名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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今回はコナンサイドになります。
コナン世界のミッちゃん登場。



FILE.12 ニセモノ

某月某日 某時刻 群馬県 某所

 

 

 

「……つまり、以上の事から犯人はあなたという事になるのですよ」

 

 探偵の宣言するような声に、集った人々がある人物の方をいっせいに見る。

 

「ち、ちが……私じゃないっ」

 

 必死に探偵の言葉を否定する声。

 だが、探偵は聞く耳を持たずにさらに畳みかける。

 

「ククッ……! あまりに無様。この名探偵・毛利小五郎の漆黒の脳細胞から逃れる事はできないというのに」

 

「そうですよ。毛利さんが言ってくれちゃったみたいに、あなた以外に犯人は考えられないんですよねえ、これが」

 

「そ、そんな。無茶苦茶ですっ」

 

 必死の思いで叫ぶようにいうと、一人の相手を指さして糾弾するようにいう。

 

「だから、その人こそが犯人ですよ! 私なんかより、ずっと怪しいじゃないですかっ」

 

 そんな思いを込めた言葉であっても、周囲の人間たちはその言葉に、心を動かした様子はない。

 

「オーホッホッホ!! 無駄ですわぁ」

 

 指摘された人物からかばうように、弁護士がその前に立ちはだかる。

 

「この方の無実は、さきほどアタクシが証明したばかりですもの。もうお忘れですの?」

 

「だ、だから……」

 

「まったく、見苦しい人ですねえ、あなたも。やらかしてくれちゃったことは仕方がないとして、しっかりと罪を認めてくださいよ」

 

「違う! だから、私じゃないんですってっ」

 

 再びの叫びは無視され、刑事は呆れたように続ける。

 

「だから無駄ですって、こちらの名探偵・毛利小五郎さんが推理してくれちゃったように、犯人はあなた。これは間違いないんですって、それに」

 

 そういって、弁護士の方を示し、続ける。

 

「今回は毛利さんだけでなく、法曹界の女王のお墨付きです。さらに間違いありませんよ」

 

「その通りだよ、山村警部」

 

「はい! いやー、自分も毛利さんの領域に少しは近づけたかなー、とか思うんですよ」

 

「ククッ……。間違いねえ、お前さんはこの俺様の領域に確実に近づいているぜえ」

 

 そう言って、探偵は葉巻を加え、火をつける。

 

「この名探偵である俺様の領域は、決して人の手では届かねえ、高く遠いところにある。だが、お前はその領域に確実に近づいてる、ククッ、誇りに思うがいいぜえ」

 

 煙を吐き出した探偵に、弁護士が抱き着く。

 

「オーホッホッホ、素敵ですわあ、ダーリン!」

 

「ククッ……。そうくっつくなよ、ハニー。お前さんもなかなかのものだったぜえ。それでこそ俺様のマイハニーだ」

 

「オーホッホッホ、嬉しいですわあ。マイダーリンっ」

 

「いやー、まさにおしどり夫婦って感じですねえ」

 

 笑みを浮かべて刑事は続ける。

 

「前にお会いした時は、もしかして奥さんとの仲が悪いのかなあ、なんて思っちゃったりしましたけど、いつの間に仲直りされたんですか?」

 

「ククッ……。山村警部、お前さんも野暮な事を突っ込みなさんな」

 

「そうですわあ、ダーリンとは永遠にラブラブですもの」

 

「いやー、本当に仲がよろしいんですねえ」

 

 そういって、口づけをしあう二人を見てから、再び刑事は犯人だと指摘された相手の方を向く。

 

「私は本当に違――」

 

「さ、往生際が悪いですよ、もうとっとと逮捕しちゃってください」

 

 刑事は聞く耳を持たずにそれだけを言い放つと、左右から部下の刑事たちがでてきて、その両腕に手錠をはめた。

 

 ――カチャッ!

 

 手錠をかけられる冷たい音だけが、その場に響き渡った。

 

 

 

 

某月某日 午後7時48分 毛利探偵事務所前

 

 

 

 タクシーが、毛利探偵事務所前に止まる。

 

「いやあ、今回も何があったのか覚えてねえなあ。ずっと眠ってたみたいだぜ」

 

 毛利小五郎が、タクシーから降り、江戸川コナンがそれに続いた。

 

(そりゃそうだよ、あんた今回は本当に寝てただけだし)

 

 結局、推理は御剣検事がしてくれた事もあって、眠りの小五郎どころかただの毛利小五郎も出番なし。

 この男は終始、バーで酒を飲んで寝ていただけだった。

 

(さてと、どうっすかな)

 

 風見刑事の乱入により、犯人は引っさらわれてしまった。

 その事に思う事がないわけではない。

 

(この件について、安室さんに聞いてみたいけど、はぐらかされちまいそうだしな)

 

 喫茶ポアロの店員にして探偵。そして、コナンにとって宿敵ともいえる組織の構成員であり、公安の潜入捜査員。

 あの風見の上司でもある男だ。

 

 そんな安室透の事を考える。

 彼は敵ではない。

 だが、純粋な味方とも言い難い相手だ。

 

 どうすべきか、とコナンが思った次の瞬間。

 

 

「コラアアアアアアッッッッッッッッッ!!!!!!」

 

 

 不意に、事務所前から怒鳴り散らす声が響く。

 

「え?」

 

 どすどすと足音が近づくと、大柄な男が近づいてくる。

 黒いスーツに、オールバックの髪型に、顎ヒゲ。

 堅気らしさの微塵もない、強面の男だった。

 

「オンドレが、毛利小五郎かいっ」

 

「は、はいっ……? あんた誰です?」

 

 急な事態に目を白黒させつつも小五郎はその男を見る。

 そして、胸倉を掴むようにすると睨みを聞かせた。

 

「オンドレェェェェッッッ!!! どういうつもり何やっ」

 

「い、いや。急にそんな事言われましても……」

 

 ガタイのいい大男に凄まれ、困惑する小五郎に畳みかけるように、大男が続ける。

 

「ワイのオーキッドちゃん、逮捕させるたあ、何考えとるんじゃあああああッッッッッッ!!」

 

「い、いや、だから、そんな事言われても。そもそも誰なんスか、あんた」

 

「なんやとおおお、ワイのオーキッドちゃん、オンドレのヘボ推理のせいで逮捕されたっちう話やないか、それやのに、何すっとぼけんのかあああああッッッ!!!」

 

「だ、だから、何の事だか」

 

「ああああんん!!! あんまええ加減な事言うとると、セメントで足固めて沈めたるでえ!!」

 

 さらに凄むようにいう大男に、気圧されるようになる小五郎。

 そんな中、冷静な声が入ってくる。

 

「先生。そのように凄まれては話せるものも話せないかと」

 

 年齢は、『江戸川コナン』と『工藤新一』の中間といったぐらいの少年だ。

 金色の長めの髪の毛が背後でまとめられており、透き通るような碧眼の瞳がこちらを向いている。服装も緋色のスーツと、蝶ネクタイと育ちと品の良さが伝わってくるものだった。背筋はぴんと伸び堂々とした仕草が良い意味で子供らしさをまるで感じさせない。

 

「こちらは、ベイカー王国で探偵をしておりますドラコ・アケチ先生。自分は彼の助手のような事をしておりますエドガー・コバヤシと申します」

 

「は、はあ」

 

 年齢不相応なほどに落ち着き払った様子のまま、丁寧な口調で少年――エドガーは答える。

 

「それで、その二人の探偵さんが何の用でおじさんに?」

 

 少なくともドラコという男よりは話が通じそうだと判断して、重ねてエドガーにコナンは問いかける。

 

「今回、さる用件でこの国に来たのですが、別件で先生のフィアンセであるオーキッドという方もすでにこの国に来ておられました。その彼女とは、明後日には東京で合流する予定だったのですが、つい先ほど群馬県にある別荘で逮捕されたという連絡があったのです」

 

「群馬県で?」

 

「はい。何でも、毛利小五郎という方の推理によってそうなったと」

 

「は、はあ?」

 

 ここでドラコに胸倉を掴まれていた小五郎がようやく口をはさむ。

 

「いや何で俺が群馬にいた事になってんだよ」

 

「そうだよ! おじさんはさっきまでずっとこの米花町のホテルにいたんだよ?」

 

「せやかて、群馬県警の山村っちう警部が言うとったでえ」

 

 恫喝するように凄むドラコに、引き気味となるも、情報を引きだすべく重ねて質問をする。

 

「山村警部が?」

 

 自分たちの知る名前が出てきて、思わずひるむ。

 

「はい。毛利探偵と、その奥方が真犯人を告発したと」

 

「おいおい、英理のやつまでいたってのかよ」

 

 毛利小五郎が偽物ならば、当然、その自称妃英理も偽物だろう。

 どう考えても、偽物の毛利小五郎などと一緒に推理ショーを楽しむような人物ではない。

 

「せやでえ、夫婦でそろってワイのオーキッドちゃんいじめたっちうとったでえ」

 

「だからあ、俺はそんなの知らないってのっ」

 

 謂れのない罪を着せられてはたまらないとばかりに、小五郎は反発する。

 だが、相手も納得する様子はない。

 

「とぼけるっちうんかい!」

 

「ですが、先生。毛利探偵は今ここ東京にいます。連絡のあった群馬県とはそれなりに距離がありますし、彼らの言っている事は正しいのではないかと」

 

 エドガーの言葉に、一瞬ドラコも言葉に詰まる。

 

「ねえねえ、その人が逮捕されたっていう連絡があったっていうのはいつの事?」

 

「つい1時間ほど前の事です」

 

 コナンの質問にエドガーが答える。

 

「だったら、間違いなくおじさんはホテルにいたと思うよ。疑うならホテル・バンドー・ベイカの監視カメラの映像を見せてもらえばはっきりわかるよ」

 

 事件が発生していた時は一緒にいたわけではないが、密かに抜け出して群馬にまで出かけていた――などとはさすがにありえないだろう。

 

「せやかて……」

 

 なおも不満げにするドラコだが、こちらが嘘は言っていないとわかってきたのか、先ほどまでの勢いがやや削がれているようだった。

 

「けどなあ、ニセモノっつっても、山村のヤツとは何度も会ってんだぞ。いくら何でも俺を間違えねーだろ」

 

「でもさあ、あの山村警部だよ?」

 

 通称・群馬県警のヘッポコ刑事。

 色々な意味で、頼りにならない人物であり、コナンにとって唯一、麻酔針を打ち込んでも問題がないと判断できる刑事だ。

 

 以前にも偽の毛利小五郎が出た事件があったが、その際には死体とはいえ本物と勘違いしたりもしている。

 普通の刑事ならば、ありえない失態だが――山村ならばありえる。

 

 小五郎もそれはわかっていたのかぬう、と呻くようにする。

 

「けど、オンドレ、オンドレがぁ……」

 

 なおも諦めきれないようにぶつぶつと呟いているドラコに、補足するようにエドガーが言う。

 

「失礼。先生は、日本の任侠ものの大ファンでして。そういった類の作品で日本語を覚えたもので、少しばかり言葉遣いが独特なものとなっております。失礼な日本語を用いておりますが、なにとぞその無礼をお許しを」

 

「は、はあ」

 

「なあオンドレぇ、ホント―に嘘やないやろなあ……」

 

 先ほどまでの勢いはなくなったものの、まだ疑いは残っているのかマフィアか何かに見える風貌のままドラコはこちらを睨む。

 

「あー、とにかくだ。少なくともその群馬に出たという毛利小五郎は俺じゃねえ」

 

「ホントやろなあ、嘘やったら、瀬戸内海に沈めて東京湾の魚のエサにしたるでえ……」

 

 瀬戸内海に沈めても東京湾の魚のエサにはならないと思うが。

 先ほどの言葉が正しいなら、地名の事などはよくわからずに覚えた日本語を使っているだけかもしれない。

 

「あ、あのさあ」

 

 そんな二人にコナンが話しかける。

 

「とりあえず、中で話してもらったら? おじさんだって、ニセモノのおじさんとおばさんの話、聞いた方が良いでしょう?」

 

「ん? ああ、そうだな。とにかくだ。アンタらも事務所の中に入ってくれ」

 

 残念なことに、というべきか。

 毛利小五郎の名も、妃英理の名も、騙るだけの価値が十分にある。

 その偽物の毛利夫婦が何をしたのか、詳しく確認しておいた方が良さそうだ。

 

 毛利探偵事務所の中に二人を移動するよう促した。

 

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