名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.34 続く捜査

 探偵である大森がこのビルに呼ばれている間に、司法解剖の結果が届けられた。

 さらには、事件現場となったこの部屋の詳しい捜査情報などもまとめられた資料が捜査関係者の手元に渡された。

 

「被害者の死亡推定時刻は朝の6時前後。死因はやはり、撲殺。刺殺に見えた刺し傷は、死後につけられたものか」

 

 その資料に目を通し、御剣は呟くように言う。

 それから、捜査関係者でもなく、当然資料を受け取ってもおらず、ただただヘラヘラとした顔をしているだけの男に鋭く訊ねる。

 

「おい、矢張」

 

「な、何だよ!?」

 

 先程から、御剣に追求されるのは警戒しているためか、妙に挙動不審な矢張に話しかける。

 

「ただ話しかけただけだろう」

 

「うるせえ! お前が話しかけてただですむわけねえじゃねえか!」

 

「まあ、キサマをただですませてやる気はないが」

 

「何でだよ!」

 

 まあ、こんな事をしていても話が進まない。

 さっさと本題に入ることにする。

 

「キサマの言う聖剣、使われた形跡はなかったか?」

 

「使ったって何をだよ!」

 

「……もちろん、聖剣だ」

 

 他に何があるのだと言わんばかりに御剣は訊ねる。

 

「刺し傷、とあれば問題の聖剣が使われた可能性がある」

 

「しかし御剣検事」

 

 ここで目暮が口を挟んできた。

 

「解剖記録によると被害者の刺し傷は、かなり小さなものばかり。私も聖剣の現物はまだ見ていないとはいえ、台座の大きさからしてかなり大きなものであることがわかります。明らかにサイズがあわないのでは?」

 

「ええ。ですので、念のために確認したまでです」

 

 資料を確認しながらのその指摘に、御剣が特に否定することなく返す。

 

「そうだぜ! 第一、あの聖剣はガッチリ鞘が固定されていて抜くことなんてできないんだからな!」

 

「詳しいな矢張」

 

「そ、そりゃそうだ! 何といってもオレ、ほら今日あの聖剣を警備した警備員だし!」

 

「……」

 

 胡散臭そうに、御剣はあることにふと気づき、言葉を重ねる。

 

「ところで矢張。今気づいたのだが、キサマは色々と汚れていないか?」

 

「な、何だよ! オレの心が汚れているとでもいうのかよ!」

 

「心の話ではない。服の話だ」

 

 そういって、御剣が動かした視線の先には矢張の着ている警備員の制服だった。

 よく見れば、確かに汚れた跡がある。

 

「それに顔も少し汚れているな。何か、顔や服が汚れるようなことでもしたのではないか?」

 

 御剣の指摘通り、矢張の顔にも注意してみると少し汚れがある。

 

「し、し、し、してねえよ!」

 

 その指摘を受け、明らかに矢張は動揺している。

 

(これは当たりか)

 

 御剣はそう察するも、

 

(だが、これだけではまだ情報が足りんな)

 

 どんどんとボロを出していく矢張だが、まだ決定的といえるようなものはない。

 

「まあいい、話を戻すとしよう。目暮警部。おそらく刺し傷は何か別の刃物でつけられたものと考えるべきでしょう。ですが、聖剣は鈍器として使われた可能性があります」

 

 続いて、現場の情報が書かれた資料を目暮につきつける。

 そこには、台座のあたりから拭き取られてはいたが、大量の血液の跡が見つかったという報告が記されている。

 オサツー・メグンダルの時もそうだったが、撲殺でそれほどの血液が流れたとは考えにくい。実際に、解剖記録によると頭部からの出血はわずかなものらしい。

 だとすると、撲殺された後に大量に刺された傷口からのものだろう。

 

「そして、他の場所にはこれほどの血液が流れた形跡はなし。犯行現場となったのは、この台座付近とみて間違いないでしょう」

 

 そういって、聖剣の台座を指さす。

 

「となれば、凶器――鈍器としてここにあった聖剣を用いた可能性があります」

 

「ま、待てよ御剣ぃ……っ!」

 

「何だ矢張」

 

 鬱陶しげに矢張を横目で睨む。

 

「やっぱりお前、オレを疑ってるのかよ!」

 

「残念ながら、違う」

 

 その言葉に御剣は首を左右に振る。

 

「残念ながらって何だよ!」

 

 矢張のツッコミを無視しながら、御剣は続ける。

 

「確かにキサマは色々と隠しているようだし、この聖剣が凶器の可能性は高いと思うが、問題なのは死亡推定時刻だ」

 

 そういって、手元の資料から死亡推定時刻の書かれた箇所を示す。

 

「被害者が亡くなったのは6時頃。キサマが来たという時間は、8時過ぎ。いくら何でも、死亡推定時刻があわない。それに、この部屋に入って十津川さんがキサマから目を離していた時間もそれほど長くない。その間に殺害、及びに血の拭き取りなどの隠蔽工作ができる余裕があったとは思えん」

 

「そうだよな! さっすが親友だぜ!」

 

 御剣の言葉に矢張はあっさりと機嫌を良くし、表情も締まりのないものに変えるが、御剣は険しい表情を変えることなく「しかし」と続ける。

 

「なので、矢張。キサマが何かしでかしたとしてもひょうたん湖に行ってからということになる」

 

「何だよ御剣! まだ疑ってんのかよ!」

 

「その疑いを解くためにも改めて聞いてやる。キサマが運んだという聖剣、何かおかしなところはなかったか?」

 

「いやあ、なかったと思うぜ! 芸術家として断言してやるよ!」

 

「芸術家である事は関係ないだろう」

 

 御剣はツッコミつつ、鋭い眼光のまま続けて矢張に尋ねる。

 

「では、キサマが何かおかしなことをしなかったか?」

 

「し、ししししてねえよ!」

 

「……」

 

 明らかに動揺する矢張。

 

(ひょうたん湖に届けるまで妙に時間がかかった事、汚れた様子の矢張。何かあったこと、いやコイツがしでかしたことは間違いないのだが)

 

 これだけではやはり情報が足りない。

 この脳天気な男を撃ち抜く為には、証拠品という名の弾丸が必要だ。

 そのためにもひょうたん湖公園にいる糸鋸に何か追加の捜査でも命じようかと思っていた時、

 

「目暮警部。大森探偵が到着したようです」

 

 先程、矢張の到来を告げた時のように再び高木が目暮に話しかけてくる。

 

「おお、そうか。ここまで案内してやってくれ」

 

 そして、先程同様に佐藤に案内されて朝にあった探偵・大森がやってくる。

 

「どうも、目暮警部補――じゃなくて、警部」

 

 大森がそういって、元同僚である目暮に挨拶をする。

 

「あ、ああ。君も毛利君同様に探偵をしていたのは知っていたが、こうして会うのはいつ以来になるか」

 

「まあ、同じ捜査一課といっても、班は違ったしな。そこまで親しかったってわけでもないしな」

 

 それから、御剣の方に目を向けて、

 

「案外、早い再会になったな。御剣検事」

 

「……ええ」

 

 そう御剣は返した後、訊ねる。

 

「ここに呼ばれた理由に関しては?」

 

「ああ、聞いている」

 

 そこで、一つ息をついて大森は続ける。

 

「高山に関してだろう?」

 

「そうだ。アナタに今朝聞いたばかりの人物、高山友美の指紋が見つかった。状況的に、この10日以内につけられた可能性が高い」

 

 御剣の言葉に大森は頷く。

 

「まあ、こっちに取っても都合が良いことだわな。どんな手を使っても何かしらの形で話を聞こうとは思っていたが、今の高山は罪を償った人間。理由もなしにとっ捕まえるわけにはいかねえ」

 

「事件の参考人となれば、警察が捜してくれると」

 

「それはまあ、そうだな」

 

 大森は御剣の言葉を否定することなく言って、笑う。

 

「ですが、こちらからも訊ねたいことがあります。仮に高山が今回の件に関与しているとするならば、この事件の被害者の女性。妃英理弁護士を語った何者か。もしかしたら、高山の関係者ではありませんか?」

 

 御剣の言葉に、高木が前に出て被害者の写真を見せる。

 それを大森はじっと見ていたがやがて、

 

「ああ。コイツは思いっきり高山の関係者だな」

 

「それは誰ですか?」

 

「検事さんには朝に少し話しただろ? 高山には妻がいて、そいつは離婚することがないままだったと。この女がそうだ。名前は高山貴理夜(たかやまきりよ)だ」

 

「……そうでしたか」

 

「こいつの家の場所は知っている。俺の言葉のウラを取りたいならそこに行くんだな」

 

 そう言って、住所を告げるとその言葉に、刑事たちが頷きあい、目配せすると高木ら何人かが立ち去っていった。

 おそらく、その場所に向かったのだろう。

 

「大森探偵」

 

「何だ?」

 

「彼女がもし、妃弁護士を演じていたというのであれば、偽毛利探偵の方は、高山友美ということになるのでしょうか」

 

「そこまでは知らねえよ。ニセモノがどうとかって話も、今日はじめて聞いたばかりだしな」

 

「それはまあ、そうでしょうね」

 

 御剣はそう言って頷く。

 

「では、質問を変えます。高山夫婦は毛利夫婦と何か関係があったのでしょうか?」

 

「いや、聞いたことはねえな。毛利小五郎に関しちゃ、元捜査一課の刑事だったとはいえGO-5号事件とは特に関わっちゃいねえ。探偵としても捜査協力を依頼したわけでもねえしな。当時の捜査官として断言してやるよ」

 

「ああ、特に毛利君は高山の事件と関わっていない」

 

 大森の説明に続くように目暮が答える。

 

「それに、GO-5号事件の少し後にあった別の事件が原因で毛利君は警察を去っておるしな。刑事としての毛利君が高山の件と関係があったとは思えん」

 

「そうですか」

 

 当時を知る刑事らによる言葉とあっては、信じざるをえない。

 

(となると、単に名前を利用されただけの可能性もあるか)

 

 直接は関係ないにせよ、毛利小五郎は有名人だ。

 知名度が高いとあれば、何の関係がない相手からも利用されやすい。

 かつて、親友が殺し屋に人質を取られ、無罪判決を要求された時があったが、あれもその知名度ゆえに起きた被害といってもいい。

 

 それに、高山は事件発生当時に26歳ということは、今は36歳という事になる。

 年齢的に毛利小五郎と近い。

 単純に毛利小五郎に負けない名声を持つ高校生探偵などもいるが、いくら何でもこれで高校生を騙るのは年齢的に厳しい。

 

 そんな中、御剣の携帯電話が鳴った。

 相手は――糸鋸刑事だ。

 

「私だ。どうしたのだ?」

 

 ちょうど矢張の件で、ひょうたん湖での捜査を頼もうと思っていた矢先の事だった。

 その事を口にしようとするよりも先に、

 

『御剣検事! 今見つけたッス!! 追いかけているッスよ!!』

 

「……刑事。一体、何があった」

 

 いきなり大騒ぎしている糸鋸に、御剣は冷静に言う。

 

『それがッスね! 色々あったッス!』

 

「それは分かる」

 

『とにかく、みんなで捜査してたッス! ソーサ!』

 

「みんな?」

 

『だから、今、見つけたッス! 御剣検事のお望みの相手ッス!』

 

「私の望み、だと? いや、待て刑事。結論を言え。一体、どの誰を見つけたというのだ」

 

『それはモチロン、ニセモノ野郎ッス! 毛利小五郎のニセモノを見つけて追いかけてるところッスよ!』

 

「……何?」

 

 それは、確かに御剣が探していた相手だった。

 事件は新たな進展を見せてきた事を感じた御剣は、糸鋸にさらに詳しい説明を求めるのだった。

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