名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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ちょっと説明不足に感じたので、これまでの話で出てきたオリジナル登場人物組の外見に関する描写を加筆しておきました。
それぞれ初登場時の話で追加してあります。


FILE.48 再びの現場

某月某日 午後2時47分 ニューハイドビル

 

 

 

「戻ってきたか」

 

 御剣は、自身の愛車を近くの駐車場に停めると、事件現場のビルへと再び戻っていく。

 

 事件現場にあったビルに再び戻ってきた御剣は、周囲の様子を確認する。

 忙しく動き回っている警察官の姿、鑑識と思しき者たちもいる。

 

「さて、もう一度現場に戻ってみるか」

 

 御剣は足を動かす。

 ビルの内部にも、制服姿の警察官がいる。

 

 ふと、ここで管理人室の前に来る。

 

(もう一度、彼女と話を聞いておきたいところだが……)

 

「ム?」

 

 どうやら、鍵はかかっていない。

 あっさりと扉は開いた。

 

 だが、中には誰もいない。

 どうやら、不在のようだった。

 

 管理人室の中には雑誌やらお菓子の袋やらが乱雑に散らばっている。

 その中心に机と椅子がありその上にノートパソコンがあり、少し離れた位置におかれたもう一つの机にテレビが置かれてある。どうやら、ここが彼女の生活の大半を過ごすスペースのようだった。

 その周囲にゴミらしいものはほぼないが、他の場所は何に使うのかわからないようなガラクタで埋め尽くされている。

 

 さきほど会った彼女の性格と生活をよく表しているようだった。

 

(全く。いい加減な……)

 

 引き返そうと思いながらも、つい部屋の中が気になってしまう。

 

 そこでふと、妙なものに目が行く。

 

「これは……」

 

 パソコンの置かれた机の上に置かれてあったもの。

 それは自分の執務室にもあるものと似ていたからだ。

 

 赤色のチェスの駒。それもナイトだ。

 チェスにおいて、将棋の桂馬に似たような不規則な動きをすることのできる、馬の頭に似た形をした駒。

 ついそれを拾い上げる。

 

(いや、違うか)

 

 御剣が執務室に置いてある特注のチェスと同じ赤色のナイトの駒だが、別物だ。しかし、妙なことに気づく。

 

(この駒、下がおかしい……)

 

 馬の頭に似た形をしているが、その下半分が欠けている。

 どこかにぶつけて壊れでもしたのだろうか。

 

(他に何か……)

 

 再び周囲を見渡す。

 

「ム。これは……」

 

 机の上にあった一枚の紙。

 

「不在票か」

 

 どうやら、棟居は代引きで何か頼んでいたようだった。確認すると、配達員がここに来た時刻は9時5分。

 

 さらに、もう一つ。有名な通販会社の包装紙がある。同じく代引きで注文したものらしく、こちらはちゃんと受け取ったようだ。そして、その中身と思しきDVDが机の上に置いてある。DVDのタイトルは『或真敷天斎VS黒羽盗一 二人の天才マジシャン 世紀の対決』とある。どうやら、かなり前に発売されたDVDを中古で買ったようだ。

 

「いや、これは……」

 

 領収書から商品を受け取った日付を見る。

 どうやら、今日のようだった。

 

「……なるほど」

 

 これを見て、この二つは証拠品として使えることを確信する。

 

「……全く、つい無断で私室を調べる(弁護士の)ような真似をしてしまったが、収穫はあった。この部屋での調査はこんなところか」

 

 その事をひとまず記憶にとどめ、管理人室を出た御剣は事件現場へと戻っていくことにする。

 

 相変わらずビルの内部には、制服姿の警察官がだらけだ。そして忙しげな様子で動いている鑑識の姿も見える。

 事件現場へと近づいていくと、こちらに気がついたらしい目暮が近づいてきた。

 

「おお、御剣検事。報告は受けておりますぞ」

 

 凶器の判明、偽毛利小五郎の確保の事などだろう。

 

「ええ。ですが、未だに犯人は不明です。さらなる捜査を進めるため、再び事件現場を調べさせていただきたいのですが」

 

「それは構いませんが……」

 

「ですが、その前にお訊ねしたいことがあります」

 

「何でしょうか、御剣検事」

 

 真剣な御剣の気配を察し、目暮も真面目な表情になる。

 

「ひょうたん湖にいた刑事たち。彼らの仕事について教えていただきたい」

 

「ム? それはですな……」

 

 言いよどむ。

 明らかに何かあることは明白だった。

 このビルに来ていた刑事たちとは、別の刑事たちの目的。

 それを訊ねてみることにしたのだ。

 

「偽毛利小五郎はひょうたん湖にいました。もしかしたら、あのひょうたん湖であった事と何か関係している可能性があるます。そのためにも、情報が必要なのです」

 

「しかし……」

 

「それに凶器の聖剣はひょうたん湖にありました。これも関係があるかもしれません」

 

「……ううム……」

 

 暫し悩んだ様子の目暮だが、やがて言った。

 

「わかりました。お話しましょう」

 

「お願いします」

 

「実は、あそこにいた捜査一課の刑事達は、とある連続殺人事件の犯人を追っていたのですよ」

 

「連続殺人事件?」

 

 糸鋸刑事からも少し聞いていたが、物騒な話だ。だがもう少し詳しい情報が欲しい。

 

「ええ。今、都内で起きている事件です。最初の事件発生は三ヶ月ほど前から。それから5件が起きています」

 

 その顔には苦渋の色が浮かんでいる。

 そのような凶悪な事件が起こしている事への、純粋な警察官としての犯人への怒りや、それが未だに解決できない事への苦悩などが混じっているのだろう。

 

「しかし、そのような事件は……」

 

「ええ。世間一般にはそれぞれが独立した事件だと思われておりますから」

 

 しかし、と目暮は続ける。

 

「世間一般には全て刺殺だと発表されていますが、実は特注で作られたと思われる特別な刃物が使われているのです」

 

「それが、全ての事件で使われていたと?」

 

「ええ」

 

 御剣の言葉に目暮は頷く。

 

「模倣犯が出る事を警戒して、一般には公開しておりません。にも関わらず、それと同じ種類のものが警視庁に送られてきたのですよ。ひょうたん湖で事件を起こすと犯行声明と一緒に」

 

「それでひょうたん湖に刑事が……」

 

 事情が分かり、御剣は頷く。

 

「ですが、今のところ事件などは起きていなかったようですが」

 

 まあ、ひょうたん湖では矢張への暴行事件などは起きていたようだが。

 

「ええ。ですが、送られてきた凶器の件がある限り連続殺人犯本人、あるいは協力者からのメッセージであることは間違いないはず。無視するわけにはいきませんからな」

 

「なるほど。ところで、一つよろしいでしょうか」

 

「何でしょうか?」

 

「肝心の特別な刃物とは、どういったものだったのでしょうか?」

 

「ああ、それはですな」

 

 目暮がそう言いかけた時だった。

 

「目暮警部! 報告よろしいでしょうかっ」

 

 そう遮るように声をあげたのは鑑識と思しき男だった。

 

「ム? 何かね」

 

 目暮の問いに鑑識が答える。

 

「はっ! 捜索していた刃物についてです」

 

 そういえば死後に刃物と思しきものによる傷跡が被害者にあったと、報告にあったはずだ。

 撲殺した凶器は聖剣だと決まったものの、こちらの所在はまだ不明のはずだった。

 

「実は、ガラスの割れた部屋がありまして……」

 

「ガラスの割れた部屋?」

 

「ええ。棟居さんの話によりますと、そこで数日前にこのビルで喧嘩騒ぎがあったらしく、ガラスが少し割れてしまっているそうでしてな」

 

「……それはなんというか、危険ですね」

 

 疑問に思った御剣に対して目暮が答えてくれる。

 いつまでも放置するのは危なそうだと考えるものの、あのいい加減そうな管理人のことだからと納得してしまう。

 

「それで、その部屋に問題の刃物があったのか?」

 

「はっ! 正確には、刃物の欠片と思しきものがガラス欠に混じって入っておりました!」

 

 鑑識が答え、指紋がつかないように袋に入れられたそれを見せてくれる。

 確かに刃物の一部と思しきものがそこにある。

 一見すると、ガラスの欠片と見分けがつかないが、よく見ると確かに欠けてバラバラになった刃物にも見える。

 

「それで、それが凶器の刃物だと?」

 

 木を隠すなら森の中というが、ガラスの破片ばかりの部屋に捨てるというのは盲点だったかもしれない。

 

「は!っ」 

 

 鑑識が続けて報告する。

 

「被害者の体内から、刃物の切っ先箇所と思しきものが見つかっております。これがおそらく、死後に傷をつけた刃物の一部かと」

 

「なるほど。それと照合すれば、凶器かどうかはすぐに分かるか。では、すぐにやってくれたまえ」

 

「承知しました!」

 

 そう答えると鑑識は去って行く。

 

「それで」

 

 そう言いかけた時、目暮のスマホが振動する。

 

「失礼」

 

 御剣に断ってから、目暮がそれに出る。

 

「ん。ああ、そうか。それで……」

 

 相手は誰だか分からないが、話し方からして立場が下の者――おそらくは部下だろうと思われた。

 やがて、通話を終えたようだ。

 

「御剣検事」

 

「何でしょうか」

 

「例の偽毛利君。高山友美を取り調べている部下からでした」

 

 彼はあの後、佐藤と矢張と一緒に警察署に連れていかれたはずだ。

 

「どうやら、高山はこのビルに来た事に関してなどは認めているそうです」

 

「殺人事件に関しては?」

 

「いえ」

 

 目暮が首を左右に振って重い息を吐く。

 

「それに関してははぐらかしてましてな。もしかしたら俺がやったかも――などとふざけた物言いをしているようですが、肝心の殺し方などは曖昧なまま何も言おうとはしません」

 

 まあ、彼にはアリバイがあるし殺人事件に関してはシロだ。かといって潔白だとは言えない状況でもあるのだが。

 

「毛利小五郎を名乗っていたことに関しては?」

 

「名探偵を名乗ってみたかったから、などとこれまたふざけた事を言っているらしくて。まあ、話になりませんな」

 

「数日前にあった団財副局長の別荘でのことに関しても、ですか?」

 

「ええ」

 

 案の定というべきか、取り調べは難航しているようだった。

 

「矢張を殴ったことに関しては?」

 

「ああ、それはあっさり認めたようです。ムカつくから殴ったとかで」

 

「そうですか」

 

 まあ、それはそれで納得できる答えではあるが。

 

(確かにあの男は意味もなく殴りたくなるという気持ちはわかる)

 

 しかし、それでも実際に殴ることと、頭の中で殴りたいと考えるだけなのとでは天地の違いがある。

 相手がいくら矢張といえども、人が人を殴ってしまえばそれは立派な犯罪なのだ。

 他になにか、もっと理由があったはず。そうでなければ矢張は毎日のように、ボコボコにされていることだろう。

 

 それに、考える事はまだある。

 だが一端は偽小五郎に関しては、ひょうたん湖公園で別れた高木刑事の情報待ちということにして、御剣は捜査を進めることにしたのだった。

 

 

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