先生は光の戦士 作:暗黒騎士はいいぞおじさん
キヴォトスの何でも屋に近い部活であるシャーレ。
その顧問である先生は、現在机に突っ伏していた。
「分からない」
そう言葉を溢しながらも、うっすらと目を開きながら、目の前の紙の束をちらりと見る。
一秒ほど眺めた後、先生はすぐに目を閉じた。
「分からない」
全く同じトーンで全く同じ言葉を溢した。
先生は、書類仕事が苦手だった。
なぜなら彼女は、暇さえあればあっちへふらふら、こっちへふらふらと人助けする肉体労働派だったからだ。
しかし急に覚えなければいけなくなったそれに、少し泣きそうになっている。
それに伴うかのように、先生の白い尾が揺れた。
昨日までは普通に冒険者をしていたはずなのに、どうしてこうなったのか。先生はふと思い出しながら、渋々紙束に触れ始めた。
「――きて――さい――」
ううん、誰か知らないけど、最近働き過ぎで疲れたんだ、もう少し寝させてくれ……
そう文句を言おうとした次の瞬間、『彼女』は跳ね起きた。
私はオールドシャーレアンで用事を済ませ、そのままナップルームで休んだ。その筈なのに、聞き覚えのない声が、私の近くで聞こえた。一先ず距離を取らなければ。
そう考えを巡らせながら、『彼女』はその声の主へ目を向けた。
黒と青色の長髪に、眼鏡をかけ、どこか気が強そうな目つき。どこかシャーレアンの賢人に似た雰囲気の服装を纏い、そして頭に天使のように輪を浮かべた少女。
「……誰?」
いろいろ聞きたいことが『彼女』の頭の中を駆け巡り、真っ先に出た言葉がそれだった。
少女は困ったように溜息を吐き、七神リンと名乗り、続けて今の状況を説明を始めた。
ここが学園都市キヴォトスだということ。七神リンが連邦生徒会という組織の幹部だということ。
そして、『彼女』はおそらく、リン達がここに呼び出した先生……のはず、ということ。
「学園、都市……キヴォトス……私が、先生……?」
「……混乱されてますよね、分かります」
聞きなれない単語や、先生というどこかの胡散臭さが抜けない占星術師を思い出す二文字に頭を抱える『彼女』に、リンは同情する。
ふと『彼女』は、自分の格好に視線が移った。
そこで着慣れたサイオンズアドベンチャラー一式に身を包まれていたことに気付き、頭に?を浮かべた。寝ていた時にはウェイハーラーを着ていたはずなのに……目の前の彼女が?でも彼女もよく分かっていないと言っていたし……
そこで『彼女』は考えるのを止め、リンに話を聞くことにした。『彼女』は考えるのが少し苦手だった。
「とりあえず今は、私について来てください。どうしても、先生にやっていただかなくてはいけない事があります」
「それは、一体?」
「……学園都市の命運をかけた大事なこと、ということにしておきましょう」
そう言ってリンは歩き出し、『彼女』はついて行った。
そして二人はエレベーターに乗り、そこで『彼女』はようやくそれに気づいた。
窓ガラス越しに見える見慣れない、しかしどこか見覚えのある建物に。
そして冒険者としての直感と、心で確信した。
「ようこそ、キヴォトスへ」
ここは、別世界だと。
エレベーターが止まり、扉が開くと、そこには複数の少女がざわざわと騒いでいた。
「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!」
リンは無視してそこを横切ろうとするも、ツインテールの少女に止められてしまった。
呼び止めた少女は連邦生徒会長を呼べとリンに迫る。その他の少女も矢継ぎ早に言葉を紡いでいた。
リンは面倒そうな顔で
「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他の時間を持て余している皆さん」
と面倒そうに言葉を返した。
『彼女』は、よく分からないが、重要そうな人達にそんな雑な対応をしていいのか、と密かに焦っていた。
少女達は起こったのだろう問題をリンに次々と提示し、連邦生徒会長に会わせろと怒る。
「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」
その言葉に返されたのは、『彼女』も含め一同を驚かせた。
連邦生徒会長とやら人物は自身を先生に選んだらしい。もしかしたら、水晶公のように知り合いの可能性があったため、会いたいと『彼女』は考えていた。
「結論から言うとサンクトゥムタワーの最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回出来る方法を探していましたが……先ほどまで、その様な方法は見つかっていませんでした」
「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」
羽の生えた少女の言葉にリンが頷き、
「この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」
と『彼女』に目を向けた。
「……私、が?」
どう考えても私では無くないか?と『彼女』は思った。話を聞いてるだけで、難しいと感じる私には無理じゃないか?一介の冒険者だぞ私、ねえフレイ、アルバート。
「……えっと、本当に、彼女が先生なの?どう見ても……」
「私達と同世代に見えますね」
「えっ」
ツインテールの少女と、眼鏡をかけた少女にそう言われ、『彼女』は驚きの声を上げた。
子ども達と同年代に見える。見た目に反して年齢が高いことなど、エオルゼアではざらだったため、雰囲気で分かるのが基本的に当たり前だったが、ここでは自分は若く見られるらしい。確かにアウラ族の女性は小さめだけども。
そのことに気付き、何とも言えない『彼女』。
「……失礼ですよ。実際に先生ですし、成人されています。ですよね?先生」
「う、うん。大人だよ、私は」
「えぇ!?す、すいません!馬鹿にしているわけじゃなくて、そ、その、お若く見えますねというか!」
「……本題に戻りますよ。こちらの
「――え?」
『彼女』は目を丸くして、リンが放った言葉に啞然とした。
確かに今リンは、
「先生?どうかしましたか?」
『彼女』は慣れない思考の渦に陥る直前で、リンに声をかけられ、今の状況を再確認した。
「いや、何でもない。皆、よろしく」
「よ、よろしくお願いします!私は……」
「そのうるさい方は放っておいてください。話を続けますね……」
「誰がうるさいって!?私は早瀬ユウカ、って言います!覚えておいてください、先生!」
早瀬と名乗った少女にまた面倒そうな目を向けた後、リンが先生の説明と一つの部活の説明を始めた。
その名も、シャーレ。
一種の超法規的機関であるなどの説明をされるも、『彼女』はシャーレアンに似た名前だなとズレた事を考えていた。
「――先生を、そこにお連れしなければなりません」
なんとなくで話を聞いていると、シャーレの部室へ向かうことに決まった。
リンがそこへ向かうための乗り物を手配するため、誰かへ連絡をしていると、だんだんと眉間にしわが寄っていく。
連絡が終わったのか、リンは下を向いて恐ろしい顔になっていた。
「……えと、大丈……夫?」
『彼女』が心配して声をかけると、リンは問題ないと返し、なぜか少女達を見つめ
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」
と言葉を溢した。
リンを除いたそこにいる全員は、嫌な予感が全身を駆け巡った。
リン曰く、今から向かう場所は戦場になっているとのことだった。そこでリンは暇そうと片付けられた少女達に先生を連れていけと押し付け……もとい、頼まれたのだった。
ということで、その戦場近くまでヘリで向かい、降りたが、少女達はとあるものに釘付けになっていた。
「……あ、あの、先生……それ、本当に持っていくんですか?」
ユウカはとあるものを見ながら、『彼女』……『先生』に質問した。
「皆も武器を持ってるんでしょ?なら私も持っておかなくちゃ。守らないといけないからね」
『先生』は当たり前だと言わんばかりに、そう言った。
ですが、と翼の生えた少女……ハスミは先生に疑問を呈する。
「銃弾が飛び交う中で、その……
先生の胴体ほどある剣は、活躍できるのでしょうか?」
『先生』は出発する直前に、リンに荷物を渡されていた。
『これは先生が持ってきたとされる物です。私では持ち上げられなかったので、こうして部屋に置かせていました』
『よかった、無いと少し焦っていたんだ。ありがとう。……鎧は来ていく時間が無いから置かせて』
というわけで両手剣……『カオスブリンガー』を背負い、立っていた。
降り立った少し後の場所では、銃撃音や爆発音、そして悲鳴が四方八方から聞こえてくる。
その争いで生まれたであろう数発が文句を言っていたユウカに激突する。
「いっ、痛っ!!痛いってば!!あいつら違法JHP弾使ってるじゃない!?」
「伏せてくださいユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されていません」
「うちの学校ではこれから違法になるの!」
ハスミとユウカの会話を聞き流しながらも、多少擦り傷が出来るだけで済んだことに驚きながら、『先生』はなるほど、と理解した。
「ある程度なら、怪我しない、か」
「……先生!?」
「危ないですから、頭を下げてください!先生は外の人ですから、一発でも当たると……」
眼鏡の少女、チナツと白髪の少女、スズミに止められるも、大丈夫と言って『先生』は立ち上がった。
「うん、あれぐらいならいくらでも喰らってきたし……皆。私が盾になるから、好きに動いてね」
「……えっ!?ちょ、先生、まっ――」
ユウカの制止の声を聞かずに、『先生』は一番近くの不良と呼ばれていた少女の銃を、
「なっ、いつの間に――」
眼にも止まらぬ速さで斬り払った。
それに驚いて止まっている不良少女を掴み、他に集まっている方へとぶん投げた。
「流石に斬ったりはしないが……少々、痛いのは覚悟しろよ?」
そう剣を地面に突き刺しながら言い、挑発するように笑った。