名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.50 意外な繋がり

「それで、山村警部。それにドラコ探偵」

 

 改めて、二人から話を聞く事にした御剣は、闖入者の二人――山村とドラコに問いかける。

 

「わざわざ群馬から、事件の事を話すためにここに?」

 

 正直なところ、事件の資料なり何なりをデータとして送ってくれればすむ話だ。来てくれた相手に申し訳ないが、わざわざ直接出向いてくるまでもない事だろう。

 

「ふふん。それはですねえ、重要な証拠品を直接持ってくる必要があったからです!」

 

 そんな御剣に対して、山村は自慢げに一枚のサイン色紙を取り出す。

 

「これは、サイン色紙! あのニセモノがサインしたものです!」

 

 どうやら、毛利小五郎と妃英理のサインのようだった。

 

「これは、もしや毛利君達の?」

 

 目暮の言葉に山村が応じる。

 

「その毛利さんの、ニセモノが書いてくれちゃったものです!」

 

「それが、奴らが事件現場に残していったと」

 

 何ともふざけた話だが、どうも高山はあまり正体を隠す気がなかったようにも思える。

 もしかしたら、これも正体がバレてもいいと思って置いて言った可能性がある。

 

「ピーンと来てくれちゃったわけですよ、これが。これはあの毛利さんのニセモノを突き止める重要な手がかりになる、とね! お間抜けな刑事さんなら、それにも気づかずにウッカリ、ゴミ箱に捨てちゃうところでしょうね」

 

 よほどの間抜けでない限り、そんなことはないと思うが。

 そう考えるも突っ込むことなく、先を促すことにする。

 

「ということは、そのニセモノが書いたのですか?」

 

「ええ。目の前で書いてくちゃったみたいですよ。ニセモノの毛利さんが二人を代表する形で」

 

「という事は、ニセモノの妃弁護士に関しては?」

 

「二人の名前がありますけど、ニセ毛利さんの方が代表する形で書いてくれちゃったみたいですので、このサインから筆跡はわかりませんねえ」

 

 そう山村は答える。

 すると、筆跡鑑定をしても分かるのは偽毛利小五郎こと高山についてぐらいか。

 ニセ妃英理に関しての手がかりはなしか、と思ったところ。

 

「ふふん。証拠品がこれだけだと思ったら、大間違いですよ!」

 

 そういって、山村警部は毛髪らしきものが入っているチャック付きの小さな袋を取り出す。

 

「それは?」

 

「実はですねえ。パーティの参加者の一人に、有名人の髪やら爪やらといったものを保存するというかなーり悪趣味な方がいたんですよ」

 

 それは本当に悪趣味な。

 その参加者のことはともかく、何となく言いたいことは察した。

 

「つまり、その人がニセ妃弁護士のものを?」

 

「はい! こーっそりと、確保してたらしいです」

 

「……なるほど」

 

 それならば、被害者のものと照合すれば問題はない。

 

「いやあ、動かぬ証拠ってやつですよ」

 

「おう、ワイとあのオッサンがパーティの参加者を総当たりして、見つけてやったんやで。なんで、オンドレが自分の手柄みたいに言っとるねん」

 

 真横からドラコが凄んでみせる。

 だが、それを受けても飄々とした対応を山村は見せる。

 この刑事もある意味、大物かもしれない。

 

 それはともかく、偽妃弁護士の毛髪。確かに、これは大きな手がかりになるかもしれない。

 

「目暮警部。被害者のものと照合を。もし、これが同一のものだと判明すれば、被害者と群馬に現れた偽妃弁護士が同一人物ということの証明になります」

 

「わかりました。すぐにでも鑑識に」

 

 そういって、目暮が鑑識に知らせる。

 

「それと、毛利小五郎のサインの方も高山のものと筆跡鑑定を」

 

 ニセ小五郎の正体は、高山で間違いないだろう。

 しかし、念には念を入れる必要はある。せっかくの証拠品は使わせてもらう。

 

「さて、続けて――」

 

 そう口を開き欠けた時のことだった。

 

「ん。誰か来ているのか?」

 

 そう言いながら、こちらに近づいてくるのは探偵の大森だ。

 

「アレ? 誰ですかこの人」

 

「彼は探偵であり、被害者の事を知っている人物だ。そのため、話を聞いている」

 

 そう御剣は説明するが、大森はそんな二人のやりとりなど聞いておらず、怪訝そうに視線をドラコの方に向けている。

 

「何や?」

 

 一方のドラコはそんな視線を向けられる心当たりはないのか、苛立った様子で大森を睨む。

 それを気にせず、大森はドラコの方を見て、暫しの沈黙。その後にふと気づいたように、

 

「アンタ、ドラコ・アケチか?」

 

 そう問いかけた。

 

「……そやけど。ワイは探偵のドラコ・アケチや。アンタ、ワイと会った事があったか?」

 

「大森探偵。彼のことを知っているのか?」

 

「ん? いや、まあ。少し。事件関係者として少し話したことがあっただけだ。ドラコさん。アンタこそ俺のことを覚えていないのか?」

 

「そんな事言われても困るわ。一体、いつの事や」

 

「10年以上前の話だな」

 

 10年以上前ということは、大森が刑事だった時代ということか。

 何らかの事件関係者という事だろうか。

 

「なら覚え取らんやろ。それに、10年以上前いうたら、ワイは……」

 

 そこでドラコは口を噤む。

 

(……ム。どうしたのだろうか)

 

「それにしても、日本語覚えたのか? アンタ」

 

「そやで。何か文句でもあるんかい!」

 

「……いや、別に。ただまあ、その喋り方のせいで当時とはだいぶ印象が変わってみえるだけだ。ていうかアンタ、今は探偵してるのか?」

 

「何か文句でもあるんかい!」

 

 そう叫ぶドラコに対して、肩をすくめて見せる。

 

「そう怒鳴らんでくれよ。俺だって当時は刑事だったが、今は探偵だ。同業になったアンタをどうこう言う気はねえよ」

 

 そう言ってから、少しその眼光を鋭くする。

 

「だが、こうして言葉の壁がなくなって意思疎通が簡単になったことだ。一つ聞かせてくれねえか?」

 

「……何や?」

 

「CI-6号事件についてだ」

 

「!?」

 

 途端にドラコの顔色は変わる。

 

「……言うとくけど、それに関してワイが語れることはないで。今のワイはただの探偵のドラコ。それ以上でもそれ以下でもない。語る事はないで」

 

 先程まで怒鳴り散らしていたのと同一人物とは思えないほど、真面目な表情だ。

 

(CI-6号事件だと?)

 

 そして、そのやりとりに御剣も反応する。

 

(大森探偵の話からもしかしたらと思っていたが、この男もCI-6号事件の関係者なのか)

 

 ならば、それについても聞きたいが今は目の前の事件だ。

 

「とにかく、ワイはその件について話すことはないで」

 

「あ、待ってくださいよ!」

 

「そうだぜ。逃げないでくれよ、ドラコさんよ」

 

 エレベーターの方へと移動していくドラコを、山村と大森が追いかけていく。

 

「……目暮警部」

 

 そんな二人を横目に、目暮に目配せする。

 

「ええ。とりあえず、このビルの外には出ないように言っておきます」

 

「頼みます」

 

 そんなやりとりをしている中、ふと思い出したように目暮が言う。

 

「ああ、そういえば」

 

「何でしょうか」

 

「先程の話の続きなのですが」

 

「先程……?」

 

 そう言われて、彼とは中断してしまった話があった事を思い出した。

 

「ああ、ひょうたん湖にいた刑事達の件ですが」

 

「ええ。とある連続殺人犯と思しき相手がいて、特徴的な刃物を残しているという話を途中までしていたと思いますが」

 

「ええ」

 

 御剣は頷き、先を促す。

 

「その特徴的な証拠品――というのが、特注のナイフなのですよ」

 

「ええ。ナイフの方は、ごく普通のものなのですがね。ナイフを握る柄の箇所が特殊な形をしているものでしてな」

 

 一つ息をついてから、目暮は続ける。

 

「そのナイフの柄は、将棋の駒のような形をしているのですよ」

 

「将棋?」

 

「ええ。もちろん、本物の将棋の駒よりは大きめですが、それが柄の形になっているわけです。それで、最初の事件の時は歩。次が香車、桂馬と来て最近は銀将の駒の柄のナイフが来たわけなのですよ」

 

「なるほど」

 

 順当に行けば、次は金将か。あるいは、飛車や角という可能性もありえる。

 わざわざそんな凶器を使うのは何かしら、伝えたいメッセージでもあるのか。

 

「被害者はバラバラ、という話でしたね」

 

「ええ。調べてみましたが、見事にバラバラです。性別も年齢も、出身地も違います。共通点というならば、ここ一ヶ月にこの東京にいたという点ぐらいですな。調べたところ、過去に接点があったわけでもないようです」

 

 被害者に共通点はないというのに、凶器は一環して似たものを使う。

 無差別殺人か。あるいは、知らない接点があるのか。

 

「……とにかく。今回、警視庁宛に金将の駒の形をした柄のナイフと共に、メッセージが送られてきたわけですよ。この日のひょうたん湖で次の犯行がある、と」

 

「そうですか。確かに犯人、あるいは犯人の事を詳しく知っている者でなければ不可能な事ですね」

 

 既に四人もの人間を殺害している凶悪犯となれば、あのひょうたん湖にいた刑事達の数も頷ける。

 

「現状、ひょうたん湖で不審な人物などは?」

 

「今のところ、いないようです。白鳥君――あちらにいる刑事達の指揮を執っている刑事からも、つい先程報告がありました」

 

「……そうですか」

 

 まあ、矢張(不審者)ならいたわけだが、さすがに矢張といえども連続殺人犯などと一緒にするのは気の毒な話か。

 

「とにかく、何ごともないのであれば、それはそれで問題はないかと」

 

「そうですな。白鳥君には、引き続き警戒するように言っておきます。ですが、我々は」

 

「ええ、ここでの事件の捜査を続けることにしましょう」

 

 そう御剣は目暮に頷き返し、捜査を再開するのだった。

 

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