名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.35 犯罪組織

某月某日 10時39分 ひょうたん湖公園

 

 

 

「うん。そっか、ありがとう! 高木刑事!」

 

 それを言い終えると、コナンは高木との通話を終える。

 現在、ニューハイドビルで殺人事件の捜査を行っていた高木から情報の横流し(いつものこと)で事件の概要を把握したのだ。

 

 被害者は、ニセモノの妃英理。

 そして、容疑者候補として偽毛利小五郎の存在の浮上。

 さらには、10年前に起きた事件の元受刑者・高山友美の存在。

 

(それに――)

 

 容疑者の一人である、十津川十蔵という貿易会社の社長。

 ベイカー王国のテイラー大使との関係や十津川という名字から考えてからおそらく、このひょうたん湖公園にいるクリスの父親だろう。

 

 このことを、伝えるべきか否か。

 もちろん、彼女の父が犯人だと決まったわけではない。

 かといって、疑われていると知ればいい気はしないだろう。

 

「ふー……」

 

 どうするべきか、と一息をつく。

 

 

「お話は終わりましたか?」

 

 

 そんな中、背後から声をかけられる。

 

「うわっ! ……て、エドガーさんか」

 

「はい」

 

 糸鋸と共に、少し離れた位置にいたはずのエドガーがいつの間にか背後に来ていたことに驚く。

 

「探偵様がとてもかわいらしい声で『ボク、ちょっとトイレ!』と言われ、なかなか戻ってこなかったもので、少し心配になりまして」

 

「ハハ……」

 

 まさか刑事から情報を抜き取るための連絡をするとはいえず、そう言って誤魔化して糸鋸の元から離れていたのだ。

 

「いや、その帰りに知り合いから電話がかかってきてさ」

 

 そう誤魔化すように話す。

 

「そうでしたか」

 

 そう答えるエドガーだが、相変わらず表情は読みづらい。

 こちらの答えに納得しているのか、いないのか。

 

「えーと、そういえばさ」

 

「何でしょうか?」

 

「エドガーさんやドラコさんって、元々日本と何か関係ある人なの?」

 

 誤魔化すようにそう言ってみるが、これはこれで気にしていたことだった。

 そんなコナンの質問にエドガーは答える。

 

「先生は、日系の移民ですね。ベイカー王国には、日系が多いですから」

 

「そうなんだ」

 

「先生の場合、おじい様が日本人だったそうです」

 

 確か、彼は42だといっていたはずだから、その祖父というと相当な年齢になる。存命である可能性も低い。

 

「かつては、日本とイギリスは同盟関係で密月の時代でした。その際に、互いに交流も盛んで、日本人留学先の方がそのままイギリスで弁護士になったり検事になったりしたという例もあったそうですし」

 

 ですが、とエドガーは言葉を続ける。

 

「時代は昭和になりイギリスとの関係が悪化した後、日本の方はイギリスに居づらくなり、かといって今更日本に帰れない、あるいは西欧の文化に馴染みすぎたような方たちを、当時のベイカー王国は積極的に受け入れていたようです。先生の祖父はその際の移民になります」

 

「へえ」

 

 少し話題を逸らすつもりで言っただけだったのだが、これはこれで興味深かった。さらに掘り下げて聞いてみることにする。

 

「でも、あの人、日本語は改めて覚えたんだよね? 任侠ものの映画だったっけ」

 

「はい。先生は日本のその手の作品が好きなので」

 

 まあ、あんな喋り方をしている人などほぼいないと思うが。

 

「エドガーさんの日本語もうまいと思うけど、あの人から習ったわけじゃないよね」

 

 あのインチキ関西弁のような口調の人にならったとは思えない。それならこんなまともにならない。

 そう思って聞いてみることにした。

 

「はい、自分は別の形で」

 

 そう答えるエドガーだが、彼はなかなか自分のことを語ろうとしない。

 先程の質問も、ドラコだけでなくエドガーについても聞いてみようとしたのだが、そちらはいっさい触れなかった。

 

 もっとも、今のところ彼について詳しく知る必要はないが、群馬に残っているというドラコや勾留されたままのオーキッドのことも気になる。

 彼らが何のために日本に来たかは未だにわかっていないのだ。

 

 素直に答えるかは別にせよ、彼についても何か聞いてみようかと口を開きかけた時、

 

「あ、ちょっと待って」

 

 自分のスマホに着信があった事に気づく。

 念のために、少しエドガーから距離をとったところで出ることにする。

 

「赤井さん? どうしたの?」

 

 着信相手は赤井秀一。

 FBIの捜査官であり、表向き死んだことになっている相手。

 それだけに、少し声を潜めながら話すことにする。

 

『何、ちょっと気になることがあってね』

 

 周りに人がいないためか、『沖矢昴』としてではなく赤井秀一としての声だった。

 

『ボウヤがパラサイトの件について、首を突っ込んでいると知ってな』

 

「パラサイト?」

 

 急に出てきた言葉に、コナンは思わず聞き返す。

 

「それって何なの?」

 

 もちろん、言葉の意味自体はわかる。

 寄生生物、あるいは何らかの形で他者に依存して生きるようなことを皮肉って言う場合だ。

 

 しかし、話し方からして赤井の言っている『パラサイト』はそういった意味ではないのだろう。

 

『とある犯罪組織の通称だ』

 

「犯罪組織?」

 

『政財界の大物から、小市民に至るまで多くの人々の情報の売り買いを行い、その利を貪る者たちだ』

 

 そう赤井は説明する。

 

「でも、ボクは別にそんな人たちと関わってないけど?」

 

『オサツー・メグンダルという男の事件に関わっただろう』

 

 一昨日の事件の事を持ち出される。

 

「あの人って、そのパラサイトって人たちの関係者なの?」

 

『無論、関係者だ。オサツー・メグンダルはそのパラサイトの幹部として国際警察からも、マークされていた人物だ。そんなヤツが日本に入国しているということは、当然FBI(ウチ)にも情報は入っていた』

 

 善人ではないだろうとは思っていたが、予想以上に大物だったようだ。それも悪い方の意味でだ。

 

『とはいえ、現状では手を出すことはできなかった。証拠はなかったし、何よりここは日本だしな』

 

 コナンもその言葉に考え混む。

 一昨日、ホテルに急に現れた風見のことを考えても、その事は公安も把握していたということだろう。となれば、そのメグンダルを殺害した伊国めぐるの身柄を捜査一課から奪ったのもそのあたりが関係しているのか。

 

(安室さんに聞いても、答えてくれねーよな)

 

 いくら好意的であっても、あの人はしっかりとその辺りの線引きはしてくる。

 

「それで、何でそんな人が日本に?」

 

『それは俺達でもわからん。だが、ヤツが死んだからといっても組織は健在だ。これで終わりということはないだろう』

 

「そのパラサイトって組織はどのくらいの数がいるの?」

 

『規模に反して、構成員の数はそれほど多くないと聞く。だが、奴らには”顧客”と揶揄される協力者連中がいる』

 

「顧客?」

 

『奴らに弱みを握られた連中だ。そういった連中の場合、金や権力を持っている連中はまだマシ。そうでない連中は、使い捨ての兵として使われる。金の引き出しや、運び屋などとしてな。捕まるのは基本、こいつらだ。末端の構成員ですらない』

 

 だからこそ、と続ける。

 

『幹部の一人だとされるオサツー・メグンダルの存在は重要だった。もし、逮捕することができればヤツを取っ掛かりに、一気に組織を潰すことができるかもしれないからな』

 

 だが、殺された。

 あまりにもあっさりと。

 

「じゃあ、メグンダルさんを殺した伊国めぐるって人は? あの人もその組織のメンバーなの?」

 

『その女に関しては、そこまで詳しい情報はない。だが、オサツー・メグンダルとの接触が何度も確認されており、何らかの繋がりはあると目されていた相手のようだ。メグンダル本人が何度も直接会っていることから考えて、少なくとも使い捨ての顧客などではないことは確かのようだ』

 

 そうなると、風見が彼女の身柄を欲しがったのは、単にメグンダル殺害の被疑者としてではなくパラサイトの構成員としてだったのかもしれない。

 

『それともう一つ』

 

 そんな中、赤井は続ける。

 

『奴らは、CI-6号事件について調べているという情報があった』

 

「CI-6号事件?」

 

 その言葉に、コナンの眉がぴくりと動く。

 確か、彼女――伊国めぐるが最後に話していた言葉だ。

 

『12年以上前に起きた事件らしい。だが、情報はほとんどないといっていい』

 

「何でそんな事件をパラサイトの人たちは調べてるの?」

 

『さあな。だが、奴らはどこまでも利に貪欲な連中だという。調べることに、何かしらの利があるということだろう』

 

 伊国めぐるとメグンダルは、何かしらの「取引」をする気でいた。

 そして、それが原因で事件は起きたと思われる。メグンダルと何かトラブルでもあったのか――それとも。

 

 とここで、風見らの事も思い出す。

 取引で彼らが奪い取るようにしたUSBメモリのこともだ。

 

「この事、日本の警察の人たちは?」

 

 当然ながら、この場合の「警察」は、目暮ら捜査一課の者たちではなく、風見ら公安の者たちのことだ。

 

『当然、把握しているだろうな』

 

「そっか……」

 

 そうなると、やはりホテルの事件での介入も何かしらの理由があってのこと。

 もしかすると、オサツー・メグンダルや伊国めぐるは元々監視された状態にあったのかもしれない。

 

『まあ、今のところはこんなところか。ボウヤもくれぐれも無茶はするな』

 

「うん、ありがとう赤井さん」

 

 そこまで言って、コナンは通話を終えた。

 

「……ふう」

 

 ひとまずわかったことは、いくらか。

 あの事件の被害者は『パラサイト』と呼ばれる犯罪組織の者。被疑者の方も組織の構成員の可能性あり。

 

(いや、でも同じ組織の者同士なら二人で『取引』なんてする必要はないはずだしな。別の関係者なのか?)

 

 あの時、二人は何らかの取引をしようとしていた――と思われていた。だが、同じ組織の幹部と構成員という関係だったのならば少し不自然なことになる。

 

(だとすると、どっちかが間違いってことか?)

 

 あの二人で取引しようとしていたという箇所が間違いなのか、あるいは伊国めぐるは別にパラサイトの構成員ではないのか。

 

 まあ、現状の情報では答えはでない。

 そう思ったコナンは、思考を中断してから電話中は少し離れた位置にいたエドガーに再び近づいて声をかける。

 

「あ、エドガーさん。ごめんね」

 

「いえ」

 

 そう丁重に答えるエドガー。

 一応、聞かれないように注意は払っていたが、もしかしたら聞かれていたかもしれないと、少し不安になる。

 

「それよりも、先程の刑事様とまだ話があったのでは?」

 

「あ、そうだね」

 

 糸鋸にも協力してもらいたいことがあった。

 どこかに行かれては大変だと、すぐに戻ることにする。

 

 

 幸いにも、糸鋸は場所を動かずにいてくれた。

 相変わらず着ぐるみ状態のためシュールな光景だ。

 

「あ、アンタ達ッスか……。悪いけど、事件の情報は渡せないッスよ」

 

 申し訳なさそうに頭をかく糸鋸。

 さきほど、杯戸町にあるビルで起きたという事件について少し探りを入れてみたが――まあ当然ではあるが――詳しいことは話してもらえず。

 やむなく高木刑事(いつもの情報源)から聞くことにしたわけだが。

 

「そっか。仕方がないよね。それが刑事さんの仕事だから」

 

「あいすまねっす!」

 

 本当に申し訳なさそうにする糸鋸に対し、コナンは頼み込むように言う。

 

「えっと、それじゃあさっきも少し話したけど、おじさんのニセモノ探しを少し手伝ってくれない?」

 

 正直、事件の情報に関しては事件現場にいる高木から仕入れたため、彼から聞く必要は全くない。

 だがその事に負い目を感じてくれるのであれば、申し訳ないが使わせてもらう。

 

「……う、そッスね。確かに御剣検事からも例のニセモノについて調べて欲しいと言われているしアンタに協力するッスよ」

 

「刑事さん、ありがとう!」

 

 頷いてくれた糸鋸に対し、コナンはそう子供らしいあざとい笑みを浮かべてみせる。

 

「なるほど。最初にハードルの高い要求をして断られてから、別の要求をすることで通りやすくする。これが探偵様のやり方。お見事です」

 

 そう感心したように言うエドガーにコナンは特に反論することなく、苦笑するだけだった。

 




というわけで再びコナンサイドです。
当初、2章は30話前後を想定していましたが、それよりは長くなりそうです。
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