名探偵ミツルギ   作:高見一樹

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FILE.8 捜査続行(後)

 監視カメラの映像の確認を、コナンは高木の元で行っていた。

 

「えっと、それじゃあ早送りで再生するね」

 

 まずは、被害者のオサツー・メグンダルが入っていくのがわかる。

 これが、11時少し過ぎ。

 すぐに荒井木が入っていくのがわかる。

 だが、1分かそこらで出てきた。

 

 続いて、11時31分。

 ここで平井が入る。退室が、11時40分。

 その5分後に荒井木が入るが、これまた先ほどと同じようにすぐに出てきた。

 

 11時59分に伊国が入る。

 退室は、12時12分。

 そして宣言通り、12時30分に荒井木が再び入っている。

 今度は被害者のメグンダルを担ぎ上げて出てくる。

 

 それぞれの証言に嘘はなく、これで大体、あの3人の証言が裏付けられた事になる。

 

「こんなところでいいかな」

 

「うん、ありがとう!」

 

 礼を言うと、二人はそろってホームズ展の会場まで戻ってきていた。

 

 最重要容疑者とされていた3人を除いては、ある程度の行動の自由は認められていたためか、離れたところで好きにしている。

 中には、こんな状況でもありながら展示品の前ではしゃいでいる強者すらいた。

 

「ねえ、捜査はまだかかりそうなの?」

 

「ん? いやまあ、僕たちとしてもできるだけ早く終わらせたいんだけどね」

 

 どうなるかは捜査の進捗状況次第、となる。

 

「まあ、これ以上時間がかかるようなら、犯人が捕まったとしても裁判は明後日かな」

 

「基本的には、犯人の人が捕まったら次の日には裁判だけど手続きが間に合いそうになければ明後日になるからね」

 

「さすがコナン君、詳しいね」

 

 えへへー、と子供らしく笑みを浮かべるコナンに慣れた様子で高木も苦笑してみせる。

 

「でも昔はもっと時間をかけて裁判してたんだよね?」

 

「そうだよ。序審制度が日本でも導入されたのは、数年前だからコナン君が産まれる前くらいは何年もかけて裁判をやってたんだよ」

 

 これまで、工藤新一としてあるいは江戸川コナンによって犯人として告発し逮捕されてきた犯罪者たちは、基本的に既に序審裁判によって有罪判決を受けている。

 ただしこれは、あくまで犯行の有無のみの話であり、どのような背景があって犯行に及んだのか等の、量刑などに関する裁判はそのあとに行われるものとなっている。

 仮に死刑判決を受けたとしても、その執行までには数年の時を要する事もある。

 

「まあ、そんな風にとにかく事件も多い世の中だし、工藤君みたいな高校生探偵の活躍が増えてきてるのはありがたいよ。特に検事局も今、色々とごたついているみたいだしね」

 

「検事局が?」

 

「ん? ああ、なんでも検事局では」

 

 そこまで高木が話しかけていた時、

 

「あのぉ、ちょっといいですかぁ?」

 

 それを中断するように話しかけてきたのは事件関係者の一人の伊国めぐるだ。

 

「あ、伊国さん。何かありましたか?」

 

 高木の問いに、伊国はのんびりとした表情ながらも不満の色を混ぜる。

 

「あのぉ、これはいつまで続くんですかぁ? いつまで拘束されてなきゃいけないんですかぁ?」

 

「もうしばらくお待ちください。捜査が一通り終わるまで」

 

「そうは言われてもぉ、私だって暇じゃないんですよぉ」

 

 何とか宥めようとするが、納得した様子はなく不満そうに言いながら伊国は高木に詰め寄る。

 

「でもぉ、もう夜の7時近いみたいですよぉ、さすがにそろそろ限界なんですけどぉ」

 

「え? いやいくら何でも、そんなはずは」

 

 さすがに、そんな時間のはずがない。

 そう思ったらしく、高木は手元の腕時計で確認する。

 

「ほら、やっぱりまだ午後4時ですよ」

 

「でも、あそこの時計だとそうなってますけどぉ」

 

 伊国が示したのは、このイベントホールでも目立つ檀上だ。

 そこの上にある巨大な電子時計には『18:54:16』と表示されている。

 

「あ、本当ですね」

 

「でもあれ、止まってるみたいだよ?」

 

 コナンの指摘通り、秒の単位を示している『16』の箇所は先ほどからまったく変化がない。

 

「あれぇ、本当ですねぇ」

 

 自分も勘違いをしていた事を伊国も認めたようだ。

 

「でもぉ、どうしてあんな止まった時計を放置してるんですかねぇ」

 

「ねえ、お姉さん。お姉さんもホームズが好きなの?」

 

 コナンの言葉に、伊国も頷く。

 

「はいぃ、ですのでぇ、こんなイベントを開いてもらって本当に嬉しかったんですよぉ、だからこそ、こんな事になっちゃてぇ、悲しいですぅ。はあ、結局まともに話せませんでしたしぃ、でもぉ、今思うと何かお土産でも持って行った方が良かったなって思うわけですよぉ」

 

「お土産?」

 

「はぁい、手ぶらじゃ失礼だったかなって。外国の方ですし、和菓子とかお饅頭でも持って行けば良かったですかねぇ」

 

「でも、ここトノサマンジュウでいっぱいだよ。被害者の人ももらってたんじゃないの?」

 

 周囲に視線を動かしてみると、トノサマンジュウの箱が乱雑に置かれているのが見える。

 

「そうですねぇ、やっぱり持っていかなくて正解だったかもしれませんねぇ」

 

「そうだね!」

 

 伊国の発言に頷き返したコナンは、高木に続けて訊ねる。

 

「とにかく、もう少しお待ちください」

 

「でもぉ、私だけじゃなくて、他の皆さんも限界みたいですよぉ」

 

 伊国の言葉が示すように、他の客たちも刑事たちに詰め寄っているのがわかる。

 

「おいおい、まだかよ!」

 

「いい加減、俺達を帰せよな!」

 

「そうよ、あたしたちは関係ないじゃない!」

 

 そんな不満の声が聞こえてきている。

 

「まいったなあ、まだしばらくはかかりそうなのに……」

 

 高木がそんな風にぼやく。

 

「うん。そうだね。けど」

 

 そうコナンが言いかけた時、

 

「あれ? 御剣検事だ。どうしたんだろう」

 

 高木が御剣が目暮へと近づいていっているのに気づき、怪訝そうな声を出した。

 

 

 

 

 

 少し時間を遡る。

 事件現場となった休憩室に再び戻って来た御剣と糸鋸は、机の上にあったヤイバ―コラボのトノサマンジュウを確認してみる。

 凶器となった二つのワトソン像の二つも、いったんこの場所に戻されている。

 

「うーん、やっぱり何も入ってないッスねえ」

 

 手のつけてないマンジュウがあるが、これまたただのマンジュウだ。

 

「おそらくだが、犯人は『取引』の対象をトノサマンジュウの中から奪おうとしていた。だが、トノサマンジュウの箱が開封された状態のままでは、不審に思われると思い、客をもてなすためにマンジュウを出したと思わせたかったのだろう」

 

「じゃあ、これは犯人がやったって事ッスか?」

 

「そうだ。おそらく、な」

 

「じゃあ、その取引とやらのものは、すでに犯人が持ち去っちゃったんスかねえ」

 

「その可能性もある、が。例のボーイの証言がある。『やはりまぎらわしいか、もっと他にいい場所がないものか』とな」

 

 取引相手には内密で、隠し場所を変えた可能性もある。

 そうと知らずに殺してしまい、肝心のものを奪えずに終わってしまったという可能性もありえるのだ。

 

「けど、隠せるような場所ってどこッスかね?」

 

「当然ながら、メグンダル氏が持ち込んだもの、という事になるな」

 

 そう言って、視線を凶器ではないほうのワトソン像――考えるワトソン像の1号へと御剣は視線をずらす。

 

「ところで刑事。コイツの事を覚えているな?」

 

「え? ああ、勿論ッス!」

 

 考えるワトソン像の1号を糸鋸につきつけながら、御剣は訊ねる。

 

「では、これが例の事件の時に中の機械がくり抜かれていた事も覚えているな」

 

「覚えてるッス! あの弁護士の巧みな話術に自分がウッカリはまって、その事を録音してあった携帯電話を返してしまったせいで発覚したヤツッスね。そのせいで、御剣検事が白目を剥いてクチビルを震わせていた事を今でも覚えているッス!」

 

「余計な事は思い出さなくていい! とにかくだ。これは、一見何かが隠してあるようにはみえない。どうだろう? 良い『隠し場所』になると思わないか?」

 

「あ! じゃあ、この中に……」

 

「そうだ。調べてみてくれたまえ」

 

「わかったッス!」

 

 そういって、糸鋸は考えるワトソン像1号を再び調べ始める。

 

「えっと、確かに機械がくり抜かれて中身は空っぽに見えるッスが……ってああ! 何か入ってるッス!」

 

「見せたまえ」

 

 中から出てきたものを、御剣も確認する。

 

「これはどうやら、USBメモリのようだな」

 

「それが、取引のものって事ッスか……?」

 

「おそらくはそうだろう」

 

 だが、問題はこの中身だ。

 何とか確認しておきたいところだが。

 

「イトノコギリ刑事、いったん出るぞ」

 

「わかったッス!」

 

 外に出たとたん、会場内にどこか剣呑な空気が漂っているのがわかる。

 

「ん? 何スか?」

 

「おいキミ、これは一体なんの騒ぎだ?」

 

 近くにいた警察官に、御剣は訊ねる。

 

「はっ、実は来場客がいいかげん帰らせろと騒いでおりまして……」

 

「そうか……」

 

 確かに進展らしい進展がないまま、すでに数時間が経過している。犯人を除けば巻き込まれた客にとっては迷惑以外の何ものでもないだろう。

 

「ちょうど良い。関係者一同に改めて話を聞く必要がある」

 

「おっ、わかったッスか犯人。さすが御剣検事ッス!」

 

「まだ決まったわけではないが……。少なくとも、あの人はいくつか嘘をついている。そこを追及させてもらうとしよう」

 

 そう言うと、御剣は人の集まった方へと歩いて行った。

 

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