名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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DL6号事件発生日となる12月28日の投稿になります。


FILE.18 犯人は

「どうも、はじめまして。古逸賀安代(こいつがやすよ)と申します」

 

 そう言って出てきた女性は、黒いブラウスに赤色のフレームの眼鏡をつけた30半ばほどの女性だった。

 長めの髪の毛を後ろで束ねている。不安そうにその髪の毛をいじっている。

 

「被害者の半庭さんの事務所で働いている弁護士だそうです」

 

 山村が、そう補足するように説明する。

 

「おお、それはそれは」

 

 色気のある女性のためか、小五郎はご機嫌な様子だった。

 それを呆れたようにコナンは横目で見る。

 

 年齢が近く弁護士、それに眼鏡といった特徴は、小五郎の妻である妃英理との共通点が多い。

 以前にそういった女性に対し、小五郎の美人センサーが反応しなかった事もあるが、彼女の場合は顔や雰囲気はさほど似ていなかったせいか問題なかったようだ。

 

「古逸賀さん、こちらが本物の名探偵の毛利小五郎さんです」

 

「そ、そうなんですか」

 

 そう言って、古逸賀が小五郎の方に近づいてくる。

 おどおどとしたその仕草だが、小五郎は庇護欲を掻き立てられたのか機嫌をよくする。

 

「いやあ、はじめまして! 私こそが名探偵の『本物の』毛利小五郎です」

 

 あえて『本物』のところを強調してみせる。

 そんな小五郎に対し、古逸賀はじっくりと見つめてくる。

 

「おや、どうしましたか? ニセモノにはない本物の毛利小五郎の魅力に参ってしまわれましたかな?」

 

「い、いえ……」

 

 そんな様子を怪訝に思うこともなく、小五郎は上機嫌な様子で言ってのける。

 そんな時、

 

「あ」

 

 ぽさり、と小さな音が響く。

 古逸賀のつけていた眼鏡が落ちたのだ。

 

「おおっ、これはこれは!」

 

 それを見て、小五郎が眼鏡を拾う。

 

「いやあ、もちろん眼鏡をしててもお美しいですが、素のアナタも素敵ですなあ」

 

 予想以上に好みの顔だったのか、鼻の下でも伸ばしていそうな様子でそれを渡す。

 それに対し「あ、ありがとうございます」と、遠慮がちながら古逸賀が眼鏡を受けとる。

 

「何、デレデレしてんのや。第一、オーキッドちゃんの方が美人やでえ」

 

「んだとお!? 第一、そのオーキッドちゃん自慢は聞き飽きたっつの」

 

「何やと! たかが一日や二日、オーキッドちゃんの話聞いただけで聞き飽きたっちうんかい!」

 

「あのなあ」

 

「オンドレかて、好き女子(おなご)の事を語るのに一日や二日ですむんかい!」

 

「いや、確かに俺だってヨーコちゃんの事語らせたらそんくらいじゃすまねーけど」

 

 そこは自分の妻の名前を出してやれとは思うが、まずそれはありえない。もしそんなことをすれば、それこそコナンはこの小五郎がニセモノである可能性を疑うだろう。

 そんな風にもめごとを始めた二人をよそに、山村にたずねる。

 

「それで、この人が目撃者なの?」

 

「そうだよ。この古逸賀さんが犯行の決定的瞬間を見てたってわけ」

 

「ふむ。決定的な瞬間、ですか」

 

 ここで何やら、裁判長が思案顔になる。

 

「どうしました、チョーさん」

 

「……いえ、いつも決定的瞬間、と言われる証人を連れてこられ、その度に私は思うわけです。これは有罪でしょう、と。それで木槌を振り下ろそうとすると必ず異議を唱えられていたもので」

 

「ダイジョーブですよ、チョーさん。僕もこの人こそが犯人に間違いないっと思っても、大抵違っているので。でも何だかんだで最終的には犯人ちゃんと捕まってますから」

 

 群馬の治安は大丈夫なのだろうか。

 

「ほっほっほ、そうですな。私もすぐに、弁護人や証人に流されるので移り気で浮気な裁判長と言われておりますぞ。ですが、最終的には正しい判決を下せておりますぞ」

 

 この人の裁判は大丈夫なのだろうか。

 

「と、とにかく、その決定的な瞬間っていうのは?」

 

「ああ、まあ。見てました。わたしが」

 

 古逸賀が答える。

 

「ええ、オーキッドさんが犯行の瞬間を見てくれちゃっていたわけですよ。ま、とにかく一つずつ順番に話しますね」

 

 そう言って、山村は手元からタブレットを取り出す。

 

「現場の写真がこれです」

 

 そういって、手元のタブレットを操作して、殺人現場と思しきものを見せる。

 既に警察が到着してから1日経っており、実際の遺体は既に運び出されてしまっているため、こういった形でしかコナンが被害者を確認する方法はない。

 

「あれ、被害者の人がしている眼鏡って古逸賀さんのしているやつと同じものなの?」

 

 被害者――半庭康夫のしていた眼鏡を見て、コナンがそう感想を漏らす。

 似たような、というよりもまったく同じに見える赤色のフレームやその形だ。

 

「ええ、そうですよ。同じ店で買ったものですから」

 

「ああん? じゃあアンタ、被害者と関係があったんちゃうかい」

 

「おいアンタ、そう脅すなよ」

 

 顔を近づけるドラコを、小五郎が止める。

 

「変に疑われるのも嫌なので、先に言いますけど交際していました。けど、数か月前に関係は解消しています」

 

 そんな二人に対し、古逸賀が言う。

 

「ホンマかあ? んな事言って、ウラでは未練がましく付きまとってたんやないやろな」

 

「アンタなあ、それはさすがに失礼だぞ」

 

 小五郎が古逸賀をかばうように言う。

 

「先生。根拠なしでそのような事を発言してはまずいかと」

 

 エドガーもドラコを窘めるように言いドラコは「せやけどなあ」といまだ不満そうながら、

 

「そうですよ、根拠もなく人様を犯人扱いしてはいけませんよ!」

 

 と最後に山村がそう締めるように言うと、さすがに今のはまずかったと判断したのか不満げながらも「……せやな」とドラコは意見を取り下げることにしたようだ。

 

 言っている事は正しいのだが――それはそれとして、山村が言うと釈然としない。

 とにかく、ここで話を逸らす意味も兼ねてコナンは山村の方に訊ねる。

 

「それで、被害者の死因はやっぱり喉のもの?」

 

「ナイフで喉元を刺されての失血死。そのナイフから逮捕されたオーキッドさんの指紋が見つかってるよ。ちなみに、さっき話題になった被害者の眼鏡にも被害者の血液が付着していたみたいだね」

 

「それで、さっきの目撃情報とあわせて逮捕を?」

 

「そうだね。ちなみに、ナイフに関してはパーティ会場で出ていた肉料理を切り分けるためのものだったりするみたいだね」

 

 そこまで言った山村に、ドラコが割り込んでくる。

 

「おう待てや、ヘッポコ刑事。それならオーキッドちゃんの指紋がついてもいてもおかしくないやんけ」

 

「何ですか? そんな事くらいちゃーんと、分かってますよ。ナイフは共用のものだったらしいので、オーキッドさんだけでなくて、被害者の半庭さんやここの古逸賀さん含めた同じテーブルにいた人達の指紋が大量についてましたよ」

 

「せやったら」

 

「話は最後まで聞いてくださいよ。被害者は少し休むといって、部屋に戻ったんですがねえ」

 

「それが何や」

 

 もったいぶった山村の口調にイラッとした様子を見せながらも、ドラコは先を促す。

 

「それが何と! 被害者の飲んでいたトマトジュースから睡眠薬が検出されました!」

 

「睡眠薬やて……?」

 

 ここではじめてドラコの勢いが止まる。

 

「はい、それが逮捕されたオーキッドさんが持ち歩いていたものと同じものだと判明しました」

 

「……」

 

 そこではじめて、ドラコは反論することなく黙り込む。

 

「ねえ、エドガーさん」

 

 ひそひそと、コナンはエドガーの耳元にささやく。

 

「何でしょうか、探偵様」

 

「その、オーキッドって人、いつも睡眠薬持ってたの?」

 

「はい、不眠症気味だからと。持ち歩いていました。もちろん、ちゃんと正規の手順で医者様から処方されたものをです」

 

「そうなんだ……」

 

 とにかく睡眠薬はオーキッドが持っていたもの。

 これは間違いないことのようだ。

 

「けどなあ、勝手にオーキッドちゃんが持ってた睡眠薬を誰かが使っただけかもしれないやろ」

 

 そう言いながらも、先ほどまでと比べると幾分か自信がなさげな様子だ。

 

「まあ、その可能性もありますけどね」

 

 山村はそれを認めつつ、先を続ける。

 

「ですが、被疑者のオーキッドさんはその30分ほど後に被害者の宿泊用の部屋へと向かっています。何か用があったのか、あるいはすでに犯行を決意していたのか! 部屋に入るや否や、半庭さんをグサリ、というわけですよ」

 

「古逸賀さんがそれを見たっていう時間は?」

 

「あ、それはその、12時少し前です」

 

 古逸賀が答える。

 

「監視カメラによると、11時48分に古逸賀さんは二階に行ったみたいですね」

 

 山村が補足するように言って続ける。

 

「そこで、古逸賀さんの悲鳴の後、警備員がかけつけてきて事件が発覚。そのままオーキッドさんも拘束されたみたいだよ」

 

「例のニセモノの二人は?」

 

「この後に出てきたみたい。それで、僕たち警察が出てきてその毛利さんたちのそっくりさんの推理もあったけど、現場の情報なんかからも間違いないだろーなーって事になってそのまま逮捕。そんな流れなわけだよ」

 

 一応の流れは把握できた。

 続いて、もう一つ気になった事を訊ねる。

 

「そういえば、この別荘の持ち主だっていう検事局の副局長さんは?」

 

「団財副局長かい? ああ、あの人ならもう帰ったよ。東京で仕事があるっていうしさ。今はもう東京に戻ってるんじゃないかな」

 

「おいおい、帰しちまったのかよ。いくら検事局の副局長っていっても、もう少し残ってもらえよ」

 

「いやー、僕もそう思ったんですけど、上からも強く言われちゃいましたし、どう考えても副局長が犯人ではなさそうでしたし」

 

「どうして?」

 

「だって副局長のアリバイは完璧だったし」

 

 コナンの問いに山村は答える。

 

「団財副局長は、パーティがはじまってからずーっとお客さんの相手をしていたらしいからね。朝から事件が起きるお昼の時間までトイレにすら行ってなかったみたいだよ。アリバイはこれ以上ないくらい完璧ってわけなんだ」

 

「ああ、それならば間違いありませんぞ。何度か確認しましたが、団財副局長は常に誰かと一緒にいましたな」

 

 パーティに参加していた裁判長からも、補足するようにそう言われる。

 そうならば確かに犯人の可能性はなさそうだが。

 それでも、自分の別荘で起きた事件なのだ。犯人が逮捕されたとはいえ、団財副局長の行動は迅速すぎる気がする。

 

「にしても無責任じゃねーか。いくらアリバイがあるからって、ここは団財副局長の別荘だろ。事件が起きて一日しか経ってねーし、一応は裁判が終わるまでは残るのが筋ってもんだろ」

 

「いやあ、僕に言われましても」

 

 咎めるように言う小五郎に対し、山村は頭を掻いてみせる。

 

(さて、と。とにかく)

 

 一応、事件の流れをコナンは整理してみる事にする。

 まず被害者――半庭康夫が眠くなったとパーティを抜け出した、別荘の二階へと向かったのが午前10時37分。

 そして、オーキッドが11時14分に向かう。

 その34分後の11時48分に、古逸賀安代が行き、彼女の悲鳴で事件が発覚。

 

 あちらは撲殺、こちらは刺殺という違いこそあるものの寝ている被害者をそのスキに――という点ではオサツー・メグンダルの事件と少し似ていた。

 

「けどよう、話を聞く限りアンタのオーキッドさんってヤツも相当に怪しくねーか」

 

「何やとう!?」

 

 小五郎の言葉にドラコは激高するが、確かにオーキッドが怪しいという状態なのは間違いない。

 

「それで動機は? 動機に関してはどう考えているの?」

 

 方向性を変えて、コナンは訊ねてみる事にする。

 

「部屋を荒らしていたみたいだし、何か奪いたいものがあって殺したんじゃないかな」

 

「部屋を?」

 

「部屋中のものに、オーキッドさんの指紋がついていてね。部屋を荒らしたのは間違いなくオーキッドさんみたいだよ」

 

「それで、肝心のオーキッドさんは?」

 

「それに関しても黙秘。なーんにも話さないよ」

 

 状況的には圧倒的に不利。

 にもかかわらず、黙秘しているようだ。

 

 もちろん、本当に彼女が犯人でニセモノの推理が正しい可能性はある。

 だが、もし違ったのならば当然、容疑者の筆頭となるのが彼女――古逸賀安代だ。

 

「でも、被害者の人に睡眠薬を飲ませたって考えなんでしょ? 眠ってるんなら、わざわざ殺す必要何てないんじゃない?」

 

「効き目が薄くて途中で起きそうになったからとかじゃない?」

 

 確かに考えられそうなのはそれくらいか。

 もちろん、本当に彼女が犯人だったらという話になるが。

 

 色々と話は聞いたが、やはり諸々の事を証明するためにも現場の調査も必要となる。

 

「ねえ、おじさん。肝心の現場を見せてもらったら? おじさん、本物の名探偵なんだし、何かわかるかもしれないよ?」

 

 そう持ち上げるよう小五郎に言う。

 

「ん? ああ、そうだな。ニセモノなんかと違う本物の毛利小五郎様の実力ってヤツを見せてやるとしよう!」

 

「おお、それは頼もしいですなあ。眠りの小五郎の名推理、生で是非見たいものです。孫たちにも自慢できそうですぞ」

 

「ええ、この眠りの小五郎の実力をお見せしましょう!」

 

「ふふん、チョーさんもびっくりしますよ。毛利さん、まるでホント―に眠っちゃるみたいですから」

 

「ほうほう、それは頼もしいですなあ」

 

「まあ、一回だけ毛利さんがいたのに僕が眠くなっていつの間にやら事件が解決してた事もあったんですけどね」

 

 そんなやり取りをする山村と裁判長らに、ドラコが言う。

 

「おいおい、ホント―に大丈夫なんやろなあ、オンドレら」

 

「大丈夫です。これで、少なくとも現場を見れるようになったのですから。この国の流儀にのっとり、探偵として刑事様の隙を見て証拠品を現場から頂戴していきましょう」

 

「いや、だからそれは探偵のやる事じゃないから」

 

「失礼、弁護士の仕事でしたか」

 

「だから弁護士でも違うって」

 

 冗談なのか本気なのか、真顔でそういうエドガーにコナンも苦笑するほかないのだった。




ちょっとした余談・裏話


初期プロットでは、ここで殺人事件は発生していませんでした。
ただそれだと、探偵パートがやたらと長くなってしまっていたため追加しました。
関係者の名前がそのまま過ぎるのもその辺が理由です。
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