なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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39話.一時解散

 ある一定以上の悪評を負った海賊には担当者が付けられる事がある。

 有名所を云えば、白ひげ海賊団は赤犬の担当になっており、四皇には大将相当の実力者を宛がうのが通例となっていた。王下七武海には中将が宛がわれており、ドンキホーテ海賊団はおつるの担当だ。独立勢力であれば、大体、億を超える海賊に小将が宛がわれている事が多い。通常、億を超えない海賊に理由もなく担当が宛がわれる事はない。

 しかし、麦わらの一味は特別な海賊である事は確かだった。

 海に出て一月と経たず、千万を超える海賊を三つも壊滅させた懸賞金三千万ベリーの規格外の連中。そんな破格の勢いを持つ海賊の動向を見張る意味でも大佐相当の人材を宛がうのは悪い判断ではない。尤もスモーカー大佐は、少将相当の実力がある訳だが──今、そこは置いておくことにする。

 少なくとも今、最も勢いがあるルーキーの一人である事は確かであった。

 

東の海(イーストブルー)からの快進撃は、数年前のエースを思い出すねぇ」

 

 おつる中将が海軍本部の一室で会食していると蠱惑的な美貌を持つ女将校が口を開く。

 彼女の名前はギオン、階級は中将。太腿には蜘蛛の入れ墨を刻んだでらべっぴんな女性である。問題児のスモーカー大佐が、おつるに詫びを入れたのは海軍本部でも衝撃と共に知れ渡っており、その流れで彼が追いかける海賊にも注目が集まっていた。無茶ぶりという名の後始末を押し付けられたおつるは「本当は青雉の仕事なんだがね」と小言を零す。

 本来、おつるの担当はドンキホーテ海賊団である。

 今は大人しくしてくれているので、スモーカー大佐が抜けた後の調整も出来ているのだが……ドンキホーテ海賊団の船長であるドフラミンゴは、大人しくしている時に限って裏で悪巧みをするような辛抱の出来ない男なので気の休まる時がなかった。実際、ドンキホーテ海賊団と深い繋がりを持っているグラン・テゾーロも間接的な動きを見せ始めている。

 金獅子のシキが長い沈黙を破って動き始めてしまったので、元々彼を担当していた元帥のセンゴクは頭を抱えていた。

 

 金獅子の海賊船が向かう先は、アラバスタ王国だと話に聞いている。

 アラバスタ王国には、王下七武海の一人であるクロコダイルがおり、彼を担当するヒナ大佐が駐留している。本来であれば、王下七武海には中将が宛がわれるのだが、王下七武海になって以降、模範的に与えられた責務を全うし、海軍に対して忠誠心を示し続けて来たクロコダイルの監視の目は緩められていた。海賊なんて信用するものではないが、この大海賊時代に模範生であるクロコダイルに戦力を割くのは勿体ないという事情がある。

 大佐の中でも有望株のヒナを宛がう事で茶を濁し、アラバスタ王国近海の警邏に務めさせている。

 しかし、それが今回、仇となった。

 金獅子に対応できる戦力が今、アラバスタ王国に存在していなかった。

 

 センゴクはどうするつもりなのかね、とおつるは同期の同僚の事を憂う。

 

「海賊遊撃隊も動いているみたいだよ」

 

 ギオンからの追加情報に、おつるは僅かに目を開いた。

 海軍の非正規部隊、海賊遊撃隊。他の海兵が粛々と己の責務を全うする中、ただひたすらに海賊狩りに明け暮れる超過激な武闘派集団。組織したのは、全ての海兵を育てた男とも呼ばれる元教官のゼファー中将である。遊撃隊という名の通り、手前勝手な裁量で動き回るので、彼の詳しい動向はセンゴクであっても掴めていない事が多い。海賊を倒した戦果と引き換えに補給物資を要求し、また海へと出ていく風来坊のような毎日を送っている。良い歳した大人が何をやってんだか、というのがおつるの本音である。

 その海賊遊撃隊が最近、追いかけていたのが正体不明の秘密組織であり、その本拠地がアラバスタ王国近辺にある所まで掴んだという話なのだ。

 

「遊撃隊は倒すのが専門だからねえ」

 

 足りない戦力は海賊遊撃隊で補填出来るとしても、治安の維持には正規の戦力が必要になる。

 今回の件はヒナの部隊だけでは荷が重い。早速、スモーカーには借りのひとつでも返して貰おうかね、と、そこまで考えておつるは手元にあった熱い茶を啜る。

 今の御時世では、人手はどれだけあっても足りなかった。

 

 

「そうね、貴方には死んで貰うわ」

 

 ミス・オールサンデーと名乗った幼女は、手を拳銃のように構えてイガラムの眉間に向ける。

「な……っ!?」とイガラムが驚愕する。「そんなこと、許せる訳がないじゃない!」とビビが反発した。幼子は笑みを浮かべながら「これは必要な事なのよ」と二人に告げる。組織を抜けるには追手が掛かるというのがあり、ミス・オールサンデーには、この場に居る全員を見逃すに足る理由が必要だ。それを幼子は口にはしなかったが、彼女に譲る気がない事をイガラムとビビは察した。

 ビビとイガラムが互いを見つめ合った時、オネが気怠げに手を挙げる。

 

「その王女様を麦わらに攫わせれば良いじゃん」

 

 悪名のひとつやふたつは今更、問題にしないんでしょ。と少女は付け加えた。

 ミス・オールサンデーが細めた目でオネを見て、意味深な笑みを浮かべる。

 俺は構わない、とルフィが軽い調子で答える。

「追っ手が掛かるわよ」という幼子にルフィはミス・ウェンズデーを見た。

 ミス・ウェンズデー、ビビは一度、目を伏せてから答える。

 

「バロックワークスは秘密犯罪組織……私達は社長の存在を知ってしまった。組織の掟を破った私達は、消されてしまう。それが組織の掟よ」

「でも、追っ手って、あの鼻糞ほじってる奴とかなんだろ?」とルフィが鼻をほじりながら問い掛ける。

「いいえ、彼はオフィサーエージェントの中でも一番下の格なのよ。私達、フロンティアエージェントと比較すれば……そりゃ、規格外の実力だけど……あの二人よりも更に強いのが十人も存在している」

「十人? 八人じゃねーのか?」

 

 ゾロの疑問に、ビビは首を横に振る。

 

「バロックワークスの社長(ボス)はNo.0と呼称されているわ」

 

 そして、とビビは少し気まずそうにミス・オールサンデーを見る。

 

「バロックワークスの幹部は、男女二人一組のコンビを組むことになっていて……番号が若ければ若いほどに階級が上になるのだけど……そこのミス・オールサンデーがNo.0の相方を務めているのよ」

「あいつが?」

 

 幼子は何時の間にか自分で用意したグラスに入ったオレンジジュースを飲んでいる。

 

「この姿じゃなければ、それなりには戦えるのよ」

 

 今じゃ精々、手品を仕込む程度。と彼女が指を鳴らす。

 ビビはズボンのポケットに何かが差し込まれる違和感を感じ取る。手を入れてみれば、カードが入っており、絵柄はハートのQだった。「その姿も悪魔の実の能力?」とナミが問い掛ける。幼子は僅かに眉を顰めて「そうね、悪魔の実の能力によるものよ」と返す。二人のやり取りを見たルフィは「この程度の奴らならどうにかなるだろ」と楽観的に答える。

 そんな彼の態度に「甘く見ないで!」とビビが訴える。

 

「貴方達は確かに強い……だけどNo.0(ボス)には絶対に敵わないわ!」

「やってみなきゃ分からないだろ?」

「いいえ、幾ら貴方でも王下七武海のクロコダイルには、太刀打ちできないはずよ」

 

 断言するビビに、イガラムはあんぐりと口を開いた。

 ミス・オールサンデーは困った風にクスクスと肩を揺らす。

 ナミは、真っ直ぐに自分達を見つめるビビに恐る恐る問い掛けた。

 

「……それ、私達が聞いても良い情報だったのかしら?」

「…………………………あ゛っ!」

 

 ゴチンとナミの拳が王女の脳天を捉えた。

 怒鳴り散らすナミにたんこぶができた頭を抱えながら謝り続けるビビ、そして激昂するナミを止めようとするイガラム。三人のてんやわんやな状況に、オネは大きく溜息を零す。相手に悪気がなかったとはいえ、これで否応なく巻き込まれてしまった、という訳だ。

 事の成り行きを見守っていたオネは、重々しく口を開く。

 

「次の島で食料を調達した後は別行動ね」

 

 とオネは机の上に置かれた永久指針(エターナルポース)を掴んだ。

 

「これなんだけど、何処に繋がってるの?」

「名もなき島、アラバスタ王国のひとつ前の島で本当に何もない所よ。バロックワークスも知らない航路で安全に向かう事が出来るわ」

「ふうん、そう……なら私がこれを頂いて行くよ」

 

 それだけを告げて、彼女は席を立った。

 背後に立たされていた三人を一瞥し、三人を引き連れて酒場を立ち去る。

 ナミが何か訴える視線でルフィを見た。

 

「いいの?」

「まあいいさ」

 

 ルフィはソファの背凭れに身体を預ける。

 どうせ行く先は同じなのだ。向かう先が同じであれば、どのような進路を取っても構わない。

 早い者勝ちではない。目的が同じであれば、手を取り合うことも出来るのだ。

 ルフィは、オネと争いたくなかった。

 

 

 あの後、イガラムは囮として殺される事になった。といっても周りからはそう見えるように、といった意味合いで実際に殺す訳ではない。

 イガラムはビビと別れを告げた後、麦わらの一味を模した人形を乗せた大きめな船と一緒に出航し、アラバスタ王国直通の永久指針(エターナルポース)でアラバスタ王国を目指す。大きな船だが沖に出る程度であれば、なんとかなる。島の裏側から出航する手筈の麦わらの一味を見送り、えっちらおっちらと船を動かす。この船には、火薬が詰め込まれていた。また時限爆弾も仕込んであり、沖に出た辺りで爆発するように仕込んでいる。

 ビビのコプスレをしたイガラムは、気絶から目覚めた逃走中のバロックワークスの目にも止まるように船から身を乗り出す。

 

「ビビ様の事を頼んだぞ……麦わらの皆……!」

 

 もうすぐ爆発するんじゃないかって頃合で、バンと船室に続く扉が勢いよく開け放たれた。

 

「ギャハハハハハっ! この船は俺様、道化のバギー様とゆかいな仲間達が頂いたァっ!」

「あっでも、酷い扱いをするつもりはないよ!」

「ウタァ! 今更ひよってんじゃねェ! こういうのは最初が肝心なのよ! 信頼なんて船を掌握した後に掴み取れば……!!」

 

 扉の奥に潜んでいた何者かが、ぞろぞろと甲板に飛び出してきた。

 どうやら船泥棒のようだ。イガラムは両手を挙げて、少し気不味く口を開いた。

 

「この船を゛っ……!! ゴホン! マーマーマ~~~~♪」

 

 何かを伝えようとして、喉の奥に引っかかりを覚えた彼は喉の調子を整えてから改めて答える。

 

「この船をくれてやっても良いが────」

 

 ドゴン! と火薬庫が爆発した。どうやら時限爆弾が作動したようだ。

 

「──もうすぐ沈むぞ?」

「見りゃ分かるわボケーッ!! ハデになにしてくれとんじゃクラァッ!!」

 

 ウタ一行は、命からがらウイスキーピークまで戻った。

 町からは死角になる海岸で、ずぶぬれ鼠になった彼女達を見たミス・オールサンデーは口を真一文字に結んだ虚無の表情を浮かべる。四年前、バロックワークスの正体を探る海賊遊撃隊を名乗る連中に目を付けられて以後、追いかけ回される毎日に彼女は辟易としていた。

 これ以上、面倒事は増やさないで欲しかった。

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