某月某日 20時41分 阿笠邸
『ええ!? それでお父さん、群馬に残っちゃったの?』
「うん。ニセモノ連中をとっちめてやるんだーって」
団財次長の別荘で起きた事件により古逸賀安代が逮捕された日の夜。
群馬県から東京都に戻ってきたコナンだが、小五郎はそのまま群馬に残った。あのドラコや山村警部と共に、ニセモノ夫婦のことをもう少し調べる気のようだった。
まあ、珍しくやる気になっているのは良いこと――などと他人事のように思いながら、彼の娘であり、自身の幼馴染でもある毛利蘭にその連絡をしているところだった。
「でも山村警部もいるし、おじさんは大丈夫だと思うよ」
『そっか。ごめんね、わたしはまだ合宿中だから』
前日から、彼女は空手部の合宿中で家にはいなかった。
だからこそ、ホテル・バンドー・ベイカでのシャーロック・ホームズ展には彼女はおらず小五郎と二人で行っていたわけなのだが。
「だからボクは今日は阿笠博士のところに泊まるから、蘭姉ちゃんは心配しないで」
『わかった。それじゃあ、博士にはよろしく言っておいてね。わたしも明日のお昼ごろには帰れると思うから』
「うん!」
子供らしい元気さのいっぱいにつまった返事をする。
そこでふと、気になったように蘭が訊ねてくる。
『それで、お父さんとお母さんの偽物ってどんな人だったの?』
「えっと、山村警部が言うには……」
山村の言っていたことを思い出し、コナンは告げる。
「おじさんのニセモノはやたらと自信満々でキザっぽい人だったみたい」
『本物と似て――るところもなくはないかな?』
「おばさんのニセモノはやたらと高飛車で女王様みたいな人だったみたい」
『本物と似て――るところもなくはないかな?』
「それで二人ともラブラブでずっとイチャついていたみたい」
『本物そっくりじゃない!』
それまでは疑問形でありながら、最後の言葉にだけは肯定してみせる。
「そ、そだね……」
ハハ、と苦笑まじりでそう返す。
当の本人はニセモノたちが自分の肩書きを利用したことよりも、ラブラブ夫婦として活動していたことを一番怒っていた気もするが。
その後、会話を終えてから通話を終える。
「とりあえず、連絡は終わったぜ博士」
そう言って、通話を終えたスマホをしまうと傍らの相手――阿笠博士へと視線をうつす。
「そんなわけで、今日はここに泊まっていくけどいいよな?」
「そりゃ、ワシは構わんが……」
わざわざ、誰もいない毛利探偵事務所で一人で泊まる必要もなく、先ほど話したようにコナンはここで一泊する予定だった。
「まったく、博士をあんまりこき使わないでくれる?」
「よう。相変わらず不機嫌そうな顔してんな」
そんな中、不満そうな顔で近づいてきた少女――灰原哀に話しかける。
「不機嫌にもなるわよ。夕方に急に電話かけてきたかと思えば、博士に群馬まで迎えにこいとか言うし、そのせいでさっきまであの子たちの相手をずっとしてたのよ」
そんなコナンの言葉に、その特徴的な赤みがかかった茶髪をいじりながら灰原は返す。
「あの子たちってアイツら、今日、ここに来てたのか?」
あの子達――というのは、おそらくコナンの同級生でもある少年探偵団の面々だろう。
「来てたわよ。もう帰ったけど」
どこか疲れた様子で返しながら、灰原は続ける。
「アイツら、何しに来たんだよ」
「依頼」
「はあ?」
「だから、依頼人と会っていたみたい」
「依頼人ってアイツらにか?」
コナンらのやっている少年探偵団というのはただの自称だが、実際に事件を解決している――というかしてしまったりしている。実際、彼らの捜査能力は侮れないものもあるし、少なくとも
だからといって、小五郎と違って素人探偵の子供に頼みに来るもの好きは少ないだろう。
「そ、正確にはあの子達があなたに会いにあの事務所まで行ったらしいんだけど、そこで誰もいなくて困っている人がいて話しかけたみたい」
「あー、オッちゃんもオレも群馬にいたし、蘭も合宿でいなかったからな」
今日はあのニセモノ事件のため、朝から群馬に行っていいたため、事務所はカラだった。
「それで、あの探偵さんがいなくて困り果てていたところに、あの子達が話しかけたみたい」
「それにしても、その依頼人の人もよくアイツらに任せたな。いくらオッちゃんがいないからってフツー子供に頼むか?」
「あら? それは仕方ないかもしれないわよ。だってその依頼人も子供だし」
「はあ?」
「といっても、私たちの本当の年齢よりかは年下だけど、あの子達よりかは結構上ね。多分、12か3か、それくらいじゃないかしら」
そうなると、小学校の高学年か中学生ぐらいだろうか、と頭の中で自分たちの中間の年齢を思い浮かべる。
今日行動を共にしていたあの少年探偵・エドガーと同じくらいだろうか。
「それで、肝心の依頼の内容は?」
「人捜し。10年以上前に行方不明になった、おじいさんを探して欲しいんだって」
「それこそ、ちゃんとした探偵の仕事だろ」
依頼人が子供と聞いて猫探しのようなものを想像していたのだが、思いのほか全うな依頼内容で少し驚く。
「それでも、手がかりがないわけではないみたいだし」
「手がかりって何だよ」
「昔から日本でやっている、ヨーロッパの国を集めたイベントみたいなのに毎年参加してたみたいだから。それにいるかもしれないって」
「そりゃまた、漠然としてんな」
それでも何もないよりかはマシなのかもしれないが。
「それで、そのイベントが明日、ひょうたん湖でやるみたいだからそれに出るって」
「はあ!?」
「急にどうしたのよ」
表情を変えたコナンに灰原が戸惑ってみせる。
「それって検事局の団財副局長が出るやつか?」
「いや、それはわからないけど、こんな大きなイベントを同じ日にいくつもやるとは思えないし、そうなんじゃない?」
灰原の言葉からは正解はわからないが、おそらくはこれだろう。
彼女の言うように、大規模なイベントを同じ日にいくつもするとは思えない。
「ふむ、もしかして明日やる日欧文化交友会のことかのう」
これまで二人のやりとりを見守っていた阿笠が口を挟んできた。
「何だよ博士、急に。もしかしてこのイベントのこと知ってたのかよ」
「おお、そうじゃ。実はワシも昔世話になった人が参加する予定があってのー、出ようかどうか迷っておったんじゃ」
「はあ? 博士の知り合いが出るのかよ」
「ああ。実はイギリスの知り合いがこのイベントに参加する予定があってのう。話は聞いていたんじゃよ」
「イギリス? それってこの前にロンドンに行った時のか?」
前に、色々あって渡英した際に爆弾魔を追ったり告白したりと何やかんや会ったが、その時には阿笠博士も同行していた。
その時の知り合っていた相手と仲良くなったのかとも思ったが、違った。
「いや、知り合ったのはもっと前じゃよ。以前にイギリスの製薬会社で身体に害のない麻酔の研究に協力していたことがあってのう。その時の縁でというわけじゃよ」
「身体に害のないって麻酔の研究って、もしかしてコイツのことか?」
そういってコナンは、自分の腕にはめている腕時計型麻酔銃を持ち上げる。
「そうじゃよ。その時のノウハウがあるおかげで、その腕時計型麻酔銃だって完成したんじゃ。そのおかげで、人体に害がなく自然に消えてくれる自然に優しい麻酔銃が完成したわけじゃ。キミが気軽に麻酔針を人様に撃ち込めるのはその時の研究成果のおかげなんじゃぞ」
「へー、コイツがね」
気軽に麻酔針を人様に撃ち込むというパワーワードはともかく、確かにそれだけの価値がある代物だ。
難点をあげるとすれば、一本しか針を仕込めないという点ぐらいであり、推理役の探偵要員を眠らせる道具としても護身用としても役立つ代物だ。
「まあ、とにかくあなたも用があるならついででいいから付き合いなさいよ。あの子達の面倒、私一人に押しつけないでよ」
「へーへー、わかったよ」
そんな風にコナンは灰原の言葉に応じる。
とにかく、参加者として自然に混じれるならば都合が良い。そんなわけで、明日のひょうたん湖でのイベントに参加する事を改めて決めたのだった。
この話で出てくるイギリスの製薬会社は逆転裁判とレイトン教授コラボに出てきたあの会社のことです。今後もコラボネタは使うかもしれませんが、本筋には絡まないと思います。