名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.33 親友の隠し事

「そもそも矢張。キサマは何故、ここにいるのだ」

 

「いやあ、それを話すにはココロと別れてからのことを話さないとだな。長くなるぜ!」

 

 ヘラヘラとした様子で話す矢張に苛立ったまま、御剣は肩に置いた指を動かす。

 

「手短に話せ」

 

「ほら、あの後ロカのやつと付き合ってたじゃん、オレ。その後にカナミとの劇的な出会いがあった後、ミアと付き合うことになってさー、そのミアが留学に行くって言い出してさ、何年も会えないし別れようとかいい出したわけよコレが。それでも別れたくないって言ったわけよ」

 

 ロカとやらも、カナミとやらも、ミアとやらも知らない。

 おそらくは矢張の彼女――元彼女だろうが。まあ、いつものことだ。

 正直な話、全て聞き流してやりたいところだが、辛抱して続きを促す。

 

「それで?」

 

「今日さ、ひょうたん湖でイベントがあるらしいじゃん!」

 

「……日欧文化交流会か」

 

 さきほど、糸鋸刑事から情報を元に答える。

 

「それがどうかしたのだ? 未だに、キサマの話に繋がりが見えてこないのだが」

 

「そうカッカするなよ! そんなんじゃあ、オレみたいにモテないぜ!」

 

 眉間の刻まれたしわを濃くしながら、御剣は続ける。

 

「……いいから続けろ」

 

「とにかく、それでミアのやつが一緒に出たがっていてさー。最後の思い出にとか言っていたけど、オレは思ったわけよ。ここでアピールして、オレの良さを見せて惚れ直させろってことだってね!」

 

「それは、本当に文字通りの意味だったのではないのか?」

 

 矢張(こんなの)でもまがりなりにも恋人だった相手。

 最後の記念にデートをして、それで終わろうと思っただけではないか。

 

 だが、相手は矢張だ。

 そう思いながら、聞き返す。

 

「違うって! ちょうど、オレ今の仕事先でそこの警備もすることになってたからさあ」

 

「だから?」

 

 苛立つ気持ちを抑えながら、先を促す。

 

「それで、ちょうどいいと思ったわけよ。ミアのヤツも、アレを見せてやればオレに惚れ直すと思ってよ!」

 

「アレ、とは?」

 

 ようやく核心に触れた事を察し、御剣はさらに先を促そうとする。

 

「……」

 

 なぜかここで矢張は黙り込んだ。

 

「き、汚えぞ御剣ィ……!」

 

「何?」

 

「そうやって、純粋なオレの口を滑らそうっていうんだな! そうは行かねえぞ! アイツといい、お前といい、もうその手には乗らねえからな!」

 

「……何かしたのだな?」

 

 御剣は察したように、矢張を鋭い眼差しで睨みつける。

 

「だからそう睨むなよぉ……」

 

「ならば睨まれるような事をするな!」

 

 怒鳴りつけたものの、また何かやらかしていたことを御剣も確信せざるをえなかった。

 

(むぅ、矢張め。今度は一体、何をしでかしてくれたというのだ)

 

 何せ、サンタクロースになろうとして大使館で不法侵入をやらかしたりする男だ。きっとまた何か常識でははかれない事をやらかしているに違いがない。

 

「……あの御剣検事」

 

「ム? 何だろうか」

 

 ここまで黙って二人のやりとりを見守っていた佐藤が、口を挟む。

 

「その、どうやらご友人のようですし、彼のことは任せてもよろしいでしょうか?」

 

 どうやら、佐藤からもこのわずかなやりとりで矢張がとんでもないトラブルメーカーである事を察せられたようだった。

 いくら仕事とはいえこのような男と関わりたくなさそうなのが、その表情から読み取れた。

 

「ああ、いや。そのようなアレは……」

 

 友人として責任を感じないかと言えば嘘になるが、この男を押しつけられるのも困る。そう思い断りかけるが、どの道、矢張からは話を聞き出さなければならない。

 今回もまた何かやらかしているのであれば、なおさらだ。

 

(仕方がない、他人に任せるわけにもいくまい。この男には、私自らの手で引導を渡してやる)

 

 そう思い、御剣は再び矢張を睨み付ける。

 

「だ、だから睨むなよぉ……」

 

「ついでに矢張。もう一つ聞いておく」

 

「な、何だよ」

 

「キサマがここに来たのは?」

 

「えっと、8時30分前だったとは思うけどよぉ、正確な時間までは……」

 

「十津川さん、間違いありませんか?」

 

 ここで十津川へと御剣は視線を移す。

 

「え? ああ、はい。間違いありません。8時は過ぎていたと思いますが、8時30分よりかは少し前だったかと。9時前には届けたいと思っておりましたので、一度時間を確認しましたので」

 

「つまり、8時以降で8時30分よりは前のことだったと」

 

 常に時計を見ているわけではないだろうし、それ以上は仕方がないか。

 その言葉に、十津川も頷く。

 

「ええ」

 

「それで、件の聖剣とやらがひょうたん湖に到着したのは?」

 

「それが、その……」

 

 ここで十津川は、少し言いづらそうに言いよどむ。

 

「何か?」

 

「あ、いえ。その9時になってから、一度催促の連絡がありまして」

 

「い、いやいや! ちょっと遅くなっちまったけど、ちゃんと届けたぜ!」

 

 慌てたように、矢張が会話に割り込んでくる。

 

「え、ええ。確かに9時10分ごろにちゃんと届いたと連絡がありましたが」

 

 十津川もフォローするように、説明する。

 

(……あきらかに挙動不審、だな)

 

 やはり矢張は何かやらかしている。

 その事を確信しつつ、御剣は問う。

 

「それで矢張、ここからひょうたん湖までの道のりはすいていたのか?」

 

「え? まあ、今日は信号にも引っかからなかったし、何も問題はなかったぜ!」

 

「そうか。では、やはり問題があったのはキサマ自身だったということか」

 

「な、何なんだよ! オレ自身に問題って!」

 

「時間だ」

 

 御剣はそう言って、矢張を追求する。

 

「な、何だよ時間がどうしたってんだよ!」

 

「このビルを出たのが、8時30分前。ところが、だ。キサマが実際に聖剣をひょうたん湖のイベント会場に届けたのは9時10分を過ぎだというではないか。ここからイベント会場のあるひょうたん湖までは20分ほどの距離。いくら何でも、これは時間がかかりすぎではないか」

 

「べ、別にいいだろ! 道が混んでたりとか、迷ったりとか……その、色々あるだろ!」

 

 冷や汗を流し、あからさまに動揺を見せる矢張。

 その言動で御剣は確信する。

 

「だからさきほど、確かめたのだ。ここからひょうたん湖までの道のりで何の問題もなかったのかと。それに何より、キサマの今の慌てぶりがそうでない事を示している! きっと、キサマは何か余計なことをしでかしていたに違いないのだ!」

 

「お前、いくら何でもそれは失礼過ぎるだろう!?」

 

「ま、まあまあ御剣検事」

 

 ここで矢張と御剣の間に目暮が割って入る。

 

「確かにその、彼は少し。いえ、かなり怪しいようですが……。さすがに時間が少し遅かったというだけでは、その追求は厳しすぎるのでは?」

 

 目暮の言っていることは正論だ。

 少し時間がかかったというだけで、この追求は厳しい。

 だが、それは矢張政志という男を知らなければの話である。

 

(とはいえ、私も少しばかり冷静ではなかったか)

 

 間違いなく矢張は隠し事をしている。だが、客観的に考えて今の状況ではそれを攻める根拠が薄い。

 しかし、問題はない。一つ一つ解し、矢張を追求していく。

 御剣がそう思った時だった。

 

 

「目暮警部!」

 

 

 ここで高木が目暮のところに駆け寄ってくる。

 

「ん? どうかしたのかね」

 

「それがその、鑑識からの報告なんですが。例の聖剣の台座のところでとれた指紋が……」

 

「指紋がどうしたんだね?」

 

「ある前科者のものと一致しました」

 

「ある前科者?」

 

「はい。高山友美という男です」

 

 その名前に御剣も反応する。

 

「何!?」

 

 高山友美。

 その名前をつい朝、聞いてきたばかりだ。

 

「確か、その名前は……」

 

 目暮も、この名前に聞き覚えがあるようだった。

 

「GO-5号事件の犯人として逮捕された男です」

 

「あのGO-5号事件の……」

 

「ですが、目暮警部」

 

 二人の間に、佐藤が割って入る。

 

「それならば、高山という男が今回の件に絡むことは不可能なのでは? 逮捕されているのですよね」

 

「いや、それは10日ほど前までの話。すでに彼は出所している」

 

 大森がそう言っていたはずだ。

 

「ええ、御剣検事の言う通り、高山は米花刑務所を出ています」

 

 高木がそう補足する。

 

「十津川さん」

 

「は、はい」

 

 ここで再び御剣は、十津川へと視線をうつす。

 

「こちらの聖剣の台座、当然10年前にあった事件の後にここに置かれたものなのですね?」

 

「はい、それはもう。それに事故物件という事は知っておりましたので、この部屋は徹底的に改装工事をお願いしました」

 

 ならば当然、何かの間違いで10年前の事件の時の証拠品が残っていたという可能性などないか。

 

「重ねてお尋ねしますが、10日以内に高山という男をこの部屋に通したことはないのですね?」

 

「え、ええ。間違いありません。ここ最近に、こちらの倉庫内には私以外は入ってはおりませんし、誰も入れてはいません」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 10日以上前は、高山は刑務所の中というこれ以上なくアリバイを証明できる場所にいた。

 つまり、ここに指紋をつける事ができたのはこの10日以内。

 それも、勝手に入ってつけていった事になる。

 これでは、事件と無関係である可能性の方が低いと考えるべきだろう。

 

「目暮警部。勝手ながら、こちらにある人物を呼んで話を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「それは構いませんが……。誰をですか?」

 

「目暮警部に昨日教えていただいたうちの一人。かつて捜査一課の刑事であり、今は探偵をしている大森という人物です」

 

「大森君をですか……」

 

 あの刑事上がりの探偵については、そもそも目暮から聞いた相手だ。

 当然目暮も知っている相手のはずであり、複雑そうな表情になる。

 

「彼は高山について詳しく知っているはずの人物。話を聞くべきかと」

 

「わかりました。こちらから連絡をしておきましょう」

 

 そう言って、目暮はスマホを取り出し連絡をはじめる。

 そして、それが意外にも早く終わった。

 

「……こちらに来るそうです」

 

「わかりました」

 

 その言葉に御剣も頷いた。

 それまでの間に、事件現場をもう少し調べるべきだろう。

 

 そして、問題はそれだけでなく――。

 

「ん? どうしたんだよ御剣。オレの事をジッと見つめちまって。あまりにいい男ぶりに見惚れちまったのか? ダメだぜ、オレの心は今、ミア一筋なんだからよ!」

 

 慌ただしい刑事たちのやりとりを興味なさそうに見ており、今でもお花畑なことを考えているであろう脳天気な男を怒鳴りつける。

 

「誰がキサマなどに見惚れるか!」

 

 高木から入ってきた情報により、追求が中断されたが何かやらかしたらしいこの男からも話を聞き出す必要がある。

 

(全く。頭の痛い問題だ)

 

 そう思いながら、横目で矢張を睨み付けながら歩き出すのだった。

 

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