40話.ロビン御一行様
その為、偉大なる航路には二つ以上の航路から入る事が出来る島が存在しており、アラバスタ王国のあるサンディ島もその内の一つであった。故にミス・オールサンデーことニコ・ロビンは
ニコ・ロビンは、身体の各部を花のように咲かせるハナハナの実の能力者なのだ。
しかし、それも彼女が大人の身体を持っていた時の話だ。
アラバスタ王国を出る時、彼女は十六歳の肉体を持っていた。だが航海の途中、怨敵の海賊遊撃隊を発見する。双剣使いの女幹部を見た時、ロビンは四年前の雪辱と元の肉体を取り戻す為に奇襲を仕掛けた。しかし常日頃から最前線で海賊と戦い続けて来たアインは強く、たった一人が相手でもロビンは太刀打ちできなかった。戦闘の結果、更に年齢を戻された彼女は、四歳の子供の姿のまま海に逃げ出す。
それが彼女にとってウイスキーピークに着く数日前の話。子供の姿では船の操縦もままならず、辛うじてウイスキーピークに辿り着くのが限界だった。
彼女がウイスキーピークまで足を運んだ表向きの理由は、王女ビビの受け渡しをして貰う為だった。
そのまま彼女の護衛にMr.5のコンビが付く手筈になっている。この配慮は
目的が同じ方向に向いているので二人は協力関係を結ぶことが出来ていた。
利害だけが二人の関係を維持している。故にロビンが自分の目的を達成する条件を整えた時、ロビンが自分に従う理由がなくなる事をクロコダイルは理解していた。故にロビンには監視の目が必要だ。アラバスタ王国の王族と接触する以上、抜け駆けは許さないと監視が付けられる。
では、何故、クロコダイルはロビンを王女ビビの護送に使わざるを得なかったのか。
今、アラバスタ王国は、多方面から侵略を受けている。
その対応に追われるバロックワークスには、戦力を余らせている余裕がない。クロコダイルも心の底ではロビンを信用出来ないと考えていた。しかしレインディナーズでリゾート気分を満喫する彼女を見ていると我慢が出来なくなり、仕事を押し付けてアラバスタ王国から追い出した。クロコダイルは国内で下手に動かれるよりも、手出しが出来ない場所に追い出した方が動きやすいと適当な理由で自分自身を納得させる。
なんだかんだで六年間も共に過ごしてきた仲間だ、長年の付き合いに無意識の情があった。
クロコダイルに誤算があったとすれば、オハラの悪魔と呼ばれるロビンの事を世間の評判通りに受け止めていた事だ。
ロビンが悪魔と呼ばれるのは、身を寄せた相手を散々裏切ってきた冷徹さからではない。歴史の本文を解読出来るからであり、何時でも切り捨てられる相手を狙って身を寄せていた。情もある。しかし、長い逃亡生活で彼女自身も裏切られ続けた為、彼女自身の心も擦り切れてしまっていた。
オハラを滅ぼしたバスターコールを、彼女がトラウマに感じている事をクロコダイルは知らなかった。
バスターコール、ボタン一つで国一つを滅ぼす無差別攻撃。それが一発の攻撃で島一つを消し飛ばす力を持つ古代兵器プルトンと一体、何が違うと云うのか。擦り切れた心の奥底に残る良心が、古代兵器プルトンへ忌避感を抱かせる。
故にロビンがクロコダイルに心を許した事は、六年間で一度もなかった。
しかしクロコダイルの目的を積極的に阻止したいとまでは考えていなかった。
あくまでもロビンは古代兵器プルトンを誰かの手中に収まる事を嫌っているだけである。
それは彼女の意志ひとつでどうにでもなる。
古代兵器の在り処を示す碑石を読み解く事が出来るのは、世界でロビンただ一人だけだ。
極論、クロコダイルには嘘の情報を教えるだけで事足りるのだ。
故にロビンはアラバスタ王国の興亡に関しては興味を抱いていなかった。
簒奪されるのであれば、それだけクロコダイルが狡猾だったという話であるし、他勢力に壊滅させられるのであれば、脆弱なアラバスタ王国には未来がなかったというだけの話だ。故郷を失った身の上、同情はある。だけど、同情だけで動くには、ロビンの心は擦り切れ過ぎていた。それに自分の目的の為に他者を切り捨てるのは、これまでも繰り返してきた事だ。
しかし、その姿勢がクロコダイルの心の隙を生んだ。
アラバスタ王国に対して興味や関心を抱かず、どんな命令にも疑問を挟まず従う姿勢がクロコダイルの油断を呼んだ。
ロビンは、アラバスタ王国に同情している。
憐れみの感情でビビを逃がす選択を取った。
ロビンは、クロコダイルと積極的に敵対したいとは考えない。
しかし偶然、ビビを助ける機会が訪れた。状況は既に王女の手中にある。
自分が目を伏せるだけで済むのであれば、とロビンは見逃す事を決めた。
だが、それでは猜疑心の強いクロコダイルを欺くことは出来ない。
なのでロビンは王女の側近であるイガラムを取り上げた。
彼は人質だ。最悪、護衛隊長である彼の死体を差し出せば、自分の身は守れる。
そんな算段の上でロビンはビビを見逃す決心を固めた。
どうせ一人でアラバスタ王国まで帰ることができないので、誰かしらの助力を得ることは確定していたのだ。
しかし、イガラムに協力を強いた結果、余計な者達まで付いて来たのは想定外だった。道化のバギーを名乗る男に、女が二人。珍獣が二匹。自分も含めて合計で五人と二匹。随分と大所帯になってしまった、とロビンはパラソルを持った獅子のリッチーの頭で大きな溜息を零す。
今、彼女達が居るのは、アラバスタ王国まで続く航路にある島の一つ。
此処は夏島で、リゾート地としても知られる。そして本島の砂浜で、水着姿になった五人が盛大にはしゃいでしまっていた。太陽に照らされた水飛沫の中でウタとアンの揺れる胸元。それをパラソルの日陰の中から眺めるロビンは不満顔である。子供用に販売されていた水着が、スクール水着しかなかったのである。下手な文字でロビンと書かれた胸元の名札は、ぺったんこだった。ロビンは元気いっぱいにはしゃげる五人に嫉妬している。
頬を膨らませる彼女の手元には、三枚の賞金首ポスター。ひとつは麦わらのルフィであり、もうひとつは道化のバギー。共に懸賞金が三千万ベリー。そして歌姫ウタ、懸賞金は二千五百万ベリーだ。彼らが使えるかどうかは分からないが、思わぬところで戦力が手中に入ってしまった事により、ロビンは幼い頭で様々な事に思考を巡らせる。巡らせてみたが、子供の身体だったので難しい事を考えると直ぐに眠たくなる。
ふわり、と大きく欠伸をし、リッチーの頭の上で体を丸める。
この島に立ち寄ったのには勿論、理由がある。
人数が増えた事で食料が足りなくなってしまったからだ。
ロビンのポケットマネーで自分も含めた六人と二匹分の食料が賄われている。
そうしてロビンの意識が夢の世界に飛び立とうとした時、海で遊んでいたイガラム達が急に騒ぎ始めた。
ロビンが目を擦りながら体を持ち上げると五人がなんで騒いでいるのか理解できた。
「おい、船が奪われでッ! ……ゴホン、マ~マ~マ~~~~♪」
喉の調子を整えるイガラムに「やっとる場合か!」とバギーの手が彼の頭を叩いた。
「私達の船が奪われてる!」とウタが遠くに見える船を指で差す。
「どうしよう! あれって一人じゃないよね!? バルーンじゃ一人が限界だし……」
「撃ち落とされたらおしまいじゃねーか! 俺様は行かねえからな!」
アンの支援を感じたバギーは、彼女が何かを言う前に拒絶した。
遠くに運ばれる船を見て、ロビンは自分の能力でなんとか出来ないかと考えた。構えを取り、しかし首を横に振る。効果範囲の外だ、そもそも子供の力でどうにかなるとも思えない。かといって船一隻を買うだけの金もなければ、アラバスタ王国に向かう為の運び賃も持っていなかった。
どうしたものかしら、とロビンは頬に手を添えて溜息を零す。
新編開幕です。暫くオネとルフィの出番はありません。
ロビン (4?):レインディナーズ支配人兼バロックワークス副社長
イガラム(48):アラバスタ王国護衛隊長
ウタ (19):ウタ一味のリーダー
バギー (37):バギー海賊団元船長
アン (17):怪鳥の飼い主
リッチー :大きなライオン
バルーン :怪鳥