そして悩みましたが、コナンサイドの追求形式も逆転サイドと同じような形にしました。
「おお、どうでしたかな。捜査の方は」
パーティ会場のあった場所に、コナンらは戻ってきていた。
パーティの参加者用に出されていた椅子に、裁判長や古逸賀安代は腰を下ろしている。
無論、警察官がそばで見張っている。
「まったく。自分が監視されるというのは慣れませんな」
「いやー、全くっすよ。自分が疑われるという気持ち、分かります」
過去に殺人、それに爆破犯の容疑を着せられたことがある小五郎が裁判長に理解を示す。
「あ、あの、あの。それで犯人はやっぱりあの外国の女のヒトなんですよね?」
古逸賀が山村に問いかける。
「んー、やっぱり状況からしてそーなんじゃないかなーと」
「何やとおおおおお!!?」
同意する山村に、ドラコが吠えた。
「オンドレエ!!!!? もう一度言うてみい!」
「何ですか! だから脅されたって警察は屈しませんよ! それに、この古逸賀さんだってそう言ってるじゃないですか」
「あのー、山村警部」
「ん? 何だい」
「その古逸賀さんの証言、聞かせてもらってもいい?」
とにかく、彼女が嘘をついているかはともかく、一度証言を聞いておきたかった。
「ん。あーそうだな。その方がアンタも納得するだろ?」
ここで小五郎もコナンに続くように言ってくれた。
「……まあ、そやな」
ドラコもオーキッドを追い詰めるとどめになったであろう、彼女の証言は気になっているようだった。
「では、聞かせてもらってはどうでしょうか? どちらにせよ、明日の裁判では話す必要があることでしょうし」
エドガーが意見をまとめるように言うと、山村も納得したようだった。
「ん。まあ、そうだね。それじゃ、古逸賀さんお願いしますよ」
「え、じゃあ、はい。わかりました」
そうして、古逸賀の証言がはじまった。
~証言その1 殺人を見たこと~
「その、その私殺人現場を見たんです」
「半庭さんの部屋に行こうとしていたんですが」
「部屋の中でグサリ、とオーキッドさんがナイフで半庭さんの喉を刺しているのを見たんです!」
「茫然としていると、オーキッドさんは走り去っていきました」
「中に入ってみると、半庭さんは完全に死んでいました」
「部屋の中には、半庭さんの死体以外に人はいません」
「ですので、その、半庭さんを殺したのはオーキッドさんでそのその、間違いないかと」
一通りの証言が終わり、コナンは顎に手を当てて考え込む。
(さて、と。どうすっかな)
一見、証言におかしいわけではない。
だが、もう少し掘り下げて聞いてみたい箇所がある。
工藤新一ではなく「江戸川コナン」の発言であっても信用してくれる大人は増えたし、この場に安室や世良といった面々がいればサポートに徹するだけでも真相にたどり着いてくれるだろう。
だが、あいにくこの場にはいない。
最近では使用頻度の減った、腕時計型麻酔銃の出番かと考えるが、もう少し情報を見てからでも良いかもしれない。
その前に、今回は誰を探偵役にすべきかと考えるが、
(まあ、ここは無難におっちゃんにするか)
一度、小五郎がいる状態で山村を探偵役にした事もあるがそれはあくまで例外だ。
基本的には小五郎がいるなら、彼が探偵役でよい。
そんなことを考えていた時、
「コラアアアアアアアアッッッッ!!!!」
ドラコがキレていた。
「オンドレエエエエッッ!! またしても、オーキッドちゃんが犯人やととおおっっっ!!!」
堂々と犯行が行っているところを見たと言われ、ついにキレちらかしているようだ。
「おいおい、落ち着けよ」
小五郎がさすがに抑えにかかえながら、山村に言う。
「けど、コイツに味方するわけじゃねーけど、隠れていたとか他に入口があったとかいう可能性はねーのか?」
「嫌ですねえ、毛利さん。あの部屋、入口は一か所しかなかったじゃないですか。窓から出た形跡もなし。それで、オーキッドさんが殺してるってのを見たっていう事は決まりだといっていいでしょう」
「何やとお!?」
「ほらほら、毛利さんの言う通り。ここは落ち着いて」
その言葉にさらに激昂するドラコの前に、山村は立つ。
「オンドレらもこの女に味方するんかい!!」
「ひ、ひいっっ!」
古逸賀が怯えたような様子を見せる。
まあ、こんな厳つい大男に恫喝されれば、確かに怖いだろうが。
抑えが聞かない様子で興奮するドラコを見て、コナンも少しまずそうに思う。
(いや、これはさすがにヤベーか)
一応は、これまでは理性で押さえていた様子だったが、堂々とオーキッドが犯人だと言われて限界に達したのか、言葉では止まる様子がない。好きな人が犯人呼ばわりされて怒る気持ちはわかるが、それでも暴力行為はまずい。
(仕方ねー、ここはちょっと落ち着いてもらうか)
そう判断したコナンは、腕時計型麻酔銃の狙いを、ドラコに向ける。
ドラコの首元に狙いをつけたところ、
「まあまあまあ、落ち着いてください。そう言い争ってもいい事はありませんぞ」
「あ」
不意に割り込んだ裁判長がコナンの視界に入る。
そしてそのままプスリ、と麻酔針はそのまま裁判長に首筋に突き刺さる。
「うっ」
そしてそのまま、裁判長の身体が崩れ落ちる――が、幸いなことに、そのまま座るように崩れ落ちてくれたため、頭を打ったりはした様子はない。
急に座りこんだようにも見える状態だった。
それを見て、怪訝そうに山村が問いかける。
「あの、一体どうしたんですか? チョーさん、毛利さんの真似なんかしちゃって」
「え? 俺ってこんな感じなのか?」
小五郎がいる時は必然、彼が探偵役になるため誰かが眠っているところを小五郎本人はほとんど見ることがない。
それゆえの反応といえた。
そんな二人はともかく、これはまずいかもしれない。
麻酔針は一本。それを裁判長に使ってしまった以上、このまま何とかするしかない。
(しょーがねーな)
こうなった以上、このままいかせてもらう――そう考えたコナンは蝶ネクタイをいじり、裁判長の声に切り替える。
「いえいえ、わかりましたぞ、山村警部」
「へ? 何がですか?」
「古逸賀さん、あなたの証言にはおかしいところがあるのですぞ! もう一度証言してもらってよろしいですかな?」
「え、え、ええ?」
戸惑った様子の古逸賀に、裁判長は言う。
「頼みますぞ。それと、ドラコさん。彼女の証言に関しては、私が尋問しますぞ。ですので、それまでお静かにお願いしますぞ!」
「え、あ、ああ。アンタ、急にどうしたんや?」
急変した様子の裁判長に戸惑いつつも、気を削がれたのかドラコも落ち着いた様子だ。
「先生。これはどうやら、推理ショーというものなのでしょう。裁判長様もご自身が疑われた身。その疑いを晴らすと同時に、犯人は誰なのかと考えていたのでしょう」
「そ、そうなんか……?」
エドガーの言葉にドラコも戸惑っている様子だ。
「そうなのですぞ! この私、ピン、ときたのですよ。彼女の証言にはおかしなところがある、と」
「え、え、え?」
「とにかく、お願いしますぞ。古逸賀さん。山村警部も、協力をお願いしますぞ。群馬の名警部」
「え? あー、わかりました。それじゃあチョーさん、この群馬の名警部からも要請します! 古逸賀さん。証言をお願いします!」
「オメーも大概チョれーな」
唆された山村に小五郎が突っ込む。
「わ、わかり、わかりました」
古逸賀安代もこうなっては、証言を拒むわけにはいかないようだ。
改めて証言がはじまることとなった。
「いえ、少し訊問させていただきますぞ! ドラコさんもよろしいですな」
またオーキッドを犯人呼ばわりしたことによって、険しい顔をしていたドラコに対して一つ牽制球を投げてから訊問に入ることにする。
「……わかっとるわ」
不満げなドラコをよそに、古逸賀の証言が再びはじまっていくこととなった。
そして、
「部屋の中には、半庭さんの死体以外に人はいません」
「待った!」
この箇所でそこで待ったをかける。
「そこは大事な事ですぞ。間違いありませんか?」
「はい、間違いありません。窓は開けていないし、そのその、誰もいない事は確認してあります」
「そうですか」
「見えたのは、その金色の検事局長賞の像くらいです。団財副局長さんの名前が赤く書かれてるのも見えました」
「ふむう、では証言に戻ってください」
ここで一つ情報を引き出したので訊問に戻る。
「部屋の中でグサリ、とオーキッドさんがナイフで半庭さんの喉を刺しているのを見たんです!」
「待った!」
この箇所に待ったをかける。
「ドアを開けた時、あなたはどこにいましたか?」
「へ? そりゃあ、もちろんドアの前に決まって、決まっていますよ」
「では、そう証言につけくわえてください」
「は、はあ、わかりました」
古逸賀が今の証言の後に、証言をつけくわえる。
「それを私はドアの前で見ていました」
「茫然としていると、オーキッドさんは走り去っていきました」
「異議あり!」
ここで、裁判長――の声を借りたコナンが異議を唱える。
「な、何ですか!? いったい、何ですか?」
「その証言、少しおかしいですぞ!」
「どこが? どこがですか!?」
先ほど以上にどもりながら、古逸賀が反論する。
「古逸賀さん。犯行を目撃した時、あなたは『どこ』にいたというのですか?」
「え? それは、そのその、ですからドアの前に」
「それでは、あなたの主張する犯人――オーキッドさんはどうやって部屋を出ていったというのですかな?」
「――!?」
自分の証言のおかしなところに気づいたのか、古逸賀が固まる。
「先ほどの話でも出てきましたが、あの部屋は、入口は一つ。窓から入った形跡はなし。となると、あなたがいたというドアから出ていった以外にない」
「異議あり!」
弁護士らしく、古逸賀から異議が唱えられる。
「ちょっと、ちょっと、待って待ってくれませんか!?」
「何でしょうか」
「あの、あの。少し思い出したんですが。半庭さんが刺されているのをみて怖くなって少しドアから離れたんです。その間に、オーキッドさんは出ていきました」
「ほう」
「だから、私に気、気、気づかなかったのかと!」
その反論に裁判長は落ち着いた様子で返す。
「ですが、それは妙ではありませんか?」
「何がですか?」
「あの部屋は、階段からも離れており、遮蔽物となるたぐいもない。あなたが隠れるような場所はありません。一体、あなたはどこに隠れていたというんですか?」
「それは、その、その」
暫し言い淀んでいたが、
「……いえ、ここから先は、証言でいかせていただきます」
~証言その2 しっかり見ていたことについて~
「とにかく、とにかく! 私は、ちゃんと見てました!」
「信憑性がないなんて、ひどいひどいひどいです!!」
「あのあのあの、ナイフで刺すところもしっかりと!」
「そ、そのその、しっかりと見ていましたよ!」
「部屋の前にスイカが落ちているところだってしっかり見ましたから!」
動揺しているのか、あるいは演技か。
同じことを何度も繰り返しながら、証言を終える。
「ここで貴女の証言は終わり、ですか」
「はいはいはい! とにかく、誤解、誤解、誤解、誤解、誤解だってわかってくれればいいですからっ」
「そうですか。残念ですが、もう少し深堀させていだきますぞ」
「……」
無言の古逸賀に対し、先を促す。
再び、証言が開始されていく。
「あのあのあの、ナイフで刺すところもしっかりと!」
「待った!」
この箇所に待ったをかける。
「大事なところです。間違いありませんか?」
「ま、まま、間違いありません!」
「何やと?」
ギロリと凄まじい形相になるドラコを小五郎が窘める。
「まー待てよ、アンタ。とにかく、話を聞こうぜ」
「そーですよ、落ち着いてくださいよ」
「うるさい! わかっとるわ!」
山村らを怒鳴りつけるドラコだが、一応は先ほどのように爆発する様子はないようだった。
(彼女が犯人だとしたら、ここは当然嘘。だがとりあえず、突っ込むべきところは、彼女の証言の信憑性だ。そしてそれはここじゃない)
コナンはそう考えると、蝶ネクタイに口を近づける。
「わかりましたぞ。それでは先を続けてください」
変声機を通じた裁判長に促され、証言に戻る。
「そ、そのその、しっかりと見ていましたよ!」
「部屋から出ていく時に、スイカが落ちているところだってしっかり見ましたから!」
「異議あり!」
続いて、そこで異議をつきつける。
「な、なななな何ですか!」
「……フッ。残念ですが、あなたの証言にはおかしいところがあるんですよ、古逸賀さん」
「おっ、チョーさん何かかっこいい『フッ』ですね!」
山村のツッコミを無視しつつも「この人のキャラじゃなかったかな……」と背後のコナンは裁判長を横目で見つつも話を続ける。
「あなたはスイカを見た、そうおっしゃいましたね」
「は、はははい! 確かに落ちてましたから」
それを聞いて山村は怪訝そうな様子で、
「あれー、でもスイカなんて事件現場にありましたかねえ」
「オメーが見逃したんじゃねーのか?」
「んなバカな。第一、毛利さんだって見たでしょ」
そんな風なやり取りをする二人をよそに、裁判長は続ける。
「ええ。貴女は嘘をついたつもりはないのでしょう。ですが、間違っているのですぞ。山村警部、現場にあった部屋の前に転がっていたものの写真を」
「え? あーはい。コレですか?」
そういってタブレットを操作し、現場前の映像を取り出す。
「これはスイカではありません。緑色のサッカーボールですぞ」
「…………は?」
「それは『極めてクリーンなグリーン色』で有名なベイカー王国のサッカーボールですね」
補足するように言うエドガーの言葉に、古逸賀が固まる。
「よく見れば、いえよく見なくても少し近づけばわかる事です」
「でもチョーさん、それって何か意味があるんですか?」
山村が指摘した言葉に、疑問を投げかける。
「確かにそれはサッカーボールみたいですけど、古逸賀さんが別に嘘をつく必要だってないでしょう」
「ええ、確かに嘘をつく必要はありませんな」
ですが、と裁判長は続ける。
「彼女は嘘をついていない。ですが、結果的に嘘だった。いいですか。古逸賀さん。これが意味する事は一つ。あなたは、かなり目が悪いのではないですか?」
「……!?」
先ほど以上に、古逸賀の表情が歪んだ。
「だからこそ、アナタは見間違えた。ある程度、近くから見れば間違えるはずのないこれを。もし違うというのであれば、視力検査でもして良いのですぞ」
「……わ、わわわかりました、認めますよ。わたしは目が悪い、です。これで、これで問題はありませんね、ありませんね!」
開き直ったように古逸賀は叫ぶ。
「そーですよ。この人のおめめが悪いって証明できたといっても、事件と何の関係があるんですか」
「ありますな」
裁判長はそう返す。
「そうなると、最初の証言の方が今度はおかしい事になるんですぞ。古逸賀さん」
「……」
無言になった古逸賀に、畳みかけるように続ける。
「ここでおかしくなる証言、それは金色の検事局長賞像の団財副局長の名前が見えたこと。これが、あなたの証言が変わった事によって新たに生まれたムジュンです」
「ムジュン? 別に目が悪くなかったっていう事になるだけじゃないんですか、チョーさん」
山村の言葉に、コナンは裁判長の首を後ろから左右に振らせて続ける。
「おかしくなるんですよ。金色の検事局長賞像のところにある、団財副局長の名前が見えた事がね、古逸賀さん」
「何が、何が何がおかしいんですか!」
反論してくる古逸賀に、山村は続けて訊ねる。
「そーですよ。ジャイアント・検事・オブ・ザ・イヤー・黄金像に書かれてある副局長の名前が見えたからって何がおかしくなるっていうんですか?」
「ええ、金色の検事局長賞像に書かれたある名前が窓から見てちゃんと読めた。それが問題なんですよ」
金色の検事局長賞――ジャイアント・検事・オブ・ザ・イヤー・黄金像と呼ぶのは何となく恥ずかしいので省略していた――に書いてある団財次長の名前が読めた、それが問題なのだ。
「改めて聞いておきますぞ。古逸賀さん。貴女は、金色の検事局長賞像に書かれた団財副局長の名前を犯行現場の窓から見た。パーティ会場で見たではなく。間違いありませんな」
「……はい。そうですが?」
答える古逸賀に、裁判長を頷かせて続ける。
「そこがおかしいんですよ」
「何がおかしいんですか、チョーさん」
「その前に、ドラコさん」
「何や?」
ここで今度はドラコの方に問いかける。
「あなたは、目があまりよくない。そうですな」
「せやで。けど、それが何か関係あるんか?」
「その貴方が裸眼だと、あの窓から金色の検事局長賞像に書かれた団財副局長の名前は見えなかった。間違いありませんね?」
「そうや。眼鏡をかけてやっと見えたんや」
今は眼鏡を外してある、目元のあたりをさわってからドラコは言う。
「ええ。つまり、貴女はなぜか見えていたわけですぞ! 近くにあったサッカーボールすらスイカと間違えるほど目が悪いはずの貴女が、裸眼でも日常生活に問題ない程度の『少し悪い』程度のドラコさんでも見えなかった文字が!」
「……っ!」
その意味を察したのか、古逸賀が表情を歪める。
「そ、それはつまりどーいうわけなんですか!? チョーさん!」
山村が焦った様子で訊ねる。
「なるほど。これが事件現場名物であるという刑事様の『どういう事ですか!?』なわけですか』というやつですか」
などと妙なところで物珍し気に見ているエドガーだが、今は彼に構っていられない。
「山村。つまり、古逸賀さんは部屋を出たとたんに目が悪くなったっつー事だろーが」
「なるほど! さすがは毛利さん!」
「で、それがどーしたっていうんや」
頷く山村に、まだよくわかっていない様子でドラコが訊ねる。
「え? それはですねえ、それはつまり。急に目が悪くなったのは、アレ? 何ででしょうね?」
そんな山村を無視するように、裁判長は続ける。
「普通、こんな十分かそこら程度で急に視力は落ちません。ですが、貴女は眼鏡をしています」
「!?」
古逸賀は動揺したように後ずさる。
その衝撃で揺さぶられた衝撃があったのか、再び眼鏡がポトリと地面に落ちる。
「あ、すす、すみません……」
それを拾おうとする古逸賀に、裁判長は言う。
「さきほども眼鏡を落としていましたね。古逸賀さん。おそらくですが、その眼鏡、サイズがあっていないのではないですか?」
「……それは、それは、それ、は……」
「急に落ちた視力。それもあわせれば答えは簡単ですぞ。貴女は、事件の後、部屋で眼鏡を取り換えたのですぞ!」
「ぐぐ!?」
「前に聞いた事もあるように、アナタの眼鏡は被害者のしていたものと同じ赤い色のフレームで、なおかつ同じ店で買ったもの。つまり、入れ替えたとしても気づかれない」
「……っ!」
「ですが、当然ですがサイズは微妙に違いますし、何よりも度数だってそれぞれの個人に合わせられています。おそらくは、被害者のしていたものの方が度の弱いものだったのでしょう」
だからこそ、と続ける。
「サッカーボールを見たのも、おそらくはこのタイミング。落ちた視力でその緑のサッカーボールをスイカだと勘違いした!」
そう突きつけるように言う裁判長。
「うぐ!?」
衝撃を受ける古逸賀。
そんな中、山村が手をあげて訊ねる。
「あのー、チョーさん」
「なんですかな。山村警部」
「この人が被害者と眼鏡を交換していたとして、それって何か意味があるんですか?」
「大ありですぞ。問題はなぜ、そんな事をする必要があったか、です」
「そのまま自分の眼鏡をしていたらまずいって事っすか?」
小五郎の質問に対し、コナンは後ろから裁判長の頭を頷かせて続ける。
「そうですぞ。おそらく、被害者に決定的といっていい証拠が残ってしまったのでしょう。だが、被害者が眼鏡をしていた事は関係者であれば知っていたこと。それが現場からなくなっていれば当然、疑われる。だからといって、隠したとしても見つかればやはり疑われる。どうして隠したのだと。そこで、絶好の隠し場所がある事に気づいた。それが自分の眼鏡との入れ替えです」
「あ、ああああの、何ですか。その決定的な証拠って」
ぎり、と歯を噛みしめるような音が古逸賀の口から洩れる。
「おや、わかっているでしょうに。しらじらしいですな」
裁判長はそのまま言葉を続ける。
「もちろん、眼鏡そのものですよ。赤いフレームの被害者とお揃いのね!」
「……っ!」
古逸賀の顔が歪む。
「被害者の眼鏡の表面には血がついていました。そしてこれは、被害者のもの。喉をナイフで刺された時についたもの、と思われていましたが違ったのです。これは、犯人が刺した時、ついてしまったものなのですよ」
「でもチョーさん、それにしても被害者と眼鏡を入れ替えるなんて証拠を隠すにしても強引すぎませんか?」
山村がそこで疑問を挟んだ。
「確かに強引かもしれません。ですが、おそらく彼女は悲鳴をあげてしまってからそれに気づいたのでしょう。自分の眼鏡のことにね。被害者の血がこびり付いた眼鏡――持ち続けるにはあまりにも危険です。そこで咄嗟に思いついた隠し場所として思いついた場所。それが被害者のつけていた眼鏡との交換です。幸いにもぱっと見は同じものですからな」
「う、ぐ……」
「さて、古逸賀さん。そして山村警部。被害者の眼鏡、それに古逸賀さんの眼鏡を改めて調べてみてください。それでもし、被害者の眼鏡と貴女の眼鏡の入れ替わりが証明されれば、改めて問わせていただきますぞ! 何故、貴女は度数のあっていない被害者の眼鏡を交換などしていたのか! それも交換したタイミングは先ほどの金色の検事局長賞像の話からして、まさに事件の発生した直後です! そんな状況でなぜそんな事をしたのか、論理的かつ納得のできる説明をしてください!」
「う、ぐ、ぐぐぐ、うう……」
改めて問い詰める言葉に、古逸賀はただ苦悶の表情を浮かべるままだった。