名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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今回は連続更新になります!
最新話からきている方はご注意ください。


FILE.10 追求(後)

 改めて、伊国めぐるの証言がはじまった。

 

 

 ~なぜ置時計のことを知っていたのか~

 

「だからぁ、別に隠してたとかじゃないわけなありませんよおぉ」

 

「ホームズ展には興味ありませんでしたけどお、メグンダルさんとは友人だったものでぇ」

 

「ここで会ってメグンダルさんとは、それなりに話してたわけで」

 

「その時にあの置時計に関しても説明を受けていたわけですよ」

 

「これで問題はありませんよねえぇぇ??」

 

 

 

「……証言はここまでか」

 

 確かに、メグンダルと元々知り合いだったことは最初から証言している。

 なら会話の流れで考えるワトソン像の事を聞いたとしても、おかしくはない。

 

「あのおおぉぉ、もういいですかあぁぁ? 愚かで、愚物で、愚か者の、検事さんに刑事さん達いぃぃっっ!!」

 

「そうはいかない。また、証言を追求させてもらおう」

 

 御剣は改めてそう指摘する。

 

「ちぃぃ」

 

 舌打ちしつつも、再びの尋問に入る。

 

「ホームズ展には興味ありませんでしたけどお、メグンダルさんとは友人だったものでぇ」

 

待った!

 

 まずはここにゆさぶりをかける。

 

「ホームズ展に興味はない。その割には、気合の入った格好のようだが」

 

「あぁ、この恰好ですかぁ?」

 

 ホームズのコスプレ姿を指摘されつつも、特に動揺した様子はない。

 乱雑に手に持ったホームズコスプレの小道具であるパイプを弄びつつ、嘲るように言う。

 

「別におかしな事じゃないと思いますよぅ、だってぇ、この会場でフツーの恰好で言ったら浮いちゃうじゃないですかぁ」

 

 伊国の言葉通り、ここにはホームズのコスプレ姿の者ばかりだ。

 今でこそ、捜査関係者の刑事たちが大量にいるが、以前の状態では警備をしていた者とホテル関係者以外は皆が似たような恰好をしていた。

 確かに、そこで普通の服装をしていたら浮いてしまうだろう。

 

「それが嫌だから、わざわざその恰好で来たと?」

 

「はぁい」

 

「御剣検事がヒラヒラなしで法廷に来たり、ムチもコーヒーも持たないで法廷に来る検事みたいなものッスかね。ただスーツ着てるだけだなんて、ちっとも検事らしくなくて逆に目立つッス!」

 

(ここはそこまでおかしくはない、か)

 

 傍らで勝手に納得している糸鋸をよそに、御剣は思考をまとめてから、続ける。

 

「わかった。続けてくれ」

 

「はぁい」

 

 伊国が証言に戻る。

 

「ここで会ってメグンダルさんとは、それなりに話してたわけで」

 

「待った!」

 

 ここに待ったをかける。

 

「それなりに話した、とは何を話したのだ?」

 

「言えませえぇん。プライベートなものでぇ」

 

 伊国は答える気はないようだ。

 

「後ろめたいことがないのであれば、キミの潔白を晴らすためにも話すべきだと思うのだが」

 

Objection!! だからあぁ、プライベートなんですってぇ、しつこいですよぉ」

 

 髪の毛をかきあげ、挑発するような笑みを浮かべてみせる。

 

「わかった。それに関してはもういいので、続けてくれ」

 

「はぁい」

 

 証言に戻る。

 

「でも寝むそうだったので、少し話しただけで帰りましたぁ」

 

待った! 少し話したが、それで帰ったと。置時計に関しては、その時に聞いたと主張するのだな?」

 

「はぁい。実際に、あの置時計が時間を告げるところも見せてくれましたぁ、『今は12時だとワトソンは思う』って。それが印象に残っちゃったんでしょうねぇ」

 

「それは少しおかしくはないだろうか」

 

「何でですかぁ? 私が嘘を言っているとでも?」

 

 その言葉を御剣は首を左右に振って否定する。

 

「違う。キミはおそらく、本当に聞いたであろう事を言っている。これに関しては、な」

 

「なら問題ないんじゃないですかぁ」

 

「いや、問題はキミが休憩室に入った時間だ。監視カメラによると11時59分だ。ワトソン像が時間を告げたというのは、12時。この間はわずか1分しかない」

 

「……それが何かぁ」

 

「そのわずか1分の間に、会って話してワトソン像の説明をメグンダルさんから聞いた。いくら何でも時間が足りなすぎるのではないだろうか」

 

「……っ!」

 

「念のために言っておくが、この置時計の時間がずれているということもない。現在時刻とピッタリ同じだということも確認ずみだ」

 

「……」

 

 痛いところをつかれたと思ったのか、伊国の眉間がぴくりと動く。

 

「おそらくだが、キミは部屋に入って会話もせずにメグンダル氏を近くにあった凶器で殴りつけたのだろう。その時に、おそらくキミは聞いたのだ。置時計の言葉を。だから印象に残ったのではないか?」

 

「勝手な推測で言ってくれますねぇ」

 

 だが、それでも致命的なものではないと判断したのか、表情を戻してくる。

 

「絶対に不可能だって言えますかぁ? とにかくぅ、私は、その1分足らずの時間でメグンダルさんと会って置時計の事を聞いたんですぅ」

 

「……ムぅ」

 

 あくまでそう主張するつもりか。

 

「でも、それだと伊国さんと話していた時にはメグンダルさんは生きてた事になっちゃいますよね?」

 

 伊国の言葉に、高木がつぶやくように言う。

 

「そうですねぇ」

 

「何だよ、俺じゃねえぞ!」

 

 そうなると、必然的に犯人となってしまうのはただ一人だ。

 周囲からの視線を受け、荒井木が叫ぶ。

 

「落ち着き給え」

 

「落ち着いてられるかよ!」

 

「怖いですねぇ、やっぱこのヒトが犯人なんじゃないですかぁ」

 

 怒鳴りだす荒井木に、伊国が煽るように言う。

 

「何だと!」

 

「だから落ち着けと言っている」

 

 御剣が威圧するように、二人を睨む。

 不穏な空気が場に漂いかけた時、

 

「ねえねえ」

 

 場違いともいえる子供の声が響く。

 

「こ、コナン君。どうしたんだい?」

 

「あのさあ、確か凶器には誰の指紋もついてなかったんだよね?」

 

「そ、そうだけど」

 

「それでその凶器の考えるワトソン像って、荒井木さんが伊国さんに渡したものなんだよね?」

 

「あのぉ、それがどうしたって言うんですかぁ?」

 

 その会話の意味を察せなかったらしく、苛立った様子で伊国が訊ねるが、

 

「そういう事か」

 

「え、それがどうしたんスか?」

 

 納得している様子に、いまだに察せない糸鋸が問いかける。

 

「その置時計は、平井さんが頼んで荒井木警備員が渡したものだ。当然、彼の指紋がついていてもおかしくないものだ」

 

「そうか! もし、荒井木さんが犯人ならばわざわざ指紋をふき取る必要などないな。どうなのかね、伊国さん!」

 

「……く」

 

 御剣の言葉に納得した様子で様子の目暮とは裏腹に、痛いところを突かれた伊国は目を剥く。

 だがそんな中、別のところが気になった御剣がコナンに訊ねる。

 

「そ、その。何だコナン君。誰の指紋もついていなかったという話はどこから聞いたのかな?」

 

「親切な刑事さんに教えてもらったんだ!」

 

「む、むウ……」

 

 顔を引きつらせ、眉間にしわをよせつつ、糸鋸の方に視線をうつす。

 

「じ、自分じゃないッスよ!?」

 

「……そうか」

 

 よもや、糸鋸に匹敵する刑事がいるとは思わなかった。

 喉元までこみあげられた言葉を御剣は飲み込んで見せた。

 

「と、とにかくだ。伊国さん。彼の言う事ももっともだ。もし、平井さんや荒井木さんが犯人なのだとしたら、指紋を拭き取る意味がない。拭き取る必要があるとしたら、指紋がついていたら不自然な人物。そしてそれは、今回の事件の容疑者の中で――キミしかいない」

 

「!!?」

 

 御剣の指摘に、伊国は改めて苦悶の色を顔に浮かべる。

 

「う、あぁ……その……く、くう……」

 

 しばし唸るようにしてから、顔を伏せる。

 

「い、伊国さん?」

 

Objection!! あのおおぉォォ!! いちいち、細かいことおおぉぉ、うるさいんですけどおぉ」

 

「そ、その。落ち着いてくだ」

 

「あのぉぉ、やかましいんですけどぉ、foolでidiotでstupidな愚者があああぁぁ!!」

 

 さらに騒ぎたてる伊国を宥めるようにした高木を怒鳴りつけると、先ほど以上に眉を逆立てて、御剣の方を睨みつけた。

 

「あのぉぉ、だからぁ、取引だかなんだか知りませんって。メグンダルさんとはホント―にただの友人ですからぁ」

 

「あくまで、殺人はもちろん取引とも無関係だと主張するのか」

 

「はい、そうですぅ、どうしてもっていうのであればぁ、私が取引とやらの相手だったっていう証拠でも示してくださぁい!!」

 

「証拠、か」

 

 指をつきつけ、まくし立てる伊国の言葉に対して御剣はつぶやく。

 

「御剣検事、あのボーイの証言はどうッスか?」

 

 糸鋸の言葉に、御剣は首を左右に振る。

 

「いや、残念だがアレでは足りない。彼が聞いていたのは被害者の方の話だけだ。着信履歴で通話相手だということまでは証明できても会話の内容を録音していたわけでもない以上、聞き間違いだったとでも主張されればそれまでだ。あのボーイの証言だけでは、彼女が取引の相手だったという証拠としては弱いだろう」

 

「そッスか……」

 

 残念そうに言う糸鋸をよそに、御剣も思考を進める。

 

(決定的な証拠、か。残念だが現状でそれはない。ならば証言を引き出させてもらう)

 

 物的な証拠に乏しく、決定的なものはない。

 

 思い出すのは、あの男と再開をし、検事と弁護士として対峙することになったあの事件の二日目。

 あの男は自分自身が被告となってしまったという事もあり、まともに証拠品で戦うのも難しかった。

 そんな中、犯人である証人のムジュンをつく事によって、犯人しか知りえない致命的な失言を引き出してみせた。

 

「――フ」

 

「何ですかぁ、その笑い方は」

 

「伊国さん、一ついいだろうか」

 

「はぁい、何ですかぁ?」

 

「あなたの所持品、もう一度調べさせてもらいたい」

 

「はぁ? なぜですかぁ。だいたい、さっき話していたじゃないですかぁ、私が取引するようなものをまだ持っている可能性は低いって」

 

「逆だ。キミがメグンダル氏の方が用意していたものの方を抜き取っている可能性が出てきているのだ。それを踏まえてあらためて調べたい」

 

「え? 御剣検事、でもそれは」

 

 口をはさみかけた糸鋸を目で黙らせてから、続ける。

 

「どうだろうか? 伊国さん」

 

Objection!! なんでですかぁ、断りますよぉ」

 

 伊国が強く拒絶してくる。

 

「ほう、なぜだ。キミの潔白の証明のためにもぜひ、改めて調べさせてくれ。そうだ。キミは確かノートパソコンを持っていたな」

 

「はあ? まさか、そのノートパソコンの中にデータをうつしたとでも言う気ですか?」

 

 きっと睨むようにして続ける。

 

「ほう」

 

 ――もう少しだ。

 

 引っかかったことを確信しつつ、もっと決定的な言葉が飛び出すのを待つことにする。

 

「あのおおぉぁっっ! 第一、そんな事しなくても証明できますよぉぉぉ! だったら、あれを調べてみて欲しいんですけどぉぉぉぉ!!」

 

「ほう、何をかな?」

 

 悠然とした仕草で返す御剣に、伊国が唾をとばして叫ぶ。

 

「それはもちろん、監視カメラですよぉ、私ぃ、休憩室を出てからはずっと会場内にいましたから、ちゃんとうつっているはずですよぉ?」

 

「ふむ。それで何が証明できるというのかな?」

 

「何も決まってるでしょう。この会場に来てからぁ、事件があってから一度もノートパソコンなんていじってないところですよ」

 

「ほう、ノートパソコンをいじっていないと何が証明できるというのだ?」

 

「だからぁ、決まっているでしょう、USBメモリの中身を確かめたりデータを移したりなんてていまいませんからああぁぁ!!」

 

 ――とらえた。

 

「……フ」

 

 その言葉に、御剣が小さく笑みを浮かべてみせる。

 

「な、何ですかぁ、その笑みは」

 

「……チェックメイトだ、伊国めぐる」

 

「あ、あのぉ、何がですかぁ」

 

「キミの探していたUSBメモリというのは、コレの事だろうか」

 

 そういって、御剣がさきほどあのワトソン像から取り出したUSBメモリをつきつける。

 

「あ、そ、それは……」

 

「そう。コレはつい先ほど見つかったばかりのものだ。我々もメグンダル氏が何を用意していたのかなど知らなかった。捜査関係者でも、私とこのイトノコギリ刑事のみ。それ以外でこれを知っているのは――取引の相手、すなわち、メグンダル氏からコレを奪おうとした犯人、そのものだ!」

 

 宣言するようにつきつけた御剣に対し、

 

「あのぉ、これ、は。その、ぐしゃで、ぐしゃで、ぐしゃぐしゃな……」

 

「何か、反論は?」

 

 最後のとどめとばかりの一言に、言葉に詰まった後。

 

「あのぅ、あのぅ、おお、のー……」

 

 それでばたり、と倒れこんだ。

 

 

「……以上、だ」

 

 

 それを見て、優雅に一礼してみせた。

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