名探偵ミツルギ   作:高見一樹

20 / 48
まだしばらくコナンサイドの話が続きそうだったので、一度逆転サイドの話を挟みます。
もしかしたら後で順番を並べ替えるかもしれません。


FILE.20 異国からの情報

 ベイカー王国。

 人口100万のヨーロッパの小国。

 

 何度も近隣の国と合併と独立を繰り返しており、国としての歴史は浅い。

 かつては名実ともに世界屈指の大国だった大英帝国とも親しい関係でもあったが、力関係からして実質的には従属に近い状態にあった。

 

 それに変化が生じ始めるのは、100年ほど前。第一次世界大戦の辺りから。

 この大戦において、ベイカー王国はイギリスとの関係からドイツに宣戦布告。ベイカー王国の国力からすれば相当な負担となる援軍と支援物資を送る。だが戦後、戦勝国の一国になったにも関わらずベイカー王国は十分な見返りを受け取る事ができなかった。

 この事からイギリスへの反発が強まり、独立意識が高まっていくことになる。それでも第二次世界大戦においても連合国側につくも、早々とドイツに首都を占領されて降伏。戦時中はドイツの傀儡政権が続いていたが、ドイツ敗戦後に改めて独立。当時の王太子だった現国王ショルメが王位につくことになる。

 

 ショルメが王位についてから、小国でありながらも大国と渡り合える強国として知られるようになる。ただし、強い軍事力を持つともいえない小国である事は変わらず外交的に強い力を持っていることは長年の謎とされており、国王ショルメが魔法を使って各国首脳を洗脳しているからだ、などと揶揄されている。

 

 現代ではかつてほどの関係はなくなったものの、イギリスの文化の影響は強く残っている。特に娯楽面でもシャーロック・ホームズシリーズなどは強い人気を誇り、ホームズに憧れた探偵は現代にいたるまでかなり多く、探偵比率が世界一高い国とまで言われている。

 

 君主である現国王ショルメは、87歳。12歳で王位を継承して以降、75年間ずっとその地位を維持している。

 その高齢から王位の継承を考えているとされるが、12年前に彼の子であり後継者にと考えられていた当時の王太子だったウィルソンが病死。そのままショルメが国王の椅子に座り続ける。

 現代の後継者候補の筆頭とされているのはショルメの孫であり、ウィルソンの息子。現代の王太子エルロックである。

 

 

「うおおおおっっ!! うまいッス! 最高ッス!」

 

「……イトノコギリ刑事。静かにしたまえ」

 

 そこまで資料を読んでいた御剣の思考が、糸鋸の大声で中断された。

 

 都内にある蕎麦屋。

 御剣と糸鋸は小休止も兼ね、この蕎麦屋で遅めの昼食を摂ることにしていた。

 

 昨日、食事を奢る予定だったのだが結局流れてしまったという事もあり、その埋め合わせも兼ねて奢ることにしたのだが、予想以上にハイテンションになる糸鋸だった。

 

 注文が来るまでの待ち時間で用意していたベイカー王国の概要を読んでいたのだが、いつの間にかソバが来ていたらしく糸鋸は大喜びで食べている。

 

「今日は、ソーメンにテンプラつけちゃってるッス! ゴーセイッス!」

 

 この蕎麦屋は、どこにでもありそうなごく普通の店だ。

 昨日のホテルと比べると、だいぶランクダウンしているのだし、不満を持たれるかと思ったが、本人は満足そうだ。

 それはそうと、

 

「刑事。これは、ソーメンではない。ソバだ」

 

 訂正する御剣だが、

 

「どっちも同じようなものッスよ。もっとホンシツを見るッス。御剣検事」

 

 そう糸鋸に言われてしまい、思わず御剣は閉口する。

 

「それにしても、何か自分たち見られてるッスね」

 

 そんな中、周囲の客たちの反応を確かながら糸鋸が言う。

 

「刑事。それはキミが騒いだからだろう。他の客の注目を集めてしまっているではないか」

 

「何を言ってるッスか。みんなに見られているのは、御剣検事の恰好のせいッスよ」

 

「なっ……! 私の恰好が浮いているというのか刑事っ」

 

「そりゃそうッス! 昨日のホテルならともかく、ここじゃあ御剣検事の赤とヒラヒラの恰好は浮きすぎッス!」

 

「む、むぅ……」

 

 確かにこの蕎麦屋において、御剣の普段着は非常に目立っている。

 何か話しかけるというわけではないが、客たちの視線を集めてしまっている。

 

「まあ、その何だ。これはそういうアレだ」

 

 新人時代と比べれば地味になったものの、この狩魔流ともいえる極めて個性的なファッションを今後も変える気はなかった。

 

(それはともかく、この資料に気になる点といえば……)

 

 思考を戻す。

 ベイカー王国の概要を読んでとりあえず気になることは2点。それは歴史や文化などに関してではなく、現国王ショルメの子である12年前の王太子ウィルソン。そして現王太子エルロックだった。

 

(12年前、か)

 

 CI-6号事件の発生がまさにその12年前。病死となっているが、詳しい情報はほとんどないらしく、かなり急に亡くなったようだ。それだけに、CI-6号事件と何かしら関係がある可能性がある。

 

 そして、来日の控えている現王太子エルロック。

 もちろん、偶然の可能性もあるが、彼の父であるウィルソンも12年前に来日しており、彼のその帰国後すぐに病死したという事になっている。

 

(やはりCI-6号事件そのものの捜査資料が欲しいところだが、普通に手に入れようとしても難しいか)

 

 明らかに団財副局長、それに公安はこの件を自分に隠したがっている。

 下手に動けば、逆に自分の首を絞めかねない。

 

「……ム」

 

 そこで、御剣は自分の携帯電話への着信に気づいてそれに出る。

 

「何だろうか」

 

『……何だろうかたあご挨拶じゃねえか、検事さんよお』

 

 相手はオサツー・メグンダルと伊国めぐるの調査を依頼していた、御剣もよく知る西鳳民国の狼捜査官だった。

 

「いや、すまないロウ捜査官。それで何か分かったのか?」

 

『その前にだ。検事さん。アンタ、オサツー・メグンダルについてどの程度知っていやがるんだ?』

 

「ほとんど何も。今回の事件で被害者となって、はじめて名を知ったぐらいだ。だからこそロウ捜査官に依頼したぐらいなのだ。もしや、有名な男なのか?」

 

『まあ、有名っちゃあ有名だな』

 

 そう狼は続ける。

 

『このオサツー・メグンダルってヤツはただの金持ちじゃねえ。ある疑いがあり、国際警察でもマークしていた人間だ』

 

「国際警察で?」

 

『ああ、ある犯罪組織の大物――幹部ともいうべき立場だと予想されてる野郎さ』

 

「予想されている、か」

 

『ま、確信があればとっくに逮捕してるからな』

 

 それもそうか。

 あくまで疑いは疑い、という事か。

 

「それで犯罪組織というと、以前にキミが追っていた密輸組織のような存在なのか?」

 

『少し違うな。まあ、厄介な連中って点では同じかもしれねえが』

 

「というと?」

 

『構成員数も不明の犯罪組織だが、相当に規模はデケえらしい。世界中にネットワークをもって活動してやがる連中で、その活動内容は情報の売買だ』

 

「情報、か。情報屋、あるいは探偵のようなものだろうか?」

 

『まあ、健全な言い方すりゃあ、そうだ。だがそれの質をはるかに悪くしたような輩だな。非合法なやり口で手にいれた情報なんかを使って、金持ちやら政治家やらを脅して好きに動かしてるって噂だ。捜査を進めようにも、連中に弱味を握られてる御偉いセンセイ方から妨害が入ってなかなか進まねえんだよ』

 

「……ふム」

 

 弱味を握って、政財界で好き勝手する輩、いや組織か。

 

(そういえば、似たような輩がいたな)

 

 あの男と再び会うきっかけとなった事件の犯人をつい思い出してしまう。

 

『おい、検事さんよ。黙ってどうした?』

 

「ム。すまない。少し考え事をしていた」

 

 一つ謝罪をして、狼に先を促す。

 

『もう一つ、気になる点がある』

 

「気になる点?」

 

『ああ、この男にはシヘー・メグンダルっていう兄がいた。10年以上前まではな』

 

「いた、というと……?」

 

 その含みのある言い方に、何となく察しつつも御剣は訊ねる。

 

『殺人事件に巻き込まれて亡くなっているらしい』

 

「殺人事件、か。それはこの日本でか?」

 

 わざわざ伝えてきたという事からして、彼の祖国であるはずのイギリスでとは考えにくい。それゆえの質問だったが、

 

『いや、違う。ベイカー王国だ』

 

「ベイカー王国……」

 

 思わぬところから再び出てきた国名に、御剣も目を瞬かせる。

 

『それも、今も未解決の連続殺人事件の被害者の一人としてだ』

 

「それはどういった?」

 

『詳細は不明だ。何せ、事件の内容は秘匿されているみてえだしな』

 

「国際捜査官のキミの権限でもか?」

 

『ああ。だが今の時点じゃあ、これ以上は追求できねえ』

 

 かつて、国際問題を覚悟で国宝への捜査を強行したこともある彼だが、さすがに現時点での情報だけでは強引な捜査はできないのだろう。

 気になる情報ではあったが、現時点でこれ以上の情報は難しいだろう。

 そこで、質問の矛先を変えてみる。

 

「そういえば、伊国めぐるは? そちらも調べてくれたのだろう?」

 

『ああ。アンタのいう伊国めぐるという女も、何度かオサツー・メグンダルと一緒にいる姿が何度も西鳳民国内でも目撃されている。だが、組織の構成員なのかは不明だ」

 

「ム……そうなのか」

 

 伊国めぐるは、オサツー・メグンダルと何らかの取引をする気でいた。

 別の何らかの組織に属しているのか、あるいは彼女が何らかの思惑があって近づいていたのか。それすらもわかっていない。

 

『とりあえず、今のところ情報は以上だ。何かあるかい?』

 

「そうだな。では、オサツー・メグンダルが西鳳民国内で具体的に何をしていたかもう少し詳しい情報と、さきほど言っていた彼の兄とベイカー王国で起きたという事件との関係などについても調べて欲しい」

 

『前者はともかく、後者は国際捜査官としての権限を使っても難しいかもしれねえな』

 

 西鳳民国内での事はともかく、ベイカー王国での協力が必要となってくる事だ。彼の権限でもそれは厳しいだろう。

 それは、御剣も分かっている。

 

「だが、頼む」

 

『全く、無理を言ってくれるオトコだぜ』

 

 そう言いながらも結局は引き受けてくれ、これで通話も終わりかと思った時、

 

『……検事さんよう。最後に言っておく事がある』

 

「何だろうか?」

 

 少し声の様子が変わる。

 

『狼子、曰く! 羊を狙う獣は見つけ次第狩れ、だぜ』

 

「……どういう事だろうか、ロウ捜査官」

 

『確かによう、今の情報だけじゃあ何もかもが足りねえ。これだけで色々と嗅ぎまわるのは早すぎるかもしれねえ。だが、怪しい匂いを嗅ぎ付けたっていうならよう、すぐにでも動いた方が良い。そう思ったからこそ、アンタはオレに連絡をよこしたんだろ?』

 

「……うム」

 

『手遅れになっちまってから、どれだけ後悔してももう遅いぜ。元凶を刑務所にブチ込んだところで出ちまった犠牲も、失っちまったもんも元には完全な形で元には戻らねえ』

 

 偽札騒動や大統領の件は解決こそしたものの、今だに西鳳民国が受けた被害は消えないほどに大きい。

 事件が解決しても、その傷跡が消えるには長い年月と労力がかかる。

 その事を彼はよく知っているのだろう。

 

「……わかっている。ではな」

 

 その言葉を最後に、通話を終えた。

 

「どうだったッスか? オオカミ男との会話は」

 

 黙ってやり取りを聞いていた糸鋸が訊ねてくる。

 

「まあ、色々とな」

 

 御剣は糸鋸に狼とのやり取りを聞かせてみせる。

 

「はー、あのオオカミ男がずいぶんと協力してくれたものッスね。以前からすれば信じられないッス」

 

 当初、彼は検事嫌いを公言しているような男だった。

 もっとも、今にして思えば狼家の権力が失墜したと言われる事件。その事件での担当検事がよりにもよって最悪ともいえる人物だった考えれば当然ともいえるかもしれないが。

 

「言っただろう。彼もキミと同じ様に捜査官だと」

 

 御剣はそう返した時。

 再び、自分の携帯電話の着信音に気づく。

 狼が何か言い忘れていた事でもあったのかと思うが、番号が違う。

 怪訝に思いながら、それに出る。

 

「はい。御剣は私ですが。ああ、どうも。ええ、はい」

 

 その相手の声を聞き、御剣は相槌を打ちながら応じる。

 そして、何度か相槌を打っていたが、

 

「わかりました。すぐにそちらに」

 

「どうしたッスか? 御剣検事」

 

「どうやら、食事休憩は終了だ。次に行く場所が決まった」

 

 椅子から立ち上がり、出口へと動く。

 

「ああ、ちょっと待って欲しいッス! まだソーメンの汁を全部啜ってないッス!」

 

「だからソーメンではなくソバだ! そしてみっともない事はやめたまえ!」

 

 そんなやり取りを後に、御剣と糸鋸は次の目的地へと向かうのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。