名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.42 凶器

「悪いが、それは無理だな。検事さんよぉ」

 

 御剣に対し、偽小五郎はそう告げる。

 

「どういう事だろうか」

 

「ククッ。どういう事もこういう事もねぇぜ。さっきも言っただろう? 黙秘させてもらうってな」

 

 そういうと、葉巻を口から離すと、挑発するようにそれをこちらに突きつけてみせる。

 

「アンタとこれ以上、話すことはねえって事だよ」

 

「なるほど。これ以上、私と話すと余計なムジュンがでてしまいそうだからできないと」

 

「おっと、もう挑発しても無駄だぜ」

 

 そう告げると、再び偽小五郎は黙り込んだ。

 どうやら、さきほどの失言があった為か、予想以上にこちらを警戒しているようだった。

 

「……御剣検事。どうしますか?」

 

 佐藤が伺いをたてるように聞いてくる。

 

「ではここは、佐藤刑事が先程言っていたように、矢張への暴行の件で話を聞かせてもらうという形にするしかないでしょう」

 

 犯人ではないにせよ、彼が事件に関わっていることは明白といえる。

 故にひとまずは、彼の身柄を拘束する必要があった。

 

「わかったッス! 自分がパトカーでコイツを連れていくッス」

 

「いや、キミはダメだろう」

 

「何でッスか!」

 

 勢いよく言う糸鋸に御剣は否定してみせる。

 

「キミの本来の仕事はここの警備だろう。彼を探すのを手伝っていたのは、その延長といえなくはないが、ひょうたん湖公園から離れるのはさすがにダメだ。言い訳のしようがない」

 

「ぐぐっ……」

 

 プロトタイホくんの着ぐるみのまま、悔しげに呻いてみせる糸鋸を横目に、御剣は佐藤に告げる。

 

「佐藤刑事。ではアナタに任せても?」

 

「ええ。私もそのつもりでしたので」

 

「それでは」

 

 そう言ってから、いつの間にやらここでスケッチをはじめていた矢張に話しかける。

 

「おい、矢張」

 

「……」

 

「矢張!」

 

 一心不乱にスケッチを続けていた矢張に怒鳴りつける。

 

「な、何だよ! おどかすなよ!」

 

「キサマは反応しないからだろうがっ」

 

「それによー、スケッチをしている時のオレは芸術家よ? マシスって呼んでくれないとなー」

 

「キサマも警察に行け」

 

 妄言を無視するように矢張に告げる。

 

「何でだよ! オレが何したってんだよ!」

 

「残念ながら今回は被害者としてだ」

 

「残念ながらとか、今回はとか、何でだよ!」

 

「こちらの男から暴行を受けたのだろう? その被害者としてキサマの証言も必要なのだ」

 

 そのためには非常に遺憾ながらも、この男の証言が必要だ。

 

「何だよー、それならそうと最初から言ってくれよなー」

 

 相変わらずヘラヘラとした態度で、応じてみせる矢張。

 

「では、二人は私が」

 

「ええ」

 

 佐藤がそういって、偽小五郎と矢張をパトカーへと連れて行く。

 

「安心しろよ、御剣! 美和子ちゃんはオレが守るぜ!」

 

「キサマは証言以外は何もするな、それが佐藤刑事のためだ。キサマは善意からの行動でもろくなことにならない」

 

「何でだよ!」

 

 そんなこんなで、三人はこの場から立ち去っていった。

 意外なことに、偽小五郎の抵抗もない。本当にこれ以上は喋るまいとの思いからか、黙秘を貫く気のようだ。

 

「……さて」

 

 子供を除くと、残された大人は二人。そんな中、御剣は糸鋸に話しかける。

 

「イトノコギリ刑事」

 

「キミはそろそろ仕事に戻り給え」

 

「な、何でッスか!」

 

「何でも何も、キミはここの警備が本来の仕事なのだろう」

 

「それはそうッスけど……」

 

 プロトタイホくんの着ぐるみ姿のまま納得できかねる様子の、糸鋸。

 さきほどの話にも出てきたように、本来は仕事中の彼をこれ以上連れ回すわけにはいかない。

 

「あのー、検事さん。ちょっといいですか?」

 

 ここでクリスに話しかける。

 

「ム? 何だろうか」

 

「その、さっきの話なんですけど」

 

「先程の話――というと、キミのお父さんのことだろうか」

 

「はい」

 

 こくりと頷いてから、クリスは続ける。

 

「そ、その! もしお父さんに疑いがかかってるなら、それを解きたいんです!」

 

「ム。そうは言われても……」

 

 そう言いかけるも、ふと思いつく。

 

「では、その事件に使われた聖剣を調べたいのだが、もし良ければ口添えをしてもらえないだろうか」

 

 聖剣は、今このひょうたん湖公園に運び込まれ、ベイカー王国の出し物として展示されているはずだ。

 そして、その所有者は彼女の父親だ。

 

「えっと、おじさん――ベイカー王国のテイラー大使に頼めば大丈夫だとは思いますけど」

 

「ならば、よろしく頼む」

 

「わかりました。それなら、今すぐにでも」

 

 そう言って力強くクリスは頷いてみせた。

 

 そんな中、光彦がクリスに訊ねてくる。

 

「あのー、ちょっといいですか?」

 

「ん? 何?」

 

「先程から聖剣聖剣といってますけど、そんなに価値があるものなんですか?」

 

「うーん、ダサクネーはまがりなりにも王家から下賜されたっていうお宝だしね。お父さんの話によると億単位――2、3億ぐらいの価値はあるって言ってたよ」

 

「それってうな重何杯ぶんだ?」

 

「えっと、10万杯ぐらい……?」

 

「すっごーい!」

 

 傍らからきた元太の質問に律儀にも答え、歩美は感心しているようだった。

 

「あなた達、今はそんな事話してる場合じゃないでしょう」

 

「そーだぞ。オメーら、刑事さん達にも迷惑がかかってるだろ」

 

 そんな三人に対し、灰原とコナンが窘めてくれていた。

 が、そんな中にも空気を読まずに糸鋸が質問する。

 

「それじゃあ、ソーメンだと何杯ぶんぐらいッスか!?」

 

「えっと、40万杯くらい、ですかね?」

 

 その発言に対し、御剣が内心で突っ込む。

 

(おそらくだが、イトノコギリ刑事のいうソーメンはうな重の4分の1ほどの価値はないと思うのだが)

 

 店で出てくるようなちゃんとしたソーメンならばともかく、糸鋸が言っているそれは、薄給からくるものであり、それほど高くはないはずだ。

 

 いずれにせよ、そんなお宝を勝手に拝借して遊んでいた矢張はある意味とんでもない大物といえるかもしれない。

 

「とにかく、だ。それならば頼んでも良いだろうか」

 

「はい!」

 

 そう力強くクリスも頷き、一向はベイカー王国の出し物が展示されている場所に向かうことになった。

 

 

 

「……それで、その。何故キミもついてきているのだ?」

 

 ベイカー王国の出し物が出ている天幕の近く。

 日本人の客とスタッフが外国人と思しき者達と、外国語で言葉を交わしたりしている。まさに異文化交流中といった様子で忙しくも楽しそうだ。

 

 そんなところに来たわけだが、御剣の同行者はプロトタイホくん状態の糸鋸と十津川クリス――そして、江戸川コナン。

 他の子供達とは、あの場で別れたのだが何故だかついてきてしまっていた。

 

「まあまあ、この際だからいいじゃない。御剣検事」

 

「そうッスよ、いいじゃないッスか、御剣検事!」

 

 そういってコナンや糸鋸に宥められる。

 だが聖剣の剣で話を通してもらう必要のあるクリスはともかく、彼は無関係のはずだ。

 

「しかしだな」

 

「大体、捜査関係者でもない子を連れ回すなんてよくある事ッスよ。御剣検事だって何度もしてるじゃないッスか」

 

 ホテルの事件の時と同じような事を言われてしまう。

 それを言われると、その通りだ。

 そもそも、御剣自身が行きがかり上、この事件の捜査までしてしまっているが、本来は捜査関係者とは言い難い。

 

 そんな風に御剣が考えている中、クリスがある相手に気がついた様子だった。

 

「あ、あの人です」

 

 クリスの指さした先にいる相手――一見すると、穏やかな風貌の人物。

 178センチの御剣よりも20センチは上の、2メートル近い長身。鼻の下に金色の口ひげを蓄えている。クリスの言葉に反応し、穏やかでありながらもその鋭い眼光でこちらを見ている。

 

(この人がテイラー大使か)

 

 ダミアン大使などもそうだったが、まがりなりにも一国の大使。一筋縄ではいきそうにない。

 そんな相手のところにクリスが駆け寄ると、何度か会話を交わした後、こちらに近づいてくる。

 

「どうも、はじめまして。私はベイカー王国の大使、テイラーというものです」

 

 つかつかと近づいてきて、御剣に対してテイラー大使は首をかしげてみせる。

 

クリス()から聞いたのですが、私に何か用があるとか」

 

「テイラー大使。私は日本の検事局の御剣という者です」

 

「自分は刑事の糸鋸ッス!」

 

 御剣と糸鋸がそれぞれ挨拶する。

 

「検事に刑事?」

 

 唐突に出てきた肩書きに、テイラー大使はその顔に怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「あの、おじさん」

 

 クリスが、テイラーに向かって頼み込むように言う。

 

「この人たち――検事さんと刑事さんはある事件を調べてるんだ」

 

「事件?」

 

「それでその聖剣が凶器に使われていた可能性があるんだって」

 

「聖剣――ダサクネーの事かな?」

 

 その言葉にテイラー大使は驚いたように目を見開く。

 

「はい。こちらに運び込まれる前、ニューハイドビルで起きた事件で鈍器代わりに使用された可能性が極めて高いのです」

 

 そう言いつつ、簡単に事件の概要を説明していく。

 

「さらに言うなら、この聖剣をこちらに運んできた男がその最中に襲われるという事件も発生しています。何らかの関係がある可能性は極めて高いかと」

 

「……ふむ」

 

 暫し、テイラーから次の言葉が出てくるまで間があった。

 

「……わかりました。いいでしょう」

 

 そう答え、一つ息をつくテイラー。

 善意からか。

 それとも断ったところで、令状でもとって改めて来られるだけだと判断したのか。

 

「こちらに展示してあります」

 

 そう言って案内された先にあるのは、鞘に収められた豪奢な装飾が施された剣。

 幾分か年月による劣化こそ感じるが、管理状態がいいのか荘厳な雰囲気を損なっていない。

 まさに、聖剣ともいうべき代物だ。

 

 事件現場にあったものとは別の台座にそれが固定されている。

 

「これが聖剣、ですか」

 

 そう言いつつも、聖剣を上下左右から見回す。

 

(聖剣に血液がついている様子は――ないか)

 

 まあ、これは当然か。

 そんなものがあれば展示する前に、テイラー大使も気がつくはずだ。

 だが、目に見えなくても犯人がその痕跡を拭き取ってある可能性もある。改めて、警察に検査を依頼する必要があるだろう。

 

 そう思った時、御剣の携帯電話に着信があった。

 

「失礼」

 

 そう言って、少し離れたところで出る。

 どうやら、相手は目暮警部のようだった。

 

『どうも、御剣検事』

 

「これは目暮警部。何か事件に進展が?」

 

『ええ。ウラを取りにいった高木君から報告がありました』

 

「被害者の正体についてですか」

 

『その通りです。どうやら、被害者の正体は大森君の言っていた高山貴理夜という人物で間違いはないかと。被害者の写真を彼女の住んでいたマンションの住民に見せたところ、間違いないとのことです』

 

「そうですか」

 

 ひとまずは、被害者の身元が判明したということで一つ安堵する。

 

『それと、被害者の持ち物を詳しく調べてみたところ、彼女は脅迫状を二通ほど受け取っていたようです』

 

「脅迫状?」

 

『ええ。内容は簡単にまとめますと今日の朝8時にニューハイドビルまで来い、というもの』

 

「もう片方は?」

 

『予定は6時に変更するというものです』

 

「6時に?」

 

 それはまさに被害者の死亡推定時刻だ。

 

『それに妙な所がありましてな』

 

「妙なところ?」

 

『この脅迫状、どうやらどちらも直筆のようでしてな』

 

「なるほど。それは妙ですね」

 

 直筆ともなれば、当然ながら筆跡等が証拠になってしまう可能性がある。

 もっとも、本来は被害者に処分させる前提だったと考えればおかしくはないかもしれないが。

 

 その後、ここでの現状を伝え、聖剣の検査のために人員を派遣して欲しい旨を伝えると、通話を終えた。

 

「御剣検事。どうだったッスか?」

 

 元の場所に戻ると、待ちかねていたように糸鋸が訊ねる。

 

「ム? ああ」

 

 かいつまんで目暮との通話内容を糸鋸に話す。

 

「なるほど。キョーハクジョーッスか」

 

 わかっているのかわかっていないのか、そんな風に内容を復唱してみせる糸鋸。

 

「ねえ検事さん」

 

「ム?」

 

 そんな糸鋸の後ろからひょこりとコナンが顔を出す。

 

「その脅迫状を書いた人ってあの人じゃないの?」

 

「キミ、話を聞いてたのか?」

 

「えへ、ごめんなさい」

 

 謝ってみせるコナンに御剣は先を促す。

 

「全く。 ……それでキミは脅迫状の主に心当たりでも?」

 

 とはいえ、ホテルの事件でもさきほどの偽小五郎との対峙でも彼の助言が役立ったのも事実だ。

 そう思い、改めて訊ねてみる。

 

「ほら、朝8時に事件のあったビルに来いって書いてある方、それってさっき会ったあの人じゃないかな?」

 

「あの自称・毛利小五郎か」

 

 確かに、彼は午前8時に被害者と会おうとしていた様子だ。彼が脅迫状の主だと考えれば筋は通る。そうなると、もう片方の脅迫状はやはり別人ということになるが。

 

「それに、あの人は群馬でサインを書いたりしてそれが証拠品として保管されているはずだから、筆跡鑑定のための材料はあるはずだよ」

 

「うム……」

 

 脅迫状は直筆だという話だし、それならば確かめることはできるかもしれない。

 

「わかった。その件も目暮警部を通して、群馬県警にそのサインとやらを提出してもらうとしよう」

 

 とにかく、これである程度事件は進展したはずだ。

 

 判明した被害者の身元、事件関係者と思われる偽毛利小五郎、そして謎の脅迫状。

 ある程度は警察の捜査待ちのところもあるが、今は調べられる範囲のことを調べようと改めて聖剣へと御剣は視線を移すのだった。




設定の補足

この作品は逆転裁判4の前の時間軸のため、裁判員制度は存在しません。
名探偵コナンのアニオリで裁判員制度の話が出てきたことがありますが、この作品内では存在しないものとします。
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