名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.27 三日目の始まり

某月某日 9時5分 ひょうたん湖公園

 

 

 

 3年ほど前、謎の怪獣ヒョッシーがいると話題になったひょうたん湖。

 その噂はしばらくしておさまっていったが、最近になって大怪獣ボルモスの映画で取り上げられた関係で再び話題になっていた場所だ。

 

 この日は、日欧文化交流会という名目で、ヨーロッパの各国から様々なイベントが行われているのがわかる。

 規模としてはかなり大きめだった。

 

「全く、博士は昨日言ってたイギリスの知り合いに会うってどっか行っちまうし……」

 

 そんな中、コナンはベンチに腰掛けながら愚痴る。

 

「灰原もアイツら迎えに行っちまうし、昨日あった依頼人とはここで待ち合わせる予定だから動くなとかいうし」

 

 面倒なことを押しつけられたかと思いながら、不機嫌そうに腕を組んでいると、

 

「あ、もしかしてキミがコナン君?」

 

 そんな中、一人の少女に声をかけられる。

 

「え? えっと、アナタがアイツらの言っていた依頼人?」

 

「あたしは十津川栗巢帝(とつがわくりすてい)。クリスでいいよ。よろしくね、探偵君」

 

 ボーイッシュさが滲み出る短く切りそろえられた綺麗な金色の髪の毛と、碧のきれいな瞳の持ち主だ。

 年齢は12、3歳ほど。昨日言っていた灰原の年齢とも一致する。

 

「あ、ちなみにこんな見た目だけどれっきとした日本国籍の日本人だから。名前も食べることができる栗に鳥の巣の巣に皇帝の帝で、栗巣帝」

 

 とよく聞かれることなのか、こちらで聞かれる前に答える。

 

「えっと、それでキミが江戸川コナン君でいいのかな?」

 

「そうだけど。よくわかったね」

 

「うん。昨日あった3人に聞いていたから。子分で、キザなライバルで、白馬の王子様なメガネの子が江戸川コナンって子だからって」

 

「……」

 

 何となく、それぞれの評価は誰がつけたのか想像はつくがそこは突っ込まずに別の質問に切り替える。

 

「えっと、それでいなくなったおじいさんを探して欲しいんだっけ」

 

「そうなんだ。あたしは赤ちゃんの頃に会っただけの人なんだけどね」

 

「クリスさんのおじいさんって何年くらい前から行方がわからないの?」

 

「うーん、かれこれ10年以上前かな。いなくなったのはあたしが生まれた直後みたいだし」

 

 少し灰原から聞いてはいたが、だいぶ昔のようだ。

 

「名前は、ドッカディーキ・テイラー。あたしと違って純粋なベイカー王国人だよ」

 

「それなのに日本に?」

 

「うん。娘――あたしのお母さんと会うためによく来てたみたい。まあ、日本にはだいぶ馴染んでいたみたいだけど」

 

 その顔色に憂いを浮かべてから、続ける。

 

「元々、お母さんは日本に来て駆け落ち同然でお父さんと結婚したみたいでね。ほぼ絶縁状態の中、おじいちゃんだけは良くしてくれたみたい。よく知らないけど、結構な名家らしいし」

 

「そうなの?」

 

「うん。あたしの叔父さんは、ベイカー王国の大使だし。今日もこのイベントに参加してるよ」

 

 一国の大使。

 思った以上の大物だった。

 

「あ、でもその叔父さんと会うことがあってもあたしが叔父さんを探してるってことは話さないでね。あたしが怒られるから」

 

「何で?」

 

「さっきも言ったように、お母さんは親戚一同から縁を切られてるし、そのお母さんを擁護してたおじいちゃんもあまりよくは思われていなかったから。叔父さんもあまり触れて欲しくはないみたい」

 

「そうなんだ……」

 

 そこではっとした様子で慌てて続ける。

 

「で、でも! あたしには良い叔父さんだから! 悪い人じゃないから」

 

「あ、うん」

 

「それにしても、結構大きなイベントだって聞いていたけど、あまりおまわりさんは見かけないね」

 

 触れて欲しい話題ではなかったのか、露骨に話題をそらされた。まあ、今はあまり追求する材料もないので、とりあえずそれに乗ることにする。

 

「警察の人ならばちゃんといるみたいだよ? 何でも景観とかの問題との関係で、警察の人たちは基本的には私服で警備するって聞いているけど」

 

 このイベントについて博士から聞いた情報だった。

 そんな中、クリスは怪訝そうに、

 

「あのさ、でもあそこに警察の制服着てるおまわりさんがいるけど」

 

「え?」

 

 クリスが指さした先に、まんじゅう屋の屋台がある。

 いや、それは良い。

 幟に「有罪まんじゅう」と「無罪まんじゅう」と独特な個性的な商品名が書かれてあるが、それもまだいい。

 問題は、

 

「ねえ、あれっておまわりさんの制服じゃないの?」

 

「そう見えるけど……」

 

 まんじゅう屋の屋台には制服警官――と思しき若い男がいる。

 

「えっと、その。ちょっと良い?」

 

 気にはなったので二人で近づいていき、そのまんじゅう屋の店員に問いかける。

 

「はっ! 何でありましょうか!」

 

「ねえ、もしかしてまんじゅう屋さんはおまわりさんなの?」

 

 コナンの問いに対し、相手はビシッと敬礼の姿勢をとりつつ答える。

 

「はっ、本官は原灰ススム巡査であります!」

 

「灰原?」

 

 馴染みのある名字と似ていたために、つい勘違いして聞き返してしまう。

 

「いえ、灰原ではなく原灰でありますからして、コレッ!」

 

「えっと、原灰さんは警察官なの?」

 

 巡査という階級と、警察官の制服。どうみても警察官にしか見えない。

 だが、まんじゅうを売っているその姿は、ごく普通のまんじゅう屋にも見える。

 これが警察官としての仕事としてとは、とても思えない。

 

「……」

 

 そう訊ねられた原灰は、急に押し黙った。しかも、どこか涙目のようにも見える。

 何かまずい事を聞いただろうか、とコナンも少し考える。

 

「警察官より、と警察官よりでない人を比べるのであれば、警察官よりの人にはなるはずであります!」

 

「それで警察官なの?」

 

「その、あえて。警察官、と警察官でないにまとめるのであれば、その、その後者にしなければならないといいますか……」

 

 後半は小声になってしまっており、聞こえづらい。

 

「現時点の肩書きに本官! 遺憾ながら、敢えていうならば『元』をつけなければならない立場でありますからして!」

 

「つまり警察をクビになったんだ」

 

「……っ!?」

 

 やたらと長々とした説明をあっさりと要約するコナンに、ダメージでも受けた格闘ゲームのキャラクターのようなリアクションを原灰はとる。

 

「ねえ、探偵君。このヒト、何かすごくショックを受けているみたいだけど」

 

 クリスにそう言われる。

 何か悪いことをしてしまったか――とコナンは少しばかりの罪悪感を感じる。

 

「同情をするなら、マンジュウを買うであります! 有罪まんじゅうと無罪まんじゅう、できれば有罪まんじゅうを買うでありますからしてっ!」

 

「ちなみにいくら?」

 

 この屋台には値段が書いていないため、原灰に訊ねる。

 

「無罪まんじゅうが五個入りで1200円で、有罪まんじゅうが一個1000円でありますからして!」

 

「……さすがに差がありすぎじゃない?」

 

 さらっと流されそうになったが無罪まんじゅうが五個入りで1200円ならば一個でなら240円になる。有罪まんじゅうとは4倍以上の差がある。

 

「だって、うう……。有罪まんじゅうのほろ苦さを再現するのに、隠し味に高級なコーヒー豆を使っているとかで、この値段に」

 

「それで、あなたはどうしてまんじゅう屋に?」

 

 無罪まんじゅうと有罪まんじゅうについての話題を切り上げ、気になっていたらしくクリスが原灰に問う。

 

「それは、当面の生活のためのアルバイトと、その……」

 

 小声になってきてよく聞こえない。

 が、やがて意を決したのか大声で叫ぶように言う。

 

「今回のこの日欧文化交流会には、白馬警視総監殿も挨拶をするために参加する予定がありますからして! あわよくば、媚を売って本官の復帰を手伝ってもらえないかな、などと思っていないでありますからしてっ」

 

「あ、警視総監も出るんだ」

 

 検事局から参加する団財副局長ばかり気にしていたが、警視庁からも大物が参加するようだった。

 まあ一度クビになったのならば、いくら警視総監に媚を売ったところで無駄だと思うが。むしろ、それで何とかなってしまったらそちらの方が怖い。

 

「あの、それでその制服は? クビになったなら返さなきゃいけないんじゃないの?」

 

「これは勝手に、本官が持ち出しただけでありますからしてっ」

 

 それは普通に大問題な気もするが。

 まあ、それを追求するのは今やるべきことではない。

 とりあえず、その問題に関しては放置することにして、別の問いを投げかける。

 

「そういえばこの辺りにちゃんとしたおまわりさんはいないの?」

 

「はっ! つい先ほども本官と同じ匂いがする者を見かけたでありますからして! おそらく、あれは刑事(デカ)かとっ」

 

 どうやら、ちゃんとした警察官もこの近くにいるようだ。

 ひとまずお礼代わりに、無罪まんじゅうと有罪まんじゅうを購入してから、このまんじゅう屋から離れることにした。

 

 

 

「甘い。馬鹿みたいに……」

 

 それが、無罪まんじゅうの感想だった。

 まんじゅうなのだから、当然といえば当然だがやたらと甘い。

 

 クリスと一つずつ無罪まんじゅうを食べ終え、口元に甘みが残る中、残りのまんじゅうをいったんしまってから問いかけた。

 

「そういえば、クリスさんのおじいさんってどんな人なの?」

 

「うーん、そうだね。スポーツ観戦とか好きだったかな。サッカーとかベイカー王国でも流行っているらしいし」

 

 そういえば、あの特徴的な緑色のサッカーボールがベイカー王国では流行っているといるという話だったのを思い出す。

 

「あ、それと日本に何度も来ているうちの野球にもはまったみたいだよ」

 

「サッカーと野球……」

 

 つい呟くように言う。

 野球観戦にサッカー観戦、というと昨日の事件の被害者である半庭弁護士の残していたメモの内容を思い出してしまう。

 

(いや、さすがに結びつけるのには早すぎるか)

 

 サッカーと野球の両方が趣味の人なんていくらでもいる。

 これだけでは繋がりとして弱い。

 

「ああ、そういえばベイカー王国の王様もサッカーだけじゃなくて野球も好きだって話だよ」

 

「王様も?」

 

「そ、国王陛下。ベイカー王国じゃあ随分と偉大な人扱いみたいだね。ベイカー王国を立て直した英雄様だって」

 

 そう言いながらも、クリスは他人事のような扱いだった。

 まあ、彼女は生まれも育ちも日本だというのであれば実質外国の話であり当然の反応かもしれないが。

 

「ここ最近は、体調が思わしくないらしくて、ほとんど表には出てないみたいだけど」

 

 そう補足するようにクリスは続ける。

 確か、ベイカー王国の国王は戦前の生まれ。

 今はかなり高齢のはずだ。

 

「確かベイカー王国の王様って12年前も日本に来てたんだよね」

 

 ベイカー王国について調べた際に出てきた情報を思い出しながら、訊ねる。

 エルロック王太子が近々、来日するように12年前には国王と当時の王太子が共に来日していたようだ。

 

「そうだよ。今度は王様の方は来ないみたいだけど。それはともかく、時期的には被ってるんだよね。おじいちゃんが姿を消したのと」

 

 ここで少し深刻そうな色が少女の顔に浮かぶ。

 

「何か関係があるって考えているの?」

 

「ううん。さすがにね。こじつけが過ぎるかな」

 

 クリスは黙って首を左右に振る。

 だが、それは本心から納得してのものなのか、あるいは表面だけ取り繕っているだけなのかはわからない。

 

「ところでさ、聞いていい?」

 

「何? 何でも聞いてよ」

 

「そもそも何でおじいさんを探しているの?」

 

「え?」

 

 きょとんとした表情になるクリスに、コナンは重ねて尋ねる。

 

「いや、だってさあ、12年前ってことはクリスさんが生まれた時とほとんど同じなんだよね? おじいさんの事、記憶にだってほとんど残ってないでしょ」

 

「あ、えーと、それはそうかなあ」

 

 いなくなった人を探して欲しい――そう願うこと事態は別に不自然ではない。

 実際に、失踪人捜しの依頼に来る者は毛利小五郎の探偵事務所にかなりいた。灰原の姉である宮野明美の場合なども元はといえば彼女が依頼した失踪者探しからはじまっている。

 そして、その理由は失踪者とかなり親しい間柄だった場合か、あるいはその失踪者を見つけないと大きな損失に結びつくような利害関係での場合だ。

 クリスの場合、年齢的に後者は考えにくい。

 

「クリスさんが唐突におじいさんを探したくなった理由は何?」

 

「え、えっと、何でかな。あはは……」

 

 明らかに目を泳がせて動揺している。

 

(やっぱり何か理由がありそーだけど……)

 

 不自然ではあるが、今の段階では話してくれそうにない。

 やっぱり、もう少し根拠を集めてからこの質問を突きつけた方が良かったかもしれない。

 そう悔やみながら、あちらこちらで準備をはじめている様子を眺めながら、ひょうたん湖周辺を歩き回るのだった。




時間軸は検事2の後で本編4の前ですので、今回でてきた原灰巡査は検事1でクビになってから法廷係官になる前です。
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