なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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36話.ペットを置いてなんて行けません!

「おーい、起きろ~」

 

 ウイスキーピークにある酒場の一室、ピエロメイクの男が女性の頬をペチペチと叩く。

 う~ん、と赤と白の特徴的な髪色をした女が目を覚ます。重たそうな瞼で薄暗くなった周囲を見渡すと、泥酔して眠ってしまった仲間達の姿があり、ロープに手錠と拘束する為の道具が雑多に置かれていた。ウタは思わず、声を上げそうになった。しかし目の前に居たバギーが口元に人差し指を立てていたので、すんでのところで踏み止まる。

 ウタは軽く深呼吸をした後、バギーに小声で問い掛ける。

 

「これってどういう状況なの?」

「まァ騙されたんだな」

 

 バギーは酔い潰れた仲間の中からアンを見つけ出し、バラバラにした手で彼女の頬をペチペチと叩いた。

 

「あんなドハデな宴なんざァ、海賊が来る度にやってりゃあ……すぐ資金が底を尽きるに決まってらァ」

 

 少し考えりゃおかしいって気付くだろ。とバギーが吐き捨てる。

 すっかりと宴を楽しんでいたウタは、ぷくっと不満げに頬を膨らませた。

 

「バギーも楽しんでたじゃん」

「酔い潰れるまで襲って来ないのは分かってんだ、ハデに楽しまなきゃ損だろうよ」

「むう……資金が厳しいのに、どうして宴なんてできるのかな?」

 

 勝ち目はないと悟ったウタが分かりやすく話題を切り替える。

 その事にバギーは気付いていたが、指摘するのも面倒臭いと考えて疑問に答える。

 

「そりゃおめェ、食って飲んだ分は俺達から徴収するに決まってるじゃねェか」

「……宴が出来る程のお金なんて持ってたっけ?」

「おめェはまだ賞金首じゃないから自覚もないねェだろうが、麦わらにハデな懸賞金が付いてるじゃねェか」

 

 俺様も千万越えだ、と彼が付け加える。

 確かにルフィとバギーの懸賞金を合わせれば、町を興しての宴なんて何回も出来そうだ。そういえば、彼を海軍に突き出せば、千五百万ベリーが手に入るのか。そんな事を考えながらバギーを見つめれば「バカな事を考えてねェだろうな?」と胡乱な目で見つめ返された。実際にしようとまでは考えてないのでセーフだ、そんな事も出来るんだなって思っただけなのだ。

 ふわァ、と大きな欠伸をするアンに二人で口元に人差し指を立てる。

 

「……これって、騙された?」

 

 アンはウタよりも状況を理解し、適応するのが早かった。

 

「でも……なんで、見張りが誰も居ないの?」

「ああ、それなんだがな……」

 

 バギーが答えようとした時、不意に酒場の外から発砲音が聞こえてくる。

 次いで人の怒声が上がり、発砲音と共に悲鳴が上がる。外では戦闘が発生しているようだ。

 まァこういう訳だ。とバギーが素っ気なく答える。

 

「あの海賊狩りも罠に気付いていたようでな。一足先に出て行っちまいやがった」

「それって大丈夫なの?」

 

 ウタの問い掛けに「あァ?」とバギーが興味なさげに零す。

 

「……まァ、大丈夫じゃねェか?」

「助けなくても良いの?」

「年下の女に実力で劣っているのを結構、気にしてやがったしな。訓練代わりのつもりなんだろうよ」

 

 バギーは、彼を助けるつもりはないようだ。ウタが外を気にするようにチラチラと余所見をする隣で、まだ眠たそうなアンがバギーに問い掛ける。

 

「それでこれから何をしようって訳?」

「アンは話がはえェな」

 

 バギーが悪役面で口角を上げる。なんか二人の分かり合っている感じがウタは不満だった。

 

「私がリーダーのはずなんですけど~!」

「早い話、船を奪っちまおうって話だ」

「偉大なる航路に入っても間借りしてたら恰好付かないしね。当てはあるの?」

「これだけ大きな町だぜ、手頃な船の一つや二つはあるはずだ」

 

 ぶうぶうと口先を尖らせる彼女を、二人は無視した。

 

「とりあえず船を頂くって事で良いんだよね!?」

 

 強引に会話に割り込んだ歌姫様にバギーとアンはきょとんとした顔で互いを見つめ合って、肩を竦め合った。

 

「私はバルーンを起こすけど、リッチーはどうするの?」

「なんだかんだで結構、賢い奴だしな。起こしても良いだろうよ」

了解(りょ~かい)っと」

 

 二人が各自の判断で動き出したのを見て、やはりウタは不貞腐れるのだった。

 彼女が拗ね始めた頃、ポンと背中を叩かれる。

 

「ほら行くよ。ウタが居ないと私達は始まらないんだから」

 

 アンの気遣いにウタは嬉しそうに「うん!」と頷き返した。

 意気揚々と部屋を出る彼女の背中を、アンは困った妹を見るような視線を送る。

 ちなみにウタは十九歳でアンは十七歳である。

 仕方ないね、と姉貴風を吹かせるアンを、起こされたばかりのバルーンが優しく見守った。

 それはまるで手を焼く妹分を見るような目であった。

 

 

「ふー……やっと静かな良い夜になった」

 

 月夜に照らされるウイスキーピークの高台で、ゾロがビールの栓を開ける。

 正確な人数は数えてないが、ざっと百人ほど居た賞金稼ぎを一網打尽にしてのけた。王下七武海の一人に名を連ねる世界最強の剣士を相手にし、曲がりなりにも覇気を扱える少女と戦闘して、少し自分の腕に自信を失いかけていたゾロであったが、彼も彼で十分に偉大なる航路でも通用する剣技の腕前を持っている。覇気が使えない剣士の中では、破格の戦闘能力と言っても良い。

 彼が優雅に月見酒を楽しんでいると、ふと眼下に雑魚ではない二人の気配を感じ取る。

 

「……あの小娘は、一体何者だ?」

「Mr.7の相方の後釜にって話だったのだけど、どう考えてもオフィサーエージェント並の強さだったわよ……勧誘に成功したら私、オフィサーエージェントから降格にならない?」

「オフィサーエージェントが悪魔の実の能力者ってのは、結果的にそうなっただけだしな」

「キャハハハ! ……まじで笑えないのだけど?」

 

 黒コートにサングラスを掛けた男に傘を持ったレモン柄のワンピースを着た女。

 いかにもな会話をする二人の前を大きなカルガモが姿を晒す。サンディ島に棲息する超カルガモであり、アラバスタ王国では最速の生物として君臨する。超カルガモは、戦闘を終えて、静けさが戻り、周りの様子を窺うようにおどおどと戦場に出てきてしまった。彼は突如、開始された戦闘に怯えていた。圧倒的な強さを誇る剣士に飼い主の同僚が薙ぎ払われる姿を遠目に見守っていた。ほとぼりが収まったのを確認し、彼が戦場に出て来たのは自らの飼い主の姿が何処にも見当たらなかったからだ。

 派手な戦闘が行われていたにも関わらず、姿を見せなかった飼い主を求めて出てきてしまった。

 

「う……うぅ…………」

「クエーっ!」

 

 仰向けに倒れるイガラムを発見した超カルガモは、護衛隊長を務めていた彼ならばきっと居場所も知っていると考え駆け寄った。そして、ドスドスと嘴で突いた。

 

「カルーか……ぐえ、ぐええ……ま、待て……ぐええええええっ……」

 

 だがゾロの攻撃を、まともに受けてしまったイガラムは満足に身動きが取れない。そんなこと関係ねェと超カルガモのカルーは超高速でイガラムの顔面を突き出した。加速する嘴の突きは秒間16連打、西瓜も割る勢いで繰り出される突きの連打に流石のイガラムも堪え切れなかった。

 

「待てと言っとるだろうがァーッ!」

 

 思わず繰り出したグーパンチ、まともに当たったカルーは数メートルも吹っ飛ばされた。

 しかし、けろっとした様子で立ち上がり、またイガラムに駆け寄る。

 寝転がっていてはまた突かれると考えたイガラムは、痛む怪我を押して身を起こした。

 

「クエーッ! クエーッ!」

「カルーよ、姫なら無事────ッ!」

「なんだァ、このカルガモは?」

 

 そんなカルーの背後に歩み寄るはチリチリ頭のサングラス男。彼の姿を見た時、イガラムは血の気が引くのを感じ取った。

 

「俺達に与えられた任務は二つある」

 

 Mr.5はカルーの頭に手を伸ばす。

 彼の全身から放つ気迫に怖気てしまったカルーは身動きが取れず、その手を受け止める。ギュッと握られる感触を感じた次の瞬間、強い衝撃と共にカルーの意識は絶たれてしまった。ぷすぷすと黒焦げたカルーの顔、彼は力尽きたかのように前のめりで倒れる。

 爆破の余韻が残る手を、パンパンと払うMr.5の背後からキャハハと笑う女が歩み出る。

 

「罪人の生け捕りよ!」とミス・バレンタインが告げる。

「本気でフロンティアエージェントの勧誘の為だけに俺達が足を運ぶと思っていたのか?」

「罪人の名はアラバスタ王国で今、行方不明になっている────」

「カルーッ!!」

 

 三人と一羽しか居ない戦場に、また新しく女が参戦する。

 バロックワークスでの彼女のコードネームは、ミス・ウェンズデー。その真の姿はアラバスタ王国の王女、ネフェルタリ・ビビ。彼女は相棒であるカルーが痛めつけられた姿に堪え切れず、戦場に出て来てしまった。ビビは衣服の乳首の部分より、紐の先端に付いたクジャクの羽のような刃物を取り出し、紐の根本にある指輪を指に嵌める。

 

「よくもカルーを……許さないっ!!」

 

 彼女はオフィサーエージェントの二人に向かって、駆け出した。

 

「“孔雀(クジャッキー)スラッシャー”!!」

 

 遠心力でキュルルと回す刃物でMr.5を攻撃するも、見切られて顔面を掴まれる。

 そして、ボンと小さな爆発を起こした。

 

「ビビ様ッ!!」

 

 イガラムの悲痛の叫びにMr.5は舌打ちを零す。

 

「殺しちゃいない、指令は生け捕りだ。アラバスタ王国の王女ネフェルタリ・ビビ。社長がお待ちだ」

 

 気絶する程度に威力を弱められた爆破に、ビビは白目を剥いたまま膝を突いて前のめりに倒れた。

 イガラムは己の無力を噛み締める、憤りもあった。

 助ける事が出来なかったのもあるが、あの賞金稼ぎの一味は何故、彼女を部屋に閉じ込めてくれなかったのだ。

 

「ペットを置いてはいけないと五月蠅くてだな……飛び出す彼女を追い掛ける他になかった」

 

 更に男が姿を現す、黒眼鏡を掛けたオールバックの男が掌の根本で眼鏡の位置を直す。

 

「プロなら無傷で確保しておけ、後で御嬢様の機嫌を取るのは俺なんだ……」

 

 嘗て百計のクロと呼ばれた執事が、額に青筋を立てながら二人を睨み付ける。

 その一部始終を高台から見ていたゾロが、クラハドールの姿を見た時、周囲を見渡す。

 あの少女の姿は、何処にも見当たらなかった。

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