なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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35話.将来の夢は歌手になること

 歓迎の町ウイスキーピーク。その実、秘密結社バロックワークスが支配する賞金稼ぎの島である。

 此処は意気揚々と偉大なる航路(グランドライン)へ入ったルーキーの為に用意された狩場。海賊達を騙す為に歓迎し、盛大な宴を催して油断させる。そうして泥酔した賞金首を殺害、もしくは生け捕りにする事でバロックワークスの資金源としていた。

 ミス・ウェンズデーもとい私、ビビは新しい海賊を島へ招き入れた事を通達しながらイガラムを探す。

 奴らが持っていたのは、少人数でも動かせる丁度良いサイズの船だった。賞金首になったという話も聞いたので、呑気な顔をした凶悪な海賊だと当たりを付け、ビビは船を奪って故郷に帰る算段を付けた。同僚から話を聞いて回り、イガラムが居るホテルの一室に飛び込んだ。

 

「Mr.8! 話があるわ!」

 

 バンと扉を開けて、飛び込めば、見知らぬ者達が各々で寛いでいた。

 柄の悪い黒眼鏡の執事が書籍に目を通しており、ウェーブがかった艶のある黒髪の美女が酒を堪能する。ウイスキーピークで製造する酒の入ったグラスを片手にベッドに腰を降ろす、やけに胸の大きな女性が、ベッドに寝かされて気持ちよさそうな顔をする少女の赤くなった頬を撫でている。

 先に招き入れていた海賊だろうか。いや、そんな情報は聞いていなかった。

 

「アンタがプリンセスだね」

 

 黒髪の美女の言葉に、ビクリと身を竦ませる。

 可愛いねえ、と彼女は笑みを浮かべた。

 

「警戒しなくてもいいよ、アンタの話は護衛隊長から聞いている。愛しの騎士様は今、新しい海賊の対応をする為に出かけたよ」

 

 どうやら私の正体はイガラムから聞いたようだ。

 一瞬にして張り詰めた緊張を緩める。彼も彼で手を尽くしていたらしくて協力者を募っていたようだ。

 このまま部屋を出ていくのも悪い気がしたので、少し距離を取った場所の椅子に腰を降ろす。

 

「その子は?」

 

 今の御時世、子持ちでの航海は珍しいと思って問い掛ける。

 

「こいつはアタシ達の船長だよ、酒を一杯飲んだだけでダウンしてやがんのさ」

 

 美女は肩を竦めた後、氷で割った酒を呷る。

「船長?」と私が首を傾げる。聞き間違いかと思えた言葉を誰も否定しなかった。

 自尊心が高そうな黒眼鏡の男が聞き流しているので本当のようだ。

 

「ようこそ、歓迎の町ウイスキーピークへ! 海の勇者達に万歳!」

 

 不意にホテルの外から歓声が聞こえた。

 あの海賊達が無事、船に乗ったまま内陸まで入り込んだようだ。

 今頃、町では歓待の準備を始めている頃だ。

 町に行けば、宴の指揮を執るイガラムとも合流できる。

 そう考えた時、ガチャリと鍵が閉まる音がした。

 振り返れば、紫色の髪の女性が悪戯っぽく舌を出している。

 

「私達にも計画があるのよね」

「計画?」

「あ、私はカリーナね。よろしく」

 

 彼女は軽い感じで自己紹介をした彼女は計画の一部を語る。

 計画の第一段階としてウイスキーピークに居る秘密結社の賞金稼ぎに海賊を襲わせる。

 すると当然、戦闘になるので騒動のどさくさに紛れて、島の裏側から海に出る。

 

「貴女は戦闘中に命を落とすか、もしくは海賊に連れ去られたって事にすると貴女の護衛隊長が言っていたわ」

「ちょっと待って」

 

 カリーナの口から語られた計画に私は、待ったをかけた。

 

「計画は分かったけど、あの一味は八人と二匹しか居ないのよ? ウイスキーピークは、総勢百名の賞金稼ぎが詰めかけている!」

「大丈夫よ、これを見て」

 

 カリーナが大きな胸の隙間から取り出したのは、くしゃくしゃになった賞金首のポスターだった。

 そこには少し前まで憎いほど見慣れた男が呑気に笑う顔が載せられている。懸賞金は三千万ベリー、偉大なる航路に入ったばかりの海賊の中でも破格の金額だ。賞金首だとは知っていたのだけど、これほどまでの金額だとは考えていなかった。高くとも千万に届くことはないと何処かで思い込んでいた。

 少し前に船団を率いたクリーク海賊団が五千人で千七百万ベリーだった事実を考えれば、八人と二匹で三千万ベリーは色々と可笑し過ぎる。

 

「一体、なにをしでかしたのよ……」

 

 ついそんな言葉が零れるのも仕方ないというものだ。

 

「アーロン海賊団を潰したっていうのは知っているわ」

「アーロン? ……もしかして魚人の?」

「ええ、彼が支配していた町の住民から実際に聞いた話だから信憑性は高いわよ」

「アーロンって……あのアーロンよね……」

 

 元タイヨウの海賊団で、少し前までインペルダウンに投獄されていた魚人の海賊。

 海峡のジンベエが王下七武海に加入し、その恩赦で釈放される。そのまま彼は偉大なる航路を離れたという話までは聞いた事があるけども、まさか東の海で縄張りを持っていたとは想像もしていなかった。奴隷解放の英雄でもあるフィッシャー・タイガーが居たタイヨウの海賊団の一幹部にしては、なんともお粗末な結末だと思った。

 それでも誰もが知っている大海賊で主力だった男だ。あれから十年もの歳月が過ぎているとはいえ、たった八人と二匹で相手に出来る人物ではない事も確かだ。

 

「とんでもない奴を招き入れちゃった?」

「私が零すと悪い海賊じゃないと思うわよ」とカリーナが返す。

「どうして、そんな事が分かるのよ」

 

 私が問うと「だって」と彼女は少し溜めてから答える。

 

「海賊嫌いの子猫ちゃんが一緒に海賊をやってるのだもの。平気な顔で残虐な事を見逃せる奴なら、あの泥棒猫が付いて行かないわよ」

「…………?」

 

 とりあえず彼女の口振りから、元同僚が無暗に殺される事はない。という事だけは分かった。

 

「グァッ! グァッ!」

 

 水兵帽を被ったカモメがコンコンと窓を突いている。

 新聞配達員のニュース・クーだ。肩から下げた新聞の束、首には赤い鞄をぶら下げている。

「入れてあげてくれない?」というカリーナの言葉に、スタイルの良い美女が窓を開けてやれば、半分開けた隙間からバサバサと翼を広げたニュース・クーが部屋に飛び込んだ。そして私とカリーナの間に立ち、少し困ったように私達の顔を交互に見た。カリーナは財布から小銭を取り出し、「一部、お願いね」と彼の鞄に小銭を収める。彼は新聞を受け渡し、部屋の皆に一礼した後、そのまま部屋を飛び出してしまった。パラパラと新聞を捲る彼女、頁の隙間から一枚の賞金首のポスターが床に落ちる。

 手に取り、その懸賞金の金額と写真に驚愕した。

 

「“歌姫”ウタ……懸賞金二千五百万ベリー……」

 

 脳裏に過ぎる赤と白に分かれた特徴的な髪色の少女。

 あの麦わら帽子の一味の船に同乗していた一人が、まさか二千万を超える賞金首だとは想像もして居なかった。

 自分って人を見る目がないんだな。と何処か遠くを眺める。

 あと道化のバギーという海賊が懸賞金三千万ベリーに増やされていた。

 

 

「ウタ、歌います!!」

 

 酒を呷り、酒場の中心を陣取って真っ赤にした顔でウタが歌い始める。

 若干、呂律が回らなくなった舌で彼女がビンクスの酒を歌い出せば、気の良いおっさん達が一緒になって歌い出す。

 今は四皇の赤髪海賊団の元音楽家は、その才覚を思う存分に揮っていた。

 そんな彼女の姿を、丸々と太った身体のルフィが少し遠くから目を細めて眺める。

 歓待の宴は佳境を迎えて、一味の全員が酔い潰れるまで続けられた。

 

「今宵も……月光に踊る、サボテン岩が美しい……」

 

 酒場の外でイガラムが夜空を眺める。

「詩人だねェ……Mr.8」と彼を背後から呼び掛ける声。振り返れば、酒場の屋上に座る一人の男。頭に王冠を乗せたMr.9が軽い身の熟しで屋上から飛び降りる。「俺の相棒は知らないか?」と身の熟しと同様に軽い調子を問う彼にイガラムは「彼女なら風邪を患ってしまってな。今は薬を飲んで眠っている」と返す。これから逃亡をするのにMr.9の存在は邪魔だった。彼から王女を引き離すのにいい機会だと考えて、そのように説明するのが良いと思っての選択だ。

 犯罪組織といえど、アラバスタを救う同僚。同じ環境で四年も働けば情も湧く、出来れば始末したくなかった。

 

「ウップ……よく飲むよく食うやつらだわ……」

 

 酒場の勝手口から出て来るシスターの姿をした女性、彼女は煩わしそうに衣服を脱ぎ捨てる。

 

「鯨の肉も期待していなかったが、どこまでも迷惑をかけてくれる」

 

 鍛え上げた筋肉を晒すミス・マンデーに「そんな言い方はねェぜ」とMr.9が反論した。

 

「我々だって頑張ったんだ! 海賊をこの島に誘導する手引きもした!」

「……しかし高々七人の海賊相手に歓迎する必要があるかねェ?」

 

 港で畳んじまえばよかったんだ。と告げるミス・マンデーに、まあまあ落ち着け。とイガラムが懐から賞金首のポスターを取り出す。それを見た二人が驚愕に目を見開いた。

 

「懸賞金三千万が二人に、二千万が一人だって!?」

「合計で八千万ベリー! これだけあれば、食糧問題も解決だっ!!」

「海賊どもを見掛けで判断するものではない」

 

 面目ない。と謝るミス・マンデーは続けて、不安を口にする。

 

「しかしこれだけの賞金首を相手に私達だけで務まるのかい?」

「今日はタイミングが良い、オフィサー・エージェントが島に来てくれている。任務外の事であっても、これだけ大きな仕事であれば手を貸してくれるはずだ」

 

 だがまァ、とイガラムは酒場を見た。

 

「もう片は付いている、社長(ボス)にも良い報告が出来そうだ」

 

 彼が、この後の段取りを語ろうとした時、地面に不穏な人影が映る。

 見上げるとウイスキーピークで最も高い建物で、月夜に照らされる一人の剣士の姿があった。

「なァ、(わり)ィんだが」と彼は全く悪びれる様子もなく、刀を抜く。

 

「あいつら寝かしといてやってくれるか? 昼間の航海で皆、疲れているんだ」

 

 海賊狩りのゾロ。東の海では名の知れた彼も、偉大なる航路ではまだ無名でイガラム達も彼の経歴は分からなかった。

 

「Mr.8! ミス・マンデー! 何時の間にか一人、部屋から逃げ出して……!」

 

 酒場から部下達が慌てて駆け出して来る。

「貴様……!」状況を察したイガラムは、内心で安堵しながらも演技をする。

 

「完全に酔い潰れたはずじゃ……!」

 

 迫真の演技、会心の一発が此処で出た。

 驚愕するイガラムの表情に続々と外に出る総勢百名の賞金稼ぎの誰もが、組織からの脱走を企てる彼の本心を見抜けない。

 イガラムは心の内側でガッツポーズを取る、握り締めた拳を突き上げた。

 

「……此処は賞金稼ぎの巣。意気揚々と偉大なる航路にやって来た海賊達を出鼻からカモろうって訳だ」

 

 イガラムが内心で打ち震える間にも話は進んでいる。

 

「相手になるぜ、バロックワークス!」

 

 秘密結社の名を知る剣士の男に、その場にいる全員が驚愕する。

 誰も組織の名を零していなかったはずだ。Mr.9が驚いている事からも彼が零していない事が分かる。

 そして彼は次から次に秘密結社の情報を零したので、

 イガラムは一団を率いる長として、決断をしなくてはならなかった。

 

「こりゃ驚いた我々の秘密を知っているのなら消すしかあるまい……」

 

 自分でも驚く程に冷たい声が出た。

 

「また一つ、サボテン岩の墓標が増える……!」

 

 イガラムは自分でも知らなかった才能の片鱗に自ら恐れを抱く。

 過去、劇団のオペラ歌手に憧れていた少年心を思い出した。

 アラバスタに帰った暁には一度、入団試験を受けてみようと心に決めるのであった。

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