名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.46 刑務所での面会

某月某日 午後3時15分 米花刑務所

 

 

 

「あの……」

 

「何? 高木刑事」

 

 米花刑務所の面会室。

 そこで、コナンは高木に話しかけられる。

 

「いまさら何だけど、コナン君までついて来ちゃってていいのかな?」

 

「だいじょうぶ! 気にしないで」

 

 さらっとあのまま高木についてきたコナンは、笑顔で告げる。まあ、彼もいつもの事かとそこまで気にはしていないようだった。

 ここに来て、まずはこの刑務所の所長に高山についての話を聞こうとしたのだが、今は所用で離れているらしく、その前に高山から何か話を聞いていないか、同房だった相手に話を聞くことにしたのだ。

 

 そんな中、面会室にいた看守が他の看守から耳打ちされた後、高木に向かって告げる。

 

「それでは、準備ができたようです。すぐにでも来ますので」

 

「あ、はい」

 

 その言葉に高木が応じる。

 

「その、これから来る囚人なのですが、あー、それが――」

 

 ここで、どういうわけか少し言いづらそうに看守は言いよどむ。

 

「何か?」

 

「いえ。これから来る囚人は少し、いやかなり問題がありますので――」

 

 まあ、囚人という時点で問題はあってもおかしくはないが。

 だが、看守の反応的にそれだけが理由というわけではなさそうだった。

 

「あー、その、お気をつけて」

 

 何か続けようとしたが、結局やめたようだ。

 そのまま看守はその囚人を連れてくるためか、面会室から消える。

 

「何だったんだろうね?」

 

「さあ」

 

 顔を見合わせるも、答えは出てこない。

 やがて、看守が囚人を引き連れて戻ってきた。

 

「では、そちらの方が高山と同房だった囚人の――」

 

「――ちょっと待ってください」

 

 そう言いかけた高木に、囚人が口を挟む。

 

「あ、おい!」

 

「確かに今のボクは『囚人』と呼ばれる立場にいるかもしれない」

 

 咎めようとする看守を無視して、そのまま困惑気味の高木に続ける。

 

「それはまあ、百歩譲って認めてあげる気もなくはない。まあ、ボクは寛大ですからね。ですがそれはまあ、ちょっとした人生の通過点ともいうべき地点。ちょっとした石ころに躓いてここにきただけ。あの、ゴミみたいな弁護士という名の石ころにね。ですが、いずれ出所したらボクにふさわしい一流大学に入り直し、一流の職に就く身。つまりここは一流のボクが一時的に身を置いているだけの場。そんな場所の肩書きを持ってボクの立場を決めつけるわけには」

 

「わかった! とにかく、黙りなさいっ」

 

 勢いよく話す囚人を看守が押しとどめる。

 

「何だか、随分と個性的な人みたいだね」

 

「……そだね」

 

 高木の言葉に、コナンも苦笑気味に応じる。

 

「それで、そっちの貧相な見た目のいかにも三流といった刑事さんが一流のボクに話があるって?」

 

 高木の方を見ながら囚人が訊ねる。

 

「はい。警視庁の高木と言います。よろしくお願いします、諸平野さん」

 

 囚人――看守曰く諸平野貴雅という名前らしい――に対し、高木は訊ねる。

 

「フン、まあ話すのもやぶさかではないですよ。ただ先に言っておきたいのはこうやって、何の縁もゆかりもないアナタに話しをしてあげようというのは決してヒマだったからじゃない。ただ、善良な市民の義務として少しだけ話を聞いてあげようと思ったボクの好意から、この面会は行われている。もしかしたら、一応ボクが『囚人』というカテゴリに入る存在である以上、アナタは国に飼われる警察の犬という立場であるのをいいことに『上』の立場だと誤解しているかもしれないので、あしからず」

 

 やたらと無駄に長い上に何の中身もない言葉で返され、返答に詰まるも、苦笑したまま高木は返す。

 

「えっと、とにかくその話を聞かせてください」

 

「いいでしょう、話してあげますよ。特別にね」

 

 あくまで尊大な態度は崩さないまま、諸平野は続ける。

 

「アナタは高山友美と同房だったと聞きましたが」

 

「ああ、彼ね。まあ、覚えていますよ。すでに出所しているんでしょう? まあ、別に構いませんが。ただでさえ、どうしようもなさそうなヒトなのに、前科までついてしまって。お先真っ暗ですね。あ、いや誤解しないでくださいよ。ボクは別に前科がついたからといって、人生が詰んだなどとは思いませんよ。それくらいで人生が詰むのは所詮、三流以下の人間のこと。ボクのように『一流』の人間であれば、いくらでも道はあります。いわば、この『前科』も前科にあらず。ただの寄り道だと理解して欲しいですね」

 

「あ、はい。それで高山に関して何か覚えていることなどは?」

 

 とにかく真面目に対話するのは時間の無駄だと考えたのか、とにかく高木は先を急かす。

 

「さあねえ、所詮は三流の人間の考えること。深く相手にはしてませんでしたよ。ですけど、ああ。アイツは許さない、とかそんな事を言ってましたね」

 

「アイツ、とは?」

 

「さあ? ですが、ずっと騙していたのかとかそんな事言ってましたね」

 

「騙していたって何のことですか?」

 

 そう訊ねる高木に対し、諸平野は目を剥いてみせる。

 

「そんなことボクが知るわけがないでしょう。あ、それともアレか。その程度のことすら覚えていないからボクがこんなところに来る羽目になるんだとでも、いいたいのですか? だとしらアレだ。アナタはボクがグローブをバナナだと間違えたぐらいでネチネチとくだらない揚げ足取りをしてきた弁護士と同じだ。天才のちょっとしたミスを指摘して、自分の方が賢いのだと錯覚を持ちたい凡人の三流刑事らしいご意見ですね!」

 

「いや、そんな事は言ってませんが……」

 

 何やら一人でヒートアップした様子の諸平野はやがて喋り尽くしたことに疲れたのか、息が荒くなる。

 

「あの」

 

 コナンが諸平野との会話に口を挟む。

 

「ん? 何だいキミは。その刑事さんのお手伝いかな? やれやれ、三流刑事らしく子供の力でも借りないといけないわけか。ああ、そういえばあの三流弁護士も怪しげで胡散臭くて路上でツボでも売っていそうな怪しげな格好の女の子を連れてましたね。やはりアレだ。ボクみたいな天才と違って、凡人は群れないと何もできない。まさに三流というわけだ」

 

「高山さんがその裏切られたって言い出したのって、いつくらいの事なの?」

 

 正直、言葉を遮りたい思いに何度もかられたものの、それをすると間違いなく怒りくりそうな相手だったため、何とかやり過ごしてから訊ねる。

 

「いつと言われてもね。ちょっと前だよ」

 

「具体的にはどのくらいなの?」

 

「何だい? ちょっとはちょっとだよ。それはアレだ。お年寄りみたいに何年も前のことを『ちょっと』とかいっているのかと思っているのかい? あいにくだね。ボクは前途有望な若者だよ。『ちょっと』をそこまで昔のことに使わないよ、せいぜいが三ヶ月くらい前さ」

 

 やたらと長々しい前置きこそあったものの、裏切られたという発言は三ヶ月前。つまり、それくらいの頃に何かあったというわけか。

 頭の中でその情報を咀嚼する。

 

「それじゃあ、出所したら誰かに会うとかそういった話はしてなかった?」

 

「ん? してないよ。まあ、三流は三流なりに気を遣ったんじゃないかな。彼はもうすぐ刑期が終わるという状態だったわけだが、ボクはまだ先だからね」

 

「そっか……」

 

 考え混むコナンに、諸平野がはっとした様子で目を見開く。

 

「何だいキミは。ボクがまだ刑期が先だってことを馬鹿にしているんだろう。キミには理解できないだろうが、ボクみたいな大人にとって、極めて重要なことだよ。ボクは出所したら一流のボクにふさわしい一流の大学に改めて入り、一流の企業に就職しようとするだろうが、その時に年齢が足かせにならないか心配しているわけなのだよ。だからこそ、ボクみたいな天才を馬鹿みたいな理由で縛る刑期については極めて重要な問題なんだ。キミのようにどうせ幼稚園しか出ていない子供にはわからないだろうがね!」

 

 コナンの沈黙に対して勝手な解釈をはじめたあげくに、諸平野はやたらと怒り狂う。

 勝手に盛り上がっているようだが小学生ならよほどの理由がない限り、幼稚園ぐらいしか出ていないだろう――などと内心で突っ込む。

 

「そもそもボク、幼稚園じゃなくて保育園だったけど……」

 

 まあ、正確には江戸川コナンとしてではなく工藤新一としての話だが。

 この男にそんな説明をする必要性もないし、とりあえずは真面目に相手にするのが馬鹿馬鹿しいので流しておく。

 

(えっと、他に聞いておきたい話は……)

 

 何かあっただろうか。

 

「出所する前に、高山さんは何かしてることとかあった?」

 

「はっ! そうだね。刑務作業とかの時間の他は、何やら差し入れでもらったらしい雑誌やら紙の資料っぽいものを読んでいたよ」

 

「それってどんな内容だった?」

 

 コナンの質問に諸平野は首を横に振る。

 

「何を言っているんだねキミは。一流の人間は他人の、それも三流の相手が何を見ているかだなんて一々気にしたりしないよ。保育園(ホイ)卒のキミにはわからないことだろうがね」

 

 小学生相手に学歴マウントを取ろうとされても困る。

 まあ、彼は彼なりに守りたいプライドのようなものがあるのだろう――多分。

 

 やたらと長々しい割に中身のほとんどなかったが、それでも情報は情報だと一応感謝しておくことにする。

 

「それじゃ高木刑事。そろそろ終わろっか」

 

「え? ああ、うん。そうだね。それでは諸平野さん、どうもお忙しいところありがとうございました」

 

 コナンの言葉に高木刑事も立ち上がって礼を言う。

 

「ああ、まあ一流の人間はこういった施しをしてやるのも当たり前だからね。それよりももう少しボクの話を聞きたまえ。何、これからの一流の人間らしい人生設計を考えているんだ。まず、出所したらまずはあの三流の弁護士に――」

 

「それでは、看守さん。自分たちはこれで」

 

 間違いなくどうでもいい方向に脱線しそうなためか、高木は看守に目をやる。

 すぐに察したらしい看守は一つ息をつくと、諸平野の手をつかむ。

 

「あ、こら待ちたまえ! まだ話は終わっていない。このままだとコイツらは、三流だから勘違いしてしまうかもしれないじゃないか! コイツらでも、ボクは天才で格の違う存在なんだとわからせないとダメじゃないか、あ、コラ引っ張るな。そうやって暴力を持って天才の言葉を封じ込めようとは、横暴はやめたまえ! いかにも三流の権力者の考えそうな――」

 

「コラ、大人しくしないか――っ!」

 

 なおも喋り続ける諸平野を最後は看守に引きずられるように諸平野は去って行く。

 

「何か、色々とすごい人だったね」

 

「そだね……」

 

 コナンも濃すぎる相手に、つい苦笑してしまう。

 無駄に話が長くなってしまったとはいえ――役に立つ情報だったものもある。

 

 高山は三ヶ月ほど前から、裏切られたと少なくとも本人は認識する出来事があった。

 その事がわかっただけでも収穫だろう。

 

 

 

 

「遅くなりました、高山のことで話があるとのことでしたな」

 

 それから暫く。

 今度は、ここの所長と改めて話を聞くことになった。

 

「はい。実は、彼の妻である高山貴理夜さんが殺害されまして――」

 

 簡単に事件の概要を説明していく。

 

「そうですか。彼女がねえ――何度もここに来てましたから、顔は見てましたよ」

 

 そう頷く所長に高木は訊ねる。

 

「それで、その高山貴理夜さんなんですが、ここにいた高山と何度も面会をしていたとか」

 

「はい。そうですね。何度か妻の高山貴理夜と面会していますね。大体、月に一度くらいのペースで来ていました」

 

「来ていました、というのは?」

 

 過去形である事に疑問を持ち、

 

「ああ、いえ。三ヶ月ほど前から高山本人が面会を拒否しておりましたので」

 

「面会を拒否、ですか」

 

 高木が所長の言葉を復唱する。

 

 三ヶ月――というと諸平野の発言にあったのと同じ時期だ。

 やはり、裏切りというのは彼女の事を指すのか。

 

「その前の面会で、何かあったりしなかったの?」

 

 コナンの質問に所長は首を横に振ってみせる。

 

「いえ。ごく普通に近況を話していただけのようですよ」

 

「それでは、口喧嘩になったりするようなことも?」

 

「それも、ありませんな。平穏にいつも通りに終わりました」

 

 高木の言葉にこれまた所長は否定する。

 

「そもそも高山さん達は普段どんな話を?」

 

「さきほども言ったように基本的には近況を話しているだけのようですが、時折事件の事を聞いていたようですよ」

 

「事件、ですか」

 

「ええ。彼の起こしたGO-5号事件について聞いていたようですな」

 

「高山の反応は?」

 

「ほとんど何も。事件の事は話したくない様子でした。ああ、それと――」

 

 ふと思い出したように、所長は言う。

 

「半年くらい前の面会からは、出所後のことを話すようになっていたようですな」

 

「出所後の?」

 

「ええ。出所が現実味を帯びてきたので、まあ、おかしな話ではないかと」

 

「でも、三ヶ月前から高山さんは会うことすらしなくなったんだよね?」

 

「まあ、そうですな」

 

 コナンの言葉に所長は頷いてみせる。

 

「彼女からの手紙を、高山に渡していたのですがなしのつぶてでしてな」

 

「その内容は?」

 

 刑務所という場所の関係上、内容の検問はしているはずだ。

 

「誤解があるようなので解きたい、といった内容でした。その誤解が何なのかは具体的には書いてありませんでしたが」

 

「そうですか……」

 

 高木も気にはなるようだが、別のことを聞いてみることにしたようだ。

 

「では、高山貴理夜さん以外に他の面会者などはありませんでしたか?」

 

「ありましたよ。三ヶ月ほど前に。ああ、そういえば、その時から高山は面会を拒否するようになったのでしたな」

 

「三ヶ月前、ですか。相手は?」

 

「弁護士ですよ。確か、彼の裁判も担当していたはずです」

 

「その弁護士の名前は?」

 

「ええっと、そうですな」

 

 ぺらぺらと資料をめくっていたが、やがて所長は答える。

 

「名前は――半庭康夫、ですな」

 

「! それって――」

 

 聞き覚えのある名前に、コナンは反応する。

 それも、つい最近に。

 団財副局長の別荘で起きた殺人事件の被害者だ。

 

「その人って、確か昨日あった事件の――?」

 

 管轄外の群馬での事件とはいえ、つい最近の話でありニュースでも報道されている。

 高木もその事は知っていたようだ。

 

「それで、その。半庭弁護士とはどのような?」

 

「あ、それはわかりません」

 

 高木の質問に所長は首を再び横に振る。

 

「弁護士として立会人なしで面会をしておりましたので」

 

「そうですか……」

 

 だが、そこで何らかの話し合いが行われ――結果、彼は妻が何らかの『裏切り』をしていた事を知った事になる。

 

(でも、それだと何で高山さんは奥さんとおっちゃん達の偽夫婦を?)

 

 彼らを見ていた山村いわく本物そっくり――ではなく完全にニセモノだとわかるぐらいにラブラブの夫婦だったようだ。

 裏切り者相手にそんなことをしていたのか。

 あるいは、内心で強い怒りを押し隠しながらそんな事をしていたのか。

 

「そういえば、高山さんって何か差し入れとかもらってなかった?」

 

 諸平野の言葉を思い出して、つい聞いてみる。

 

「差し入れ? ああ、さっき言った弁護士の人からあったよ」

 

「それってどんな?」

 

 刑務所ならば、当然ながらその囚人への差し入れ内容を確認しているはずだ。

 所長は資料を確認しつつ、答える。

 

「雑誌は毛利小五郎についての特集なんかだったね。後、彼に関することが書かれたものだった切り抜き記事みたいだったよ。服役中にファンになったからとか言っていたけど」

 

「毛利さんの?」

 

 その言葉に高木も驚いた様子だ。

 

(やっぱり、ニセモノを演じるための勉強か?)

 

 まあ、あの山村(ヘッポコ)ぐらいしか騙せないレベルの完成度だったようだが。

 この時点で偽毛利小五郎を演じる気でいた可能性が高そうだ。

 

(まあ、これである程度は分かったか――)

 

 面会中に会っていたという、半庭弁護士。

 彼と会った途端、妻との面会の拒絶、そして裏切りという言葉。

 

 いまだ謎が多いものの、偽小五郎こと高山友美という男に関してのピースが埋まり始めていた。




名探偵コナンの二次創作は膨大な数がありますが、山村警部が出ている作品ってだいぶ少ないんですね。
ちょっと参考までに他の方の作品を見ようとしてみたのですが、数が予想以上に少なくて驚きました。
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