「はい! こちらに進んだ先が事件のあった現場になります!」
観光案内のようなノリで案内する山村によって、別荘の二階にある部屋に案内される。
事件現場である為、容疑者である古逸賀安代、それに(一応)裁判長は置いてきてはいる。
「ていうか、アナタも本当はご遠慮願いたいんですがねえ」
「ああん!? 何でや、ワイかて関係者やで」
ドラコが山村の言葉に強く睨む。
「だからこそですよ。だって、今逮捕されてるオーキッドさんのフィアンセさん何でしょ? 万が一にも現場で証拠品の捏造でもされたら困るんですよ」
「何やと!? オンドレ、ワイにそんな事されると思っとるんかい!!」
恫喝するようにするドラコだが、確かにその懸念はある。
これに関しては山村が正しい。
コナンとしても、オーキッドが無実であるという前提の元に進める気はない。事件を調べてみて、やっぱりオーキッドが犯人であるという結論になったら、ドラコには悪いがそれを歪める気はなかった。
そして、オーキッドにドラコが強い好意を持っているのは明白。
事件現場に細工する可能性もゼロではない。
「その心配はありませんよ、探偵様」
「え?」
そんなコナンの内心を見透かしたように、エドガーが耳元で囁くように言う。
「先生は確かに、単細胞気味で暴力的で、辛うじて理性で普段はそれを抑えており、何かのきっかけで事件を起こす側になりかねない方ではあります」
ひどい言い草の上にアレで抑えてる方なのか、と言いたいところだが、エドガーのその中性的で整った表情は真面目なままであり突っ込みにくい。
そのまま「ですが」と続ける。
「まがりなりにも、探偵としての最低限の誇りを持ち合わせている方です。いかにオーキッド様が疑われているとはいえ、そのような事をなさるお方ではありません」
「そう、なんだ……」
もちろん、コナンからしてもこのドラコという探偵の事を詳しく知っているわけではない。
だが少なくとも、このエドガーからすればそれなりの信頼と評価をされているようだ。
「ですので、探偵様は捜査にのみに集中なさってください」
「あ、うん」
何とも言えないままコナンは頷くと、歩いている途上にある、問題の監視カメラも確認。
確かに踊り場に設置されている。
ここに、カメラを避けて通れるような障害物や死角もなし。
同じような宿泊用らしい部屋が並んでいる。
ちらりと、そのうちの一つである部屋を覗くと、ビジネスホテルのようにベッドと簡単な家具が置いてあるだけの部屋のようだった。
やがて、被害者のいた部屋へと到達する。
そんな中ふと、コナンはその部屋よりも10メートル先にあるものを見つける。
「さ、こちらが事件のあった部屋ですよ」
「ああ」
山村に促され小五郎たちが入っていく中、コナンはそのまま歩いていき部屋から10メートルほど先にある廊下に転がっている物を見つめる。
「あれ……?」
「どうされましたか探偵様」
その後ろにエドガーがついてくる。
「あ、いやこれ何だけど」
そういって指紋がつかないよう、持ち上げたものを確認する。
「どうやら、サッカーボールのようですね」
確かにサッカーボール。だが、普通のものとは違いそれは緑色のサッカーボールだった。
「ずいぶんと個性的な色合いみたいだけど」
ついコナンは呟く。
確かにサッカーボールのようだが、サッカーボールとしてはかなり妙といっていい色合いだった。
「ベイカー王国で流行っているデザインのものです」
コナンの疑問にエドガーが答える。
「ベイカー王国で?」
「はい。『きわめてクリーンなグリーン色』のキャッチフレーズで大人気な代物です」
「そ、そうなんだ……」
サッカー少年としては、いまいち蹴りたいとは思えない色合いのものだが、こういうデザインのものが流行っている国もあるのだろうと自分を納得させる。
「あ、それオーキッドさんが落としてったものですね」
そんな時にいつの間にやら、部屋の中にいた山村が外に出てきて答える。
「オーキッドさんが?」
「そう。彼女の所持品みたいだね。途中で落としていったみたい」
「じゃあ、これを被害者の半庭さんに渡そうとしていたってこと?」
「うん。それに関してはちゃんと答えてるよ。半庭さんにはお子さんがいてね。そのプレゼントに渡そうとしていたみたいなんだ」
それを逃げていく途中に落としたという事になる。
サッカーボールで人を殺すなど――キック力増強シューズでも使えば話は別だが――不可能だ。
だが、現場の近くに落ちていたものということで一応、この緑色のサッカーボールをコナンは記憶の片隅にとどめる。
一応、緑のサッカーボールに関してはこの辺りにしてコナンらも部屋の中に入る事にした。
「はーっ、本当に荒らされてやがんな」
小五郎がそう呟いているように、とにかく部屋の中は荒らされている。
だが、部屋の備品などにはほとんど手はつけられておらず、被害者の持ち物と思しきケースやカバンの中身が盛大に散らかっている状態だ。
被害者の持っていた何かを探していた、という推測は間違いではないだろう。
既に被害者・半庭康夫の遺体は運び出されているが、血の痕は残っている。死体があったのはベッドの辺り。当然ながら、ベッドにこびりついたその血は既に乾いている。
そして、凶器のナイフはその下に落ちている。
「これが凶器のナイフか」
「えげつない真似するもんやで」
「おい、アンタ。下手にさわるなよ」
「わかっとるわ。ワイが証拠の捏造でもすると思ってんのかいな」
「だーから、念のためだっつの」
相変わらず言い争っている小五郎とドラコは置いとくとして、続いて、窓の辺りを確認する。
開けられた形跡はなし。
やはり、この部屋で被害者を刺した後、入ってきたドアから出ていったと考えるのが自然だろう。
「ねえ、山村警部。何か持ち去られたものはなかったの?」
「んー、いや確認された範囲ではないみたいだね。何を持ち出したかったかもわかってないし」
その発言に、ドラコが食いつく。
「何やとヘッポコ刑事。それなのに、オーキッドちゃんが何か盗んだって決めつけとるんかいな」
「だーかーら、部屋中に彼女が指紋がついてるんですから。少なくとも、部屋を荒らしたのは確かでしょう? 怪しまれて仕方がないじゃないですか」
「そうだぞ、アンタ。これに関しちゃこいつが正しいだろ」
またもや揉めだした三人だが、明確に持ち出されたとわかるものはなし。そして部屋中にはオーキッドの指紋ついており、部屋を荒らしたのは彼女である可能性は高い。
今確認すべきはこの情報だけだろう。
続いて、机の上に置いてあるメモへと視線が動く。
それに気づいた山村が答える。
「ああ、それなら被害者のメモだよ。スケジュール表として使ってたみたいだね。もちろん、この日にこの別荘来る事も書いてあったよ。けど、事件に関わりそうな事はなかったかな」
「じゃあ、明日以降の予定とかは? 何か書いてなかったの?」
事件発生は昨日なので、今日以降という事になる。
「えーと、このメモによりますと今日は昼には東都タワー、夜には東都ドームでプロ野球の日売戦のナイターを観戦する予定だったみたいですね。明日の予定には、昼にトロピカルランド、その後に東都スタジアムでスピリッツ戦のサッカー観戦――東京見物でもするつもりだったんですかね?」
「でも被害者って東京の弁護士さんじゃなかったっけ?」
「別にいいじゃねーか。東京の人間が東京見物したって」
小五郎がコナンの言葉に否定的な言葉を投げつける。
確かに東京に住んで東京で仕事をしている人だとしても、東京観光をしてもおかしくはないのだが。
「むしろ、誰かに観光案内をする予定だったみたいだ――そう探偵様は仰りたいのですね」
「え? ああ、うん」
エドガーに傍らから回答される。
「うーん。でも、相手の名前とかは書いてないしなあ」
「古逸賀さんは、被害者の半庭さんのところで働いていたんだよね? 何か知らないの?」
「あーでも最近、古逸賀さんとは別行動する事が多かったみたいだし。ここしばらくの動向はほとんどわからないって言ってたよ」
仮に被害者が誰かと会う予定だったとしても、今のところそれが誰かわからないという事か。
「おい、山村。何だよアレ」
暫し窓の外を見ていた小五郎が山村に訊ねる。
「何だよ、と言いますと?」
窓際に皆が集まり、外を見る。
ここからでも、パーティ会場として使われたテーブルや椅子が見える。
そんな中、二メートルほどの盾と剣、それに目立つ「K」の文字が書かれた金色の像が見える。
「ああ、アレの事ですか。あれは、ジャイアント・検事・オブ・ザ・イヤー・黄金像ですよ」
「はあ? じゃいあんけいおぶいや、おーごんぞー?」
長々としたそれをうまく聞き取れなかったらしく、妙な発音で言ってしまう。
「参加者のヒトから、団財副局長へのプレゼントだったらしいですよ。ほら、検事・オブ・ザ・イヤーは知っているでしょう?」
「えっと、それってその年で一番優秀だった検事さんに渡されるものだよね?」
コナンの言葉に「そう!」と笑顔で頷いて山村は続ける。
「あれってほんとは、両手で持てるくらいのトロフィーなんだけど、それを二メートルくらいの黄金像にしてくれちゃったものですよ。それを造ってプレゼントされたらしくて。いやー、ビッグな方は贈り物もビッグですねえ」
あはは、と笑う山村にコナンは少し引き気味だ。
正直、あんなものはいらない。
だが、一方の小五郎は意外と気に入ったのか「ほー」などと感心した様子でジャイアント・検事・オブ・ザ・イヤー・黄金像を眺めている。
「おい、下のところには何が書いてあるんや?」
そんな中、ドラコが黄金像の台座の箇所に目をやる。
「ああ、あそこには歴代の検事・オブ・ザ・イヤーの受賞者の名前が書かれているってわけですよ」
山村の説明通り、銅像の下の文字が見える。
その大半は「狩魔豪」で占められているが、他の名前もチラホラある。
「ほら、団財副局長の名前もちゃんとあるでしょ? そこだけ、目立つように赤色で書いてあるんですよ。副局長への贈り物なわけですから」
「ああ、2002年のところが団財副局長か」
山村が指摘された名前を見て、小五郎が呟くように言う。
「何や、よく見えへんで」
そんな中、その様子を見ていたドラコが窓の外を暫し目を凝らしてみていたが、
「ああ、ちょい待てや」
そう言ってドラコはポケットから眼鏡ケースを取り出し、中から眼鏡を取り出してかける。
「……ああ、確かに見えるようになったわ」
その様子を見て、コナンはエドガーに話しかける。
「ねえ、ドラコさんってもしかしてそんなに目が良くないの?」
「はい。裸眼ですと、両目ともに0.7か少し下ぐらいかと。普通に見えなくはないのですが、こういった時のために眼鏡は持ち歩いてはおりますね」
そんな風にエドガーが説明する。
コナンがかけているのはあくまで伊達眼鏡であるため、実際に目が悪いわけではないのだ。
そういった感覚は、実際にちゃんと度の入った眼鏡をかけている者でないとわからない。
「似合わねーな、アンタに眼鏡。どーみても、その面ならグラサンとかだろ」
「何やと!? 知的でクールなワイのフェイスに文句があるっちゅうんかい!!」
再びやりあい始めた二人を横目に、さらにこの部屋の捜査を進めていく事にした。
《人物ファイル2》
半庭康夫(44)
団財次長の別荘で刺殺された被害者である弁護士。
序審法廷はあまり担当していなかった。
何やら妃英理と相談したい事があったようだ。
古逸賀安代(34)
事件の目撃者。
被害者の部下の弁護士であり、以前は恋人関係にあった。
ベイカー王国の学生・オーキッドが殺害する現場を見たと証言。