名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.47 意外な再開

某月某日 午後4時55分 妃法律事務所前

 

 

 

「えーと、ここで良かったのかな?」

 

 パトカーが、妃英理の事務所の近くに停まり、コナンはそこから下りる。

 

「うん、ありがと!」

 

 英理に用があるからと、高木にここまで送ってもらっていたのだ。

 まあ、彼女はコナンと住んでいる蘭の母親でもあるわけであり、特に疑うこともなく高木は信じてくれた。

 

「ところで、何だけど」

 

 ここで別れようとしたところ、ふと思い出したことを聞いてみることにした。

 

「何だい?」

 

「ひょうたん湖公園で千葉刑事に会ったんだけど」

 

「え? あー、そうかい」

 

 明らかに何らかの心当たりがありそうな反応だった。

 

「ニセモノのおじさん達の件とは別に、もしかして何かあったんじゃないの?」

 

 その言葉にどうするべきかと高木は迷っていた様子だが、やがて声をひそめ、「内緒だよ」と前置きしながらも話し始める。

 

「実はね。今、連続殺人事件が起きてるんだよ。でも世間一般にはまだ、独立した事件だと思われてるんだけどね。表向きは被害者の年齢も性別も職業もバラバラで関連性はみられなかったからね」

 

「だったら何で、連続殺人だってことになったの?」

 

「それがね、凶器が特徴的なものでね。犯行現場にそれをわざわざ残していっているんだ」

 

「特徴的ってどんな?」

 

「え? ああ、いや! さすがにこれ以上はダメだよ!」

 

 まあ、ここまで話してくれたんだから最後まで話してくれても――とは思うが、とりあえずは諦めておく。

 

「それで、何でその連続殺人事件の犯人の人があのひょうたん湖にいるって事になるの?」

 

「タレコミがあったみたいだね。それも、ただのタレコミじゃなくて、世間一般には公開されてないその凶器に関する情報もつけられてのね」

 

「それで、イタズラの可能性は低いって思われたの?」

 

「うん。それに、特に今日はあのひょうたん湖でイベントもあるからね。警視総監や検事局の副局長も来ているし、テイラー大使みたいな外国の要人もいる。万が一があったらまずいからね。警備とは別に、捜査一課の刑事たちがいたんだよ」

 

 それが、千葉刑事らというわけか。

 ひとまずは納得した。

 

「まあ、外れなら外れで良かったかもしれないけど。あんなに人がいるところに連続殺人犯がいたら大変だし」

 

「そうだね」

 

 コナンにとっても本心でもある。

 あそこには、灰原ら少年探偵団がまだ残っているのだ。

 

「とにかく、そういうわけだから」

 

「うん、バイバイ!」

 

 そんなやりとりの後、高木とはここで別れた。

 

 

 

 何度も来た事がある妃英理の事務所へとコナンが向かおうとしたところ、妃法律事務所のある建物の中でふと見覚えのある顔が視界に入った。

 

「……おや」

 

 相手もこちらに気づいた様子で、相手は近づいてくる。

 

「君は昨日、会った子ですね」

 

「え? あ、うん。貫弁護士さん、だったよね?」

 

 貫槍華。

 昨日の団財副局長の別荘で出会った、弁護士である。

 

「ええ。昨日ぶりです」

 

「どうしてここに?」

 

 まさかこんなところで会う事になるとは思えず、聞いてみる。

 相手もさほど間を置かずに答える。

 

「妃先生には、以前に世話になったことがありまして」

 

「弁護士の先輩として?」

 

「いえ。妃先生からは弁護士のイロハを教わったりはしてませんね。あくまで、依頼人としての立場で世話になっただけです」

 

 コナンの言葉に首を左右に振ってみせる。

 

「依頼人として?」

 

 過去で何らかの事件に巻き込まれたことがあるのだろうか。

 そう思って聞こうとしたが、

 

「ええ。依頼人としてです。弁護士としての道を進んだのは、妃先生とは関係ありませんよ」

 

 そう言ってから、「失礼」とのみ言ってから胸ポケットから飴玉を取り出して口に放り込む。

 そして、貫の上品そうな外見とは真逆にバリ、とかみ砕くような音が暫し場に響く――そして飲み込んだようだ。

 

「糖分摂取しないと、頭が回らなくなるもので」

 

 そう言ってから、続ける。

 

「話を戻します。私は元々、法曹界を目指していましたし、学生の頃から優秀でしたから、私。この弁護士バッジを手にいれるまでに弁護士として必要な知識に法廷戦術、頭の中に叩き込んでおきました」

 

 一見、ただの自慢にすら聞こえるが、表情にも変化はなく嫌みな感じは全くない。ただただ事実を話しているだけのように感じる。

 

「それだけに、一昨日の事件は残念でした。半庭先生は、担当クラスではありませんが、私の学生時代の恩師でもありましたから」

 

「あれ? でも半庭さんって学校の先生じゃなくて弁護士じゃないの?」

 

 貫の言葉に疑問を覚え、聞き返してみる。

 その回答に「ああ」と続ける。

 

「説明が足りませんでしたね。失礼しました。半庭先生は弁護士であると同時に、私の母校であるテミス法律学園で弁護士クラスの教師もしていました。半庭先生とはその時からの付き合いです」

 

「そこって確か、法曹界の大物を何人も出してる名門校だったよね?」

 

 確かつい最近にも、そこの出身者がアメリカに行って17歳で検事資格を取ったというニュースもあったはずだ。

 

「おや、詳しいですね。ええ、そこの卒業生です、私は」

 

 そう言ってから、懐から板チョコを取り出すと、それを囓ってみせる。

 

「これ、少し甘さが足りませんが食べますか?」

 

 そう言って囓ったものとは別の板チョコを取り出す。甘さが足りないなどと言っているが、「甘みがたっぷり!」などと包装紙には書いてある。まあ、単に彼女の基準が高すぎるだけなのだろう。

 コナンが黙って首を左右に振ると「そうですか」と今度はスティックシュガーを取り出し、板チョコに振りかけてみせる。

 昨日も似たような光景をみたが、彼女は相当に甘い物好きのようだ。

 

「さて、話の途中でしたね」

 

 スティックシュガーでトッピングされた板チョコを食べ終えてから、貫は続ける。

 

「当時の私は担当の先生とは折り合いが良くありませんでしてね。代わりに半庭先生には世話になっていたのですよ」

 

「優秀な人だったんだ。半庭先生って」

 

 ほとんど表情が変わらない彼女だが、半庭弁護士に対しては好意的な反応を示しているように見える。

 そのため、同意するように言ってみる。

 

「ええ。テミス学園を首席で出た卒業生でもありますからね。なので本当は私も、首席で出てみたかったのですが。まあ、先程も言ったように本来の先生との折り合いが悪かったのも大きかったですしね」

 

 口ぶりからして、「本来の先生」とやらとはあまり仲が良くなかったのが窺える。

 おそらく、その人のことをあまり好きではないのだろう。

 

「といっても、私の同期の首席が優秀な人だったのも本当ですので、あの先生と仲が良くても私が首席で卒業することはできなかったかもしれませんが」

 

「それだけ優秀な人ばかりなんだね。首席で卒業する人たちって」

 

「……ええ。まあ、そうですね。はい」

 

 何故か、微妙にぼかしたような含みのある答え方をされる。

 もしかしたら、優秀ではない首席の卒業者に心当たりでもあったのだろうか。

 

「でも、貫先生も優秀な弁護士なんでしょ?」

 

 そんな彼女に、気を取り直すようにして訊ねたコナンの言葉に特に謙遜することもなく「ええ」と貫は頷く。

 

「ですが、世間一般の知名度はそこまで高くないですね。私は妃先生のように本審の方を基本的にやっているのでわかりやすい逆転無罪などはまずありえないですし」

 

 序審裁判はとりあえず有罪か無罪かを早い段階で決めてしまおうというルールだ。

 そのため、本審理の方では本当に被告人の犯行か否かは基本的に揉めることはない。

 

「なので私の仕事は基本的に、どれだけ罪を軽くできるかどうかになりますからね。過失致死罪か殺人罪か、被告人に殺意があったかどうかを議論するのが中心になりますね。それで罪の重さは大きく変わりますから。逆に序審の弁護士の仕事は本当にやったかどうかの有罪か無罪かを競うのが仕事ですので、弁護士も検事もやることは探偵に近いですかね」

 

「探偵……」

 

 そういえば、半庭弁護士の連れとしてあのニセモノ夫婦はあの別荘でのパーティに参加していたはずだ。

 半庭は妃英理本人と会っていることもあるようなので、まさか偽物だと見抜けなかったとは考えにくい。まあ、本物と出会っていても気づかなかった山村警部(前例)もいるわけだが。

 

「あの」

 

 だが、ここでもう一つ気になった事があったので聞いてみることにした。

 

「何ですか?」

 

「そういえば、オーキッドさんの事はどうなったの?」

 

 元はといえば、彼女の弁護のために貫は群馬にいたはずだ。

 殺人の疑いこそ晴れたものの、彼女は未だに警察に身柄を拘束されている立場だ。

 

 その質問に貫弁護士は「ああ」と返す。

 

「彼女に関しては、暫くは私の出番はなさそうでしたので一度、東京に帰ってくることにしました。まあ、何かあれば連絡が来ると思いますので」

 

「そっか。ところで、ドラコさんとも知り合いだったみたいだけど、どこで知り合ったの?」

 

 素っ気ない調子で返す貫に、次の質問をぶつける。

 彼は、日本に来て日が浅いようだし、弁護士の知り合いが既にいるということ自体が意外でもあった。

 そんな疑問からの質問だったが、それに対してもはぐらかすように返される。

 

「ええ。まあ、あの方とも過去に知り合う機会がありまして。色々と」

 

 どうやら、話す気はなさそうだ。

 まあ、奇行が目立つとはいえ彼女も弁護士。

 先程まで出身校のことなどを話してくれていたのは、あくまで自分の事だったからであり、他人の情報も絡む事に関しては流すわけにはいかないのかもしれない。

 

「じゃあ、最後に聞きたいんだけど」

 

「何でしょうか」

 

「半庭先生ってどんな人だったの?」

 

 現状では、彼に関してわかっている情報は少ない。

 弁護士であり、元恋人に殺された男。高山友美の担当弁護士でもあった人物。

 だが、彼個人の人物像に関してはほとんど分かっていないといってもいい。

 

「……」

 

 その質問に対して先程までとは違い、少し黙り込む。

 次の答えが出てくるまで、間があった。

 

「……そうですね。尊敬していましたし、良い人ではあったと思います。ですが、人を信じすぎる人でもありました。弁護士は人を信じるのが仕事――ともいいますが、半庭先生の場合はそれが悪い方に働く事も多かったと思いますね」

 

「それって――」

 

「おっと、サービスタイムは終了です。そろそろ私は次の仕事があるので」

 

 それでは、と貫は立ち去っていく。

 コナンはそれを追うことはなかった。

 

(やっぱり色々と繋がっているってことか。昨日の事件も、今日の事件も。もしかしたら、一昨日の事件も)

 

 この三日間で起きた事件の関連を改めて感じ取り、現状での情報を整理しながらコナンは足を進めるのだった。

 

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