名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.31 第三の事件

某月某日 9時27分 ニューハイドビル

 

 

 

 

「……ここか」

 

 御剣は、杯戸町にあるビルに来ていた。

 ビルの名は、ニューハイドビル。

 ここは、GO-5号事件のあった杯戸町の廃ビル――その現代の姿だった。

 事件の後、大規模な改修工事が行われ、今はテナントビルとしていくつかの会社や倉庫が入っている。

 事件現場となった部屋もその対象であり、既に証拠など何も残っていないだろう。

 だが、それでも万が一という事もある。

 次の目的地であるトロピカルランドの開演時間にはなっているが、メモにあった11時までの時間潰しとして、このビルを訪れていた。

 

 まずは、このビルの管理人室に行く。

 令状などはないため、検事としての権限を用いて調べることはできないが、さすがに無許可で調べ回るわけにもいかないからだ。

 

「……失礼」

 

 『管理人室』と書かれた部屋の前に声をかける。

 物音が外に聞こえており、誰かいるのがわかる。

 しかも、テレビの音声に加え、小さな笑い声も聞こえてくる。

 

(むう、何なのだ)

 

 これでは、さすがに気分を害する。

 

「……失礼!」

 

 そのため先ほどよりも、強い口調で叫ぶ。

 

「……はあい、誰ですか?」

 

 ようやく反応があった。

 ぼさぼさの髪の毛、それにジャージ姿の女だった。

 その格好から、年齢はわかりにくいが、おそらく御剣よりかは年上と思われる。

 

(何だというのだ、全く)

 

 従来、生真面目な性格の御剣からしてみればこのようなタイプはあまり快く思えない相手だ。

 だが、それでも訊ねる必要がある。

 

「失礼ながら、ここの管理人だろうか」

 

「……そうですが」

 

 ぼそりぼそりと話す聞こえにくい声だ。

 

「もしかして、例の事故物件の部屋を調べにでもきたんですか?」

 

「……ム」

 

 思いがけずして出てきた言葉に、御剣は思わず聞き返す。

 

「それは10年前にこのビルで起きた検事の監禁事件、および殺人事件の部屋のことだろうか」

 

「……はい、そうです」

 

「なぜそのように、思われたのだ。私はまだ何も言っていなかったが」

 

「……いえ、何日か前に変な二人組が同じ用件で来ましたから」

 

「二人組というと、それは」

 

 何となく、嫌な予感がしながら言葉を続ける。

 

「もしかして、探偵の毛利小五郎、そして弁護士の妃英理と名乗ってはいなかっただろうか」

 

「……ああ、そうです。有名な探偵さんと弁護士さんですよね」

 

 そして、それは当たった。

 

「それで、アナタはその部屋を調べる許可を出したのだろうか」

 

「……あ、いえ。一応その部屋、今の契約主さんがいますので。そのヒトと話してってことで話はまとめました」

 

「では、アナタはその先の話は関知していないと?」

 

「……そうなりますねえ」

 

 心底、関心がなさそうな様子で答える。

 

「……あ、もういいですか? アナタも何かあの部屋に用があるなら、そのヒトと話し合ってください。場所は教えるので」

 

 それだけを言い終えると、再び管理人室に戻っていった。

 

 

 

 

「……全く。何といい加減な管理人なのだ」

 

 御剣は不機嫌そうに呟きながら、階段を昇る。

 あの管理人のあまりにも杜撰ともいえる態度にだ。

 曲がりなりにも、ここの管理を任されているであろう人物なのに、あまりにも無関心かついい加減な対応だった。

 アレでは、このビルに何かあった時、トラブルに発展してもおかしくない。

 

(まったく。彼女が刑事ならば、給料を地の底まで下げてやるというのに)

 

 そう思いながら、目的の部屋に近づいた頃、

 

「おや、ウチの倉庫に何か?」

 

 背後から声をかけられ、御剣は振り向く。

 スーツを着崩した50前後の男性だ。

 温和な顔立ちをしており、御剣の怪訝そうな表情を読み取ったのか、

 

「ああ。私は、このビルで貿易会社をやっております十津川十蔵(とつがわじゅうぞう)と申します」

 

 そういって、名刺を差し出してくる。

 

「ここの部屋はアナタの……?」

 

「はい。そうですが、それが何か?」

 

「失礼ながら、ここでは何を?」

 

「この部屋は基本的に倉庫として使っております。基本的にはめったに開けたりしないんですが」

 

「基本的には、というと?」

 

 言い方に引っかかるものを感じ、御剣が疑問を口にする。

 

「今朝は少し、運び出すものがありましてな」

 

「運び出すもの?」

 

「ええ。ベイカー王国をご存じですか? 日本ではほとんど知られていない国ではありますが」

 

「一応の知識は」

 

 ここでその名が出てきたことに少し驚きながらも、御剣は先を促す。

 

「帰化しているのですが、妻がベイカー王国の出身でしてな。その実家がベイカー王国の名家だったところでして、その秘宝の一部が、私のところにあるわけなのですよ。かなり古いものですが、時折商売で役に立つことがありましてな」

 

「ほう」

 

 かなりお喋り好きなのか、放っておいても話してくれた。

 まあここは都合が良いので情報を得るために、適当に相づちをうつことにした。

 

「ですがまあ、今回は義兄からの頼みで貸し出したわけですよ」

 

「義兄、といいますと?」

 

「おっと失礼。説明が足りておりませんでしたな。私の妻の兄は、ベイカー王国の大使でして。今日、ひょうたん湖公園で行われるイベントで展示したいからと、言われましてな。まあ、義実家とは色々とあったので、それくらいはと義理立てとしてですな」

 

「ベイカー王国の大使、ですか」

 

 思わぬ大物の名前が出てきて御剣も驚く。

 

「それで、その秘宝というのは?」

 

「聖剣です」

 

 真面目な表情のまま十津川は続ける。

 

「ああ、ふざけているわけではありませんぞ。もちろん、ゲームのように秘められた力が、などといったものがあるわけではありませんが、由緒正しいものです。それで、今回ひょうたん湖でのイベントでも是非、展示したいからと」

 

「そうですか」

 

 御剣はそう頷くも、あまり興味はなかった。

 ベイカー王国という名前が出てきたので、つい聞いてみたがやはり関わっている事件とは関係のないことかもしれない。

 

「それも、かつて、国を守った英雄でありながら、堕落したといわれる騎士が使っていたといわれる剣。堕ちた聖剣と言われる、堕聖剣『ダサクネー』。ベイカー王国にとって由緒正しきものですぞ」

 

「それで、その聖剣も普段はこの倉庫に」

 

「ええ。今は持ち出されてしまっているので台座ぐらいしか残っておりませんが。何なら見て行かれますかな?」

 

 そう言いながら、倉庫の前に立ち手元のカードキーを使い、扉を開けてしまった。

 

「あ、いや……」

 

 まあ、いいか。

 結果的には交渉の手間が省けた。

 御剣はそう考えて中に足を踏み入れる。

 

 色々なものが、室内にはおいてある。

 何やら、銅像やら装飾品やらといったものだ。

 価値のありそうなものなども、多数ある。

 どことなく、かつて空港で巻き込まれた事件でみたものを連想させる。

 

(アレは確か、『ありふれた像』だったか)

 

 妙な名前だが、確かそんな名前だったはずだ。

 微妙に間違っている気もするが、多分気のせいだろう。

 そんな風に思い出してみると、

 

「ここに問題の聖剣が置いてあったのです」

 

 そう言って十津川が示す白い台座。

 そこには窪みがあり、ここに問題の聖剣とやらがあったのだろう。

 そんな時だった。

 

(……ム)

 

 ふと、台座の近くに小さな赤い点があるのを、御剣の視界に入る。

 

「これは……」

 

 屈み、確認する。

 血だ。それも、ごく最近のものと思われる。

 

 視線をずらす。小さいものだがそれが、隅の方まで続いている。

 

「あの、何か?」

 

 十津川は怪訝そうな表情をするが、御剣は気にせず進む。

 

 そして、その到達点というべきところに、赤色の布がかけられた大きな塊が見える。

 布には埃がほとんど見えず、つい最近に被せられたものである事がわかる。

 

「失礼ながら、これは?」

 

「え? ああ、それはですな。 ……む、妙ですな。そんなところには何もなかったはずなのですが」

 

 十津川の言葉に嫌な予感を確信へと変え、その布を取り払う。

 

「こ、これは……!?」

 

「な、なあ!?」

 

 御剣は目を見張り、十津川も驚いたような声をあげる。

 そこには、御剣より幾分か年上にみえる女の身体。

 だが胸元から、大量の血を流しており死体を見た経験が豊富な御剣からして、既に助からないことを悟ってしまう。

 それでも念のためにと身体を調べるが、残念ながら彼女は既に事切れていた。

 

 しかし問題はそれだけはない。

 彼女は、御剣にとって見覚えのある服装をしている。

 これに酷似しているのは、出会ったばかりの弁護士。

 

「こ、これは妃弁護士……?」

 

 だが、冷静さを取り戻し、顔のあたりを確認する。

 

「いや、違う」

 

 眼鏡や、鋭さを感じさせる顔立ちなど共通点がなくはないが、別人だ。少し見ればわかる。

 

「すると、これはまさか……」

 

 妃英理そっくりな服装をした存在。

 それに、心当たりは、ある。

 

「まさか、彼女がニセモノの妃弁護士だというのか……!?」

 

 探していたニセモノの発見。

 だが、それは死体となった状態としてだった。

 事件が新たな進捗を見せたことを感じながら、御剣は警察へと連絡をするのだった。




オリジナル登場人物の名前に関して

基本的に逆転風の名前の人物は逆転テイスト、コナン風の名前の人物はコナンテイストな外見のイメージで書いています。
一部、どちらの法則にも当てはまらない人物もいたりしますが。
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