名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.45 被害者の情報

「ム……?」

 

 御剣はふと、こちらに向かってくる人影を見る。

 

「あ、高木刑事!」

 

 近くにいたコナンもそれに気づいたらしく、声をあげる。

 ホテルでの事件の時も、今日の事件時も現場の捜査に来ていた捜査一課の高木刑事だった。

 

「あれ、コナン君。キミもここにいたのかい?」

 

「うん!」

 

 彼と親しいらしい、コナンが高木に応じている。

 確か彼は、大森から聞いた被害者の情報の裏取りに行っていたはずだった。

 

「どうしてこちらに?」

 

「はい。えっと、被害者の自宅での一応ひととおりの聞き込みは終わったので、ビルの方に戻ろうかと思ったのですが、ここは通り道でしたのでこちらにおられると聞いた御剣検事にも報告をと思いまして」

 

「そうか。ご苦労だったな」

 

 被害者――偽妃英理の正体が高山貴理夜という人物である事は確定したといっていい。

 だが、それだけでは情報が足りない。

 もちろん、無差別殺人のようなケースはあるものの、ほとんどの場合、被害者の情報は重要だ。

 

「既に報告しましたが、被害者は彼女で間違いなさそうです。それで、その被害者の詳細なのですが……」

 

 高木が手帳を取り出し、それを見ながら説明をはじめる。

 

「彼女の年齢は、39歳。職業はフリーの雑誌記者――を自称していたようですが、活動はほとんどしていなかったようです。ですが、マンションの家賃の滞納などはなく、近隣住民の証言によると時折、旅行などにも行っており、金銭的に困窮している様子はなかったとのことです」

 

「では、普段の生活費などは?」

 

「不明です。ただ、彼女の両親もそれほど裕福というわけではなく、夫である高山友美の親戚とも、彼の逮捕と共に疎遠となっています。どこからか支援を受けていたというわけではないようですね」

 

 付け加えて、と高木は話を続ける。

 

「彼女は元々は大手の新聞社である東都新聞に勤めていたようですが、27歳の時にそこも辞めていますので、退職金もそれほど多くはないはず。多くの貯蓄があったとも思えません」

 

 今の年齢が39歳で、27歳の時というと12年前。

 夫である高山友美が逮捕された、GO-5号事件の発生時には、すでに東都新聞をやめていたという事になる。

 そして、12年前といえばCI-6号事件の発生した時だ。

 

(まあ、今の時点で結びつけるのは早計か)

 

 そう考え、御剣は話の先を促す。

 

「なるほど。収入源は謎、というわけか。では、彼女の普段の生活の様子などは?」

 

「よく出かけてはいたようです。ただ、どこに出かけているかは不明。近所の住民には、仕事関係だと言っていたようですが」

 

「近所の評判などは?」

 

「出会えば挨拶もしますし、時折は旅行先からのお土産と称して、同じマンションの住民に各地の名産品などを渡してなどいたようですが、あまり雑談などはしていなかったようです。なので、同じマンションや近所の人たちも、彼女についてそこまで詳しい事を知らないようです」

 

「では、彼の夫である高山友美が刑務所にいる事なども?」

 

「知らなかったようです」

 

「……そうか」

 

 近所づきあいなどはあくまで、最低限といったところ。

 いまのところ、被害者の人物像はいまいち見えてこない。

 

「では、事件のあった当日――いや、群馬の団財副局長の別荘に現れたという一昨日などもどこにいたのかはわからないのかね?」

 

「はい。元々、外出の多い人だったようなので、近隣住民も本人不在でも特に気にしていなかったようです」

 

「なるほど……」

 

 彼女もまた、高山友美の反応からしても、何かあるのは間違いなさそうだ。

 高木の説明を聞いて、その思いを強くする。

 

「それで、これからどうするッスか? 御剣検事」

 

 いつの間にか、近寄ってきていた糸鋸に訊ねられる。

 

「うム……。そうだな」

 

 御剣は少し考えてから、言葉を続ける。

 

「高山友美の刑務所時代の事が知りたい。出所して二週間も経っていないのだ。彼が、いったい何のつもりであんな事をしていたにせよ、どう考えても、出所後ではなく出所前に元凶があると考えた方が良い」

 

「なら、高山のいた刑務所に行くッスね! さっそく、パトカーを用意するッス!」

 

 そう準備をはじめようとする糸鋸を御剣が制する。

 

「だから、キミはダメだと言っただろう。キミはここの警備が仕事だ」

 

「何スと!!?」

 

「あの、でしたら自分が行きましょうか?」

 

 ショックを受けたように固まっている糸鋸をよそに、手をあげて進言した高木に告げる。

 

「では、高木刑事。お願いしても良いだろうか」

 

「え? ああ、はい。それはもちろん」

 

「できる事ならば、刑務所にいた時の普段の様子。出所後に何をするか言っていなかったか、それと面会に来た者に誰がいるかなどが知りたい」

 

「わかりました。確か、高山は米花刑務所にいたはずですので、それほど時間はかからないはずです。目暮警部にこの件を報告したら、すぐにでも」

 

 了承したとばかりに、高木は駆けていく。

 

「……さて、と。私はビルの方に戻る。もう少し、事件現場を調べておきたい」

 

「なら、自分もそっちについて行くッス!」

 

「だからダメだと言っているだろう」

 

 ついてこようとする糸鋸を、御剣は再び止める。

 

「イトノコギリ刑事、キミは子供たちを送っていってくれたまえ」

 

「子供たち(・・)ってここには一人しか残ってないッスよ?」

 

「……何?」

 

 ふと見てみると、いつの間にかコナンの姿が消えており、クリスのみが残っている状態だった。

 

「あの少年はどうしたのだ?」

 

「あ、探偵君ならさっきの刑事さんについていっちゃいましたよ?」

 

「何?」

 

 クリスの答えに、御剣は目を見開く。

 

「あ、きっとアレッスね。あの子はさっきの警視庁の刑事と知り合いだったみたいッスから、直接家にでも送ってもらうことにしたんじゃないッスか?」

 

 そんな風に言う糸鋸だが、御剣は何となく高木にそのままついて行って、刑務所の面会にも同伴している姿を脳裏に浮かべる。

 

(……いや、さすがにそれはないか)

 

 確かに人の良さそうで押しの弱そうな刑事だったが、いくら何でも子供をそんなところまで付き合わせることはないだろう。

 御剣はそう、頭の中で結論を出す。

 

「そういえば刑事」

 

「何スか? あ、やっぱり自分が刑務所に行って話を聞いてくるべきだと考え直したッスか! 自分こそが御剣検事のアイボーッスからね!」

 

「だから違うといっているだろう」

 

 こめかみを抑えつつ、御剣は続けて訊ねる。

 

「聞いてみたい事があったのを思い出した」

 

「何スか! 何でも話すッスよ、自分は! 話していいことも話したらダメな事も!」

 

「話していいことだけでいい」

 

 勢い込む糸鋸を抑えるようにしつつ、訊ねる。

 

「このひょうたん湖公園には、キミとは違うキグルミを着ている者たちがいるだろう」

 

 先程から、ちらほらと見かけているタイホくんたちだ。

 タイホくんだけでなく、プロトタイホくんとも混同して見かけている。

 

「ん。ああ、アレッスか。さっきの子にも聞かれたッスけど、自分もそこまで詳しくないッスよ」

 

「何か知らないのか?」

 

「んー。何でも、連続殺人犯がここにいるとかタレコミがあったとかないとかって話ッスよ」

 

「何?」

 

 思ったよりも物騒な話に、御剣も目を見開く。

 

「まあ、あくまでたまたま仕事場が被っただけで、アレは本庁の捜査一課のお仕事ッス。管轄違いってことで、自分のところにまではそこまで詳しい情報が下りてきてないッスから知らねッスよ。タレコミどうこうって今の話も他の刑事課の刑事からの又聞き情報ッス。けど、課長からもとにかく、捜査一課の人たちの邪魔になるようなことはするなと言われてるッスよ」

 

「……ふム」

 

 御剣は腕を組みながら、頷く。

 気になる情報ではある。

 だが、現時点でこちらの件とは関係があるとは思えない。

 今の情報を、頭の中に入れながらも切り替えることにする。

 

「……あの、あたしもそろそろいいでしょうか?」

 

 そんな中、クリスにそう聞かれる。

 

「ム。そうだな……」

 

 クリスは元々、テイラー大使に口利きしてもうらためについてきただけだ。

 どこかに行きたいというのであれば、拘束することはできない。

 

「わかった。キミの協力、感謝する。お父さんの件も任せておきたまえ」

 

「はい。ありがとうございます。それじゃあ、よろしくお願いしますね」

 

 そう言い終えるとぺこりと頭を下げる。

 

「そういえばキミは、さっきのお友達たちのところに戻るのかな?」

 

「え、あ。はい。そのつもりですけど……」

 

 きょとんとした様子で、クリスは聞き返す。

 

「ならば、イトノコギリ刑事。キミが連れて行ってやりたまえ」

 

「え? 自分がッスか!?」

 

「そうだ。連続殺人犯とやらがここにいるのであれば、子供一人でいるのも危険だろう」

 

 まあ、こんな人が大量にいる場所で危険はないと思うが、糸鋸に何らかの仕事を押しつけないとこのまま自分についてきかねない雰囲気だ。

 申し訳ないが、彼女に押しつけることにする。

 

「あ、そうッスね! じゃあ、自分ががんばるッス!」

 

 そういうと、気合いの入った様子でクリスと共にここから立ち去っていった。

 

「やれやれ……」

 

 二人がいなくなったのを確認し、一つ御剣は息をつく。

 何だかんだで頼りになる男とはいえ、勝手に仕事を抜け出して協力させ過ぎては困る。

 

「さて。私も動くとするか」

 

 御剣は、再び向かう先はニューハイドビル。

 事件現場だ。事件の背景に何かあるとしても、やはり現場にこそ多くの証拠が残っている。

 そう考え、御剣は自分の愛車のある方向に歩き出した。

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