名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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うまく先の展開に触れずに返信する自信がなく現在、非常に心苦しいのですが感想返しは控えている状況ですが、皆さまの感想はありがたく読ませてもらってます。

そしてその感想での検事局疑われすぎ問題。

弱味を握られて脅迫受けている局長がいたり、殺人&殺人教唆やった検事がいたり、捏造&殺人に協力した検事がいたり、刑務所での会話を盗聴する検事がいたり、密輸組織に手を貸している検事がいたり、元局長がアレだったり、(この作品では)公安を恨んで都内に大混乱を起こした検事がいたりするくらいなのに…。


FILE.14 弁護士と検事

 ……はあ、はあ、な、なぜだ。

 

 

 なぜ私がこのような目にあわねばならない。

 私の思いなど無視するように、巨大な影が前から迫ってくる。

 

 

「そこまでです! もう、逃がしませぬぞ。御剣怜侍!」

 

 

 なんなのだ! 一体、私が何をしたと言うのだ!

 私の言葉など気にしないように、その影は言う。

 

 

「あなたを生かしておくわけにはいきません」

 

 

 なぜだ! 私はただの検事なのだぞ!

 

 

「問答無用! あなたを検事とは認めません。なぜなら――

 

 

 

 

 

 

 

ミッちゃんはオバちゃんのおムコさんになるんだからねエエエエ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ヌオオオオおおおおおおおっっっっ!!」

 

 跳び跳ねるように、御剣は目を開く。

 

 そして、周囲を確認。

 自分の持つ愛用の真っ赤なスポーツカー――ではなく糸鋸のオンボロパトカーの中だ。

 

「一体なんなのだ、このフザケタ悪夢は!」

 

「どうしたッスか、御剣検事」

 

「い、いや何でもない気にするな、イトノコギリ刑事」

 

 目元を拭いさるようにして、ようやくこの悪夢から覚めたことを確認し、周囲を確認する。

 

(落ち着け、あのようなふざけた悪夢は忘れるとしよう。落ち着いて状況を整理するのだ)

 

 別に記憶を取りこぼすような事はしていない。

 一つずつ、眠気を振り払うと共に思い出していく。

 自分の名前は御剣怜侍。

 検事局の検事だ。

 

 ホテル・バンドー・ベイカで偶然遭遇した事件を解決。

 だが、公安の風見刑事の横槍によって、犯人と思しき女と証拠品は奪われてしまう。

 

 このまま事件から手を引くわけにもいかず、今後も捜査する事を決意。

 まずは彼女の言っていたCI-6号事件から手をつけようとするも、今は情報が少ない。

 ホテルから戻った後、検事局で調べようとしたものの、CI-6号事件関連の情報は全くといっていいほど出てこず。

 

 ほとんど成果がないまま、次の日となってしまう。

 仮眠をとった後、とにかく話を聞いてみるべきと彼女が留置されているはずの、留置所に向かう。

 

 仮眠こそとったものの御剣の疲れを見てとった糸鋸が、自分の運転するパトカーでの移動を提案――そして今に至る、というわけなのだが。

 

 あまり寝ておらず、疲れていたせいか、ついこのようなふざけた悪夢を見てしまったというわけだった。

 

 まったく、と一息ついてから服を整える。

 そしてパトカーの外に出た。

 

 この場所は留置所。

 逮捕されたはずの伊国めぐるが拘留されているはずの場所だ。

 

 その中に向かって、御剣と糸鋸は歩き出す。

 

「あの、御剣検事」

 

「ム? 何だ」

 

「御剣検事は、今回の担当検事というわけではないんスよね」

 

「まあ、おそらくはそうなるな」

 

 あの風見という公安の刑事らに事件ごと取られてしまった以上、口出しできない。

 検事局の団財副局長の口ぶりからしても、自分に担当検事を任せる可能性はほぼないといっていいだろう。

 

「あくまで、私が一個人として会う事になる。拒絶されたら、そこまで。どうにもならない」

 

「あ、ならいっそ弁護士として会ってみたらどうッスか?」

 

「馬鹿を言え。私は検事だ。弁護士ではない」

 

 あっさりと否定する御剣だったが、糸鋸は乗り気だ。

 

「またまた! そうはいっても、以前に弁護士としても活動していたじゃないッスか」

 

「アレはまあ、その何だ。そういうアレだったというか」

 

 確かに二度ほど弁護士として活動した。

 一度目は、冬の川に落ちて風邪をひいた親友の代理として。

 二度目は、かつての父の部下と共に。

 

「とにかく、だ。アレは成り行き上、そうなっただけで私は弁護士ではない。第一、弁護士バッジもなしで活動するわけにもいくまい」

 

「だったらダンボールと絵の具を用意して自分が作るッス!」

 

「無茶を言うな」

 

 呆れて一つため息をついてから、御剣は言う。

 

「とにかく、だ。もう伊国めぐるからは話を聞いておきたい。この留置所にいるのは確かな以上、会って話を」

 

 

「会うのは無駄だと思いますよ」

 

 

 御剣の言葉は遮られた。

 こつこつと足音が聞こえてくる。

 

「だ、誰ッスか!」

 

 人形のように無表情。

 薄い眼鏡をかけた紫色のスーツ姿の女性だ。

 肩まで届くであろう黒髪が後ろに無秩序に伸ばされており、前髪の方は眉にかかる程度で切り揃えられている。まるで視界を最低限塞がない程度で十分といったようだ。化粧っ気はほとんどなく、肌の透明感が際立っていた。ネイルもしておらず、爪は短く切りそろえられていた。派手さは全くないといっていいが、逆にいえばそれほど外見に無頓着でも目鼻立ちの整った顔立ちは静かな美しさを醸し出している。

 そんな彼女の瞳がこちらに向けられる。

 

 

「はじめまして。貫槍華(つらぬきそうか)と申します、御剣検事」

 

 そういって、名刺を取り出して渡して見せた。

 

「貫――聞いた事があるな」

 

「知ってる人ッスか?」

 

「ここ最近、売り出し中の若手弁護士だ。牙琉霧人などと並び天才弁護士などともてはやされているようだな」

 

 どこか皮肉の込められた言葉だ。

 御剣自身、『天才』という呼ばれ方はあまり好んでいない。

 

「ここ最近も、立て続けに無罪判決を勝ち取っていると聞く。随分とご活躍のようだな」

 

「いえいえ」

 

 そんな言葉を受け謙遜なのか、本当に気にしていないのか。

 その無表情からは何も読み取れない。

 

 その無表情のまま片手に持ったグレープジュースの缶を取りだす。

 それを一つ口に含む。

 

「甘みがいまいちですね」

 

 そう言うと、胸ポケットからスティックシュガーを取りだす。

 さらさらと、そのスティックシュガーの中身がグレープジュースの中に入れられる。

 

「み、御剣検事。この人、ジュースにスティックシュガー入れてるッス」

 

「う、うム……」

 

 その奇行に引きつつも、それを飲み干すのを見てから、改めて話しかける。

 

「はい、失礼しました。定期的に糖分を摂取しないと落ち着かないんです。体質です体質」

 

「どういう体質ッスか」

 

「……それで、貫弁護士。会っても無駄だというのはどういう事だろうか」

 

「まあ、そう急がずに。一つ一つ説明していきますので」

 

 飲み干したらしく、空になった空き缶を丁重に近くのゴミ箱へと捨てる。

 

「とりあえず、さきほど自己紹介した通り、私の貫槍華。伊国めぐるの担当弁護士となる予定です」

 

 名刺を取り出し、そう告げる。

 

「いえ、予定だったものです」

 

「予定だった、とはどういう事だろうか」

 

「依頼を拒絶されました」

 

「拒絶、断られたというのか?」

 

 ならばある意味仕方がないといえば仕方がない。

 逮捕された者には、誰であろうと弁護士をつける権利がある。

 そして選ぶ権利もあるのだ。

 

「ええ。ですが、本人とは話すこともできず、刑事さんから一方的にめぐるが私への依頼を断ったとだけ」

 

「それで納得されたのだろうか」

 

「するわけがないでしょう」

 

 どこか皮肉の込められた口調で貫はですが、と続けて言い放つ。

 

「しょせん、私は弁護士風情ですから。検事さんや刑事さんが全力で潰そうとかかってこられたら、どうにもなりません」

 

 そんな傍観の込められた視線を御剣にぶつけてくる。

 

「……」

 

 御剣はそれを見て、ふと父の事を思い出す。

 そして、父が最後に弁護した依頼人の事を。

 その時の相手は、不敗伝説を誇る伝説の検事・狩魔豪。

 父は全力で戦ったが、あの手この手を使い依頼人を追い詰めた狩魔豪の前に敗北した。

 

 本来は弁護士と検事ならば、検事の方が圧倒的優位な立場にいる。

 そんな検事から、続けて無罪判決を勝ち取るという事は極めて難しい事だ。

 

「それで貫弁護士」

 

「何でしょうか?」

 

「その貫弁護士はなぜ私の事を?」

 

「有名ですので。貴方が私風情の事を知っていてくれたように、私も貴方のような有名人を知っていた。それだけの話です」

 

「ム……」

 

 天才検事・御剣怜侍の名は確かに弁護士の間でもよく知られている。

 むしろ知らない方が少ないだろう。

 そう言い放った貫に別の質問をする。

 

「ではもう一ついいだろうか」

 

「何でしょうか?」

 

「伊国めぐるとは知り合いなのだろうか?」

 

 頼まれていないにも関わらず、こうして留置所にかけつけたり、さきほど「めぐる」と名前呼びをしていたということから、何かしらの関係もあると思われた。

 

「小学校時代の友人です」

 

 それに対し、特に否定することもなく貫は答える。

 

「まあ、それだけの仲です」

 

 それだけの仲――というのであれば、こうしてすぐに駆けつけてくるものだろうか。

 疑問には思うも、今度は彼女の方が先に口を開いた。

 

「一つ聞いてもよいでしょうか、御剣検事」

 

「……何だろうか」

 

「御剣検事が弁護士としてこの件を担当するとしたら、どのような戦法で行きますか?」

 

「ム。それは、そうだな。とにかく彼女が犯人なのは明らかなのだ。素直に認め、罪を軽くする方に動くべきだろう」

 

「つまり、本当の勝負は本審の方で、逆に序審では早々と罪を認めるべきだと」

 

「そうだ。もし、有罪無罪を序審で競ってしまえば、罪を認めて反省していると減刑を求める方向性で行こうにも整合性がとれなくなる」

 

 あくまで罪の重さを決めるのが本審だ。

 

「なるほど、御剣検事の考え方は理解しました」

 

 しかし、と言いながら二本目の缶ジュースを取り出す。

 そこに再びスティックシュガーを入れ始める。

 

「ですが私の考えは違います」

 

 さらさらと缶ジュースの中に砂糖が入っていく。

 それを平然とした目つきで見ながら、それを再び口につける。

 

 そして、缶ジュースを片手に持ったまま続ける。

 

「そもそも人が人の罪を裁くこと自体、烏滸がましい事なのです」

 

「何?」

 

「人が人を裁く。ただの人ごときにそんな資格はありません。なので、いいじゃないですか無罪で」

 

 そう結論づけるように告げる。

 

「こ、この人、無茶苦茶言っているッス!」

 

 傍らで呆れる糸鋸に変わり、御剣が言う。

 

「申し訳ないが、私はそうは思わない」

 

「ほう。それはなぜですか?」

 

「確かに、人に人を裁く権利があるかどうか――それはわからない。私は神でもヒーローでもなくただの人間なのだ。かつての私は、被告人を全て有罪にする事を絶対のルールだと考えていた時期もある。だが、それも今の私は否定する」

 

 そのうえで、と御剣は続ける。

 

「罪を犯しても、償わなくても良い。そのような考えだけは絶対に肯定してはならない。そのような考えがまかり通れば、人は何度でも罪を正当化して罪を重ねる。結果として――生み出されるのは新たな犯罪、そして新たな被害者だ。そのようなものが出る事を防ぐことこそが私の、検事の存在意義なのだと考えている」

 

 そんな御剣の答えに対し、貫は「ふむ」と一つ頷く。

 その表情は、決して納得しているようには見えないが、馬鹿にしているようなものでもない。

 ただ御剣怜侍という人間を吟味するような、探るものだった。

 

「……そうですか。御剣検事の考えは理解しました」

 

 二本の缶ジュースを飲み干し、それもゴミ箱に捨てる。

 

「その考えに一定の理解は示します――ですが、やはり私からすれば全面的に受け入れることができない考えではありますね」

 

 そう言ってから、口元をハンカチで拭いてから、「ですが」と続ける。

 

「質問の答えをいただいたお礼として、一つ情報を渡しましょう」

 

「ム……。何だろうか」

 

「私の変わりに、めぐるの弁護を担当するのは、裁井手紅(さばいてくれない)という弁護士です」

 

「裁井手紅――聞いたことがあるな」

 

「どんな人ッスか?」

 

 糸鋸が訊ねてくる。

 

「元検事の弁護士だ。といっても、検事だったのは10年以上前の話。私の新人時代に既に弁護士だった人物だ」

 

 検事から弁護士になるケースは、それなりにある。

 逆に弁護士から検事になるというのは難易度が高く、相当な力量と努力が必要とされる事だった。

 

「だが、彼女は基本的に本審の方が専門のはずだ。私も法廷で対峙したことはないな」

 

 罪の有無を競う序審とは異なり、本審では量刑の重さが争点となる。

 被告人の殺意の有無や、犯行当時の精神状態などが重要な問題となってくる。

 

「ええ。凶悪犯罪者の減刑などで、名高い人物ですものね。この間も、死刑すらありえると言われた裁判だったのに執行猶予つきの判決を勝ち取ったとか」

 

 そういって、どこか皮肉げに笑ってみせる。

 

(ム……。どうしたのだろうか。どこか裁井手弁護士に対しての悪意が見え隠れしている)

 

 その貫の反応に不審に思いつつも、御剣は問いかける。

 

「その裁井手弁護士が今回は、伊国めぐるの序審を担当するのか」

 

「ええ、珍しいことに」

 

 そう言って貫は薄く笑って見せる。

 

「何か話が聞きたいのであれば、彼女に聞いてみたらどうでしょうか? 話してくれるとは限りませんが」

 

 それだけを言い残すと、「それでは」と言って、こちらの言葉も聞かずに立ち去っていった。

 

「行っちゃったッスね」

 

「うむ、何とも妙な弁護士ではあったな。まあ弁護士というのはどこか妙な御仁が多いものだが」

 

「それで、今度はどうするッスか?」

 

「いったん、検事局に戻る。直接、事件に関わっていなかったとしても、当時の事を知っている検事もいるはずだ。今日は知っていそうなベテラン検事にでも話を聞いてみるとしよう。それに、今の貫弁護士の言っていた裁井手弁護士は元検事。彼女についても検事局で話を聞いておきたい」

 

「了解ッス! 全力でパトカーを飛ばすッスよ!」

 

「……まあ、悪夢を見ないような運転で頼む」

 

 とにかく、今、手に入れた情報を脳内に仕入れ、御剣は再び検事局へと戻る事にした。

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