名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.36 大使の証言

「そういえば刑事さん」

 

「何スか?」

 

「さっき知り合いの警視庁の刑事さんを見たんだけど、そっちとは刑事さんとは違う着ぐるみだったけど、何か理由でもあるの?」

 

 先程出会った千葉刑事の件に関して、コナンは糸鋸に聞いてみる。

 

「ん? ああ、そのことッスか。それは警視庁の捜査一課の人たちと自分ら所轄とは別件でここにいるからッス」

 

「別件?」

 

「そッス。自分も詳しいことは知らされていないッス。けど、何やら連続殺人事件の捜査の一環らしいッス。でも、自分たち所轄署の方は純粋にここの警備ッス! それで変にごっちゃにならないように、違う着ぐるみにしたッス」

 

「ふーん」

 

 別件の殺人事件の捜査。

 もしかしたら、関係があるかもしれないし、ないかもしれない。

 一応、記憶にはとどめておくことにしよう。

 

「ところで探偵様」

 

 そんな中、エドガーが話しかけてくる。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、実は知り合いから連絡が来ているようです」

 

 そういって、彼のものらしいスマートフォンを取り出してみせる。特に装飾の類いはない、極めてシンプルなデザインのものだ。

 

「あ、そうなんだ」

 

 ですので、とエドガーは続ける。

 

「失礼ながら、少し席を外させていただきます。探偵様と刑事様とは後で合流、という形にさせていただいてよろしいでしょうか」

 

「別に構わないけど……」

 

「それでは」

 

 ぺこりと軽く礼儀正しく頭を下げ、少し離れた位置に移動する。

 誰からの連絡だったのか、少し気にはなったが今は糸鋸との捜査を優先することにする。

 

「えっと、それじゃあ刑事さ」

 

 そう糸鋸に話しかけようとした時だった。

 

「ああっ!! あの人はっ」

 

 不意に糸鋸は声をあげる。

 どうやら、少し先を歩いている男性に反応したようだった。

 

「おや、キミはミツルギ検事と一緒にいた刑事さんだったね」

 

 その相手もこちらに気づいたらしく、近づいてくる。

 

「知り合いなの?」

 

 糸鋸にコナンは訊ねる。

 

「このヒトはコードピア公国のダミアン大使ッス!」

 

「コードピア公国の?」

 

 コードピア公国は、つい最近までアレバスト王国とババル共和国という二つの国が統一されてできた国だ。

 旧アレバスト王国は駐日大使が逮捕されており、最近まで騒がれていた。

 

「いやあ、あの事件以来かな。あれ以来、再統一の件で忙しくてね。久しぶりに日本にこれたよ」

 

 妙な胡散臭さを漂わせるくねくねとした仕草で、ダミアン大使は言う。

 

「そっちの初対面のキミも、どうもどうも。コードピア公国のダミアンというものだよ。今回はここのイベントでコードピアの出し物の責任者として来ているんだ」

 

 そういって、コナンにも視線を合わせるように下げてくる。

 

「ど、どうも」

 

「これ、つまらないものだけど取っといてよ。ウチの国で使えるクーポンだから。あ、もちろん旧アレバスト領でも使えるようになっているから安心して」

 

 そういって、クーポンを手渡される。

 そもそもコナンはパスポートの問題もあり、気軽にコードピアに行くことはできない。

 だが、好意を無碍にするのも何なので受け取っておく。

 

「あ、大丈夫だよ。何なら、ウチの大使館の食堂で使えるクーポンもあるから。それなら、日本でも使えるよ」

 

 そんな内心を読まれたのか、そう言われる。

 まあ、どちらにせよ大使館に行く予定もないのだが。

 

「それで、一体どうしたッスか?」

 

「いやあ、知っている刑事さんの顔があったからてっきりあの件で調査でしているんじゃないかと思ってね」

 

 糸鋸の言葉にそう応える。

 

「あの件?」

 

 気になる言い方に、コナンは首をかしげる。

 

「そうだよ。こっちから警察の人に相談しようか迷っていたんだがね」

 

「一体、何なんスか?」

 

 糸鋸が尋ねる。

 

「喧嘩――というより暴行事件だよ。暴行事件」

 

「暴行、事件?」

 

 不意に出てきた言葉に、コナンも困惑する。

 

「うん。そうだよ、実は、湖のボート小屋の近くで誰かが殴り合っているのを見てね」

 

 ダミアン大使はそう言って説明を続ける。

 

「それは誰と誰ッスか?」

 

「ワタシが見たのは結構、遠くからだったしそれはわからないよ。けど、体格的に殴り合っていた方は両方とも男の人だったと思うよ」

 

「殴り合っていた方、というのは?」

 

 気になる言い回しだったため、訊ねてみる。

 

「ああ、もう一人女の人もいたみたいだからね。その人は殴られた男の人の連れだったみたいだけど」

 

「それで、男の人同士が殴り合いを? 何でそんなことが?」

 

「ワタシに言われても困るけど。うーん、でも片方が一方的に殴りかかっているような感じだったけど」

 

 ダミアンはその時の事を思い出しながらなのか、考え混みながら話す。

 もちろん無関係のことかもしれないが、念のために記憶しておく。

 

「そッスか? でも、ここでそんな事件があったって話も被害届も出てないと思うッスよ」

 

「そうなのかい? まあ、せっかくのイベントだからもめ事が起きて欲しくないって気持ちもあるけどね。もし本当に起きたのなら公にすべきだとも思うよ。隠したってろくな事にはならないからね」

 

 そう真面目な口調で言い切ってみせる。

 初見では、胡散臭さを見せていたが今のその表情は極めて真面目で真摯さを漂わせるものだった。

 

「それで、その人たちはどうしたの?」

 

「最初に殴りかかってきた男から逃げるように片方の男も逃げ去っていったよ。少し追ってみたけど、見失ってしまってね」

 

「そっか」

 

「けど、さっきも言ったように誰かが倒れていたとかそんな知らせはなかったと思うッスよ」

 

 糸鋸はそう答える。

 だが、こんな状況下での目撃証言だ。

 一応、コナンは頭の中に入れておくことにする。

 

「でも念のために、今の件は警察の偉いヒトに話しておいた方がいいんじゃないの?」

 

「そッスね。自分からも知らせておくッス!」

 

 コナンの言葉に糸鋸は頷き、ダミアンと話しながらにどこかに――おそらくは、警察関係者に連絡をしているようだった。

 

 そんな中、コナンたちの方に見知った3人の人影が向かってくる。

 

「おーい、コナーン!」

 

「オメーらか」

 

 先程わかれた元太、光彦、歩美らの姿を認めコナンも話しかける。

 彼らにもある程度の事情は話し、偽小五郎探しを手伝ってもらっていたのだ。

 

「全然ダメ! おじさんのニセモノ、全然見つからないよ」

 

「灰原とクリスさんは?」

 

「今は別行動中ですね。あんまり、大人数で固まって行動をしても効率が悪いので」

 

 コナンの言葉に光彦が返す。

 クリスには、ニューハイドビルで起きた事件に関して少し聞いてみたいことがあったのだが、いないのであれば仕方がないか。

 

 そんな中、疲れ切った様子の元太が腹を押さえている。

 

「腹減った……」

 

「もー、元太君。さっきおまんじゅう食べたじゃない!」

 

 先程、あの原灰元巡査から購入したまんじゅうの残り3個を捜査を手伝ってもらう礼代わりにと彼らに一個ずつ渡していたのだ。

 

「でもよー、あのマンジュウはあんまり美味くなかったんだよ」

 

「えー、そんなことないよー」

 

「そうですよ! 食べ物に対しては真っ当な元太君らしくない言葉ですね」

 

 元太の言葉に歩美と光彦は反論する。

 

「だってやたらに苦かったんだよ」

 

「苦い?」

 

 あのやたらと甘いまんじゅうには不似合いの評価。

 それに、苦いという言葉に引っかかるものがあり、聞き返す。

 

「そうだぜ。まるで前に間違えて父ちゃんのコーヒー飲んじまった時みてーな味がしたしよ。最悪だぜ」

 

「苦かったのか?」

 

「ああ、はじめてだぜ! あんな味のまんじゅうはよー」

 

 げんなりとした顔で、そう言い放つ元太。

 やたらと苦いまんじゅう。

 それにコナンは思い当たるものがある。

 

「……それってまさか、有罪まんじゅうの方じゃないのか?」

 

「ゆーざいまんじゅー?」

 

 怪訝そうにする元太の前に、先程買った残りの有罪まんじゅうを取り出し、元太に渡して見せる。

 

「お、何だ。それもくれんのか?」

 

「いーから、これも食ってみてくれ。これと同じ味か?」

 

 そういって、有罪まんじゅうを元太に渡す。

 

「むぐ……。げ、何だよこれもにげーじゃんか」

 

 さっそく口にしたものの心底、嫌そうな顔をする元太にコナンは確信する。

 

(てことは、確定ってことか)

 

 どういうわけだか、先程渡した無罪まんじゅう三個の中に有罪まんじゅうが一個混じっていたようだ。

 

(あのまんじゅう屋のヒトが間違えていれたのか?)

 

 いかにも運も頭もよろしくなさそうな人物だけに、ありえそうなことだ。

 

 

「連絡終わったッス! あれ、何か増えてるッス!」

 

 そんな中、糸鋸がこちらに気づく。

 

「コナン君、この人は?」

 

「この人は糸鋸刑事。千葉刑事とは別の刑事さんだよ」

 

 そうやって糸鋸を紹介する。

 

「イトイトノコギリ? 何か変な名前だな」

 

「変じゃないッス! それに、イトノコギリであって、イトイトノコギリじゃないッス!」

 

「それはプロトタイホ君のキグルミですね! ちょっとシュールでブキミですが、そこがいいですよね」

 

「あ、そこ触っちゃだめッス!」

 

「ねえねえ、このキグルミどういう構造なの?」

 

「あ、だから変なところ触ったらダメッス! クビがとれちまうッス!」

 

 ……何やら、さっそく交友を深めている彼ら4人をとりあえず任せておくとして、少しダミアン大使に聞いてみることがあった。

 

「ねえ、ダミアン大使」

 

「何だい? クーポンの追加なら」

 

「あ、それはいいよ」

 

 またもやクーポンを取り出そうとするのを制してから、改めて質問を投げかける。

 

「ダミアン大使って大使さん何だよね?」

 

「そりゃあそうだよ。ワタシのコードピアの大使には成り立てだけど、旧ババルの大使もしていたからね」

 

「なら、ベイカー王国の事とかベイカー王国のテイラー大使って知ってる?」

 

「ん? テイラー大使かい? もちろん何度か会った事はあるけど」

 

 彼もまた事件関係者の一人。

 少し話を聞いてみたいと思っていた相手だ。

 

「それにベイカー王国とは色々と交渉しなくちゃいけない事があるからね」

 

「交渉?」

 

「ん? ああ、いや何でもないよ」

 

 子供に話すことではなかったと言わんばかりに、表情を打ち消すような笑みを浮かべてくる。

 

「それでテイラー大使の事だったね。彼は名家の出身だけど、家柄だけの人というわけではなくて外交官としての実績も経験も豊富な人でね。なかなか強かな人だってマニ、いやワタシの前の秘書もよく言っていたよ」

 

「ふうん。それで、今はベイカー王国の出し物の場所にいるんだよね?」

 

「そうだよ。彼が責任者だからね」

 

 問題の聖剣が凶器ならば、当然そこに向かう必要がある。

 

(けど、どうすっかな)

 

 少し悩んだ。

 殺人事件の方も気にはかかるが、今は偽毛利小五郎の件がある。

 

 思考時間は、十秒足らず。

 それで結論は出た。

 そちらはそちらで警察が捜査している以上、任せることにした。

 

 とりあえず、糸鋸のプロトタイホのキグルミで遊んでいる少年探偵団の面々に声をかけ、次の行動にうつることにした。




補足情報

現実では作中内の時間である2019年の時点では、殺人事件の時効は撤廃されておりますが、この世界ではまだ存在している設定にしてあります。

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