名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.40 トラブルメーカー

某月某日 13時11分 ひょうたん湖公園

 

 

 

「なあなあ、それでこのヒラヒラのオッサンとヘラヘラした兄ちゃんは誰なんだ?」

 

「……キミ、待ちたまえ」

 

 ホテルであった少年・江戸川コナンと佐藤刑事の紹介により、御剣にとって初対面になる4人の少年少女の名前を把握。

 そして、彼らからしても出会ったばかりらしい少年と少女、エドガーとクリスの紹介もしてもらった後。

 小太りの子供――小嶋元太というらしい――の発した言葉に、御剣は反応する。

 

「私はまだ20代だが、キミくらいの年齢からすれば『オッサン』なる言い方をされる年齢といえなくはない。私はまだ20代だが」

 

 強調するように、同じ言葉を二回言ってから続ける。

 

「故に、私がそのような呼ばれ方をされることもまあ、受け入れがたくはあっても納得はしよう。 ……だが」

 

 そこまで冷静さを辛うじて保ちながら、矢張を睨む。

 

「何故、この男が『兄ちゃん』で私が『オッサン』なのだ!」

 

「いやー、まあオレって若さが滲みでてるからなあ。小学校の頃から六法全書読んでたお前と違って」

 

「やかましい!」

 

「まあまあ、落ち着くッスよ、御剣検事」

 

 それを糸鋸が宥めてくる。

 

「それだけ、御剣検事が威厳溢れる雰囲気だってことッスよ。こっちの男と違って大人の魅力が溢れてるッス」

 

「う、うム……」

 

 確かに矢張はまあ、良く言えば若々しいというべきか、純粋さというべき雰囲気が漂っている。悪くいえば、年相応の落ち着きがないだけだが。

 正直、30代になっても『オッサン』というよりは『兄ちゃん』というべき雰囲気を保つことだろう。

 

「……まあ、いい。とにかく私は御剣怜侍。検事をしている」

 

「お、じゃあオレも紹介しとくぜ。オレはマシス。天才芸術家だ!」

 

「そして改めて自己紹介ッス! 自分は、糸鋸、天才刑事ッス!」

 

「イトノコギリ刑事、キミもこの男にあわせる必要などない」

 

「何を言ってるッスか。ダメッスよ、御剣検事! ここはちゃんとあわせてあげないと!」

 

「む、むぅ……。そういうものなのだろうか」

 

「少年探偵団の皆! こちらは御剣検事! 検事局の誇る天才検事ッスよ!」

 

 あまり「天才」という呼ばれ方は好きではないのだが。

 おそらく初対面であろう少年少女たちと旧知の仲のようにあっさりと溶け込んでいる糸鋸に、何ともいえない気になる。

 彼は子供受けは良く、慕われやすいのだ。

 

「あの、結局そっちのお兄さんは誰なの?」

 

 コナンの言葉に、御剣は答える。

 

「一応、事件関係者だ」

 

「な、何言ってんだよ! オレはただ、このひょうたん湖で警備の仕事した後にミアとまんじゅう食ってただけ何だからなあっ!」

 

「ミア?」

 

 矢張の言葉にコナンは疑問符を浮かべている。

 

「この男の()彼女らしい」

 

「勝手に元ってつけるなよ!」

 

 そう叫ぶ矢張を無視して、今度はベンチのある方を御剣は見つめる。

 

「それで、だ。用はそちらの彼にもある」

 

 ここで御剣はようやく本題に入る。

 視線の先にいるのは、ベンチに座ったまま逃亡の気配も見せなかった偽小五郎だ。

 

「……ククッ」

 

 相変わらず不気味な笑みを浮かべている。

 念のため、刑事である佐藤と糸鋸を近くに配置し、逃亡への抑止としてある。

 

「確認するが、彼が例の毛利小五郎のニセモノ、という事でいいのだろうか」

 

「うん! そうだよ! 念のために本物のおじさんにも確認を取ったけど、今おじさんはちゃんと群馬にいたよ」

 

 コナンの言葉に、御剣も頷く。

 

「そうか。だが、その前にこちらも一つ問題を解決しておきたい」

 

 自己紹介もすんだことだしと、御剣は矢張へと視線を向ける。

 

「さて、前置きはこのくらいでいい。 ……矢張」

 

「み、御剣ィ! いったい何だよ!」

 

「では聞こう。キサマは先程から、そちらの男をちらちら見ているようだが、知り合いかな?」

 

 そう言って、矢張は偽小五郎の方に視線を動かす。

 

「……」

 

 偽小五郎は無言のままだ。

 だが、こちらも矢張の顔を見て少し動揺を見せたのを御剣は見逃さなかった。

 

「い、い、い、いや、こんなヤツ、オレ、知らねえからぁっ!?」

 

 それとは対照的に、誰が見ても明らかな動揺の仕方をしてみせる矢張。

 

(その反応が答えのようなものな気もするが)

 

 この男の反応からして間違いなく、素直に話す気はない。

 では、どうやって攻めるべきか――と考えていると、

 

「ねえ」

 

「ム。何だろうか」

 

「この人、ミアって女の人と来てたんだよね? おまんじゅうを買って」

 

「……そのようだが」

 

 コナンの言葉に頷いてみせつつも、まだ彼が何が言いたいのか察することはできずに、先を促す。

 

「それなら、ちょっと繋がる情報があるよ。このニセモノのおじさんは、カップルと思しき人たちの後をつけていったことをまんじゅう屋さんが確認してるんだ。そして、ボート小屋の前で、男の人がカップルの人たち相手に、暴行している姿が確認されてるんだ」

 

「つまり、そのカップルの片割れがこの男だと?」

 

 御剣の言葉に、コナンは頷く。

 それだけでは特定はできないが、ある程度繋がる情報がある以上、追求しておいて損はない。

 

「矢張、そうなのか?」

 

「あ、いやー、それはその、どうなんだろうなあ!?」

 

 冷や汗をだらだらと流し、先程以上の動揺を矢張は見せる。

 

「そ、そそそそれとも、証拠でもあるのかよ! それがオレだって証拠が!」

 

「……その言いよう、完全に犯人のソレなのだが」

 

「うるせえ! とにかく、オレは今日の朝、真面目に仕事してただけなんだからなあ!」

 

「ねえ、お兄さん」

 

 そんな矢張にコナンが声をかける。

 

「お兄さんが買ったのって無罪まんじゅうだよね?」

 

「そ、そそそれはどうだったかなー、オレ忘れっぽいから」

 

「コイツの事か」

 

 素っ恍けようとする矢張に対し、矢張は無罪まんじゅうの箱を取り出す。

 

「あ、御剣! お前、何裏切ってんだよ!」

 

「別に裏切ってなどいない。悪いのは、どうしようもない事で嘘をつこうとするキミだろう」

 

 噛みついてくる矢張に対し、御剣は軽く流す。

 そんな矢張にコナンはさらに質問を重ねる。

 

「その無罪まんじゅうっていつ買ったの?」

 

「え? そ、そりゃあ、仕事が終わってからで――10時くらいじゃねえのか? 今日は早勤だったからな! 朝早くからだけど、終わるのは早いわけよ、コレが。それに今日はミアとデートの予定もあったからな!」

 

「それで、そのおまんじゅうって全部甘かった?」

 

 妙に言い訳がましく長々と説明してくる矢張に対し、コナンは御剣からすれば、意味がわからない質問をする。

 だが、矢張にとっても同じだったらしい。

 

「え? そりゃあ、そうだろ。まんじゅうっていえば甘いものだろ。な、御剣!」

 

「同意を求められても困るが――それはそうだろう」

 

 矢張の意見といえども、間違っているわけでもないので御剣は頷く。

 

「そうだよね。でも、そのまんじゅう屋のヒト、有罪まんじゅうを混ぜた無罪まんじゅうを売っていたみたいなんだ」

 

「有罪まんじゅう?」

 

「うん。本来は別売りのにがーいおまんじゅう。そのヒトのドジで、9時以降に売っていた無罪まんじゅうにはその有罪まんじゅうが1個ずつ混じってるんだ」

 

「なるほど」

 

 コナンの説明に納得したように、御剣は頷く。

 

「にも関わらず、この男が食べたというまんじゅうは全て甘いものだったというわけか」

 

 そして、矢張が先程渡してきた1個だけ残っていた無罪まんじゅうを御剣は口に運んでみる。

 甘みが口に広がる。

 

「これも甘い――間違いなく、無罪まんじゅうとやらだろう。さて、矢張」

 

「……う、うう!!?」

 

 さらに動揺する矢張に御剣は指を突きつける。

 

「キサマが買ったのは9時前。本来、キサマは勤務時間中のはずなのに、ノンキに彼女とデートしてまんじゅうを買っていたことになる!」

 

「うぐ!?」

 

「さあ、とっとと白状してもらうぞ、やはり。仕事をサボっていったい何をやっていたというのだ!」

 

「う、うおおおおおおおおおぉぉォォォ!!!!! ごめんよぉぉぉォォォォォ!!!!!」

 

 矢張の腹から声を出し切るような大声が、当たりに響いた。

 

 

 

「……それで、結局、キサマは何をしでかしていたのだ」

 

 やがて、矢張がようやく落ち着きを取り戻してから、改めて御剣が問う。

 

「い、いや。それはその、ミアとデートを……」

 

「それはこれまでの話の流れから分かる。勤務時間中にサボってデート。そこまでおかしな事ではない。もちろん、そのようなサボりは許されないが、普通に不真面目な人間ならありえる範囲だ。だが、キサマは矢張だ。どうせ、普通の人間にはありえない、何か非常識な事をやらかしたに違いないのだ!」

 

 御剣の威圧するような瞳を受け、「ひぃっ!」と怖じ気づきながらも矢張はおそるおそる口を開く。

 

「そ、それはその、アレを聖剣ごっこを……」

 

「せ、セーケンゴッコ? アンタ、何を言ってるッスか」

 

 思いもよらぬ言葉に、糸鋸も戸惑っている。

 

「だから、その。あるだろ。何かその聖剣って特別なものだって聞いたからさあ。聖剣でかっこいいところを女の子に見せてみたくなるだろ? 男の子ならさあ!」

 

「……キサマは男の子という年齢ではないだろう」

 

「うるせえ! それでまあ、ちょっと借りてミアの前で聖剣を使って色々してみたわけよ、これが」

 

「例えばどんな?」

 

「え? そりゃあ、聖剣を地面から抜き取ったり、振り回してみたりとか、湖への返還とか!」

 

 その言葉に、御剣は何となく嫌な予感がこみ上げてくる。

 まさか、という思いがありながらも御剣は聞き返す。

 

「湖への、返還だと?」

 

「いや、ほらあるだろ。有名な聖剣でそういうのが」

 

「ああ、アーサー王伝説のエクスカリバーの話か?」

 

「そう、それ!」

 

 その聖剣を湖に返還するというのは、これもまた有名な話だ。

 

「ま、まさか矢張! 勝手に借り物の聖剣をこのひょうたん湖に放り捨てたのか!?」

 

「してねえよ! オレだってそこまで非常識じゃねえよ!」

 

「仕事中に預かったもので遊ぶだけでも十分、非常識だろうが!」

 

 そんな矢張に対し、思わず突っ込む。

 

「なあなあ、あの兄ちゃんってもしかしてヤバいヒトなのか?」

 

「しっ! ダメですよ元太君。そういう事をはっきり口にしたら」

 

「そうだよ、どこにだってそういうかわいそうな人はいるんだから!」

 

 何やら、子供たちがひそひそと失礼な事――矢張に対してなのだからそうでもないかが――を話し合っているのが聞こえたが、とりあえず御剣はスルーする。

 

「とにかく、振りだけだって。湖に放り投げる仕草だけして、終わる気でいたんだって」

 

「……本当だろうな」

 

「本当だって! そこでさあ、その。そいつに殴られたんだよ!」

 

 もう隠すことがなくなったためか、矢張はそう偽小五郎に指さして叫ぶ。

 

「キサマの顔や服の汚れはその時のもの、という事か」

 

「そうなんだよ! まさに湖に聖剣を返還しようとした時にさあ、あ、いや! もちろん、振りだけだぜ! とにかく、その時にさあ」

 

「いきなり襲いかかられたと」

 

 あきれ果てた様子で御剣も矢張と同じように、偽小五郎の方を見る。

 偽小五郎はというと、じっと黙ったままそのやりとりを見守っていた。

 

「……」

 

 その表情からは何も読み取れない。

 

「あのー、でも結局、それって事件に関係あるんスか?」

 

 そんな中、糸鋸が言う。

 

「そうですね。この人が、聖剣ごっことやらをしていたとして、その時にこの偽毛利さんに殴られたとしても、事件といったい何の関係が?」

 

 佐藤がそれに続くように疑問を口にする。

 

「いや、そんな事はない」

 

 だが、その二人を否定するように御剣は言う。

 

「聖剣は事件の凶器に使われていた可能性が高い。そして、その聖剣を持っていた矢張に襲いかかった。これで事件と無関係だとは考えにくい」

 

 そういってから、矢張の方を見て続ける。

 

「まあ、ただ単に矢張の顔が気に食わないで殴りかかってきた可能性もあるが」

 

「何でだよ!」

 

 矢張がそんな抗議の声をあげた時、

 

「あの、すみません。検事さん、ちょっといいですか?」

 

 ここで、これまで黙ってやりとりを見てきた様子の少女――クリスが発言をする。

 

「ム。何だろうか?」

 

「先程から、聖剣、聖剣といってますけど、それってベイカー王国の聖剣ダサクネーの事ですよね?」

 

「……そうだが」

 

 ここでふと、自己紹介してきた時に彼女の名字が「十津川」だった事を思い出す。

 

「すまないがクリス君、キミの父親の名前を教えてもらってもいいかな?」

 

「えっと、十蔵といいますが……」

 

 やはり、彼女の父親はニューハイドビルで起きた事件の関係者である十津川十蔵で間違いないようだ。

 

「あの、もしかして父が何か?」

 

 暫し、御剣は佐藤と視線を交わすが、このくらいならば大丈夫だろうと話すことにする。

 

「キミのお父さんの管理する部屋で、事件が発生したのだ。そして、聖剣がその凶器の可能性がある」

 

「ええ!? もしかしてお父さ、父が疑われてるんですか?」

 

「そのような事はない。あくまで関係者として話を聞いているだけだ」

 

 そうは言ってみたものの、彼は現状では有力な容疑者といっていい。

 何せ現時点での情報では犯行が可能だと考えられるのは、彼と管理人の棟居のみという状態なのだ。

 

 ――だが、容疑者と言わないまでも、もう一人疑わしい人物が目の前にいる。

 

「それでは、矢張への暴行の件も含めて少し話を聞かせて貰ってもいいだろうか。自称・毛利小五郎さん」

 

 そう皮肉げに言ってから、改めてベンチに座り続けている男――偽小五郎へと御剣は厳しい視線を注ぐのだった。




実は40話目になっても逆転サイドで出番のあった女性陣は悪夢の中で出てきたオバちゃんのみだったりします
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