オーシャン・プレデター   作:大麒麟

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第七話 海上の雷鳴

 7発目を撃ったあたりから、疲労によりエイドは攻撃を中断した。剣の刃には、今だに小さな電光がバチバチと鳴っている

これだけの攻撃を受ければ、いかに怪人でも無事ではないと思い、雷撃で発生した煙を立ち上らせている怪人を凝視する。だが・・・・・・

 

「馬鹿な!?」

 

 あれだけの雷撃を受けたにも関わらず、怪人は無傷で立っていた。その身体に火傷などは一切なく、弱っているようにも見えない。

 

(こいつ不死身か!?)

 

 実はこの怪人の肉体は、落雷の直撃を受けても何ともない程の、強力な耐電性を持っている。もちろんそんなこと、エイド達が知るよしもないが。

 

 怪人の仮面から光線が放たれる。エイドは即座に結界魔法を纏わせた剣を、照射された部位にかざし防御する。

 光弾はそこに命中した。だが短時間で創った結界では、完全な防御はできなかった。剣はへし折れ、エイドは後方に吹き飛ぶ。

 

「うわぁあああああああっ!」

 

 火球を放っていた乗員が、がむしゃらになって怪人に突っ込んだ。怪人は乗員の魔法剣を、かぎ爪で軽々と払いのけ、乗員の首を切断する。

 怪人はエイドの方に再び顔を向け、赤い照射を放った。

 もうこれまでかとエイドが覚悟したとき、大地が揺れた。

 

(何だ!?)

 

 どこからか大きな光が見え、凄まじい轟音と共に島全体が揺れ、ある方角から凄まじい突風が吹いてきた。

 

(まさか軍船が!)

 

 エイドが予想した通り、ルイが自爆させたあの軍船の爆発である。

 怪人は地響きに足を取られたものの、すぐ姿勢を整える。そして照射のためにエイドに向けていた顔を、爆発点の方に向ける。

 怪人は船の爆弾の事を知らないため、事態の把握をするのに、エイドよりも多少時間がかかった。

 

 エイドは素早く起き上がり、腰に差していた予備武器の短剣を引き抜いた。怪人がそれに気づいて向き直ったとき、エイドは眼前にまで接近していた。

 エイドは短剣に全力の魔力を込め、猪のように勢いよく突進する。電灯のように強い光りを放つ刀身が、怪人の腹の肉と一体化した。

 

 ザグッ!

 

 エイドは自分の手から、固い肉を突き刺す感触が伝わってくることに気づくと、怪人の右足を蹴り、その反動で怪人から転がりながら距離を取る。

 

「グォオオオオッ!」

 

 怪人は腹を押さえて苦しみ悶えている。手で押さえられた腹からは、蛍光色のように緑色に光る血液が流れ落ちる。

 エイドは側にいた殺された乗員から剣を取り、再び怪人に突撃する。怪人はかぎ爪で応戦しようとするが、先手を取ったのはエイドだった。

 

 白く光る魔法剣が、怪人の右肩の銃を襲う。刃は銃身の根本に命中した。

 ガキン!と鋭い金属音が聞こえた。固さのため、スッパリとは斬れなかったものの、根本は完全に破壊された。すると充填したエネルギーが暴発したのか、怪人の頭の直ぐ側で爆発した。

 

 ボン!

 

 弾けるような爆音が走り、この衝撃に怪人は大いに怯む。

 

 エイドは昏倒する怪人の身体を、何度も斬りつけた。網目状の服は破られて、両生類のような滑らかな皮を、下の肉ごと深く切り裂く。緑色の血が空中に舞う。

 太刀筋は全て、怪人の鎧を着けていない露出部分をうまく狙っており、エイドの熟練した剣の腕が伺える。

 怪人だけでなく、エイドの全身も返り血を浴びて、緑色の光沢が身体中にこびりついていった。

 

「はぁあああああああっ!」

 

 怪人が足に地面を付けて倒れ込むと、エイドは剣に全力の魔力を込めた。剣身に限界以上の魔力が充填され、これまでにない輝きを放つ。

 

 ザシュッ!

 

 輝く太刀筋が怪人の首を通り抜けた。エイドの必殺の剣技を受けた怪人の首は、見事に両断され、頭部が右横に飛んでいく。

 

 首を飛ばした直後に、魔力消費が元で、エイドは全身の力が抜け落ちる。ボールのように地面をバウンドして転がっていく怪人の生首を、エイドは虚ろな目で見送った。

 

(やったのか? これで?)

 

 エイドは息を荒げながら、腰から崩れ落ちて短い草が生い茂る地面に座り込んだ。生き残った一人の乗員がエイドと視線を合わせ、無言で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「おお! お前ら生きてたか!」

 

 二人はそのまま丘の上に座り込んで動かなかった。20分程して、その場にルイがやってきた。

 

「ルイ様、ご無事でしたか」

「おうよ。海にいる方は始末したぜ。そっちも何とかやったみたいだな」

 

 首を飛ばされた怪人の亡骸を見て、ルイはエイド達に感嘆した。

 

「ですが結局何人も犠牲にしてしまいました。結局生き残ったのは我々だけです」

「どうしようもない。四人だけでも生き残れたんだ。全滅よりマシ」

 

(四人?)

 

 ルイの言葉にエイドが疑問を浮かべる。現在生き残っているのは、ルイと自分と一人の部下の三人だけである。意味がよく判らなかったが、とりあえず頷いておいた。

 

「そういえばルイ様。あの地面に刺さっている妙な物は一体?」

 

 エイドはあの注射器のような物体を指す。ルイは一言「知らん」と返した。

 

「俺もさっき見たが、あれも初めて見た。一日で初見の物が次々と出てきて、なんだか嫌になってくるよ。本当この退屈な海に何あったんだか。そんでもって、あれの空っぽの中身には何が入っていたんだか・・・・」

「あの怪人が持ち去ったのでしょうか?」

「もしくはあの怪人そのものが入っていたりしてな。まあいいや。件の怪人の面を拝ませてもらおうか。俺が倒した奴は、骨も残さず灰になっちまったからな」

 

 ルイは丘に転がっている怪人の頭に、ゆっくりと歩み寄る。右手で頭の首元を押さえ、仮面を剥ぎ取ろうと、顔の脇に左手をかけた。

 だがある理由で、怪人の顔を見る暇は無くなってしまった。

 仮面に手をかけた直後、二人の背後からギュン!と聞き慣れた珍妙な銃声が耳に届いた。

 

((何ぃ!?))

 

 振り返れば、生き残っていたエイドの最後の部下が、胸に焼け焦げた大きな穴を開けて倒れ込んでいた所だった。

 振り返って一秒も経たずして、ルイの胸に見慣れた赤い照射が当てられる。

 

(ちぃ!)

 

 ルイは軽やかに横にバク転して、発射された光弾を避ける。光弾は丘のすぐ近くの林から放たれていた。

 

「エイド! 逃げるぞ!」

 

 二人は全速力で丘を駆け下りる。背後から光弾が次々と放たれ、一瞬前まで二人がいた位置に着弾し、地面を爆発させる。

 二人は林の中に駆け込んだ。そして海に向かって真っ直ぐ走る。

 

「一体どこへいくんですか!?」

「海だ! 海に逃げる! お前一人なら、俺が乗せてやれる。ただし逃げるためじゃない。あの最後の一匹を確実に仕留めるためだ!」

「仕留めるとはどうやって!?」

「いいから俺についてこい!」

 

 二人は砂浜に到着した。さっきは連発していた光弾は、今は襲ってこない。

だがルイは、怪人が猿のように木を伝って、自分たちを追っているのを気配で気づいていた。

 

 ルイは海に足を入れると同時に、前屈みになって両手を海につかさせる。

 すると静かに波を打っていただけの海水が、急に不自然な動きをし始めた。大量の海水がルイの中心に集まり、一気に後方に弾け飛ぶ。

 

「うわっ!」

 

 エイドは、すぐ横を飛んだ水の塊に驚いて腰を抜かし掛ける。

 海水は津波のように地表を走り、背後の林に直撃した。何本かの細い樹木が水圧で曲がり、辺り一帯に水しぶきがなって木々を濡らす。

 

 ドサリ!と何かが地面に落ちる音が聞こえた。それはついさっきまで木の幹に掴みかかっていた怪人だった。水の勢いで木から滑り落ちて転落する。

 透明だった身体は、水を浴びると同時にバチバチと電光と火花を鳴らして、その姿を現していく。水中戦の時から大体見当はついていたが、どうやらあの透明化能力は水で無効化されてしまうらしい。

 

「何してる! 速く乗れ!」

 

 ルイは水を飛ばすと同時に、ウミガメ型に姿を変えていた。

 エイドは怪人の姿をはっきりと確認せずに、急いでルイのいる海に向けて走った。そしてルイの背中の甲羅に腹ばいになって乗り込む。

 

 ルイが砲弾のように海の上を飛んだ。身体の半分を海面から出して、高速艇のようにものすごい速さで海上を走る。その背中をエイドは吹き飛ばされまいと、必死になって甲羅にしがみつく。

 二人はぐんぐんと島から放れていく。怪人もそれを追って海に飛び込んだようだ。人一人分の体重を背負ったルイは、いつもより幾分か遅いが、ウミガメ型の水中速度は充分怪人との距離を引き離していく。

 

「まさかもう一匹いたとはな。俺としたことが迂闊だった」

 

 ルイが悔しみの声を上げる。人型だったなら、チッと舌打ちをしていただろう。生憎ウミガメの口は、そんな器用なことができる構造にはなっていない。

 

「奴の気配に気づかなかったのですか?」

「気づいてたよ。あの時あの場には、俺以外の人間大の気配が三つあった。怪人の死体が転がっていたから、もう一人の林の中にいた奴は、隠れていたお前の部下だと思ってた。なんて間抜けな話だ」

 

 人を乗せたウミガメ型の精霊はどんどん前を進む。彼らが向かっている先は、エイド達がこの海に来る理由になった存在。近くの浅瀬に座礁中の無人の海賊船だった。

 

 

 

 

 二人は人がいない海賊船に上がり込む。

 その船は所々傷がついているが、エイドが乗船していた物と同等以上の頑丈で重装備なものだった。だがその前に、船の上から見えた者にエイドは険しい顔をさせられた。

 

「こいつは!?」

 

 その船には確かに人間は一人もいなかった。だが人間以外の者ならばいた。甲板の上に、巨大な鷲がいたのだ。

 大きさは背丈だけでも5メートルを超える。目は炎のように赤く、羽は雷のように青白い。巨大鷲は船の上を寝床にしてくるまっていたが、ルイ達の接近に気づくと、その巨体を起こして顔を向ける。

 船を巣にする巨大鳥の姿は、遠くからでもその姿が見え、近づく者を圧倒させる。

 

 警戒するエイドとは違い、ルイは平然としてその巨大鳥に近づく。

 

「これは、海賊が率いていたというサンダーバードでは?」

 

 サンダーバードとは雷の精霊の一種である。鯨を餌にすることもある強大な怪鳥で、人間の住む土地にも、時々姿を見せるため、精霊の中では知名度はそれなりに高い。

 

「安心しろ、害はない。海賊に従ってたのは、誓約の呪いに捕まって無理矢理働かされてたんだ。前にこの船に来たときに、オリに閉じ込められたのを開放してやったのさ。もちろん呪いも解いてやった」

 

 言葉をある程度理解できるのか、サンダーバードはルイの言葉に同調するように、クェエエエッ!と一声をした。

 

「それともう一羽先客がいたな。まああいつは紹介の必要はないか」

 

 実は巨大鳥はもう一羽いた。サンダーバードのすぐ側に、それとはずっと小さめの、それでも普通の鳥とは比べものにならないくらい巨大な、一羽のカルガモだった。

 

「お前・・・・・・ここにいたのか」

 

 エイドは呆れ声を上げる。エイド達と同行し、途中で脱走したあの巨大カルガモは、悪びれもせずにクェ!と人懐こしく鳴いた。

 

「もうすぐ来るぞ」

 

 見ると向こうの海から、この船に近づいて来る者が、船の上からでも視認できた。

 サメがヒレを海面に出して泳ぐように、何者かの一部(恐らく怪人の頭部)が海面に出して、水しぶきを上げながら、こちらに高速で接近している。

 

「よし、鳥! あれを撃て!」

 

 怪人と思われる接近物を指さして、サンダーバードに攻撃を促す。サンダーバードはそれに応じたのか、翼を広げて高らかに鳴いた。

 


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