名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.37 まんじゅう屋のミス

 ひょうたん湖にあるまんじゅう屋。

 ここに、コナンは来ていた。

 

 つい先程、このあたりで聞き込みをしていると聞いてからいったん、糸鋸や少年探偵団の面々と別れてこちらにきていたのだ。

 

 先程もみたまんじゅう屋の前で、見知った顔二人を見つける。

 コナンの肉体年齢では年上の、中身の年齢では年下の少女――クリスと、中身も外見も近い年齢の少女――灰原だ。

 

「あ、探偵くん。来たんだ」

 

 先程と変わらない様子でクリスが迎え入れる。

 そのクリスに応じながらも、コナンは今度は灰原の方に視線をうつし、

 

「えーと」

 

 一瞬、間をおいてからコナンは応える。

 

「灰原」

 

「……何で間があったの?」

 

 ジト目で睨まれるが、苦笑して誤魔化す。

 非常に紛らわしい名前であり、ワンテンポ置かないとつい間違えてしまいそうなので仕方がない。

 

「それで二人とも、このまんじゅう屋さんに聞き込みだって聞いてたけど、ずいぶんと時間がかかっているみたいだね」

 

「あ、うん。何だかさっきからこのまんじゅう屋の人、大慌てで何かしててさ」

 

「それで話を聞くどころじゃないのよ」

 

 灰原が呆れたように視線をずらす。

 そこを見ると、原灰は、まんじゅうの外箱を広げ、その中身が盛大にぶちまけられているのが見える。

 

「ねえ、灰――じゃなくて原灰さん」

 

「な、な、な、な、何でありましょうか!?」

 

 話しかけられると、原灰はあからさまに動揺を見せる。

 

「何をしてるの?」

 

「問題など、何もないであります!」

 

 だが、とても商売どころではない様子で散らかっているまんじゅうや箱の数々を見ると明らかに問題ある。

 そして、その問題の原因――それに心当たりは、ある。

 

「その原因、もしかしてこれじゃないかな?」

 

 そこで突きつけたのは、クリスといた時に彼から購入した無罪まんじゅうの空き箱。

 

「む、む、む、無罪まんじゅうに本官、心当たりなどないであります!」

 

 まあ、この反応が答えを言っているようなものではあるが。

 

「原灰さん、もしかして無罪まんじゅうの中に有罪まんじゅうを混ぜて売っちゃっていたんじゃないかな」

 

「!!?」

 

 図星だと言わんばかりに、原灰の身体が大きく跳ねる。

 

「違うの?」

 

「ぐ、う、ううぅ。だって本官、だって本官……」

 

 何やらショックを受けているようだが、容赦することなくたたみかける。

 

「何かやっちゃったの?」

 

「……うう、本官、やらかしちゃったであります、からして!」

 

 そういって、手を叩いてみせる。

 

「多くのまんじゅうを箱詰めする作業、これはもう、大変であります、からして……。わーっ、となっちゃって、その、いつの間にやら別売りにしなければいけない、有罪まんじゅうが混ざった無罪まんじゅうを売っていたわけで、あります……」

 

「その事に、ついさっき気づいたと?」

 

「うう、だって本官。だって本官は……」

 

「それじゃあ、改めて確認になるけど。原灰さんは有罪まんじゅうの混ざった無罪まんじゅうをずっと売り続けていたってことだよね?」

 

「あ、ちょっと異議あり! で、あります!」

 

「何が?」

 

「その、別にずっと売り続けていたわけではないはずでありますからしてっ」

 

 パン! と両手を叩きつつけて原灰は反論する。

 

「実は今日は朝から思ったよりも無罪まんじゅうが売れていたので、慌てて新しく無罪まんじゅうを詰め直しはじめたのであります! それよりも前に売っていたのはちゃんと、甘いだけの無罪まんじゅうが詰まっているはずですからして!」

 

「それって何時頃?」

 

「ちょうど9時であります! 時計を確認したから間違いないはずであります!」

 

 自信満々に言いきる原灰。

 

「つまり、それより後に売っていたのは有罪まんじゅうが入っていたってこと?」

 

「その、アレです。そのような解釈ができる余地もあるであります!」

 

 そう言い切る原灰。

 

「それ以外に解釈しようがないんじゃ……」

 

 コナンは呆れたようにツッコミをいれるが、原灰は気にしている様子はない。

 

 とにかく、9時以降になって彼は有罪まんじゅうの混ざった無罪まんじゅうを売り始めた。

 もしかしたら、どこかで使える情報かもしれないと記憶にとどめておく。

 

「ねえ、彼が問題しかないまんじゅう屋さんだってことはわかったけど、本命の話を聞かなくていいの?」

 

 そんな中、灰原が傍らから小突いてくる。

 

「おっと、そうだった」

 

 元々、探偵団の面々がこのまんじゅう屋の近くで小五郎のニセモノを見かけたという情報があったから来ていたのだ。

 

「ねえ、原灰さん」

 

「な、何でありますか!」

 

 また何か失態をつつかれると思ったのか、緊張した様子で原灰が反応する。

 

「ちょっといいかな?」

 

「あ、いいですか本官、コレッ!」

 

「何?」

 

「本官は学んだであります! こういう時に『ちょっと』とかいう相手はまったく信用できないでありますからしてっ!」

 

 だん、と前に両手に持ったまんじゅうを叩きつけながら原灰は叫ぶ。

 

「ずいぶんとユニークなまんじゅう屋さんだね」

 

「まあ、ユニークすぎてちょっと、おまんじゅうを売るには向かないヒトだと思うけど」

 

 そんな風に言う二人の少女をよそに、コナンは頼み込む。

 

「とにかく、そう言わずにお願い!」

 

「くっ、ですが本官はこれでもおまわりさんであります。善良な市民、それも子供の言うことを聞かない、わけには……」

 

「ありがとう、じゃあ聞かせてもらうね!」

 

 おまわりさんではなく「元」だろうと思いはしても口には出さずに言質は取ったとばかりに、コナンは重ねて訊ねる。

 

「今日この辺りで、このチョビヒゲのおじさんによく似たヒト、見かけなかった?」

 

 そういってスマホを操作し、毛利小五郎の写っているものを選ぶ。

 

「あ、そういえば本官、見たであります! というかここで無罪まんじゅうを買っていったヒトであります、からして!」

 

「ホント?」

 

「本官の記憶力は確かであります!」

 

 そう自信を持って答えてくる。

 

「ですが、そのヒトによく似てはおりましたが、もっとかっこ良さげな感じで、『ククッ』とか言っていたヒトであります!」

 

 どうやら、問題のニセモノの毛利小五郎で間違いなさそうだ。

 となると、次の問題だ。

 

「それっていつ頃のこと?」

 

「あれは確か、まんじゅうを詰め直す前だったはずなので、9時前なのは確かであります!」

 

 9時前、か。

 探偵団のいたという時間とも、おおよそ一致している。

 既に2時間以上は前の話とはいえ、貴重な目撃情報だ。

 

「そのヒトの様子ってどんな感じだった?」

 

「どう、と言われましてもフツーに無罪まんじゅうを買っていっただけでありますが……」

 

 ここでぽん、と手を叩いて続ける。

 

「あ、思い出したであります! 確か、前の女の人を追っていったでありますっ!」

 

「女の人?」

 

「その『ククッ』のヒトの次にまんじゅうを買った客なのですが、その女の人が恋人らしき男と一緒にどっか行こうとしているその後をつけていった様子でありますからして!」

 

 ニセモノに何かあったのだろうか。

 随分と唐突な行動に思える。

 

「つまりカップルらしい二人の後を尾行していったって事? それでその後は?」

 

「知るわけないであります! 今の恋人に振られた本官にとって、カップルなど目に入れたくない存在であります! それに本官はマジメなまんじゅう屋、持ち場を離れてカメのように出っ歯にはならないでありますとも!」

 

 そう勢いよく続ける。

 

「ねえ、カメのように出っ歯になるって何のことかな?」

 

「多分、出歯亀といいたいのね、彼」

 

 そんな風に背後の二人が話し合っている。

 

(……まあ、この人に聞けるのはこんなところか)

 

 また後で何か追加で聞きたいことができるかもしれないが、とりあえずはまあこの辺りだろうと話を切り上げることにする。

 

「とにかく、本官がまんじゅうを間違えて詰めたことは言いふらしてはダメであります、からして! これは口止め料代わりに持って行くであります!」

 

 そう投げるように、無罪まんじゅうを再び渡される。

 

「それはちゃんと、無罪を噛みしめる甘さ抜群のあまーいまんじゅうだけでありますからして! そのまま本官の醜態は忘れるであります!」

 

「はは……」

 

「1個で1000円の有罪まんじゅうを、5個で1200円の無罪まんじゅうに混ぜて売っていたと親方に知られた大問題でありますからして!」

 

 隠しておいて、それがバレた方が大問題なのでは。

 そうは思ったが、彼がクビになったとしてもそれに責任を持たないといけない立場ではないのでスルーすることにする。

 そんな原灰にとりあえずお礼を言ってから、受け取った無罪まんじゅうと共に原灰のまんじゅう屋から離れることにする。

 

 歩き出してから、隣にいる灰原に話しかける。

 

「……えーと、原、灰原」

 

「灰原、ね」

 

 またつい間違えそうになってしまい、訂正される。

 やたらと似た名前のせいか、とにかくややこしい。

 

「ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

 

「あなたのちょっと、は絶対ちょっとじゃすまないと思うんだけど」

 

「オメーまでさっきの原灰さんみたいなこと言うなよ」

 

「……ねえ、さすがにあの人と同じ扱いされるのはさすがに屈辱なんだけど」

 

 わずかなやりとりをしただけの相手だというのに、ひどい言われようだった。

 まあ、割と同意な面もあるので特にフォローはしない。

 

「まあ、とにかく詳細は後で」

 

 そう言ってから、続けて前を歩いていたクリスの方へと追いついてから、

 

「えーと」

 

「何? どうしたの?」

 

 少し迷う。

 正直、事件について聞いてみたいことはあったが、今のところ彼女は直接の関係者ではない。

 現時点で、ニューハイドビルで起きた事件に関してコナンは知らないことになっている。

 あまり深く聞いてみてどうしてその事を知っているのだと、聞き返されたら困る。

 

 結局、事件とは直接関係がない事を聞いてみることにした。

 

「それで、クリスさんはベイカー王国の聖剣って知ってる?」

 

「ん? ああ、知ってるよ。堕聖剣『ダサクネー』でしょ? お父さんに何度か見せてもらったことあるし」

 

「それが今日、この会場にあることは?」

 

「それも知ってる。お母さんの実家のベイカー王国の出し物に展示もされてるって。後で見にいこうかと思ってたけど」

 

 おおよそ、高木刑事から横流しされた情報通りだった。

 

「その聖剣ってどのくらいの大きさ?」

 

「ん? 結構大きいよ。確か150センチぐらいかな」

 

 工藤新一としてならばともかく、江戸川コナンとしての身長よりも高い。中学1年生ぐらいの平均身長ほどだ。

 おそらくは片手剣の類ではなく、両手で使う前提のものだろう。

 

「重さは?」

 

「重いよ。2キロはあったかな。持ち上げるだけならともかく、あたしだとまともに振り回すのは無理だね」

 

 それなりに鍛えた人でないと難しいという事か。

 コナンは凶器の可能性が高いであろう存在のものの情報を、頭の中で更新しておく。

 

 そんなコナンに怪訝そうに聞かれる。

 

「何でそんなことを?」

 

「ん? えーと、ちょっと聖剣の話を小耳に挟んだから聞いてみたかっただけだよ」

 

 そう誤魔化すことにした。

 

「そんなに聖剣が見たいなら見にいく? フツーに今日ここで展示されているはずだよ?」

 

 凶器の可能性が高い代物を見ておきたい気もするが、正直今はニセモノの方が優先だった。

 

「見たいけど、とりあえず今は他のみんなととりあえず合流しようよ」

 

 そのため、そう断っておく。

 

「そっか、そだね」

 

 クリスも特に不審を抱いた様子もなく返した。

 

 彼女から、父親のことなどを何か聞くとしてももう少し後だ。そう思って、彼女ともに足を進めていくのだった。




今年もDL-6号事件の日に投稿。

それと作中人物の年齢に関してちょっとした補足を一つ。
以前にも説明したように本作は2019年4月以降として設定されておりますので、御剣は誕生日を迎えていない状態で26歳となっており、新一や蘭よりちょうど10年上になります。
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