名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.13 群馬の名(物)警部

『いやー、アレがまさか毛利さんのニセモノだったとは。驚いちゃいましたよ』

 

 毛利探偵事務所の中。

 机の上に置かれ、スピーカー状態となったスマホがある。

 その通話先は、群馬県警の山村警部だ。

 

 あはは、とあっけらかんとした様子の声が聞こえてくる。

 

「あのなあ」

 

 呆れたように小五郎が、通話先の山村に言う。

 

「お前、何度も俺と会ってんだろうが。なのに、どーしてそんなパチモンと間違えんだよ」

 

『そうは言われましてもねぇ。何か「?」みたいな感じというか違和感はあったんですが、何となく勢いで押し切られちゃいまして』

 

 とりあえず、群馬県警の山村警部と連絡を取り、偽毛利夫婦の件が事実だとウラが取れ――こうして今の状況となっている。

 

「あの、山村警部」

 

『ん? 何だい』

 

「そのおじさんとおばさんのニセモノってどんな感じの人だったの?」

 

 どこぞの怪盗のように本物そっくりの外見――でなくても山村ならば騙せそうではあるが念のため聞いてみる。

 

『うーん、そうですねえ。毛利さんの方はいつもの安そうなタバコよりも高そうな葉巻を咥えちゃってましたねえ。それで、『ククッ』とか『この俺様の漆黒の脳細胞が~』とか言ってくれちゃっていまして、何だか普段よりもキザっぽいなーとは思いましたけど』

 

 話を聞く限り、明らかに別人にしか聞こえない。

 

「そ、そう。それでおばさんの方は?」

 

「そうだぞ山村。英理の方はどうだったんだよ」

 

 小五郎の問いに、「うーん」と指を額に当ててから、

 

『えっとですねえ、そっちはオーホッホッホとか高笑いしちゃってて』

 

「本物そっくりじゃねえか」

 

『何というか、すっごい高飛車というか、上から目線って感じっていうか』

 

「本物そっくりじゃねえか」

 

『それで、毛利さんのニセモノには「マイダーリン♡」って甘えててものすっごいラブラブだったわけですよコレが』

 

「……完全にニセモノじゃねえか」

 

 山村のいう偽妃英理に対して、途中までは肯定しつつも最後の言葉に盛大に否定して見せる。

 

「んじゃ、俺もそっち行くからとりあえずそのニセモノ連中を拘束しておいてくれ」

 

『いや、もう帰しちゃいましたよ?』

 

「はあ?」

 

『いやー、「クッ……事件が俺様を呼んでいるぜえ」とかかっこよく言ってくれっちゃってましたので』

 

「それでそのまま帰しちまったのかよ」

 

『はい! 残念ながら』

 

「コラアアアアッッッッッッ!!!! オンドレェ、何してくれとんのじゃあああッッッッッッ!!!!」

 

 これまで黙ってやり取りを聞いていた、ドラコがとうとう口を挟んだ。

 いや、苛立った様子ながらもなんだかんだで我慢して聞いてくれてはいたのだ。

 派手に机に乗ったものが飛び交う。

 が、構うことなくスマホに顔を突きつけて、怒鳴り散らした。

 

「オンドレエエエエッッッ!!! あんまりふざけた事ぬかし続けると足をセメントで固めて沈めたるでええッッッ」

 

『ちょ、な、何ですか貴方は』

 

 通話先の山村もその気迫に慌てたような声が伝わってくる。

 

「オンドレが捕まえたオーキッドちゃんのフィアンセじゃいッッ!」

 

『え? あー、アナタがアレですね。群馬県警の方に脅迫電話かけくれちゃっていう犯人のフィアンセさんっていうのは』

 

「なんやとおおおッッッ!!! 脅迫電話やてえええッッッ! あんまふざけた事抜かしよると瀬戸内海に沈めて東京湾の魚のエサにしたるでえッッッ!!! ガタガタ抜かしとらんで、とっととオーキッドちゃん釈放せんかいッッ」

 

『な、何ですか警察を馬鹿にしてくれちゃってるんですか? 我が国は法治国家なんですから、そのような不当な脅しには屈しませんよ!?』

 

 ニセモノに騙されての誤認逮捕の方がまずいとは思うが。

 まあ、彼らに任せておいては話が進まない。

 そう考えたコナンは口を開く。

 

「ねえ、それよりも事件の事を聞いたら?」

 

 そもそも、今回の事件に関してはまだ何も聞けていない。

 単にニセモノの毛利夫婦が出たという点と、オーキッドと呼ばれる人物が逮捕されたという点ぐらいだ。

 

「先生、とりあえず話を聞いてみたらどうでしょうか?」

 

 黙ってやり取りを見ていたエドガーも賛同を示す。

 

「そ、そやなあ。けど、あんまふざけた事抜かしおると、ホンマにセメントで足固めて沈めたるでえ……」

 

 なおも苛立ちを隠せぬ様子ながらも、一応は話を聞いてくれる体勢になる。

 

「あー、とにかくだ。山村、事件の概要を頼む」

 

 とにかく話をまとめるように、小五郎が先を促す。

 

『えーとですね、事件現場はここ――団財次長さんの別荘で発生しました』

 

「ねえ、その人って検事局の副局長さん?」

 

 コナンの言葉に、通話先の山村が答える。

 

『そうそう! だからさあ、検事局の御偉方って聞いて僕、驚いちゃって。緊張したなー、もう』

 

 へらへらとした、緊張感の欠片もない声が通話先から聞こえてくる。

 それにイラッとした様子をドラコが示すがそれでも、話を聞いてはくれるようだ。

 

『それで、その団財副局長の別荘で、司法関係者の人たちを集めての内々でパーティしていたみたいでして』

 

「被害者の人の名前は?」

 

『えーとですねぇ、名前は半庭康夫(はんにわやすお)。招待客の一人で、個室にいたところを殺害されました』

 

「個室?」

 

『ええ。ほとんどは、ただパーティに招かれただけのお客さんでしたけど、一部の参加者は団財副局長と仲良しさんだったらしく、そのままお泊りする予定だったらしいですよ? それで、被害者の半庭さんはその個室にいたとこを殺されちゃったみたいですね』

 

「オーキッドって人は?」

 

『その仲良しさんグループじゃなかったみたいだよ。それで、出入りが禁止されてたところに入り込んでくれちゃってたみたいでね。殺人の方は否定してるけど、そっちは認めてるよ』

 

「その理由は何て?」

 

『黙秘。なーんもしゃべらないよ』

 

 コナンの問いに山村が答える。

 そして、それが疑われた理由か。

 担当刑事が山村だとかニセモノの毛利夫婦の推理などはともかく、オーキッドという人物が疑われる理由が一応あったという事か。

 

『それに、しっかり犯行の瞬間を目撃してくれちゃってた人もいましたからねえ。偽毛利さんの件がなくても、逮捕されてたと思いますよ』

 

「その目撃者の人は?」

 

『ちゃーんと、留めてあるよ。明後日の裁判でも証人として出てもらう必要があるしね』

 

 正直、偽毛利夫婦の方も留めておいて欲しかったのだが。

 とにかくもうそれは言っても仕方がないとして、裁判の日程を確認する。

 

「ねえ山村警部。裁判は明後日?」

 

『そうだよ、もう夜は遅いし明日一日は捜査してから裁判は明後日って事になってるよ』

 

 序審裁判が日本でも導入されてから、とにかく裁判は早い。

 逮捕の翌日、あるいは翌々日には裁判。それを最長三日で。もし、オーキッドという人が本当に冤罪ならばかけられる時間は短い。

 

 こうなった以上、実質的に捜査にかけられるのは、明日一日だ。

 明日には群馬に向かうことを伝え、通話を終えた。

 

「あー、とにかくだ。ちゃんとこの本物の毛利小五郎様が調べてやるからあんたらも心配すんな」

 

 小五郎からしても、勝手に名前をニセモノに使われた事には不満を持っていたらしく、珍しいことにやる気をみせていた。

 

「ホント―やろなあ、オンドレぇ……」

 

「まあ、任せろ。この本物の名探偵・毛利小五郎様の実力を見せてやるからな」

 

 ナーハッハ、と舌を出して笑う小五郎に少し不安そうな表情を浮かべつつも、ドラコは呟く。

 

「はあ、オーキッドちゃん、ホンマに大丈夫やろか。心細くなっとらんか心配やで」

 

「ねえ」

 

 とコナンはドラコ――ではなく、エドガーの方に話しかける。

 

「そのオーキッドって人がドラコさんの婚約者なんだよね?」

 

「はい。フィアンセです。歳の差はありますが」

 

 先ほどからの口ぶりからして、何となくそんな気はしていた。

 重ねてコナンは訊ねる。

 

「えっと、それでその人はいくつなの?」

 

 エドガーが答えるよりも先に、ドラコが答えてしまった。

 

「22や」

 

「えと、それであんたは?」

 

「42や。それがどうかしたんかい。愛に歳の差なんて関係あるかいな」

 

「そ、そうか」

 

 小五郎は20歳差と聞き、少し引き気味の表情を浮かべてみせる。

 

「何やあ、オンドレ。ワイがオーキッドちゃんのフィアンセで何か文句でもあるんかいない」

 

 ギロリ、と小五郎をドラコは睨みつける。

 

「い、いやあ、そんな事ないスよ」

 

 完全にマフィアの幹部か何かにしか見えないドラコが、顔を近づけ威圧するような仕草だ。

 

 そんな二人を無視し、情報収集をコナンは続ける。

 

「それで、エドガーさん達は探偵だって言っていたよね? そのオーキッドって人もそうなの?」

 

「いえ、彼女はまだ学生です。将来的には司法関係の職に就く気でおり、日本に留学していた事もあります」

 

「ほー、学生ねえ」

 

 それを聞いて小五郎は少し眉を顰めるも、ここには何も言わなかった。

 

「何や、オンドレぇ、ワイらに愛には学生やろうと関係ないんやで。文句があるなら受けてたつでえ……」

 

「いや、文句があるわけじゃねーけど」

 

 それでも目ざとくとらえたドラコにギロリと睨まれる。

 実際、学生結婚云々の話をはじめれば、小五郎と英理にも流れ弾が来てしまう。

 

「ま、まあいいんじゃない、二人ともラブラブなんでしょ?」

 

「そや、よくわかっとるやないかボウズ。ワイとオーキッドちゃんに年齢差なんて関係ないでえ」

 

 コナンの取りなすような言葉に、ドラコはすぐに気をよくする。

 年齢差があるといっても、二人とも成人している以上、他者がとやかく言うような事でもないかもしれない。

 

 この話題には触れないようにして、質問を重ねる。

 

「それで、そもそもそのオーキッドっていう人は何で団財副局長の別荘に? パーティに招かれたって事だけど」

 

 その言葉に、エドガーは淀みなく答える。

 

「申し訳ありません、その辺りは守秘義務で」

 

「そやでえ」

 

 エドガーの言葉にドラコも同意する。

 

(探偵って言ってたし、単に婚約者ってだけの事じゃなくて何かの依頼でこの人たちも動いてるのかもしれねーな)

 

 少なくとも、すぐに話してくれそうな様子は二人にはない。

 

「でも、それを話してくれた方がスムーズにオーキッドさんが釈放してもらえるかもしれないよ?」

 

「そやかてなあ、オーキッドちゃんが望んでへんし……」

 

 そんなコナンの言葉に、ドラコが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

「それじゃあ、おじさん。群馬に行ってみようよ。ニセモノだって人の悪い事暴いちゃってさ」

 

「ん? ああ、そうだな。ニセモノなんてもの許しちゃあ、この名探偵・毛利小五郎の名声に傷がつくってもんだぜ」

 

 自分の名前が騙られたとあってか、今回は小五郎もやる気がある様子だ。

 とにかく、担当刑事が山村である以上、推理力に関しては全く期待できないが、少なくとも小五郎を通して群馬県警の力を借りる必要はある。

 

 前途の見通しは暗いが、とりあえず群馬の事件現場へと向かってみる事にしたのだった。

 




ネタバレにならない補足情報いくつか

この話に出てきているエドガー君と同名の登場人物が黒鉄の魚影に出てきていますが、特に関係ないです。小林先生とも関係ないです。

検事局の局長は逆転検事に出てきた名称不明の人物ですが、海外出張中という設定で本作には原作同様に存在はしていますが出てきません。

本作で妃先生は序審法廷は専門にしておらず、量刑を決める本廷の方を中心に活動している設定です。よって、序盤で少し触れられたように法廷でミッちゃんと面識なしです。
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