名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.28 進捗

 とりあえず残りの無罪まんじゅう三個と有罪まんじゅう一個を抱えたまま、他の面々との合流を目指したところ――割とすぐに見つかった。

 

「ねえ、探偵君。あれって何やってるのかな?」

 

「いや、ボクが聞きたいんだけど」

 

 クリスの言葉に、呆れたようにコナンが応じる。

 コナンの小学生としての友人である小嶋元太、円谷光彦、吉田歩美らの姿がある。少し離れたところに灰原哀もいる。

 それはいい。

 だが、問題は彼らが囲っている物体だ。

 

 一見すると、不気味な人形だが、その正体が何なのかコナンは知っている。

 

(あの不気味なアレって確か、タイホくんだったよな。警察のマスコットの)

 

 そのタイホくんに絡んでいる三人から少し離れた位置にいる灰原に話しかける。

 

「おい、原灰。どうしたんだよ一体」

 

「ちょっと。私は灰原なんだけど」

 

 ジト目で訂正してくる灰原に「そうだったか」と答えコナンも言い間違いをしていた事に気づく。

 さきほどの元巡査のややこしい名前のせいだ。

 

「それで、どうしたんだよ。これは」

 

「あ、コナン君!」

 

 そんな中、灰原に重ねて訊ねようとしたところ、真っ先にコナンの存在に気づいた歩美が声をかけてくる。

 

「あ、コナン君。来たんですか」

 

 続けてこちらに気づいた光彦がタイホくんに触りながら、話しかけてくる。

 

「おい、だからオメーら何やってんだよ」

 

「見たんだよ、オレ達!」

 

「だから見たって何を」

 

 続けて声をあげる元太にコナンは重ねて訊ねる。

 

「あ、キミたち、だから! そこさわらないで!」

 

 タイホ君の中から、どこか聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「あの、もしかして千葉刑事?」

 

 声の主が、警視庁の千葉和伸巡査部長だと気づき、コナンは声をかける。

 

「この子達、千葉刑事たちがこのカイブツの着ぐるみを着ているところを見たらしくて、それで話しかけて今の状況というわけよ」

 

 傍らで灰原が事情を説明してくれ、状況を理解する。

 まあ、それはそれとして仮にも警察のマスコットをカイブツ扱いはひどい気はするが、そこは気にする事なく、コナンは千葉に話しかける。

 

「それで何やってるの、千葉刑事」

 

「ああ、だからそれは……」

 

 タイホ君の着ぐるみの中から声がしていたが、やがて鬱陶しげにその頭部を持ち上げ、そこから千葉刑事の顔が中から出てくる。

 それを見て、あの原灰元巡査が言っていた、刑事の匂いがするという相手はこの千葉刑事の事だろうかと考える。

 まあ、ここにいるのが彼一人とも思えないし他の刑事だったのかもしれないが。

 

「ええとね、キミたち。今こうしてタイホくんの格好をしているのも事情があってだね」

 

「もしかして千葉刑事はこのひょうたん湖公園でのイベントの警護を?」

 

 事情を説明しようとする千葉に、先回りする形で聞く。

 

「そうだよ。景観が損なわれるからって、物々しい警察官の制服での警護はやめるように言われているんだよ」

 

 そういって、千葉はやたらと暑そうなタイホくんの着ぐるみを触ってみせる。

 

「それでその格好を?」

 

「まあね」

 

 千葉は不本意そうな表情だ。

 それはこのような格好で警護しなければならないことなのか、あるいはこの暑苦しい着ぐるみを着続ける必要があるからなのか。

 おそらく、両方だろう。

 

「ねえ、千葉刑事! タイホくんの格好なの?」

 

「私服じゃダメなんですか?」

 

「あー、それはね。すぐに刑事だってわかるような、物々しい感じの人たちが警護してたらダメなんだよ。何せ、今日は楽しいイベントになるんだからね」

 

 質問してきた歩美と光彦に、千葉はそう説明する。

 

(まあ、思いっきり警察官の制服着ている人がまんじゅう売ってたけどな)

 

 アレは元警察官だからセーフなのか。

 いや、元警察官が警察官の制服着ているのはアウトだが。

 

「ねえ、キミたち。この刑事さんってキミたちのお友達?」

 

 そんな風に話している千葉の様子をみて、クリスが話しかける。

 

「あ、クリスおねーさん!」

 

「どうも!」

 

「昨日ぶりだな!」

 

 三人がいっせいに挨拶してくる。

 クリスの方も「ども、キミ達」と軽く手をあげて応じる。

 

「オメーらどこ行ってたんだよ。探したぞ」

 

「えっとねー、ほんとはすぐに行こうとしたんだけどヒョッシー探そうって話になったの!」

 

 コナンの言葉に歩美が応じる。

 

「ヒョッシーってここにいるって噂されてる怪獣の?」

 

「うんそうだよ!」

 

「でもよー、ヒョッシー釣り上げるなら餌とかないとダメじゃねーのか?」

 

「そうですよ。相手は大怪獣です。相当に大きなお肉でも釣り糸につけないとダメそうですね」

 

 そんな風に話す三人の視線が千葉刑事の方に向けられる。

 

「あ、千葉刑事ならお肉たっぷりだよ!」

 

「でもよー、そんなに美味そうか?」

 

「でも相手は大怪獣です。意外に珍味好きかもしれませんよ」

 

「こらこら、勝手に人をエサにしないでくれるかな」

 

 勝手な事を言い合う三人を千葉がたしなめて見せる。

 

「おい、オメーら」

 

 そんな三人に、コナンはジト目で話しかける。

 

「オメ―ら、ヒョッシーじゃなくてクリスさんのおじーさん探してやれよ。昨日、この人から依頼を受けたんだろ?」

 

「うん、そうだよ!」

 

「困っている方を放っておけませんからね!」

 

「そうだぜ! このねーちゃんのじーちゃん見つけたやろうって、昨日は盛り上がったんだぜ!」

 

 三人がそう盛り上がっている中、ふと元太が疑問符を浮かべる。

 

「えーと、それでそのじーちゃんの名前、何だっけ?」

 

 そんな元太にクリスが返す。

 

「ドッカディーキ・テイラーだよ」

 

「テイラー? それってベイカー王国のテイラー大使と何か関係があるのかい?」

 

 そういえば先ほど、ベイカー王国の大使が叔父であり、彼は失踪したというドッカディーキ・テイラーの息子でもあるという話をしていた。

 

「そのテイラー大使はあたしの叔父さんだよ」

 

 クリスが千葉の言葉に応える。

 

「千葉刑事、その大使さんの事を知ってるの?」

 

「ああ、さっきちょっと話してね。何というか穏やかそうな人だったよ」

 

 よいしょ、とタイホくんの着ぐるみを整えながら千葉がそう返す。

 

「まあ、とにかく今日、ここには色々と偉い人が来るからね。厳重に警備をする必要があるんだよ」

 

「確か警視総監や検事局の副局長も来るんだよね」

 

「そうなんだよ。よく知ってるね」

 

 まあ、これはつい先ほど迂闊そうな元警察官のまんじゅう屋に聞いたばかりの情報ではあるのだが。

 

「そんな大事なところだっていうのに、今日は別件で人がいないとかで刑事部の人間も何人か呼び出されているんだよ」

 

「別件?」

 

「え、ああいや。こっちの話だよ」

 

 喋りすぎたと思ったのか、曖昧に言葉を濁してみせる。

 

「と、とにかく! 今忙しいから、それじゃあね!」

 

 これ以上、失言を引き出されてはかなわないと判断したのか、タイホくんの着ぐるみ状態で走り去っていく。

 

(まあ、どうしても知る必要があったら高木刑事あたりから聞き出すか)

 

 気にはなるが、何が何でも聞き出さないというわけでもない。

 どうしてもの場合、刑事の仕事(情報の横流し)をしてくれそうな心当たりもあることだし、ここは千葉刑事を追いかける事はやめようとした時、

 

「なあ、コナン」

 

「んだよ」

 

 急に元太に話しかけられる。

 

「それってアレだよな。まんじゅう屋の屋台の」

 

 先ほど購入した有罪まんじゅうと無罪まんじゅうを、目敏く見つけられたらしい。

 

「あー、それってアレだよね、おまわりさんが売っていたまんじゅう屋さん!」

 

 そんな元太の言葉に歩美も同意する。

 どうやら、どこかで行き違っていたようであり、彼女らもあのまんじゅう屋の近くを通りかかっていたようだ。

 

(いや、あの人は「元」がつくらしいけど)

 

 突っ込むのも野暮な事かとそれはやめておく。

 

「元太君、すっごく物欲しそうな顔してましたもんね!」

 

「でも結局、買わなかったんだよね」

 

「しょーがねーだろ、高かったんだから」

 

 まあ、小学生1年生のお小遣いで買うおやつにしては強気すぎる価格設定だろう。

 それはともかく、いい加減脱線を続けられてはクリスが気の毒だと思い、話題を修正しようとするが、

 

「でも、最初はあの人に買ってもらおうとしたんだよね!」

 

「あの人?」

 

 歩美の口から気になる言葉がでてきて、つい聞き返す。

 

「毛利のおじさんだよ!」

 

「え?」

 

 毛利小五郎は、まだ群馬にいるはずだ。

 当然、こんなところにいるはずがない。

 

「でもよー、よく見たら全然違ったんだよ」

 

「ですね。似たような服着てて、紛らわしいですよ全く」

 

 そんな風に話し合う三人の会話に、ふと引っかかるものがある。

 

「なあ、そのおっちゃんってもしかして、本物のおっちゃんよりキザっぽい感じの人じゃなかったか?」

 

 真剣な表情でそう訊ねるコナンに、灰原は怪訝そうな顔をする。

 

「どうしたの?」

 

「いや、ちょっと気になる事があってな」

 

 まさかとは思うが、嫌な予感がする。

 そんなコナンの疑問をよそに、三人は答える。

 

「うーん、本物よりもキザそうなおじさんだったかも。でも『ククッ』とか言っててかっこよかった!」

 

「高そうな葉巻くわえてましたね」

 

「それでよ、まんじゅう買ってたな!」

 

 その覚えがある特徴にまさか、という思いがコナンに過る。

 なぜこんなところにいるのか、本当に昨日の話に出てきたニセモノなのか、などという思いもある。

 

「どうしたの探偵君?」

 

「ねえ、クリスさん。悪いけどクリスさんの件よりも優先したい事ができたんだけどいいかな?」

 

「え? まあ、別にこっちは頼んでいる立場だからいいけど、どうしたの?」

 

「うーん、何というか」

 

 少し間をおいてから、コナンは答える。

 

「ニセモノ――というよりかはベツモノ探しかな」

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