親友が英雄の転生者だった件について   作:電脳図書館

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第八十話になります!鑑定ニキの根幹の設定を漸く開示できるぜ。まぁこの事情を身内以外の黒札とかが知るのは最低でも半終末に入った後になるのですが。


全にして一、一にして全

彼が外界を認識したのは前世で彼を生んですぐ亡くなった母親の腹の中だった。もっとも腹の外という外界ではない。

 

ある世界では彼は女性だった。別の世界ではアメリカ人だった。蟲だった、鳥だった。魚だった。犬だった。猫だった。花だった。木だった。茸だった。細菌だった。

 

住んでいた場所は日本だった。アメリカだった。大地だった。空だった。海だった。地球とは別の星または世界だった。

 

善だった。悪だった。

 

当時まだ赤子未満だった彼は自分自身しか知らず、また興味を持てなかったからそれ以外を視ることは無かったが、彼はその時すでに"全にして一、一にして全"の領域を垣間視ていた。かの門を越えた訳でも無く、その門の向こう側を視るだけだったとはいえ、門を越えられるほどの強靭な精神性の持ち主で無ければ耐えらず、常人なら自我の崩壊が起こっていただろう。しかし赤子未満に理性や知性などそもそも存在せず、崩壊すべき自我も無かった。

 

自我や理性、知性とは精神性を下敷きにし、生きて行く中で積み上げている知識や経験によって培われるものだからだ。

 

だが、それを門を越える程の強靭な精神性を持ち合わせていないことも意味している。その為本来なら彼は数多ある並行世界の自分達に意識を取り込まれていただろう。彼という意識は散逸するが、消えるわけではなく並行世界の彼らの中に偏在する存在になっていただろう・・・彼が一般的な人間の精神性を持っていたらの話ではあるが。

 

精神性とは主に個人や集団がもつ心のあり方、価値観、理念、美意識といった物質的・肉体的側面ではなく内面的・超越的な側面を指すものだ。一見自我や理性、知性と同様に赤子未満には持ちえないものに思えるだろう。しかしそれは違う。勿論それらと同様に精神性も生きて行く内に高められ、変わっていくものではある。だが最初から0ということにはならない。

 

精神性或いは精神は自我や理性、知性の下敷き、器である。器のない状態で何かを入れてもそれが積み上がることはない。逆説的に積み上げられる以上精神性という器は生来から持ちえるものと言える。

 

その生来の精神性は生まれる種族で、変わっていき更に個々でも差異がある。その為ときに同じ種族の中でも異端と呼べる精神性を持つ者が生まれる。彼もその一人だった。

 

彼の精神性の特徴を挙げるなら"あらゆるものを隔てられる"ことだろう。基本的に人間とは他者と同じということに安心を覚える種族だ。違いが大きいと不安を覚え、時には排斥される。

 

しかし彼は現在に至るまで、あらゆるものが違って視えていた。例え種族、性別、経歴、外見などがどれだけ似通っていたとしても彼はそれらを明確に判別し、隔て、区別することが出来た。

 

例えそれが数多ある並行世界の自分自身だとしても彼には明確に違う存在として区切ることが出来たことで、彼は個人としての意識を確立することが出来たのだ・・・もっともそんな意識に知性はあっても理性などはないのでこれまた通常の人間とは異なる意識を確立させたことになる。分かりやすく言えば、某TRPGのキャラクターシートにあるSAN値の項目が無い状態でその世界に生まれ落ちたようなものだ。

 

また排斥、差別などをしないのもそもそも同じ存在などこの世に一つ足りとて存在しないと思っているからだ。同じ存在などいないのにそれらをやった所で意味などない。

 

故にメシア教であれ、彼は差別せず手を取れる。なぜなら例え同じ種族である人間だとしても元々個々人で全くの別種に彼には視えているからだ。黒札や名家の者達が狂信者と一般信徒を見分けるのが砂漠の中から一粒の砂金を探すことと同義だと思って居ても彼にとっては、材質も大きさも色も何もかもが違うものの中から一般信徒と定義できる一定の基準を満たしたものを拾い上げるだけで済む。

 

勿論、それをするにはその一定の基準を満たしているかを測れなければならない。しかし、彼にはその異常な精神性だけではなく"全にして一、一にして全"の領域を垣間"視る"ことの出来る視界、視座があった。彼の眼が特別な訳では無い、彼の"視界"という概念に宿りしもの。その為彼が転生したあともその力は失われていない。

 

前世の父親が特定の条件以外でその視界を封じるように説く前の幼少期に置いて彼は全知になることが出来た。しかし、彼を自らの意志で幾つかを意図的に視界から外した。そのうちの一つが神などの悪魔と総括されるものや霊的現象だ。それらを視界に収めたままでは碌なことにならないと視えていたからだ。その視界には物事の本質が移る、いやそれしか直接的には視れない。

 

人間などの生物を見た場合その対象の魂しか視界を封じる前の彼には視えなかった。もっともその魂を視ることで相手の外見情報や、過去をデータ閲覧の様に見ることが出来たので周囲には唯一人(父親)を除き不審に思われることはなかった。

 

意図的に視界から外すのは彼は全知になれても全能ではない故の自衛措置だ。彼が視界からはずということはそれらの縁を断つことと同義。故に意図的に視界から外したものは前世、今世問わず彼の人生に一切関わることは無い。彼は身を護る為、生きる為にあえて全知にはならず、そして父親の忠告や周囲の人間と関り続けたことであくまで一人の人間として生きる道を選んだのだ。

 

「もっとも私の反願望機の力で霊能に関わる視界、即ち縁は復活させ覚醒させたがな。無理矢理復活させたせいで元の視界の一部が霊視と結びついて【霊眼】というスキルも発現したのは予想外だったが」

彼こと実槻の精神世界にある異形の城の玉座に座る少女が、外の様子を見ながら呟く。

 

「もしも実槻があの場面で縁を閉じたままなら異界に飲まれることも無かっただろう。例え世界が終末になってもそれらとは一切縁がないまままた長生きして人生を終えただろう・・・ある意味私が実槻を死に近寄らせたようなものだな」

彼があの最初の異界でガキを視たとき、怪物に驚いたのではなく"メガテンのガキ"に驚いていたのもこの世に人外がいることなどとっくの昔に知っていたからだ。

 

「とはいえそれらの視界を封じていたのが、何故か解かれていた以上何かあったとは思われているだろうがな・・・そろそろ出て来るといい影よ。ここからが見所であろう?」

あ、もう出た方がいいのかい?まぁ確かに久々に封を解くみたいだしね。主への奉仕はあとでいいや!どうせ生中継はされてることだしね!

 

「相も変わらず忠誠心は皆無だなお前は」

「はは、あの主人の世話をするくらいなら彼の人生を観賞する方がよっぽど楽しいからね!」

玉座の影が一瞬異形に姿を変えると玉座から離れ、長身の女性が姿を現す。こいつがこうして姿を見せるのは12年前にこの世界で初めてあの視界を解放し、その繋がりから実槻の前世からこの精神世界に奴が入り込んで来た以来になるか。

 

「やれやれ、戦わずして完敗した相手にそう言えるとは、やはりあの悪魔共の原典なだけはある。というか以前とは姿が違ってないか?」

「ひどいなぁ。あんな外宇宙の要素を持っているだけのこの世界の情報体程度と僕達を一緒くたにしないでくれるかい?姿を変えたのはこの世界で同じ名を名乗ってる情報体との区別の為だよ。まぁもっぱら使ってるのは別の名の方みたいだけどさ。それに僕はこの身体を借りたこことはまた別の世界の情報体である彼女とは違って敗北も笑顔で受け入れるタイプだからね・・・そう考えるとまだこの世界の彼女の方が僕には近いかもね」

「情報体と見下しているのに姿を借りるのはいいのか」

「いや、別にこの身体のデザイン自体は嫌ってないしね僕。それに勝手に名を借りられたんだから姿を借りる程度ならいいだろう?どの道僕達は完敗した実槻がいる世界じゃほとんど力を使えないしね。というかここにいるのも本体ってよりもその影に過ぎないから」

「一度完敗しているが故にか「そうそう、ほぼ実槻の人生を観賞することしか出来ないよ。主も彼の人生を見ているときは安らかになるしね、あの楽団も休憩出来るってもんだ。交代でだけど」・・・こんな奴に前世で生まれる前から見染められるとは私でも同情してしまうぞ」

「いいじゃないか。僕が眠りまくっている主が使って無かった視界を彼の視界という概念に宿らせたから君にもチャンスが生まれたんだから。盲目なんて呼ばれてるけどただ知性を奪われただけだから入って来る膨大な情報を処理できても意味が分からないだけで眼自体は健在だからね」

ケラケラと影は私の前で主人を笑う。しかしそれは実槻に向ける心からの笑顔ではなく嘲笑混じりのものだ。

 

「まぁ当初の目論見とは別方向にカッとんだけどね彼!いやー君がいた世界みたく僕達が彼の前世の世界に渡る起点か、行きすぎて世界が滅亡するかなぁとか思って僕の暇つぶし兼主の気まぐれでやってみたらそんなものより面白い結果になるんだからやっぱり人間ってのは面白いよね!」

狂った邪神・・・いやこいつの場合はこの世界のそれとは違い、原典であるそう人類が当て嵌めた高位存在だったな。いずれにしろ面倒な存在に生まれる前から目を付けられるとは。実槻の精神性の異端さも初めは気づかなかったようだし、影の主人の転生体という訳でもなく、本当に人間の中から偶然選ばれただけなのだから同情するわ。心からね。

 

「それは結構なことだが、観賞だけではなく実槻を出迎える準備もして置くといい。今回は自分の内であるこの世界も視られるはずだ」

「わざわざ自分の内面なんて視る機会はないけど、色々動いたからね君は。彼も自分の中に何かいるのは薄々察しているだろうし・・・おや、いよいよ始まるみたいだね!」

「さぁ、地獄の宰相に見せてやるといい。お前本来の姿を、お前の前世の父親をして()の視座と呼んだその力を!」

私と影は外を見つめる。丁度実槻はルキフグスの【ビックバン】を完璧に斬り払っていた。




読了ありがとうございます!色々設定を明かして珍しく筆が乗りました。今回出て来た影はこの世界にも悪魔としているあの神話の邪神達、正確には多数のアニメや漫画で出て来る彼らそのものの原典としての高位存在の一体の影ですね。fgoに置けるあの神話の扱いに近いですね。あ、因みにこの作品の三人称視点は全部その影が主人に向けた実況だったりします。まぁそれを理解する知性は取り上げられている主人ですので、役割兼趣味としてやってるっていうだけですが。え、ガイア連合のあれこれ見られていいのか?本編にある通り彼らは前世の鑑定ニキに完敗しているので、彼がいる世界には干渉がほぼ出来なくなってる為大丈夫なのです。
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