なまくら娘。   作:にゃあたいぷ。

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5話.特製バギー玉

『やりてェ様にやらねェと海賊やってる意味がねェ』

 

 これは今は亡きロジャー船長の言葉だ。

 船長は、海賊の支配に興味を持たず、世界を自由気ままに旅して回った。

 己の航路を邪魔する者は、片っ端から返り討ちにし、風を帆に受けて大海原を直進する。

 何者にも縛られない、そんなロジャー船長の生き方に俺様は憧れた。

 

 俺様は、お宝が大好きだ。

 宝の地図には浪漫があり、世界中に眠る金銀財宝を手中に収めることが俺様の幼い頃の夢でもある。

 見つけた宝を元手に最強無敵の海賊団を結成し、

 その船頭に立った俺様が、野郎ども、と最強の船員に指示を飛ばすのだ。

 

 幼い夢には、中身がない。

 俺様には、最強無敵の海賊団が如何なるものか分かっていなかったし、その海賊団で何がしたいかも分からなかった。

 ただ漠然とロジャー船長を超えるんだ、という想いだけで突っ走った幼少期。

 

 東の海のローグタウンでロジャー船長が公開処刑をされた日。

 この世の全てをそこに置いてきた。と宣ったロジャー船長の最期の演説を聞いた時、俺様には「此処まで来い」って言ってくれているような気がしたんだ。だけど、その時には、もう俺様には現実ってのが見えていた。そこに辿り着けるのは俺様じゃねえ、俺様では、あの化け物の巣窟である新世界を生き抜くだけの力がない。最後の島にロジャー船長が最期に遺した意志の答えがある。それを受け取れるのは、俺様の隣に立つ赤髪の幼馴染だけだ。他の誰かに船長が遺した意志を奪われるのは我慢ならねえが、同じロジャー船長の下で努力を続けて来た幼馴染ならまだ許せる。ロジャー船長の意思を継ぐのは、俺様か幼馴染の二人。幼馴染がロジャー船長の意思を継ぐってのなら俺様は、俺様の夢を諦めても良いと思っていた。俺様の幼い夢には中身がないことが分かっていたからだ。そんなものよりも大切なものをロジャー船長には教えてもらったし、同じロジャー船長の背中を見て来た幼馴染なら分かっていた。

 ならば、当然、あの言葉の真意にも気付いていたはずだ。

 

 此処まで来い、と言った船長の遺志を、あいつは反故にした。

 

 そして俺様には、現実ってものが見えていた。

 新世界を経験した者にとって、偉大なる航路の前半は楽園だ。

 偉大なる航路もまともに航海できない俺様が、最後の島に辿り着くなんて夢のまた夢。

 残された俺様の夢は、幼い頃に抱いた宝探しへと原点回帰し、

 気の良い仲間達と共に世界中に隠された金銀財宝を得る旅に出た。

 

 珍獣の島で得た宝が成功体験となり、二十二年もの間、東の海で燻り続けている。

 

 ここまで来ると俺様も分かっている。

 俺様は夢に破れた側であり、何も成し遂げられずに死んでいくって事が分かっていた。

 それでも、曲がりなりにも頑張り続けて来た二十年間で得たものもある。

 手元に残ったバギー海賊団は、俺様が誰の手も借りず、己の身一つで掴み取った成果であった。

 この海賊団が海賊として生きた証であると同時に限界でもある。

 

 

 町から少し離れた森の中、野営用テントの前で椅子にふんぞり返る。

 幸いにも財宝の貯蓄はある。食料を切り詰めれば、ひと月程度は耐えきれるはずだ。

 海賊船を手に入れるまで耐え凌ぎ、手頃な海賊船か商船を襲えば良い。

 

 そんな事を考えていると町の方からモージが、這う這うの体で姿を現す。

 モージも実力者だ。ロジャー海賊団の船員とは比較するまでもないが、偉大なる航路の前半であれば、戦闘員として十分にやっていける戦闘力を持ち合わせている。なによりモージが従えている猛獣のリッチーは、一線級の戦力を有している。そのモージを倒したのが海賊狩りですらもなくて、麦わら帽子の男との事だ。更に悪魔の実も食べているようで、ゴムゴムの実を食べたゴム人間。ゴムという特性から察するに打撃に強いはずだ。リッチーの怪力も無効化し、ゴムの特性を利用した攻撃で倒したのだと考えられる。

 超人(パラミシア)系は、そういう能力の使い方をする奴が多い。

 

「まあゴムなら斬撃には、弱いはずだ」

「ならば、俺の出番ということですね」

 

 隣に控えていた我が一味の参謀長、カバジが前に出る。

 

「……いや、カバジは海賊狩りをやれ」

「良いので?」

「おめェは俺様以外の能力者と戦った経験がねェじゃねえか」

 

 カバジも東の海ではエースを張れる実力者だが、偉大なる航路では一線級には届かない。能力者が相手では荷が重い。悪魔の実の能力者は、想像力次第で何をしてくるのか分からねえ怖さがある。例えば金獅子のシキのフワフワの実、物を浮かせるだけとか絶対嘘だろコンチキショウ。

 

「……それに麦わら帽子には因縁がある」

「は?」

 

 小さく呟いた声にカバジは反応する。

 なんでもねえよ、と帽子を目深に被り直す。

 そんな時、

 配下の一人が、慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「き、来ました!」

「おう、誰が来た。海賊狩りか? 麦わらか? まあ、どちらもか」

「辻斬りです! 辻斬りが一人でやって来ました!」

「はあっ!!?」

 

 町に手出しはしてねェぞ、と声を荒げる。本当に辻斬りかと何度も問い質した後、頭を抱えて配下達に指示を出す。

 

「テントを畳んで全員逃げろ……」

「え? 逃げるのですか?」

「バッキャロー! 船を両断できる相手に一処に集まってりゃ一網打尽にされるに決まってるだろうがッ!!」

「バギー様は、どうするのですか?」

「俺か? 俺は……」

 

 顔を上げる、周囲を見渡して思考する。

 一緒に逃げるのは駄目だ。船を両断した時、奴は的確に俺を狙って来やがった。あれは俺を斬ったと確信したから立ち去ったのだ。という事はだ、奴は見聞色の覇気を使える。船を両断できるということは、武装色の覇気も使えると考えても良いはずだ。

 っざけんな、コノヤロー。

 武装色と見聞色の覇気を持っているとか東の海に居て良い存在ではない。これが海賊なら定期的に巡廻する英雄様が取っ捕まえてくれるのだが、ただの賞金稼ぎなので、それも期待できない。ガープは存在自体がデタラメだが、意外とアレで道理は弁えている。

 東の海では、何時でも潰せる奴だと思われるように爪を隠して生きるのが賢い生き方なのだ。

 

「辻斬りってなんだよ……対処法があるガープよりも厄介じゃねえか。無作為に人様を斬っちゃいけねえって親父に習わなかったのかよ」

 

 俺様も習ったことねえわ、と海賊王の船員達を思い出して溜め息を零す。

 

「それでどうします?」

 

 配下の言葉に俺様は深く、深く溜息を零して告げる。

 

「……俺様が殿で時間を稼ぐ、剣士相手なら殺されねェよ」

 

 見聞色の覇気を持ってるなら逃げても意味がない、という半ば諦めからの提案だった。何故か配下達は涙を流しており「バギー様の事は一生忘れません!」と急ぎでテントを片付け始めた。

 縁起でもねーな、おい。とツッコミを入れる気力も残っちゃいなかった。

 

 

「……別れた? というか逃げてる?」

 

 身を隠さず、真正面から悠々と殴り込めば、接敵する前に相手が逃げ出してしまった。

 森の中の様子は見えないけども、気配は感じ取ることができたので敵の動きは大まかに把握できる。だけど、相手の中でも比較的、強い気配が森の中に残っていたので気にせず歩みを進める。この一味は、船長が要だ。船長を潰せば、空中分解する。

 (なまくら)に手を添えて、森の奥へと進めば、道化の化粧をした男が待ち構えていた。

 

「ハアアァァァァ〜〜〜〜〜〜〜……」

 

 男は肩を落としながら大きな、それはもう大きな溜息を零す。

 

「お前、どうしてこんなトコに居るんだ?」

「? どうしてって言われてもね」

「楽園でも、新世界でも、さっさと行っちまえば良いんだよ」

 

 言葉の続きを聞いて、彼の言わんとしている事を理解して返事を返す。

 

「船がないから?」

「……盗んじまえば良いじゃねえか。おめェならいくらでもできんだろ」

「私は一人だし、大きな船は動かせない」

 

 それに、と言葉を続ける。

 

「盗むのは、悪い事だ」

「良い子ちゃんかよ、オメー。傍迷惑だなオイ」

「私は私のやりたいようにやってるだけ、人様に迷惑を掛けたくないから迷惑を掛けない。私が私のやりたいようにやってなんか文句でもあんの?」

「アリだ、アリアリ。大アリだぜ。それで迷惑を被ってんだ、こっちゃあな……」

 

 また大きな溜息、そして気配が変わる。

 張り詰める緊張感、肌にピリピリとした空気を感じ取った。

 左手で鞘口を持ち、右手で鈍の柄に手を添える。

 

「それに海賊でもねェ奴が、その言葉を吐いてんじゃねぇよ」

 

 相手は、まだ構えず腕を組んでいる。

 手首の先が外套で隠れていた。暗器を警戒する、男から殺意は感じていた。しかし殺意の出所が掴めない。攻撃には予兆がある。如何なる攻撃であっても意識すれば、起こりが発生する。相手が何かしらの武術を修めていれば、起こりを隠せるのも分かる。しかし、相手は武術を極めてきたって口ではない。

 警戒を高める。何時でも動き出せるように僅かに身を屈める。

 

「なあ、俺達がお前に何をした?」

「……どういう意味?」

「俺達はお前に迷惑をかけちゃいねぇだろ、町にも手を出しちゃいねぇ。此処がお前の故郷だってんのなら手出しもしねぇよ」

「うん、それで?」

「コッチはてめェの相手なんかしたかねぇんだ」

 

 道化の男は大きく溜息を零す。

 私は黙して続きを促した。

 

「手を引いちゃくれねェか?」

「うん、無理」

「なら死ね」

 

 男の身体は突然、バラバラにバラけてしまった。

 

「バラバラ緊急脱出ッ!!」

 

 此処に来て逃走? 違う、と小さく頭を振る。

 分解された部品の中に手首から先がない。何よりも彼から感じる殺意が些かも衰えていなかった。分解した身体の先にあるのは野営用テント、見つけた殺意の出所を!

 鈍の柄を握る────

 

「おせぇッ!! 特製バギー玉だクラァッ!!」

 

 テントを消し飛ばし、森を削る凶悪な一撃が私に襲い来る。

 背にはオレンジの町、躊躇した一瞬が砲撃を不可避のものにした。

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