おめでとうございます!
話の方は追求パートに入ります。
相手は、色々と露骨に怪しかったあの人です。
「けっこうな騒ぎになっているな」
御剣が再び、休憩室の外に出てみると目暮ら警察の者たちに詰め寄るようにホームズ展の客がいる。
「ああ、検事さんか。アンタも何とかしてくれよ」
御剣と糸鋸を出迎えたどこかうんざりとした様子の荒井木を遮るように、客たちが騒ぎ出す。
「ちょっと、いったいいつになったら帰れるの!」
「そろそろ家に帰りたいんだけどっ」
「別にいいだろ! 俺達は関係ないんだからっ」
どうやら、長らく拘束状態にあった客たちが限界に達したらしく、暴発寸前の状態にまでなっているようだった。
「落ち着いてください、皆さん。まだ捜査は終わっていません」
「そんなの、そっちの都合だろうがよっ」
「そうだそうだ!」
「その通りよっ」
窘めるように言う目暮に対し、ホームズ展の客たちが反論する。
「目暮警部」
そんな目暮に御剣は話しかけた。
(いくらか、足りないパーツはある。だが、少なくともあの人物は嘘をついている。とりあえずそれを追求させてもらう)
「申し訳ないが、関係者一同を集めてはくれないだろうか。一通り、捜査して分かったことがある。それで、捜査を進展させてみせましょう」
「そうですか……」
「アナタ達も、もう少しだけ時間をいただきたい。決して、長くは待たせない故」
丁重ではあるが、拒絶は許さないといった様子で客たちに告げる。
ホームズ展の客たちも、それを見て不満の声も少し小さくなっていく。
ひとまずは引き下がってくれたようだった。
そんな中、関係者一同が集められた。
容疑者候補の三人に加え、少し離れた位置にたコナンと高木もよってくる。
「御剣検事、これで関係者は集まりましたが」
関係者一同が集っている中、目暮が御剣に訊ねた。
「ええ、私の意見を受け入れていただき感謝します。目暮警部」
御剣は額に指をあて、その指をかざして見せる。
「先ほども言ったように、一通りの捜査は終了しました。その上で、改めて話を聞いてみたいと思いまして」
「あ、もしかして推理ショーってやつですか!」
「推理ショー? 何だかかっこいい呼び方ッス!」
どこか興奮したように言う高木に、糸鋸が同意する。
「まあ、とにかく。まずは話を聞かせて欲しい方がいます――伊国さん、もう一度、話をお願いしたい」
「はぁい、私ですかぁ?」
周囲から注目を集めた伊国が、やれやれとばかりに出てくる。
「大体、何を証言しろっていうんですかぁ?」
「被害者との関係についてだ。よろしくお願いする」
「はぁい、まぁ、いいですけど」
そう言ってから、伊国の証言がはじまる。
~証言その1 被害者との関係について~
「被害者との関係と言われましてもぉ」
「特に関係はぁ、ありません」
「ただ、ホームズ展の主催者の方と小耳にはさんだので」
「一言、挨拶をしておこうと思っただけですぅ」
「被害者の方とはぁ、これまで出会った事もない人でしたぁ」
「異議あり!」
今度は、いきなり異議をつきつける。
「なんですかぁ、そんなに勢いよく指をつきつけてぇ」
「残念だが、そうはいかない」
御剣は指をチッチッと動かし、宣言するように言う。
「被害者とは縁もゆかりもない人間だった――悪いが、それは通らないのだよ」
「あのぉ、どういう事ですかぁ?」
「身体検査の時、アナタが持っていたパスポートを覚えているだろうか」
「それがどうしましたかぁ」
「ずいぶんと、頻繁に旅行に出かけているようだな」
「それが何かぁ?」
「被害者も同様だったようだ。それはそれで多忙な御仁のようでな」
「はいぃ?」
それでも、表情を変える事なく、すっとぼける伊国に御剣は突きつけるようにして言う。
「被害者は二週間前までは西鳳民国にいたようだ。そのさらに前はアメリカ。これに何か覚えがないだろうか、伊国さん」
「……」
その言葉で気づいたのかぴくり、と瞳のあたりが動く。
だが、言葉を発する様子はない。
「あなたのパスポートの記録を見る限り、被害者とは同じ時期に同じ国にいたようだな」
「……っ!」
改めて指摘され、一瞬顔が引きつる。
しかし、それでもすぐに立ち直ったようであり、
「それが何かぁ? 別にぃたまたま行き先がかぶるぐらい、よくありますよ」
「さすがに、ここまで被る事はないと思うが」
「あくまで偶然ですよぉ、グーゼン」
開き直ったような言葉だ。
「そのような偶然があるとでも?」
「そのような偶然があったんだと思いますよぉ」
どれだけ、一致していようがただの偶然でしかない。
そう言い張ろうとする伊国に、
「ねえねえ、お姉さん」
幼い少年の声がかかる。
「こ、コナン君……?」
勝手に話しかけにいった事に困惑する高木をよそに、コナンは重ねて伊国に訊ねる。
「さっき会った時、お姉さん言ってたよね?」
「はぁい、何をですかぁ?」
「被害者の人が外国の人だから、和菓子の方とかお饅頭みたいなのがいいお土産になりそうだと思ったって」
「はぁい、言いましたぁ」
「被害者の人のこと、あんまり知らなかったんだよね? よく外国の人だってわかったね」
「あ、それはぁ……」
そこで失言に気づいたのか、伊国の顔が曇る。
「……なるほど」
言わんとする事を察し、御剣が続ける。
「伊国さん、妙な事になるな。アナタの話によるとアナタは被害者の方の事はまるで知らず、この会場で責任者だという情報だけを聞いて会っていた事になる」
「……」
「ああ!? だったら、被害者のメグンダルさんが外国の人だって知らないはずだから」
「さっきの証言、やっぱりおかしいッス!」
納得した様子の高木と糸鋸をよそに、追撃するように目暮が訊ねる。
「どういう事だね、伊国さん」
「……」
黙り込んだ伊国に追撃するように御剣が続ける。
「説明を願う」
「……ちっ」
一瞬、目を見開き、舌打ちする伊国。
だが、すぐに平静さを取り戻し、
「……ふぅ、まったく。困っちゃいましたねえ」
「じゃあ認めるッスか!」
「ええ、認めますぅ」
そういってから、再び先ほどまでと同様のほんわかした笑みを浮かべてみせる。
「私ぃ、嘘をついてましたぁ」
でもぉ、と間延びした言葉で続ける。
「別にそれだけですよぉ」
「それだけ、と言いますと?」
困惑した様子の高木に対して伊国が答える。
「えっとぉ、ここから先は『証言』したいんですけど、いいですかぁ」
「ムロン、構わない」
「はぁい」
再び伊国の証言が始まった。
~証言その2 メグンダルと会った時のこと~
「あのぉ、別にメグンダルさんとの関係に関しては隠していたわけじゃあないんですぅ」
「ただぁ、話したら疑われるかもしれないと思いましてぇ」
「彼とは元々の知人で何度か旅先であったりしてますぅ」
「でも、ホントに何もなくてぇ」
「そのメグンダルさんが、この会場にいるって聞いたから会う事にしたんです」
「出会って、世間話をしただけですぐに出ていきましたぁ」
「証言はこれまで、か」
最後まで終わり、御剣がつぶやく。
「あのぉ、もういいですかぁ?」
「申し訳ないが、尋問に付き合っていただこう」
「……わかりましたぁ」
先ほど以上に、不満の色が浮かんだ瞳を見せつつも、それを了承した。
「あのぉ、別にメグンダルさんとの関係に関しては隠していたわけじゃあないんですぅ」
「待った! それはなぜだ?」
「はぁい、そうなりますねぇ。あ、それには一応理由があるんですよ」
伊国が証言に戻る。
「ただぁ、話したら疑われるかもしれないと思いましてぇ」
「待った! 正直に話さなければ、余計に疑われるとは思わなかったのか?」
「思いませんでしたぁ」
「……」
「……」
「そこで終わりッスか!? それ以上何かないんスかっ」
傍らの糸鋸が叫ぶが、ほんわかと受け流される。
「でもぉ、悪かったとは思ってるんですよ」
伊国が証言を続ける。
「彼とは元々の知人で何度か旅先であったりしてますぅ」
「待った! 具体的にはどのような? 連絡先を交換しあうぐらいの仲なのだろうか」
「……」
ここで伊国は黙り込む。
どこまで認めてしまえばいいのか。
おそらく、それを考えている。
「そこのキミ、一つ、頼んでもいいだろうか」
「は、はい!? 僕ですか?」
御剣は高木に話しかけ、続ける。
「被害者のメグンダルさんの遺留品に、スマートフォンがあったはずだ。そこを調べていただきたい。彼女の番号が登録されているか、なおかつ連絡を取り合った通話履歴があるか。それを調べればすぐに」
「……わかりましたぁ、認めますよぅ」
御剣の言葉を遮るように、伊国が言う。
「確かに、何度か連絡はとってますぅ。今日も朝の9時過ぎに一度かけています。でも、やましいことじゃあ、ないんですよぉ」
「では、それを証言に加えてくれ」
「はぁい」
伊国が証言に戻る。
「被害者のメグンダルさんとは、何度か電話したりしてましたぁ。でも、別にやましい事を話していたわけじゃぁ、ないんですよぉ」
「異議あり!」
そこで異議を唱えた。
「残念ながら、それは通らない」
「な、何ですかぁ」
「ここに、このホテルのボーイの証言書がある」
色々と物騒な事を口走っていたボーイの証言書を、伊国につきつけつつ、言う。
「その時間、メグンダルさんは電話相手とこんな会話をしていたらしい。『取引はちゃんと予定通りに行う。いつも通りにトノサマンジュウの箱に入れてある、と』な」
「……ぐっ」
伊国が言葉に詰まる。
「つまり、だ。キミと被害者は決して、単なる旅行仲間の仲良しこよしの関係ではない! 何やら怪しげで後ろめたくい『取引』とやらをする、極めてイカガワしい関係だったのだっ」
びしりと証言書と共に伊国に御剣は突きつけ、言い放った。
「……何を言っているんですかぁ?」
だが伊国は御剣の指摘を受け、なおもほんのりとした表情を取り戻して返す。
「何度言われてもわたしぃ、ただのシャーロキアンです。このシャーロック・ホームズ展の客なんですぅ」
「しかしですな、伊国さん。御剣検事の指摘通り、確かにあなたは嘘をついておられたようだが」
「くどいですぅ、わたしはぁ、ただのぉ、シャーロキアンでぇ」
そう言いかけた言葉を遮られる。
「あれれ~? でもおかしくない?」
「はいぃ?」
再びコナンに話しかけられ、伊国は不審そうに見やる。
「でもお姉さんって、別にシャーロキアンじゃないよね?」
「何を言っているんですかぁ、私はシャーロキアンで……」
「じゃあ、何で時計に関して何も反応しなかったの?」
「はぁ、時計ぃ?」
「ああ、イベントホールの正面にあったやつかい?」
高木の言葉にうなずいたあと、
「うん。18時54分16秒で止まっているやつ」
「……それが何かぁ?」
「なるほど。そういう事か」
御剣はその事を理解し、頷く。
「え、え? どういう事ッスか」
「平井さん、一つお訊ねしたい」
「はい。何でしょうか?」
平井に話しかけ、訊ねる。
「察するに、あの時計はあえてあの時間で止めているのではないでしょうか?」
「はい、そうです、はい」
「はあぁ? 何でそんなことぉ」
表情を歪める伊国に対し、御剣は言葉を続ける。
「その発言が出てくる時点で、あなたがシャーロキアンだというのは真っ赤な嘘だと分かる」
「は、はああぁぁ? 何言っているんだかわかりませんがぁ」
「1854年1月6日。これが何の日か知っているかね?」
「は、はいぃ?」
察することはできずとも、何となく嫌な予感はしたらしく伊国の首筋に冷や汗が流れる。
「知らないのであれば、覚えておくといい。シャーロック・ホームズの生誕の年とされる。まあ、これに関しても諸説はあるが最も有力な説である事に間違いはない。シャーロキアンであるにも関わらず、この事も知らないなど、明らかに不自然極まりないのだ!」
「……ぐぐっ!!?」
御剣の指摘に、伊国が表情を歪めてみせる。
「っていう事は伊国さんはぽっとでのにわかって事ッスか?」
「少なくとも、ただの無関係のシャーロック・ホームズ展の客という可能性はないといっていいだろう」
「……」
「何なら、この場にはシャーロキアンの方々が多くいる。あくまでキミがすっとぼけるというのであれば、ホームズテストでもしてもらっても構わないが」
これまでの指摘を受け、さすがにこのまま主張を通すのは難しいと考えたのか。
それとも、反論の内容を考えたのか。
伊国の唇が動かなくなる。
「話を戻してもいいだろうか」
反応がないが、御剣は続ける事にする。
「やはりキミは、メグンダル氏と何らかの取引をしようとしていた。それもトノサマンジュウの箱に入れてだ」
そういって、会場内を見渡す。
会場内には確かにトノサマンジュウの箱がちらほらと、置かれているのが見える。
「だが、今朝になって予想外の出来事があった」
「あ、平井さんがみんなにトノサマンジュウを配ってた事ッスね」
「そうだ」
御剣が頷く。
「そうか、この会場内にも大量のトノサマンジュウがあったら、紛らわしいですからね」
高木の言葉に同意するように御剣が続ける。
「その通り。そこで、トノサマンジュウの箱でありながらも、見分けがつくものの中に入れる事にしたのだろう」
「仮面ヤイバ―とコラボしたヤツッスか」
「そうだ。ヤイバ―コラボのトノサマンジュウの箱は、通常のものと違って見分けがつきやすい。だからこそ、それを選んだのだろう」
「……」
伊国の表情が歪められる。
だが、口をはさむ事はない。
そのまま御剣は続ける。
「だがこの取引、何らかのトラブルがあったのか。あるいは、最初からメグンダルさんの用意したものを奪い取る前提だったのだろう。それでメグンダルさんは殺害された」
現場での偽装されたトノサマンジュウの箱からしても明らかだ。
「……あのぅ」
ここで、暫く沈黙を貫いていた伊国が口を開く。
「ちょっとぉ、いいですかぁ? 何だかさっきから好き勝手言ってくれちゃっていますけどぉ」
唇を吊り上げ、不適な笑みを浮かべてみせる。
「あのぉ、私は身体検査だってされてるんですよぉ。その『取引』とやらをする気ならぁ、引き換えのものを持って行ったはずですよねぇ。私が何かおかしな物を持っていたっていうんですかぁ」
「御剣検事、こうなったらもう一回、身体検査してもらうッスよ。そうすれば何か見つかるかもしれないッス!」
伊国の反論の言葉に、糸鋸がそう言うが御剣は黙って首を左右に振る。
「残念だが何が取引対象だったのかわからない以上、探すのが難しいな。金銭などならともかく、口頭で伝える情報などならばどうにもならない。あるいは、最初からメグンダルさんの要求した物を持っていく気がなく、殺す前提だったとするならば猶更だ」
「そッスか……」
糸鋸も残念そうにつぶやく。
「だが、キミは残念ながらウソをついていた。メグンダル氏とは知り合いだった。さらには、シャーロキアンというのも嘘だった。それは認めるのだな」
「はいぃ、どうもすみませえん」
本当に反省しているのかわからない顔のまま、伊国は謝罪する。
「では、その点を踏まえた上で改めて証言をしてもらう」
「御剣検事、どういう事ッスか?」
「残念だが、被害者のメグンダル氏に関しては情報が足りない。彼のしようとしていた『取引』に関してもわからないことが多い。動機方面から攻めるのは得策ではないだろうな」
小声で聞いてくる糸鋸に御剣はそう返した後、
「キミとメグンダル氏は知り合いだった。その事を踏まえた上で、改めてメグンダル氏と会っていた時の事を聞きたい」
「伊国さん。もう一度話をお願いします」
「……はいぃ、わかりましたぁ」
目暮に促され、伊国がうめき声混じりに頷く。
~嘘をついていた理由について~
「あのぉ、嘘をついていてどうもすみませぇん」
「実はぁ、私はぁ、ホームズに関してぽっとでのにわかだったんですよぉ」
「そして、メグンダルさんとも以前からの友人だったんですぅ」
「そのメグンダルさんが支援していると聞いてきてみたんですぅ」
「でも寝てたので、結局何もせずに帰りましたぁ」
証言はここまで。
「伊国さん。さきほどとは、随分と内容が変わっているようですが」
目暮の咎めるような言葉にも、伊国は気にしている様子はない。
「はぁい、どうもすみませぇん」
「……目暮警部。申し訳ないが、この先の尋問はまた私に任せていただけないだろうか」
「まあ、それは構いませんが」
「感謝します」
そう言って、御剣は伊国に向き直る。
「それではまた、お願いしよう」
「はぁい」
再び伊国と対峙し、証言が最初からはじまる。
「そして、メグンダルさんとも以前からの友人だったんですぅ」
そこの証言のところで待ったをかける。
「待った! それはどういった経緯の関係なのだろうか」
「もう、検事さん。それはプライベートな事なのでぇ」
「……話す気はないと」
「はぁい、この事件とは無関係ですぅ」
飄々とした表情のまま伊国は返す。
そんな伊国に御剣は鋭い視線で言い返した。
「では、なぜ黙っていたのだ」
「そりゃぁ、言ったら疑われると思ったからですよぉ」
「黙っていた事によって、余計に疑われているわけだが」
「そうですねぇ」
受け流すようにして、返す。
(被害者と知り合いだったことは認める。だが、どういった知り合いだったかを話す気はなし。そう来られると少しきついか)
ここを攻めるのは難しそうだと判断し、先を促す。
「でも寝てたので、結局何もせずに帰りましたぁ」
「待った!」
この証言のところで再び待ったをかける。
「つまり、あなたは現場のものには何も触っていないと」
「はぁい。あ、室内の明かりをつけるためにそのスイッチには触りましたけどぉ、室内のものには触っていませんよぉ」
「……なるほど。では、明かりをつけたという事は室内の様子も見たという事だな」
「はぁい、そうなりますねぇ」
「では、聞きたいのだが。室内の様子はどうだった? 被害者の近くに何か、凶器らしきものはあったのだろうか」
「えっとぉ、メグンダルさんの枕元に置時計が置いてありましたね。あ、ほらワトソンの置時計ですよぉ」
「……なるほど。その発言に間違いないだろうか」
「はぁい」
伊国が頷く。
だが、その伊国に向け、
「異議あり!」
御剣は異議をつきつける。
「伊国さん、残念だがあなたはまたウソをついたようだな」
「なんのことですかぁ」
「もう一度確認しておく。あなたによれば、現場には入ったものの何にも触らずすぐに出た、間違いはないだろうか」
「はぁい、言いましたぁ」
「現場には、確かにこのようなものがあった」
そういって、現場写真の一つ。
凶器と思われる考えるワトソン像2号をつきつけてみせる。
「やっぱり、ちゃんとあったじゃないですかぁ。何か問題があるんですかぁ」
「大ありなのだ。これは、一目見ただけでは、置時計などとは普通気がつかない」
「……っ!」
伊国の眉がぴくりと動く。
失言だったと気づいたのだろう。そんな彼女に、御剣はさらに追求する。
「今の発言の問題はそこだけではない。キミは今、ワトソン、と口にしたな。だが、これをみて、『ワトソン像』などとは普通、思わない」
「……っ!」
つきつけられた写真の少女の置時計をみて、伊国の身体が硬直する。
「我々もさきほど、平井さんから説明を受けるまで、ワトソンの置時計などとは知らなかった」
「え、えっとぉ」
さらに畳みかけるように続ける。
「念のために言っておく。キミはさきほど、ホームズについてにわかだと認めたばかりだ。ワトソンの元となった人物に関しての説なども知っていたとも思えない。にも拘わらず、何故、一般的な『ワトソン』のイメージからかけ離れているこの少女の像を『ワトソン』などと思ったのか、納得する説明をお願いしたい!」
「!!」
伊国があからさまに動揺してみせる。
暫しの沈黙の後、伊国は再び口を開いた。
「あぁ、しゃべったんですぅ。もうひとつ置時計があったじゃないですかぁ」
「しゃべった?」
「はいぃ。もう片方の置時計が急に時間をしゃべり始めたんですぅ。その事が印象に残ってしまいましてぇ」
「それは、こちらの置時計の事かな?」
御剣はそう言って、現場にあったもう片方のワトソン像の写真を見せる。
洋装のふくよかな男性であり、確かに一般的なワトソンに近いイメージの置時計だ。
「こちらの洋装の男性像の声を聴いて、そう思ったと」
「はぁい、そうですぅ」
「確かに、こちらならどうみても『ワトソン』って感じの像ですけど」
頷きかける高木に対し、御剣は首を左右に振ってみせる。
「残念だが、その言い分も通らない」
「何でですかぁ?」
「こちらの考えるワトソン像1号の方は、中身の機械が抜かれているのだよ。だから、どうやってもこちらの1号の声を聞いたはずがない。キミが聞いたとしたら、2号の方の世間一般の『ワトソン』のイメージから大きく乖離する少女像の方でしかない」
「……っ!」
御剣の指摘に、ピクリと伊国の眉が動く。
「にも拘わらず、なぜあなたは少女の像の方をワトソンだと思ったのか! 納得のいく説明をお願いしたい!」
御剣が追求するように指を突きつける。
「……」
伊国はそれを受け、黙り込む。
「ど、どうなのかね」
「認めるッスか! 御剣検事の言う事を」
目暮と糸鋸の追求にもさらに無言のままだ。
「……」
さらに沈黙が続き、誰かがしびれを切らすその前に――、
「
ようやく、伊国が再び口を開いた。
「あのぉ、さっきからうるさいんですよぉ、foolでidiotでstupidな愚者があぁぁっっ!!」
「い、伊国さん?」
困惑する高木に、伊国が目を吊り上げ、怒鳴りつける。
「だからぁ、うるさいっていってるでしょう、このfoolでidiotでstupidな愚者で愚かな愚物あぁぁ!!」
「あの、それって全部意味が同」
「Objection!! そんな事はどうでもいいんですぅぅぅ!!」
ホームズのコスプレ用につけていた鹿撃ち帽を床に叩きつけ、挑発するように睨みつける。
「あのぉ、私があの置物を置時計だと知っていた? ワトソンを模していたものだと知っていたぁ、そんな事、どうだっていいんですよおおぉぉ!!」
「い、いやどうでもよくはないだろう」
「そうッスよ!」
苛立ったように先ほど床に叩きつけた鹿撃ち帽を乱雑に踏みつつ、ギロリと目暮と糸鋸を睨みつける。
「Objection!! ぐだぐだあぁぁ、うるさいんですよぉ、黙ってくれません、ちゃんと反論するのでえぇ」
いったん吐き出すように言葉を出し尽くしたあと、ぜえぜえと息を荒くし、伊国は落ち着かせるように、髪の毛をかきあげたる。
「……わかった。では、改めてお願いしよう」
「はいいいいぃぃぃ! まあ、大人しく聞いていてくださいよおおぉぉぉ、foolでidiotでstupidで愚かな検事さんに刑事さああぁぁんっっ!!」
凄まじい形相で口元を吊り上げ、改めて伊国の証言がはじまろうとしていた。