なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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34話.今日の天候は冬、時々春。

 偉大なる航路(グランドライン)では、他四つの海で培った常識が通用しない。

 船はゆく今日の天候は冬、時々春。雪が降り積もる甲板で男心を擽られた若者が二人、ルフィとウソップが雪遊びを楽しんでいた。マストの上の見張り台には、上半身を切り離したバギーが望遠鏡を片手に見張りをやらされており、眼下で子供は風の子と雪見てはしゃぐ二人を呆れた目で眺める。ナミの指示でサンジが雪掻きに勤しんでおり、それをMr.9も手伝わされていた。アンは怪鳥(ルク)のバルーンを抱き締めて、暖を取っている。ちょっと羨ましい。ルフィ程の元気のない私ことウタは、厚着をして、自分の身体を抱き締めて少しでも暖を取ろうと身を震わせていた。

 そうして少し時間が経つと見張り台のバギーが、ふよふよと降りて来た。私の隣にあった足とがっちゃんこ。

 

「おおっ、さみぃさみぃ……」と鼻水を垂らした彼が身震いする。

「勝手に降りて来ちゃ怒られちゃうよ」

「別に良いんだよ。どうせすぐ大騒ぎになる」

 

 彼が言うや否や、甲板と船室を繋ぐ扉がバンと開け放たれた。

 

「180度、船を旋回! 急いで!!」

 

 ナミの荒々しい声に甲板で遊んでいた二人が首を傾げる。

 気候は安定しているように見える。なんで慌てているのか分からないでいるとバギーは自分が付けていた記録指針(ログポース)を私に見せつけた。小さな球体の硝子ケースに吊るされたコンパスの針が、何時の間にか反対の方角を向いていた。「早速、偉大なる航路の洗礼を浴びてやがる」と何処か他人事のように告げたバギーが「忙しくなるぞ」と私の背中を叩いた。

 ナミは、即座に船を反転させるように指示を飛ばした。

 しかし直後に風が変わり、春一番が吹き込んでくる。遠くでイルカが跳ねたかと思えば、高くなった波に船が流され始めた。船底を擦りそうになる氷山をトットムジカの一撃で粉砕し、辛うじて船への被害は抑えたが、その後も偉大なる航路の不規則な天候と海流に翻弄されて、気付いた時には皆が皆、息も絶え絶えで甲板の上で倒れてしまっていた。

「久しく忘れていたぜ……」とバギーもまた疲れ切っていた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……ねえ、こんな海が今後も続くの?」

「ふぅ……ああ、そうだ。新世界は、ハデにこんなもんじゃねェぞ」

「もう、今から嫌になって来たんだけど?」

「まァ、それが普通の感性だろうな」

 

 全員が力尽きて倒れている中、バギーだけは息を切らせながらも立ち続けている。

 

「だが偉大なる航路は可能性に満ちている。東の海じゃ宝の地図なんて笑いの種にしかならねェが、此処には海底に沈められた巨万の富の財宝もあれば、過去の偉大な海賊が隠した莫大な財宝だってあるんだぜ」

「ふぅん? そういう話ってよく聞くけど……眉唾なものばかりじゃない?」

「財宝を隠す海賊ってのは結構、居るんだぜ。例えば西の海には、八宝水軍と呼ばれる歴史の長いギャングが居るんだが……そのトップのチンジャオって奴が、何処にあるかは知らねェが、とある宝物庫に先祖代々蓄え続けた財宝を隠しちまいやがったんだ」

 

 まるで子供のように目を輝かせて、浪漫を語り始める彼に私は相槌を打ちながら耳を傾ける。

 

「宝物庫には、本人じゃなければ絶対に開けられない仕組みがあった。その鍵の役割を果たしていたのが、奴の尖った頭だったんだ」

「……尖った頭?」

「ああ、手配書で見た事あるが本当に尖ってやがるんだ。頭蓋骨の形状がどうなってやがるんだって話でな!」

 

 バギーは尖った頭を表現する為に、重ねた両手を頭上にニュッと突き上げる。

 

「この尖った頭での頭突きは岩盤を打ち砕く程って言われていたんだ、それで奴は錐のチンジャオって呼ばれていた。この呼ばれていたってのが話のミソなんだ。いや、本当にすげェんだぜ。あの英雄のガープと何度も力比べをした仲だってんだからな。そして、この頭での一撃が宝物庫の鍵だったんだ」

 

 両手を開いて、楽しそうに彼は続ける。

 

「奴がガープと力比べをするのが好きだったんだ。しかし、ある日の決闘でだな。チンジャオはガープの拳骨を頭の錐で受け止めたんだよ。すると、どうなった!? へっこんじまいやがったんだ! まるで木片に打ち込んだ釘のように!! ガープの拳骨が金槌ならチンジャオの尖った頭は釘だったって訳だ! 錐のチンジャオは、丸坊主に早変わり! 煩悩がなくなって良かったじゃねェか! 自分で隠した財宝も開けられず、数百年も溜め込んだ財宝は今も何処かで眠り続けている! 奴も若い頃は尖っていたようだが、物理的に頭が丸くなったチンジャオは引退した!! そうして奴はハデに笑い者! 少し昔の海賊なら誰でも知っている笑い話だ!! ギャハハハハハッ!!」

 

 唾を飛ばしながら大笑いをする彼に、気の毒な人も居たもんだ。と私もクスクスと肩を揺らす。

 世の中、清廉潔癖な人が好かれるものだけど、こうやって人を馬鹿にする陰口染みた笑い話ってのは楽しいもんだ。誰彼構わず、やって良い訳ではないのだけど、相手を選んでやる分には問題がない。冗談を言う場で、それを本気にする奴が居たりするから後々に困った事になる。海賊やってる時点で良い子ちゃんぶる気もない。楽しい事は思う存分に楽しんでやれば良い。大事なのは、そういう事を言っても良い相手か見極める事。陰口や悪口は楽しいのだ。

 ゲラゲラと笑い声を上げるその後ろで騒動時、ずっと眠り続けていたゾロがナミに頭を殴られていた。

 

「そういえば気候が落ち着いて来た?」

「偉大なる航路では、島が近くなると気候が安定すンだ。春島、夏島、秋島、冬島。四つの島の気候が海の中心でぶつかり合って、さっきみたいに気候が乱れに乱れることになる」

「んじゃ、今は安全って事?」

「そうだな、まァ、東の海で起きた台風とかは稀に起きるけどな。高潮とか」

「高潮?」

「その時が来たら教えてやるよ。今は船を調達できる島かどうか見極めるのが先だ」

 

 目立った船渠(ドック)はなさそうだ、と望遠鏡を片手に彼が告げる。

 その頃、甲板では、双子岬から同行していた二人組が船の上からアクロバットに跳び降りていた。

 サボテンの形をした山のように大きな岩が、島の至る所に生えている。

 

 あの二人組が云うには、島の名前はサボテン島。

 町の名前はウイスキーピークと云うようだ。

 

 

「美味しい料理に免じて、襲って来た事は許してあげる」

 

 黒い刀身の刀を片手に持った見た目、幼き少女は地面に転がる二人を見下している。

 少女はオネと名乗っていた。組織のボスが目に掛ける賞金稼ぎの一人であり、最初からフロンティアエージェントという破格の条件での勧誘を命令されていた。しかし彼女は組織の勧誘を蹴った為、やむなく実力行使に出る。しかし彼女は仮にもフロンティアエージェントの一人であり、一国の護衛隊長を任せられる私、イガラムを一蹴し、別任務で来ていたMr.5とミス・バレンタインのコンビをも返り討ちにしてしまった。彼女の仲間であるアルビダとカリーナという女性は、我らが本性を現した後でも豪気に酒と料理を楽しんでおり、クラハドールという黒眼鏡の男はピクリとも表情を動かしていなかった。

 強い。この賞金稼ぎの集団は、圧倒的に強い。

 私、イガラムは恥も外聞をかなぐり捨て、潜入中という立場すらも気にせず、少女に向けて地面に頭を擦りつけて土下座する。

 

「我らを、そして国を助けて欲しいッ!」

 

 オネは考え込む仕草を見せた後、少し困った風にはにかんだ。

 

「とりあえず話は聞いてあげる」

 

 気絶したオフィサーエージェントの二人を部下に頼んで、私は彼女達をホテルの一室に案内した。

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