が計画されてから町は様変わりした。

 交通の便から計画を立て直し、レインベース再建プロジェクトにまで発展する。

 

 それは巨大カジノを町の中心に置いた国家規模の都市計画だ。

 元からあった住宅街を都市の裏側とし、表側に経済を回す為の区画を整備する。半円状に三つの区画に分けた市街の配置を考えており、その配置を決める為の会議が首都のアルバーナ宮殿で開催された。会議の参加者には、第12代国王のネフェルタリ・コブラが出席しており、護衛隊隊長のイガラムも顔を見せている。そして巨大カジノの出資者である王下七武海の一人、クロコダイルの顔も会議にあった。

 そんな錚々たる面子を前にレインベース再建プロジェクトチームの一員がプレゼンテーションを始める。

 

 では、その当時の様子を今から御覧頂く。

 

 

 名前? いえ、名乗るほどの者ではございません。

 既に巨大カジノの建設は始まっており、交通の便を良くする為にユバを経由した交通網の整備を行っています。また出資者であるクロコダイルの要求でサンドラ河とレインベースを繋いだ直通の交通経路を模索しており、これはそのままサンドラ河と首都アルバーナを繋ぐ交通経路の確立にも繋がっている。

 キャラバンが主流の輸送方法では、千万人の国民を賄うのにも限界が来ている。

 しかし、まあ、今は交通云々の話は置いておきます。重要なのは、三つの区画を如何に配置するべきかという事です。

 先ず国王のネフェルタリ・コブラが南の区画を指で差し、重苦しい顔で告げました。

 

「此処に歓楽街を建てよう」

 

 なるほど……なるほど?

 

「ちょっと待て、何の為に歓楽街が必要なのです?」

 

 異議を唱えたのは護衛隊長のイガラムさんです。しかしコブラ国王は覇王色の覇気を髣髴とさせる凄味で以下のように言い返しました。

 

「歓楽街もないようで、観光都市とは呼べん!」

「そうかも知れませんな」

 

 王の気迫を前にイガラムさんが挙げた手を引っ込めてしまいました。

 しかし、なるほど、確かに理屈としては理解できます。国民の生活を豊かにする為に商店街や鍛冶屋、もしくは工場区画の整備を考えていた自分が浅はかでした。折角、目玉となる巨大カジノがあるのです。それを目当てに来た観光客から直接、金銭を巻き上げれば、貿易に頼る必要もありません。正に逆転の発想、不細工な私の頭では到底、思いつきもしない偉大なるアイデアでございます。

 だが、しかし、歓楽街だけでは、町としては成り立ちません。

 この場において、二番目に発言権を持つ畏怖すべきクロコダイルが東の区画を指で差して告げる。

 

「此処に歓楽街だ」

 

 なるほど……なるほど?

 

「ちょっと待って頂きたい。何の為に歓楽街が二つも必要なんだ?」

 

 今度は護衛隊副官、ハヤブサのペルが異議を申し立てる。

 しかしクロコダイルは呆れるように、大きな溜息を零して伝えた。

 

「外海からも人を呼び込もうってしてるんだ。それなのに歓楽街が一区画だけでは寂しいだろう?」

「だが、それは……商店街でも良いのではないか?」

「バカかお前、南北を歓楽街で挟まれた商店街とか落ち着いて買い物も出来ないだろうが」

 

 此処でコブラ王が手を挙げる。

 

「私は平和と人々の安楽な生活を望んでいる。歓楽街を並べる事で、少しでもお気持ちを示せれば良いと考えている」

「そうかも知れませんね」

 

 コブラ王の援護が入った事でペル殿も渋々、身を退きました。

 さあ残る一区画、此処まで来たらもうレインベースに生産力は期待致しません。

 商店街一択です。

 すっと北の区画を指で差したのは護衛隊長のイガラム殿。

 彼はコブラ王とのアイコンタクトを挟み、厳かな顔で口を開いた。

 

「此処に歓楽街ですな」

「ふざけるな、冗談もいい加減にしろ」

 

 こめかみに青筋を立てて怒りを露にしたのは、二人目の護衛隊副官のチャカ殿です。

 ジャッカルのチャカと呼ばれています。

 我、アラバスタの守護神ジャッカル。王国の敵を討ち滅ぼす者なり。

 と、今にも王家に剣を抜きそうな怒り度合いです。

 ムカ着火ファイヤーです。あと少しでインフェルノに届きそうです。

 

「何のために歓楽街が三つも必要なんだ? 観光名所として、歓楽街を設置するのもまあ納得はする。どうせ建つのであれば、国家で認めて管理してしまった方が犯罪率も低下するだろうしな。王家の度量を示すのも良いだろう。だが都市の全てを歓楽街にしてどうするつもりだ!?」

 

 チャカ殿の諫言にコブラ王は深く溜息を零した後、神妙な面持ちで私に問い掛けました。

 

「君、このレインベース再建プロジェクトの目的を言い給え」

「えっ?」

「何か言い給え」

 

 突然の王家の無茶ぶりに私の胃はキリキリと痛みます。

 私は都市再建計画の内容を説明する為に呼ばれました。私如きが国家を左右する計画に参加出来るどころか、こうして陛下にお会いできるだけで夢のような出来事です。勿論、私には意思決定の権限はありません。重ね重ね申しますが、説明をする為だけに呼ばれました。陛下の前で失礼な事をしないかと心配していました。コブラ王は素晴らしい人だと聞いております、昨夜は妻と二人で泣きました。しかし事と次第では、もう妻に会えないかも知れないのです。思えば、私は会議が始まって以降、当事者意識が低過ぎたのかも知れません。陛下は、その事を言外に伝えようとしてくれたのかも知れません。この都市再建計画の目的を再考します。

 それは、この国をもっと豊かにしたいという想いから始まりました。

 

 それは、経済的な意味合いが強いです。

 しかし、それだけではありませんでした。

 私は、覚悟を決めました。

 

「本プロジェクト……いえ、畏れながら陛下、重鎮の皆々様。私の使命は、この町を世界に二つとない都にする事でございます。鍛冶屋のある村、商店のある町ならば、既にあります。しかし歓楽街に特化した町が他にあるでしょうか? ましてや、歓楽街しかない町が世界の何処に存在するのでしょうか?」

 

 チャカ殿が挙手をした。

 陛下が一度、頷いたのでチャカ殿は反論を申し立てる。

 

「グラン・テゾーロ」

「シャラップッ!!」

 

 何故か陛下が重臣を黙らせた。

 渋々と手を降ろすチャカ殿、納得のいかない顔をしている。

 私は、大きく息を吸い込んで続く言葉を口にする。

 

「私達は世界を取りに行くのです。このアラバスタに歴史上、類を見ない町を打ち立てるのです! グラン・テゾーロには歓楽街がありますが、歴史がない! アラバスタは素晴らしい国です、見るべきところは幾つもある。それは来て頂ければ分かる事、実際に見て頂ければ、この国が如何に素晴らしいのか魂で分かります! で、あれば、私のすべき事は、先ずは人に来て貰う事! 百聞は一見に如かず、この国が素晴らしいと喧伝するだけでは駄目なのです! 人に知って貰いたければ、実際に足を運んで、己の目で見て貰わなければならないのです!!」

 

 故に、と私は会議室の机に拳を叩き付けた。熱意のままに言葉()を発する。

 

「二位じゃ駄目なんです! 決定するは今、この瞬間! 此処に世界一の歓楽街を作りましょう!!」

「素晴らしいな」

 

 陛下が拍手を送る。

 イガラム殿が続いて、ペル殿もまた拍手をする。

 次第に拍手は、会議室全体に伝播する。

 そして喝采となった。

 チャカ殿だけが渋い顔をしている。

 

「彼が私の言いたい事を全てを代弁してくれた」

 

 陛下は厳かに告げた後、私を見て微笑みかける。

 

「これ程の熱意を持つ男だ。レインベースの市長に任命しよう。市長として、何とかしてくれ」

「は、はい!!」

「計画は今、決めた通りだ。これで解散とする」

 

 あー疲れたって感じで会議の参加者が皆、ぞろぞろと会議室から出て行った。

 独り会議室に残された私は「はぁ~~~~」と長い息を零す。

 やりました、やってしまいました。

 人間やればできるものです、死ぬ気でやれば大半の事はなんとかなるようです。

 でも、まさか歓楽街の市長に任命されるとは思いもしていませんでした。

 ああ我が一生に悔い無し!!

 

「これで歓楽街の帝王だあああああーっ!!」

 

 ドン!!




この人はたぶん、二度と出て来ないです。
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