なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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ウイスキーピーク編
33話.同乗者に同乗者


 西の海(ウエストブルー)にだけ生息するアイランドクジラ、世界一大きい種の鯨である。

 そして双子岬に居座る同種の鯨の名はラブーン。気が遠くなるほど長い時間、彼はリヴァース・マウンテンに吠え続けて、赤い土の大陸(レッドライン)に体をぶつけ続けている。勿論、それには理由があった。ゴール・D・ロジャーが海賊王と呼ばれるよりも前の話、気の良い海賊がリヴァース・マウンテンを越えて双子岬にやって来た。その海賊団に付いて来てしまった小さな鯨がラブーンである。暫く、双子岬に停泊した海賊団は、双子岬で灯台守を続けるクロッカスに「こいつをここで二、三年預かっててくれないか。必ず世界を一周し此処に戻る」と旅の仲間であるラブーンを預けて旅立った。

 それが五十年前の話になる。結論は出ていた。

 クロッカスは僅かな可能性に懸けて、とある海賊団に身を寄せて偉大なる航路を探し回った。しかし、分かったのは、ラブーンと約束をした海賊団は、もう偉大なる航路には存在しないという事だけだった。生死不明、約束は本物だった。だが偉大なる航路を航海することは、それだけ過酷な旅である。

 クロッカスは包み隠さず、全てをラブーンに打ち明けた。しかしラブーンは受け入れることが出来なかった。

 

 その日からラブーンは、リヴァース・マウンテンに吠えて、赤い土の大陸に体をぶつけ続けるようになる。

 

「お゛ま゛え゛……そ゛ん゛な゛過゛去゛が゛あ゛っ゛た゛の゛か゛よ゛お゛……!」

 

 おーいおーいと泣き叫ぶはピエロメイク男、道化のバギーである。

 彼はサンジの作ったエレファント・ホンマグロのフルコースを平らげて泣き上戸となっていた。アンも米粒ひとつ残さず食べ終えた鮪丼の丼を前にしんみりとなっており、怪鳥(ルク)のバルーンは思い入るようにアンの事を見つめる。私、ウタもまた取り残される側の気持ちが分かるから他人事ではいられなかった。

「さてと……そろそろだな」とサンジが吸っていた煙草を灰皿に押し付けた。「そうだな」とゾロが立ち上がる。「もう良いのか?」とウソップが問うと「ああ」とサンジが小さく頷いた。それに続いてナミもまた腰を上げて、ウソップも三人に続いた。

 食事を終えて、ボロボロと涙と鼻水を垂らすバギーの背中で四人が足を振り上げる。

 

「ん?」

 

 振り返る間もなく、四人は同時にバギーの顔を思い切り蹴り飛ばした。

 哀れバギーは吹っ飛ばされる。悲鳴を上げながら双子岬の崖から落ちて、程なく水飛沫が上がる音が聞こえた。

 慌てたアンがバルーンに助けるように呼び掛ける。

 バルーンは面倒臭そうにアンを見返した後、渋々とバギーを助けに飛んで行った。

 

「ふざけんな! 死ぬかと思ったぞ!」

 

 無事に救出されたバギーは少し前と同じずぶ濡れの姿で焚火に当たる。

 そんなバギーの怒声にルフィの仲間達は「お前が先にウチの船長の首を狙ったんだろうが!」と声を揃えて叫んだ。その一部始終を私は、サンジが用意してくれたデザートを頬張りながら眺める。なんだかんだでバギーはもう見捨てる事が出来ない仲間だけど、命を取られないのであれば良いかなって、そんな感じで見守ってた。

 一方でルフィはといえば、彼の船のメインマストを頭上に掲げながらラブーンの身体を駆け上っていた。

 

「“ゴムゴムのォォ……生け花”っ!!」

 

 そしてラブーンの新しく出来た傷に突き刺した。

 

「……ありゃマストなんじゃねェか?」とゾロが仲間達に問い掛ける。

「俺達の船の……」と続けて呟く彼に「そうメインマストだ」とウソップが答える。

 

 一瞬の静寂、とりあえず私はバギーに問い掛ける。

 

「偉大なる航路を航海するには特別な羅針儀(コンパス)が必要で、それには当てがあるって聞いてたけど……」

「……ああ、当てはある。だが、今、聞くべきことか?」

「いや、ちょっと目の前の事が信じられなくて……」

 

 私達が呑気に会話を続ける横でラブーンが激痛に暴れ出す。

 

「ブオオオオオオ!!? ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 悲鳴を上げるラブーンにルフィの一味が「何やっとんのじゃ!」と激怒する。

 長鼻のウソップだけは、船を壊されたことに怒っていた。バギーは他人事のように「あんな扱いをする船にゃクラバウターマンは現れねェな」と呟いた。「クラバウターマン?」と問い返せば、「そういう船の伝説があるんだよ。一度だけだが、俺も見習い時代に見た事がある」と彼は感慨深く零す。

 彼がしんみりとしている間にルフィとラブーンの決闘に決着が付いて「引き分けだ!」と叫んだ。

 

「俺とお前の決着は、まだ付いていないから俺達はまた戦わなきゃならないんだ!」

 

 ルフィがボロボロになった姿でラブーンにも聞こえるような大きな声で伝える。

 

「お前の仲間は死んだけど、俺はお前のライバルだ! 俺達が偉大なる航路を一周したら、また会いにお前に来るから……そしたらまた喧嘩しよう!!」

 

 気付けば、皆がルフィの言葉に聞き入っていた。

 取り乱していたのも束の間、ルフィの意図を察した皆が笑顔を浮かべている。

 ルフィは、こういう所があるんだよね。と私は小さく息を零す。

 

「気に食わねェな……」

 

 やっぱりルフィとは相容れないのか、バギーは妬み恨みに憧憬を乗せて懐古する複雑な想いを幾重にも乗せた呟きを零す。

 たぶんきっと、ルフィの背中に誰かの姿を重ねているようにも見えた。それ故に彼がルフィと同じ船に乗る事は今後、一生に掛けてないんだと考える。共同戦線を張ることができてもずっと一緒に居る事は出来ない。それは信念とか、価値観とか、そんな簡単な話ではなくて、きっと彼にもどうする事も出来ない問題なのだと思った。

 私もルフィと同じ道を歩むことは出来ない。

 少なくとも私が抱える諸々に決着を付けるまでは、彼の仲間になることは出来なかった。

 

「クロッカスさん、欲しいものがあるんだ」

 

 約束の印だとラブーンの顔に落書きを施すルフィを笑顔で眺める灯台守にバギーが話しかける。

 

「どうしたんだ?」

「俺はウタと一緒に、これから偉大なる航路に入る。ただ、その為に必要なものを用意出来てなくってだな……」

「ああ、記録指針(ログポース)の事だな。確か、偉大なる航路の外では入手が難しかったな」

 

 ひとつ残っていたはずだ。とクロッカスが灯台に戻る。

 

「ログポースって何よ」

 

 ルフィの仲間であるナミが目敏く問い掛ける。

 

「……偉大なる航路を順序通りに航海するのに必要な道具の事だ」

 

 羅針儀を見てみろよ。とバギーが促す。

 ナミは手持ちの羅針儀を開いてみる。

 

「えっ!?」

 

 驚愕に目を見開く彼女の横から羅針儀を覗き見れば、まるで壊れたかのように針がグルグルと回っていた。

 

「羅針儀が方角を示さない! 壊れちゃった!?」

「呆れたもんだ、こんな事も知らずに俺様の海図を盗んだのかよ」

「うっさいわね!」

 

 ナミの怒声にバギーは溜息混じりに答える。

 

「偉大なる航路で生き残りたきゃ、東の海での常識なんて捨てるんだな」

「何が起きてるのかさっさと教えてよ!」

「……偉大なる航路の島々は鉱物を多く含んでんだ。航路全域に磁気異常をきたしている。更に海には海流や風に恒常性がねェ」

「方角も分かんないんじゃ航海のしようがないじゃない!」

「そうだな、だから記録指針が必要になんだよ」

 

 記録指針は、磁気を記録できる特殊な羅針儀。

 偉大なる航路の島々は、ある法則に従って磁気を帯びている事が分かっている。

 つまり島と島が引き合う磁気を、記録指針に記録させて次の島への進路にする。

 

「その記録指針を今、持って来て貰っている所だ」

「なによそれ! 寄越しなさいよ!」

「ああ、構わねェぞ」

「えっ?」

 

 それまで素っ気ない態度を取っていたバギーが、ナミに向き直る。

 

「代わりに条件がある。お前の船に俺達も乗せろ」

「…………私達の仲間になるっていうの?」

「そんなの死んでもごめんだ。だが俺達には船がねェ。此処で足止めなんて御免だからな。船を得る目途が付けば、こっちから出て行ってやるよ」

 

 それでいいな、とバギーが私に問い掛けたので「うん」と頷き返す。

 

「……貴方が船長じゃなかったの?」

「俺様には今、配下が居ねェんだよ」

「そう」

 

 ナミがデザートを食べ終えた私を見る。

 

「ウタって言ったわね。此奴は悪党だからちゃんと首輪付けときなさいよ」

「他人の旗を掲げて、好き勝手やるほど落ちたつもりはねェよ」

 

 ナミの苦言にバギーが舌打ちする。

 

「なあ赤ッ鼻」

「誰が赤ッ鼻がクラァ!!」

「記録指針ってこれの事か?」

 

 ラブーンの顔に絵を描き終えたルフィが絵の具だらけの姿で腕時計のようなものを私達に見せつける。

 

「ああ、それだ。それがあれば偉大なる航路でも迷子にならずに済む。でも覚悟するんだな。最近では東の海で勢いのあった大船団のルーキーが壊滅的な打撃を受けたって話だ。東の海で良い気になっていた連中が偉大なる航路を舐めていたってだけの話だがな。お前達も同じようになりたくなけりゃ……」

「ふぅん、そっか」

「ちょっと待って……」

 

 そのまま駆け出そうとしたルフィの首根っこをナミが掴んだ。

 

「なんであんたがそれを持ってんのよ!」

 

 突然のグーパンチである。理不尽に殴られたルフィは、ゴムの体質でケロッとしていた。

 

「さっき変な二人組が船に落として行ったんだよ」

「あいつらが?」

「なんで俺を殴る?」

「ノリよ」

「ノリか」

 

 なんとなしに緩いやり取りをする二人にバギーが話しかける。

 

「ところで麦わら、俺達も船に乗らせて貰う事になったのだが……」

「嫌よ」とナミがさらっと答える。

「嫌か……なんでだよ!!」

「だって、これであんた達を乗せる必要なくなったじゃない」

 

 ルフィが持っていた記録指針を私達に見せつける。

「別に良いぞ」とナミの代わりにルフィが答えた。

 そしてナミの拳がルフィの後頭部にヒットする。

 

「なんで許可出しちゃうのよ!」

「別に良いじゃねえか! ウタ達をこんな所に残して行けねェよ!」

「なにもタダじゃなくても良いじゃない! もっとふんだくれたわよ!!」

 

 ぎゃあぎゃあと二人が喚く姿を見て「あ~……」とバギーが長い声を零す。

 

「俺様は前にも偉大なる航路に来たことがある。乗せてくれている間は知識を貸してやっても良い」

「……これから先の進路についての話はすんなよ」

「あァ~あ、安全な航路を教えてやりたかったんがな~」

 

 まァ前半の海ならなんとかなるか。とバギーが渋々了承する。

 そんな話をしているとサンジにエスコートされたポニーテイルの女性が私達の傍まで歩み寄って来た。ついでに王冠を被っている男性も。

 ルフィの前に来た二人は、勢いよく額を地面に擦りつけて土下座した。

 

「頼みがある! 我々の住む町まで送り届けて欲しい!!」

 

 なんだか厄介事の臭いがする。

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