名探偵ミツルギ   作:高見一樹

6 / 48
FILE.6 捜査開始(後)

「それでは、荒井木警備員。改めて話を聞かせて欲しい」

 

「何だよ、さっき話したじゃねえか」

 

 休憩室を出た御剣と糸鋸はまずは、警備員・荒井木に話しかけた。

 壁にもたれ掛かり、不貞腐れるようにいう荒井木に御剣は返す。

 

「悪いが、そうはいかない。キミは第一発見者なのだ。何度も聞かせてもらう事になる。仮に犯人が見つかった場合、法廷でもだ」

 

 もちろん、その犯人が彼ではなかった場合に限る、が。

 さすがにそれは口に出さない。

 

「……けっ!」

 

 苛立ちも露わに、舌打ちをするも、

 

「わかったよ。聞きたい事があるなら、早くすませな」

 

 それでも応じる姿勢を見せた。

 その荒井木に対して御剣は言う。

 

「それでは、そうさせてもらう。最初から証言してくれ」

 

「最初ってどこからだよ」

 

「死体を見つけた時の事から、休憩室を出るまでの事だ」

 

「……わかったよ」

 

 少し間を置いてから、証言をはじめる。

 

 

~荒井木の証言 死体を見つけた時について~

 

「最初に死体を見つけたのは俺だよ」

 

「1時の挨拶前には、休憩室の方に来て起こしてほしいって話だったからな」

 

「最初、メグンダルさんは寝ていると思っていたんだ」

 

「だから、起こさないように運ぼうとしたんだが途中であのガキに言われて様子がおかしいって気づいたんだ」

 

「それでそこのソファで確かめたら、亡くなってる事がわかって。それに気づいた客たちも騒ぎ出すしよう。本当に大変だったぜ」

 

 

 荒井木の証言がここで終わる。

 

「……証言はここまでか」

 

「どうッスか? 何かおかしいところあったッスか」

 

「いや、それを詳しく聞いてみるとしよう。すまないが、最初からもう一度証言してくれ」

 

「わかったよ」

 

 荒井木もやれやれといった様子で、最初から証言をはじめる。

 

「最初に死体を発見したのは俺だよ」

 

待った!

 

 いったん、証言を止めて御剣は訊ねる。

 

「それが、三回目に入った時という事か」

 

「ああ」

 

「被害者の位置はどうだった?」

 

「位置?」

 

「一回目や二回目と比べて、どこか被害者の位置が変わっているという事などはなかったか?」

 

「覚えてねえよ。部屋の中は暗かったしな。けどよう、少なくともオレが三回目に入って運び出した時はベッドの上にいたぜ。だからこそ、寝ているのだと思ったんだからな」

 

「……そうか、わかった。続けてくれ」

 

 荒井木が証言に戻る。

 

「1時の挨拶前には、休憩室に来て起こしてほしいって話だったからな」

 

待った! それは、被害者の方から?」

 

「ああ、さっきも話さなかったか? 12時前に、一度会って話してるんだよ。休憩室の前で話もしてる」

 

「……少なくとも、その時は生きていたというわけか。ところで、一つ訊ねたいのだが」

 

「何だ?」

 

「平井さんと伊国さんが、その昼寝中に部屋の中に入っているわけだが、止めはしなかったのか?」

 

「あ? 何でだよ」

 

「メグンダルさんは、1時まで昼寝しているつもりだったのだろう?」

 

「ん、ああ。そういってたけど、こうも言ってたんだよ。もしかしたら人が来るかもしれないって、その時は通して構わないと」

 

「被害者は、来客があるかもしれないと考えていたわけか。 ……わかった、では続けてくれ」

 

 再び、証言に戻る。

 

「最初、メグンダルさんは寝ていると思っていたんだ」

 

待った! しかし、普通はわからないか? 寝ているか亡くなっているかなど」

 

「さっきも言ったけどよお。部屋は暗かったし、元々、人と会ったら昼寝するって言っていたからな。わからねえよ」

 

「御剣検事、確かに、休憩室は小さな小窓があるだけの部屋ッス。光もほとんど入らないし無理はないッスよ」

 

 横から糸鋸が補足してくる。

 

(……ふむ)

 

 気づかなかったというのも、おかしくはないか。

 この辺りは問題なし、と。

 

「だから、起こさないように運ぼうとしたんだが途中であのガキに言われて様子がおかしいって気づいたんだ」

 

待った!

 

 再び証言に待ったをかける。

 

「あのガキ――というのはコナン少年の事として。様子がおかしいというのはどうしてそう思ったのだ? 何かきっかけでもあったのか」

 

「あのガキに言われて改めて考えてみると何か妙にぐったりしてるし、イビキだって聞こえてこねえし、何かこわくなってよ」

 

「それで、そこのソファに寝かせて息があるかどうかを確かめたと」

 

「ああ」

 

 荒井木が頷いてから、証言に戻る。

 

「そしたら脈はねえし、よく見たら頭から血も出てるし。客たちも気づいて騒ぎ出すしよ、驚いたし慌てたぜ」

 

「それで、確かめた、と。そこですでに亡くなっている事に気づいたのか?」

 

「そうだ。慌てたぜ。まったく、びびったぜ」

 

「頭から血が出ていたのも最初は気づかなかったと?」

 

「そりゃそうだろ。でなけりゃ、寝てるなんて呑気な事は思わねえよ。血だって、言われるまで気づかなかったしよ」

 

「ふむ、分かった。続けてくれ」

 

「ああ」

 

 証言に戻る。

 

「それでそこのソファで確かめたら、亡くなってる事がわかって。それに気づいた客たちも騒ぎ出すしよう。本当に大変だったぜ」

 

待った! 先ほども聞いたが、やはり寝ていると考えていたと?」

 

「ああん? だから、そうだと言ってんだろ!」

 

 荒井木はそう怒鳴りつけてから、

 

「けどよぉ、考えてみたらあの置時計の事もあったしな」

 

「ム? 何だ、その置時計の事とは」

 

 初めて出てくる言葉に、御剣は聞きとがめる。

 

「ん? ああ、言ってなかったか? メグンダルさんは、アラーム替わりに置時計を枕元に置いて設定しておいたんだよ。時間を知らせてくれるヤツだったからな。目覚まし時計の変わりになるだろうって。それを使ってみるとも言っていたのに、寝たままだったってのもおかしな話だと思ってな」

 

「置時計……?」

 

 そこに引っかかるものを御剣は覚える。

 

「すまない。その置時計に関して、証言を追加してもらっても良いだろうか」

 

「……別にいいけどよ」

 

 荒井木が証言に戻った。

 

「アラーム変わりにしていた置時計の件もあるし、考えてみれば寝ているってのは疑うべきだったかもな」

 

 

 追加された証言を含めて、証言はここまで。

 

「御剣検事、どうするッスか」

 

(気になるところというと、やはりあそこだな)

 

「ここで突きつけてみるとしよう」

 

「お、いよいよアレッスね。楽しみッス」

 

「別に楽しむものではないのだが――まあ、いいか」

 

 新しく出てきた証言で、一つ気になる箇所がある。

 そこを突き付けてみることにする。

 す、と法廷のごとく盛大に、

 

 

異議あり!

 

 

 荒井木の証言に異議をつきつける。

 

「一ついいだろうか」

 

「何だよ」

 

「置時計、といっていたがもしかしてこれの事だろうか?」

 

「え?」

 

 先ほど撮影された現場写真の一つをつきつける。

 被害者の枕元に置かれていた、凶器と思われた少女の形をした置物をつきつける。

 

「ああ、それだよ」

 

「これは置物に見えるが。なぜ、これが置時計になるのだ」

 

「ん? ああ、そうか」

 

 ムジュンを指摘してみたつもりだが、荒井木の方は別に動揺した様子はなかった。

 

「それ、置時計なんだよ。クビをひねると、時刻を知らせる仕組みになってんだ。時間を設定すれば、目覚まし時計としても使える」

 

「何?」

 

 御剣はそれを聞き、置物――否、置時計を確かめる。

 

「なぜキミがそんな事を知っている?」

 

「ああ、俺も同じものを持っているからな」

 

 そういって、懐から置物を取り出した。

 先ほどの身体検査でも出てきたものだ。

 

 それをいじくると、

 

『今ハ、午後、三時、十、五分、ダトわとそんハ思ウ』

 

 そんな声が出てきた。

 

「あのー、御剣検事。自分は何かコレにすごい見覚えがあるんスけど」

 

 それを見た糸鋸が小声で囁く。

 

「……いや待て、私も思い出した」

 

 確かこれは、色々な意味で御剣にとって思い出深いある事件で出てきた物によく似ている。

 

「その、何だ。この置時計は一体誰が?」

 

「ん? ああ、俺の昔いた警備会社の知り合いに手先の器用なヤツがいたからな。そいつに頼んで三種類ほど作ってもらったんだ」

 

「……」

 

「あの、御剣検事?」

 

 何となく心当たりがある。

 とてつもなく嫌な予感がする。

 

 だがまあ、製作者に関しては今は良い。

 大事なのは、これが置物に見える置時計だという事。

 そして、

 

「三種類といったな。そのうちの二つが現場になった休憩室にあったものか?」

 

「ああ」

 

「では聞くがなぜ一つだけ、キミが持っているままだったのだ?」

 

「ああ、本当はまとめて3つとも渡す予定だったんだけどな。3つ目の完成が遅れていたんで、今日持ってきて直接渡すつもりだったんだよ。ついさっきまで忘れちまっていたけど」

 

「……む、うム」

 

 とりあえずは頷きながらも、彼の言葉のウラを取る必要がある。

 

「イトノコギリ刑事、平井氏を」

 

「はっ」

 

 糸鋸が駆けて行き、少し離れた位置で刑事と話していた平井泰六を連れてきた。

 

「はい、彼の言葉は正しいです。はい」

 

 置物の事を尋ねるとあっさりと答えた。

 

「私が、頼みました。せっかくなので何か洒落たものを送ろうとは考えていたのですが、はい」

 

「それでこの置時計を?」

 

「どうせなら、ただの置物よりも何か洒落た機能でもあった方がいいかと思いまして。せっかくのあのシャーロック・ホームズ展だというので」

 

「申し訳ない。平井氏。せっかくのあのシャーロック・ホームズ展だというのに、というのはどういう意味だろうか」

 

 少女と思しきデザインのこの置時計は、シャーロック・ホームズ展という場に似つかわしいとは思えない。

 

「はい、それは考えるワトソン像です、はい」

 

「考えるワトソン像……?」

 

 思いもよらぬ言葉がでてきて、御剣も少し驚く。

 確かに、先ほどの置時計は「ワトソン」という言葉を発してはいたが。

 

「はい、実を申しますと、ワトソンの元ネタになったとされる人物の候補が三種類おりまして。一般的なイメージの近いイギリス人男性、幼い少女、それに日本人男性の三種類でして、はい。その辺りの事も今日、予定していた講演で使われる予定でした、はい」

 

「では荒井木警備員の持っているものと休憩室にあった二つがそれだと?」

 

「はい、うち二つはすでにメグンダル氏が受け取っておりましたから英国人風の男性像が1号、少女のものが2号となっております、はい」

 

「そんで俺が持っているのが3号だ。ちょっと完成が遅れちまったらしいがな」

 

 荒井木が傍らで補足してくる。

 

「御剣検事!」

 

 そんな中、警察官がひとり駆け寄ってくる。

 

「どうしたのだ?」

 

 先ほど少女の置時計とと和装男性男性の置時計。

 彼らの話によれば、考えるワトソン像1号、2号にあたるものを調べるように頼んだ警察官だ。

 

「さきほどの置物の鑑定結果が出ました」

 

 一応、関係者である平井と荒井木に聞こえないよう小声になる。

 

「少女の方の置物から、血液の痕跡がありました」

 

「……そうか」

 

 予測はしていただけに、御剣の驚きは少ない。

 

「指紋は?」

 

「完全に拭き取られてしまっていたようで、ありません」

 

「そうか……」

 

 一つ頷いたあと、御剣は訊ねる。

 

「それでは、もう片方の置物からは?」

 

「いえ、そちらには血の痕はありませんでした」

 

「わかった」

 

 その報告を聞き、再び御剣は頷いた。

 

(断定はできないが、おそらく凶器とみて間違いないな)

 

 置物――否、置時計が凶器。

 さらに正確にいうならば、考えるワトソン像2号こそが凶器で間違いないだろう。

 さらなる捜査を改めて進めていくことにした。

 

 




今回はフル待った形式ですが、変にくどくなりそうなら今後は別の形式にしてみようか色々と試して決めたいと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。