名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.29 思わぬ再会

「全く、大丈夫かよアイツら」

 

 ひょうたん湖公園のベンチに腰かけながら、コナンはつい先ほどまでここにいた子供たちの事を考える。

 

 あの後、少年探偵団の面々にも一応の事情を説明。

 すると、自分たちからニセモノ探しを協力すると申し出た。まあ、とりあえずは危険なことに発展する可能性は低いだろうと考え、コナンもそれを了承したのだが、不安がないわけではない。

 

 とりあえず、遠くには行っていないだろうと公園内に散らばって探しているのだが、今のところ誰からも連絡はない。

 

 そんな中、コナンはあの元巡査のまんじゅう屋のところにでも行ってみようかと考える。

 どうやら、あのニセモノはあのまんじゅう屋に行っているようだ。

 当然、彼とも接触しているはずだ。

 

(けど大丈夫かな、あの人)

 

 わずかな間話しただけだが、正直あの原灰元巡査はとてもではないが頼りになりそうになく、客の事もまともに覚えているか疑わしい人物だ。

 そんな風にどうすべきかとコナンが考えていると、

 

 

「何かお悩みですか、探偵様」

 

 

 不意に背後から声をかけられる。

 聞き覚えのある声、そして見覚えのある顔だ。

 

「えっと、エドガーさん?」

 

「はい。ご無沙汰しております」

 

「ご無沙汰も何も、昨日あったばかりだよね?」

 

 真面目な顔と表情のため、ジョークなのか真剣に言っているのか判断がつかない。そんな風に話しかけてくる相手は、昨日もあった少年探偵のエドガーだった。

 

「えっと、どうしてここに……?」

 

「昨日、こちらのイベントに参加すると言っておりましたので」

 

 そういう意味で聞いたわけではない。

 だがまあ、変に突っついてもやっかいそうなのでやめておき、質問を変える。

 

「群馬に残ったあの二人はどうしたの?」

 

 これはこれで気になっていたことでもあるので、訊ねてみる。

 小五郎とドラコはニセモノの捜査をすると言っていたはずだが、その進捗も気にはなっていた。

 

「はい。そして、先生と毛利探偵は現在も捜査中のようです」

 

 エドガーはそう言って、説明を続ける。

 

「あの後、毛利探偵は偽毛利探偵の足取りを追って捜査を開始。ひとまず、あの団財副局長の別荘からの移動手段に目をつけたようです。そして、偽毛利探偵も偽妃弁護士も車で来ていた様子もなし。最寄りの駅までもそれなりに距離があるという状況。おそらく、タクシーを使ったのだろうと群馬県警にも協力を仰ぎ、一昨日のあの場所、あの時間にいたタクシーを調べあげたようです」

 

 正直なところ、小五郎をあのまま残してどうなることかと不安だったが、思いのほかまともな推理と捜査をしているようだった。

 確かに、人はゲームのように移動コマンドを押せばその場所から移動できるわけではない。徒歩であれ、車であれ、電車であれ移動する手段が必要である。

 

「その結果、偽毛利夫婦と思しきお二方を送り届けたというタクシーが見つかりました」

 

「そのタクシーの行き先は?」

 

「最寄りの駅前にあるビジネスホテルだったそうです。そのホテルに偽毛利探偵の方は宿泊したようですね。それも事件のあった一昨日から今日の早朝までです」

 

「その言い方だとニセモノのおばさんは違うってこと?」

 

「はい」

 

 エドガーは頷いて続ける。

 

「偽妃弁護士は、このビジネスホテルには宿泊せずに別れたようです。それ以上の足取りは掴めておりません」

 

「そうなんだ……」

 

「そして、偽毛利探偵は今日の朝6時の時点でチェックアウトしたとの事です」

 

「今日の朝か……」

 

 事件発生が一昨日だというのに、随分と悠長に見える。

 絶対に捕まらないという自信があったのか、あるいは他に理由があってのことか。

 

「あ、そういえば何て名前でホテルに泊まっていたの?」

 

 可能性としては低いが、足取りを追われていないと高をくくってニセモノの本名で泊まっていた可能性も一応ある。

 

「どうやら、そちらでも毛利小五郎の名前を使っていたようです」

 

「そりゃまた大胆な……」

 

 コナンも思わず呆れるが、よくよく考えてみれば警察関係者の前で堂々と毛利小五郎の名前を使うよりかは大したリスクでもないかと考え直す。

 

「なお、ホテルにもサインを残しているようです。そのサインの映像も送っていただきました。筆跡鑑定までしたわけではありませんが、ほぼ間違いなく裁判長様が持っているものと同じ筆跡かと」

 

 何やっているんだあのニセモノは。

 ついそう突っ込みたくなるが、他に気になる点を先に訊ねてみる。

 

「そういえば、事件が起きたのは一昨日だよね? その後に泊まったって事は昨日はどうしたの?」

 

 先ほどの話では、チェックアウトしたのは今朝ということはつい数時間ほど前。

 偽毛利小五郎は、コナン達が捜査をしていた昨日も含めてホテルに二泊した事になる。

 

「ほとんどホテルにいたようですね。外に出ている時も、そのホテルから歩いていける範囲内だったようです。何度かフロントにキーを預けて外出したこともあったようですが、すべて1時間以内で戻ってきていたそうです」

 

 少なくとも、逃げようとする様子は微塵もなかったということか。

 まがりなりにも世間的に名の知れた毛利小五郎という男の肩書きを勝手に騙ったということに対する、怯えはなかったようだ。

 

(待てよ、ということは)

 

 腕時計を確認すると、現代の時刻は午前9時43分。

 ホテルのあった場所は群馬でチェックアウトが今日の早朝でつい先ほどこのひょうたん湖公園で探偵団の面々が見かけたということは、ほとんど間隔を置かずに東京に移動してきたことになる。

 

「どうかされましたか?」

 

「あ、ううん。とにかく、ニセモノのおじさんを探したいんだけど、エドガーさんも協力してくれる?」

 

「構いませんよ。探偵助手ですから」

 

 そう言ってエドガーは、微笑んでみせてから「ですが」と続ける。

 

「そのニセモノの御仁を見つけたとして、何の権限で拘束したら良いのでしょうか?」

 

「え?」

 

「私も探偵様も公的な立場にはありませんん。この国の法律でも、現行犯であれば一般人であっても例外的に拘束はできますが、今回のケースでそれが当てはまるかは難しいのでは」

 

 いわゆる私人逮捕などといわれるものだ。

 現行犯で犯行を行った者がおり、その場に警察官等がおらず、緊急的に捕まえないとまずい状況などで一般市民であってもそういった相手の身柄を拘束することが認められるが、彼の言うように今回のケースでは難しいかもしれない。

 実際にコナンも過去に似たようなことはやったことがあるが、そういったケースもほとんどはすぐに捕まえないと逃亡の恐れがあったりした場合や、現行犯だったりする者が相手だ。

 

「えーと、そうだね……」

 

 とはいえ、せっかく見つけたニセモノをここで逃すのもまずい気がする。

 彼らは今のところ――判明している限りだが――大きな罪を犯したわけではない。

 偽毛利小五郎は探偵を名乗って誤認逮捕を誘発したとはいえ、正直アレは騙された山村警部(ヘッポコ)がだいぶ悪い気もする。偽妃英理も弁護士だと称していたとはいえ、報酬などを受け取っていたわけではないため非弁行為にも当たらない。

 現時点で偽毛利夫婦は何が何でも早急に拘束しなければならない、重大犯罪者とは言い難い。

 しかし、今回の件は何かしら大きな事件に繋がっている。

 そう感じられるのだ。

 

「まあ、別にいいのではないでしょうか」

 

「え?」

 

 そんな風にコナンが悩んでいる中、あっさりとエドガーが言ってのけた。

 

「大丈夫です。子供だけでやったのであれば、最悪、ごめんなさいで許してくれますよ」

 

「いや、さすがにそれはまずいんじゃ……」

 

「そうですか。では、責任を取ってくれそうな大人に頼んでみては?」

 

「え?」

 

 そんな風にエドガーがコナンの背後を示す。

 そこには、さきほどの千葉刑事が来ていた着ぐるみに酷似――というかよりいっそう不気味になった着ぐるみが走っている。

 

(アレは確か、プロトタイホくんだったっけ)

 

 タイホくんのプロトタイプだという、警察のマスコット。

 警察のマスコットとは思えないほど不気味であり、夜中に背後に立たれたらトラウマになりそうだ。

 

「ぬおおおおっっっ!! 遅刻しそうッス! まずいッス!」

 

 しかもその中から、何やら聞き覚えがある声もする。

 

(この声って確か)

 

 そう思い、コナンはプロトタイホくんに話しかける。

 

「あの、もしかして一昨日にホテルで会った糸鋸刑事?」

 

 その声に、ピタリとプロトタイホくんが止まる。

 

「アレ? アンタは……」

 

 そう言って、プロトタイホくんの着ぐるみの頭部が外される。

 中からは、予想通り糸鋸刑事の姿があった。

 

「アンタは確か、ドイル君だったッスか?」

 

「コナンだよ」

 

 素っ恍けた表情で疑問を口にする男――糸鋸刑事に、コナンは突っ込む。

 

「そうだったッス! まったく、自分の周りにはチンミョーな名前が多すぎるッスよ」

 

 糸鋸、もだいぶ妙な珍妙な名前な気もするが。

 そう思いながら、コナンは続けて訊ねる。

 

「刑事さんももしかしてここの警備?」

 

 さきほどの千葉刑事同様に、ここに警備として配置されたのだろうかと思い、聞いてみる。

 

「そッス! 人がいないからってここの警備をさせられる羽目になったッス!」

 

 そういって不満そうな様子で、糸鋸は嘆いてみせる。

 

「探偵様」

 

 そんなコナンにエドガーは囁く。

 

「ちょうどよいタイミングで責任を取ってくれそうな大人が来てくれたのです。この方に頼んでみては?」

 

「え?」

 

 すぐにニセモノ探しの件だと思い至る。

 だが、千葉刑事ならばまだしも、彼はホテルで出会っただけの関係だ。頼んでいいものかどうか思い悩む。

 

「大丈夫です。このような直情的で使いやすそ――もとい市民の言葉に声を傾けてくださいそうな御立派な方であれば、事情を話せば間違いなく応じてくれるかと」

 

「そ、そうかな」

 

 とはいえ、誰かしら大人の協力が必要なのも確かだ。

 それも逃げられないよう、すぐに。

 

「えっと、刑事さん。少しいいかな?」

 

「ム? 何スか? 刑事さんはお金のこと以外なら相談に乗ってあげるッスよ!」

 

「その実は……」

 

 コナンは糸鋸に毛利小五郎のニセモノが出現しており、その目撃証言がこのひょうたん湖公園にあったことを話してみせた。

 

「そういえばアンタ、あのメータンテーと一緒にいたッスね。それにしてもニセモノッスか」

 

「何か知ってるの?」

 

「あ、いやそれはッスね」

 

 そう何か知っていそうなそぶりを見せる糸鋸にコナンが食いついた時、携帯電話の着信音が響く。

 

「あ、自分ッスね。アンタちょっと待ってるッスよ。ああ、もうこの着ぐるみから出すの面倒ッス!」

 

 コナンにとっては都合の悪いタイミングというべきか、会話が中断させられる事になった。

 そんな中、糸鋸はようやく携帯電話を引っ張り出してそれを耳に当てる。

 

「あ、自分ッス! あ、御剣検事ッスか。お疲れッス!」

 

 どうやら相手は、コナンも一昨日に会った御剣検事のようだ。

 口を挟むことはせず、黙って会話を聞いている。

 

 だが、次に糸鋸から出てきた言葉はコナンも無関係とはいえないものだった。

 

 

「え? 何スと! 昨日の話にあった毛利小五郎と妃英理のニセモノ? それに殺人容疑がかかってるッスか! 大変ッス! えらいことッス! すぐに探すッスゥゥゥ!!!!」

 

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